2008.11 無料公開記事      ▲TOP PAGE


ネットとリアルをシームレスにつなぐ

宮沢 和正 ビットワレット執行役員常務




依然、急成長を続けるネット販売市場。ユーザー層の底辺拡大を進める上で、ハードルと言えるのが決済だろう。既にクレジットカードがECの決済手段として定着しているが、カード番号を入力することへの抵抗感から、"モニターショッピング"にとどまっている顧客は少なくない。ビットワレットの宮沢和正執行役員常務は、安全性と利便性を備えた電子マネー「Edy」がネット販売ユーザーの裾野拡大に寄与し、さらにリアルとネットを結ぶツールとしてECの可能性を広げるものと見ている。(聞き手は本誌・後藤浩)


「Edy」があれば生活に困らないような環境が整いつつある

アマゾン導入で対応ECサイトが急拡大


――2007年は、鉄道系の「パスモ」、流通系の「nanaco」、「WAON」といった新しい電子マネーが相次ぎ登場し、"電子マネー元年"と言われました。御社としては、ライバルが増えることになりますね。


新たな電子マネーの登場で、「『Edy』は大丈夫なのか」という声もありましたが、結果からいうと、「Edy」も発行枚数、利用件数ともに大幅に伸びました。新サービスの登場で、電子マネーへの認知度が上がるというシナジー効果があり、電子マネー市場全体も前年比で3倍程度拡大しています。

――今後、電子マネー発行業者同士の競争が激しくなるのでは。


電子マネーも色々なブランドがあり、ユーザーが自分のライフスタイルに合わせてチョイスできるというのが理想でしょう。現状、電子マネーのことがよく分からないといった方が多いと思いますから、ブランドに関係なく、まず電子マネーに触れ、便利さを実感してもらうことが大事。あとはユーザーが自分に合ったものを選んでくれればいい。また、複数のブランドがあり、電子マネー発行業者が互いにサービスを競い合っていくことが、健全な市場の発展にもつながると思います。

――「Edy」の展開状況を教えて下さい。


現在、「Edy」の発行枚数は4300万枚で、毎月80万枚ずつ増えています。また、リアルの対応店舗は約8万店。コンビニが中心ですが、それ以外にも食品スーパーやコーヒーショップなど様々な業種・業態で導入が進み、「Edy」があれば生活に困らないような環境が整いつつあります。「フェリカポート」搭載のパソコンの出荷台数も700万台程度にまで拡大しています。

――「Edy」決済対応のECサイト数は。


現在、約5000サイトです。06年6月にネット上の決済サービスを安全かつ簡単に利用できる環境を作りEC利用者の裾野を広げる目的で、インテルさんやマイクロソフトさん等と「スマートデジタルライフプロジェクト」というものを立ち上げたのですが、この時の「Edy」対応サイトが約1400サイト。それが1年後に約3000サイトとなり、それが5000サイトにまで増えているという状況です。

――対応サイトの増加ペースが拡大しているようですが、何か要因はあるのですか。


昨年5月にアマゾンジャパンさんが「Edy」決済を導入したことが大きいですね。これをきっかけに「Edy」決済の認知度が上がり、利用件数が大幅に伸びました。また、収納代行業者が一斉に「Edy」を採用し、現在は大手収納代行者のほとんどが「Edy」を採用している。収納代行業者がEC事業者を開拓していることが対応サイト数の拡大につながっています。その意味では、アマゾンさんの「Edy」導入は、全体への波及効果がありましたね。

――EC決済での「Edy」の利用状況はどうなのでしょう。


詳細は差し替えさせてもらいますが、サイト数の増加とともに、順調に拡大しているという状況です。
EC市場規模は、まだまだ伸びていくでしょうし、携帯電話を使ったモバイルコマースも急速に拡大している。現状、ECではクレジットカード決済が中心ですが、前払い式の電子マネーは使いすぎがなく、安全・安心な決済手段であることが認知されれば、ECでの利用も拡大していくと思います。

――既に、ECに特化した電子マネーもありますが、EC決済での「Edy」のメリットは何だとお考えですか。


EC専用の電子マネーとは異なり、一度チャージすれば、リアル店舗でもECでも利用できる。これが「Edy」の強みですね。特に「おサイフケータイ」(携帯電話)は、リアルとネットをつなぐツールと言えるでしょう。

――「おサイフケータイ」の利用動向はどのようになっているのでしょう。


最近のデータを見ると、「おサイフケータイ」の利用率の増加が目立っています。1、2年前は、8割がパソコンやカード、「おサイフケータイ」が2割程度だったのですが、今では「おサイフケータイ」が4割程度になっています。「おサイフケータイ」に対応した携帯電話が普及していることがありますが、携帯電話の場合、残高や利用履歴が照会でき、クレジットカードでのチャージに登録すればコンビニ等に行かなくても、いつでもチャージができる。そうした便利さが認知され、利用が増えているのだと思います。また、購入単価も「おサイフケータイ」の方が高く、よりアクティブなユーザーが利用しているという傾向も見られます。

ポイント連携でリアルの購買行動を把握


――現在、「Edy」の利用促進策として力を入れていることは。


安全な決済手段であることを実感してもらうためのきっかけ作りとして、「Edy」と各企業のポイントプログラムの連携を進めています。03年から全日空(ANA)さんと連携し、「Edy」の決済利用にマイルを付与するサービスを行っていますが、その経験を他の事業者にも活かし、今年7月から会員組織を持つ6社とポイント連携を始めました。「Edy」の利用に対し、ユーザーが希望するポイントを付与するというもので、千趣会さんの「ベルメゾンポイント」、楽天さんの「楽天スーパーポイント」などと連携しています。
顧客には、普段貯めているポイントをもっと貯めたいという心理がありますから、ネットの買物でもリアルの買物でもポイントが得られるのは大きな魅力。ANAさんとの取り組みでは、専用のアフィリエイトサイトから会員をECサイトに送客することも行っていますが、ECサイトからすると、今まで利用のなかった会員組織の顧客が獲得でき、会員もECの利用でマイルが貯まり、「Edy」が安全な決済手段であることも実感できるわけです。

――「Edy」は決済手段であると同時に、送客ツールでもあると。


そうですね。現在、こうしたものはほかにないと思います。これからもリアルを中心に「Edy」ユーザーがどんどん増え、ECのインフラ整備も進んでいく。その意味では、リアルとネット双方で顧客を取り込む機会が増えることになります。これに着目して取り組み進めているのが楽天さんですね。

――楽天と他のポイント連携企業との違いは。


楽天さんがポイント連携を行う第1の狙いは、携帯電話会員の拡大にあります。具体的には、従来、楽天サイトでしか付与されなかったポイントをコンビニ等のリアル店舗でも付与し、魅力を高めるという仕組みです。楽天さんとしては、「Edy」「おサイフケータイ」を通じて、従来ネット圏内に止まっていたサービス提供の場をリアルの世界にまで拡大させることで、ネットとリアルの両面で会員の購買活動が把握できるようになる。その次のステップとして、マーケティングでの活用を視野に入れているのです。

――具体的にどのような取り組みを考えているのでしょうか。


楽天さんはターゲティング広告を行っていますが、今までは、ネットの中での動きを見ることしかできませんでした。しかし、今回のポイント連携では、楽天さんが独自に開発した携帯アプリ(会員登録時に携帯電話へダウンロード)を使い、会員番号と「Edy」のID番号が紐付けることで、ネットとリアル双方の購買活動が一元的に把握でき、全体像が見えるようになる。つまり、その会員が何に興味を持ち、どのような情報を提供すべきかが精緻に分かるようになるのです。これをターゲティング広告に活かすことで、精度が上がり、ビジネスチャンスも広がることになるわけです。ネットとリアル双方で購買データを収集するのは、恐らくグーグルにもできないことですから、当社としても大変興味を持って、お手伝いをしています。

ユーザーに対し、新たなライフスタイルを提案していく


誰でも使えるのが「Edy」の強み


――「Edy」は、決済手段としてだけではなく、マーケティングツールとしても可能性があるようですが、御社でも、どのような事業展開を構想されているのでしょうか。


電子マネーというと、"現金の置き換え"というイメージを持たれがちですが、当社のビジョンは、それだけではなく、ユーザーの新しいライフスタイルを作っていくということです。「Edy」の最大の強みは、全国約8万店のリアル店舗と約5000サイトのトランザクションデータが集まること。それを上手く活用し、もっと便利で付加価値のあるサービスを提供することで、ユーザーに新たなライフスタイルを提案できるのではないかと考えています。

――今後の電子マネー市場に対する見方は。


年間300兆円の個人消費のうち、3000円以下の小額決済は60兆円といわれています。あるシンクタンクの調査によると、電子マネー市場は8000億円程度。小額決済の規模が60兆円であることを考えれば、無限と言っていいほど伸びる余地があると思います。また、電子マネーの新たな利用シーンも出てくるはずです。

――電子マネーの新たな利用シーンとして、想定されているものは何かありますか。


やはりテレビコマースですね。近い将来、映画等のビデオオンデマンドの代金決済で「Edy」を利用するということが出てくるのではないでしょうか。物販についても、パソコンが使えない高齢者層のニーズがあるのと思います。テレビのリモコンで「Edy」を選択し、安全で便利な決済手段であることを実感してもらう。そうした利用シーンがいずれ現実になるのではないかと考えています。

――高齢者層の取り込みも重要になりそうですね。


高齢者層あるいは主婦層は、当社としても取り込んでいきたい世代ですね。「Edy」のユーザー数は順調に拡大していますが、まだ、パソコンや携帯電話で「Edy」を使うのは20―30代が中心ですから。

――高齢者や主婦層などの利用促進で何か取り組みは。


パソコン教室に通っている高齢者や主婦への啓蒙策として、1年以上前からパソコン教室とタイアップし、「Edy」の利用に関するプログラムを入れてもらっています。ECでの決済やチャージの仕方などを学んでもらうという内容で、「Edy」カードを渡し、実際にリアル店舗での使い方を教えることも行っていますこの取り組みは、時間はかかると思いますが、じわじわと効いてくると考えています。
また、「フェリカ」の個人認証機能を活用した「Edy」機能付きの社員証が約300社に導入されています。ただ、社員食堂以外で「Edy」が利用できるということがなかなか理解されていませんので、企業向けの啓蒙活動を始めたところです。
この取り組みが進めば、企業の社員を取り込みたいというEC事業者と緩やかな提携も生まれてくるのではないかと思います。例えば、社員向け専用ECサイトの開設、割引特典の付与といったものですね。

――今後、「Edy」を中心に様々な連携が進みそうですね。


リアルとネットをシームレスにつなぎ、誰でも利用できることが「Edy」の最大の強みです。特に、誰でも利用できるという点では、これまで接点のなかった事業者同士をつなぎ、新たな付加価値を生み出すことにもつながる。そこに「Edy」の可能性があると考えています。

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