2008.10 無料公開記事      ▲TOP PAGE


金融庁が密かに進める"決済規制"の行方とは?

――EC事業者に悪影響の懸念




「電子マネー」や「収納代行」、「代金引換」――。いずれもネット販売には欠かせない決済手段だが、こうした決済サービスに対し、規制がかかる動きが本格化してきた。決済サービスの制度整備を検討する金融審議会の「決済に関するワーキング・グループ」(決済WG)は今年5月から、5回にわたり行ってきたサービス提供業者へのヒアリング結果を受け、9月12日に開催した第6回会合で、具体的な制度整備の検討に向けた論点案を提示した。内容の大枠は、@「前払式支払手段」A「ポイント・サービス」B「資金移動サービス」C「収納代行サービス等」――の4点だ。
これまで、各決済サービスは、明確な法的ルールがない、あるいは現行法で対応しきれていないといった課題があり、金融庁としては各サービスが急速に普及するなか、利用者保護の観点からの制度整備に乗り出したわけだ。無論、利用者保護の保護は重要な視点だが、気になるのは制度整備の方向性。サービス提供業者側に過度な規制が掛かかれば、実際のサービスに支障をきたす可能性が高く、それを利用するネット販売事業者には手数料増や顧客とのトラブルが誘発されるといった悪影響が及ぶことになる。




銀行以外業者に送金業務開放も


金融審の決済WGは、これまでに電子マネー、ポイント・サービス、収納代行、代引およびエスクローの各サービス提供業者にヒアリングを実施。これをもとに、論点案を作成した。
まず、@は前払い式の電子マネーやプリペイドカードに関するもので、主な検討課題は、現行の「前払い式証票等に関する法律」で未対応の券面を伴わないサーバ管理型電子マネーの扱いや換金・返金の考え方、利用可能額が大口な電子マネー等の取り扱いなど。
Aについては、ポイントの会計処理や利用者保護策、ポイント交換の考え方などが論点だが、焦点は、ポイント・サービス自体の捉え方。現状、ポイントは、顧客に付与する"おまけ"であり、マーケティングツールというのが一般的な見方だが、他方で決済の場面で利用されるケースもある。このため、ポイント・サービスの位置付けや必要な利用者保護策等を検討する形になる。
Bは、これまで銀行のみに限定していた為替取引を他の業者に開放する方向性を打ち出したもの。ITの進展等により「様々な業者が為替取引を提供できる土壌が整ってきた」(岩原紳作座長)として検討するもので、銀行以外の業者が送金業務を行った場合のメリットとデメリット、預かった資金の保全策や業務範囲規定等の制度および規制の枠組みの検討を行う予定だ。
すでに、欧米では銀行以外の送金業者の対応法も設けられており、決済WGでもこれを参考に検討作業を進めるものと見られる。ただ、海外の場合、送金金業者がマネーローンダリングの規制対象であることが多く、「100%に近い資金保全を条件に銀行以外の業者の送金を認めている」(同)など、ハードルが高いという側面もある。

「収納代行等」は為替取引?


 一方、Cは既存の収納代行や代引等の決済サービスに関するものだが、規制強化の方向の論点が挙げられた。この背景には、金融庁側が各決済サービスについて、銀行のみに認められている為替取引に当たる可能性が高いと見ているためだ。
収納代行や代引は、通販でも主要な決済手段となっているが、「為替取引に当たるかどうかのリスクを抱えながらサービスを提供するのはいかがなものか」(同)というのが金融庁側の見方。"事業者が法的安定性をもってサービスを提供するための制度整備"を検討するとし、供託等による預り資金の保全、悪質な業者を排除するための仕組みなどを提示している。言い換えれば、既存の収納代行業者が抱える為替取引の法的リスクを払拭するために規制等を設けるというのが金融庁側の理論だ。

宅配便業者団体が代引規制に反対


これから決済WGで決済サービスの制度整備に関する具体的な議論に入ることになるが、そのなかで規制論議にいち早く反応しているのが代引を手掛ける宅配便業者。首都圏に事業所を置く特別積合せ運送事業者で構成する東京路線トラック協議会が8月下旬の理事会で代引規制への反対を決議した。
宅配便業者側が懸念しているのは、マネーローンダリング対策と称した規制や届出制の導入、供託による利用者から預かった資金の保全などの代引規制。このうち、最も影響が大きいと見ているのが、銀行のように10万円超の代引決済に本人確認を義務付ける可能性があるマネロン規制だ。
実際の代引利用シーンを想像すると、10万円超の代引を行う場合、免許証等の本人確認書類の提示を求めなければならず、もしそれがなければ代金を受け取り品物を渡すことができなくなる。さらに本人が不在で家族が荷物を受け取ろうとすれば、本人の委任状が必要になるというわけだ。
これは利用者にとって不便なだけではなく、宅配便業者としても大きな負担になる。マネロン対応のためのシステム投資やオペレーションコスト等が発生するためだ。また、届出制が導入された場合には、金融庁への定期的な監査や報告が必要となるなど、事務処理のコスト負担も加わる。こうしたコスト増は宅配便業者だけで吸収できるものではなく、自ずと代引利用料金に転嫁されることになる。つまり、ネット販売業者側のコストアップ要因となる可能性があるわけだ。
ちなみに、同協会の会員企業71社のうち、代引を手掛けているのは43社。ほとんどが各都道府県を地盤とする中小の宅配便業者だが、これまで決済部分でのトラブルは一切起きていないという。金融庁では、宅配便(代引)業者が倒産した場合、通販業者等が顧客に二重請求を行う恐れがあるとして、協滝金制度の導入を検討しているとされるが、「代引は品代金の代理受領サービスで、顧客の債務は消滅する。通販業者等が二重請求を行うことはあり得ない。利用者の資金移動の仲介を目的とした『資金移動サービス』とは根本的に異なる」(東路協・松永正大常務理事)と指摘。今後、マスコミに対する情報提供など、代引規制反対の活動を積極化する構えを見せている。

宅配便完全分離の代引議論に反発も


では、決済WGで提示された論点案に対するサービス提供業者側の反応はどうか。まず、サーバ型電子マネーの対応など、「前払式支払手段」で提示された内容については、かねてから課題として指摘されていたものが多く、決済WGの委員の電子マネー発行業者も概ね賛同の意向を表明。
「ポイント・サービス」については、ポイント自体の捉え方がカギになるが、発行業者側は、ポイントはあくまでも"おまけ"というのが発行業者側のスタンス。ポイントは、マーケティング上の重要なツールであり、決済と捉えられ不要な規制が掛かれば、マーケティング戦略にも影響を及ぼすことにもなるためだ。因みに、決済WGの委員からも、「ポイントは"おまけ"という意識が強いのが現状。規制をかける必要があるのかという考え方もある」といった意見が出されている。また、「資金移動サービス」については、新機軸の論点で、送金業務など新たなスキームでの新規参入を想定したもの。ほぼ白紙の状態で検討が進むことになる。
既存の「収納代行等」については、規制の方向を打ち出した形だが、収納代行業者からは、最低限度のルールは設けるべきという声も出ている。これはサービス提供業者の業種が多岐にわたり、今後の新規参入も見込まれるため、不届きな業者を排除する仕組みが必要という見方によるものだ。
一方、問題となりそうなのは代引の扱い。金融庁が、「収納代行等」のなかで代引の制度整備に関する検討を行う意向を示したためだ。
代引規制に反対する宅配便業者側は、代引は宅配便に付帯した代理受領サービスで、他の決済サービスとは異なると主張していたのに対し、宅配便とは完全に切り離した形で代引の規制議論を進める形になる。このため、決済WGでの審議の進め方に対し、宅配便業者や団体が反発することが予想される。

日本通信販売協会も対応の構え


決済サービスを巡っては、経済産業省でも、産業構造審議会の産業金融部会および流通部会合同の小委員会を設け、制度整備等に関する議論を開始。通販業界では、まだ表立った大きな動きは見られないが、日本通信販売協会(JADMA)の理事会で、すでに代引規制等の決済サービス問題に関する報告が上げられており、今後、決済WGの審議経過等を見ながら対応を検討していく構えを見せている。
決済サービスは、ネット販売業者にとって重要な要素。今後の制度整備の方向性が注目される。【編集部・後藤浩】

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