2008.10 無料公開記事      ▲TOP PAGE


"安心・安全"こそ最大の差別化

柴田 啓 ベンチャーリパブリック代表取締役社長




参入事業者が相次ぐEC市場。当然、ネット上で販売される商品数も増加している。ユーザーにとっては選択肢が増える反面、なかなか「欲しい商品」にたどり着きにくい。また、事業者にとってはそれがどんなに素晴らしい商品であっても「商品の山」の中に埋もれてしまい、なかなかモノが売れない。両者間の溝を埋めるにはどうすればよいか――。この問いについて、8月7日に上場を果たした日本最大級の比較サイトを運営するベンチャーリパブリックを率いる柴田社長は言う。「我々はECサイトができない"商品の魅力"を代わってユーザーに伝えきる専門集団だ」と。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


商品にたどり着けないユーザー、販売に結び付けられない事業者
2年間の「暗黒時代」


――8月7日に大証ヘラクレスに上場されました。ビジネス的にはこれまでは順調だったのでしょうか。


そうでもないですよ(笑)。創業は2001年1月ですが、その後の2年間は「暗黒時代」でしたね(笑)。今でこそ、当社が運営しています商品比較サイト「coneco.net(コネコ・ネット)」はたくさんのユーザーにご利用頂いていますが、当時はイーコマース自体がまだまだ話題先行でしたし、前提となるネットを取り巻く状況、つまり回線の環境もブロードバンドどころか、定額インターネットもないという時代でした。ですから、「ネット上でモノを買う人」なんていませんでした(笑)。そんな状態がしばらく続き、やっと2003年くらいからイーコマースが少し動き始め、我々が手応えを感じ始めたのはその後、2004年からだったと思います。

――「暗黒時代」を切り抜けた勝因は何だったのですか。


当時を振り返ると、比較する対象ジャンルを絞り込むなど、変に無理をしなかったことだと思います。僕らが事業をスタートする直前に、米国から「ディールタイム」という大手価格比較サイトが上陸してきました。彼らは米国のメンタリティそのままに「どんなものでも全部、早晩、イーコマースになるだろう」という考えの下、オールジャンルの比較サイトを始めたんですね。加えて、広告宣伝もバンバンやってと。
一方、僕らは比較対象を「ネットでモノを買ってくれそうな分野」からスタートしました。経産省が発表しているEC市場規模調査の際に出している指標「EC化率(※商取引全体に占める電子商取引の割合)」を参考に、最初に始めたのが「パソコン」。その次に航空券とかツアーなどの「旅行」をやり、そこから徐々に比較対象を拡げていきました。これを徹底したんですよね。
結局、「ディールタイム」は参入後すぐに日本市場から撤退を決めました。一方で僕らが生き残ったということは、結果的にその判断は正しかったと考えています。

強みは「技術力」と「人」


――「ディールタイム」は早々に撤退しましたが、比較サイトは競合も多いですよね。その中で生き残れた御社の強みとはなんですか。


「情報量」だと思っています。「コネコ・ネット」の前進は「NETde通販」という比較サイトでしたが、主な利用者は「パソコンマニア」の人たちです。彼らはリテラシーが高く、いち早くネットで、価格を見たり、商品情報を見たりして「買い物」をしていました。その方々に当社のサービスが受け入れられたことが今につながっていると思います。考えるに彼らに受け入れられた理由は「情報量」なんですね。それがうちの最大の強みでもあります。
先ほど申し上げたように、比較対象を絞り込んで展開してきました。今でも競合他社と比べれば、少ないのではないでしょうか。ただし、対象とした分野に関しての情報、価格情報や商品情報はどこよりも最も充実させるようにしてきましたし、実際、そうなったと思っています。
ではなぜ、それができたかと言えば、ひとつはECサイトが取り扱う商品情報をすばやく当社の比較サイトに取り込めることを可能にした精度の高いクローリングロボットを作ることのできた「技術力」。もうひとつは豊富な商品知識でユーザーにとって、情報を見やすく整理・分類する「人」です。この片方でも欠けたら、今はなかったのではないでしょうか。

目立たない単独ECサイトの商品


――比較サイトという非常にECに近い立場で、黎明期から市場の変化を見続けてきたわけですが、現在のEC市場、EC事業者についてどういった感想を持っていますか。


創業当時も今も変わらず、問題だなと感じていることがあります。要は「良い商品」が埋もれてしまっているということです。誤解を怖れずに言うと、仮想モールで販売されている商品に比べて、単独ECサイトの商品があまりに目立たないということです。
仮想モールでは様々なモノが販売されています。そうした商品がアフィリエイトやSEOの発達により、商品購入の導線となる「検索結果」を埋め尽くしまっています。それでは、ユーザーは「本当に欲しい商品」に辿りつけていないのではないかなと。もちろん、モールの中にも優れた商品はあると思います。問題なのは、検索結果を埋め尽くすモール商品の情報はどれも価格情報がメーンだということです。
例えば、「体重計」が欲しい方がいたとして、ただ、どういうものを買って良いか分からないと。そこで、「体重計」と検索エンジンで検索したとします。すると、恐らく、「○○の体重計はいくらです」といった情報を掲載したアフィリエイターのサイトで埋め尽くされます。価格情報というのは当然、それはそれで必要ですが、ユーザーは「どれがいいの?」「どこがいいの?」という商品選びに必要な情報も欲しいわけです。
また、モール商品以外に通販企業さんや人気ブランドさんの商品も当然、良い商品であり、それらを欲しい、探しているユーザーも多いと思うわけです。ただ、そうした企業さんは残念ながら、「ネット」に弱いんですよ。要は良い商品があったとしても、良いサイトを作って、ネット上でマーケティングを行うという意味においては。こういった問題の解決こそ、我々が役に立てると考えています。

――例えば、どういったことですか。


我々は商品比較サイト「コネコ・ネット」のほか、「通販.ne.jp」というカタログ系通販企業の商品に特化した比較サイトを運営していますが、これを作ったのもこの点にあると言えます。「カタログ通販の商品」に絞り込んで、その中で通販企業さんに代わって、我々がユーザーに商品の魅力を伝え、商品選びに役立ててもらおうと。こうしたマーチャント限定の商品比較サイトは「欲しい商品を見つけられない」「良い商品はあるが、販売に結び付けられない」というユーザー、事業者双方の問題解決に役立つのではないかと考えています。今では「カタログ通販」に加え、「衣料品」や「コスメ」「ベビー・マタニティ」に特化したマーチャント限定の比較サイトを実施しています。

100万円の腕時計がネットで売れる


――本サイト「コネコ・ネット」のほうでも近年、絞ってきた比較対象を拡大する傾向にあるようですが。


そうですね。比較対象カテゴリーは拡大していこうと考えています。感覚的には、ここにきて高額商品を含めて、ありとあらゆるものが「ネットで売れるようになってきた」と感じているためです。例えば当社は「腕時計」の価格比較を行っていますが、50万円、100万円くらいする高額な腕時計がかなり売れるわけですよ。こういうことはあ2年前でしたら、ちょっと考えられないですよね。それだけECというものが、日本に本当に浸透してきたなと感じています。ですから我々としても比較ジャンルを拡大する時期なのではないかと考えています。
また、当社の体制としても、技術や人のプラットフォームが構築できており、そういう意味で対象ジャンルの拡大が可能となったという側面もあります。これまでは情報の鮮度や質が低下するくらいならば、あえて比較対象の拡大を急ぐ必要はない、という考え方でしたが、それは裏を返すと、体制がまだ十分、整っていなかった部分もあったと思うんです。

――どういった分野に広げていくのでしょうか。


最近、拡大したジャンルは車ですとか、お酒ですね。また、「通販.ne.jp」といったマーチャント限定ではない形の「衣料品」なども実施していく予定です。基本的な方向性としては「情報が渾然としている分野」です。安いか高いかわからないようなものですね。そういった意味では物販もそうですが、サービス系などもやっていきたいと思っています。例えば、携帯電話の料金とか。比較することでユーザーに対して、利便性が高まる可能性があるものを重点的に拡げていこうと思っています。

――比較サイトをEC事業者が効率よく活用するにはどうすれば良いのか、教えてください。


最大のマーケティングツールとして徹底的に使い倒して欲しいですね。米国でも同じことが言われていますが、まだまだそれができている企業はそう多くはないです。今後、EC市場やECへの参入事業者が増えれば増えるほど、ネットショッピングの際に、比較サイトなどの「ショッピングポータル」を利用するユーザーは増えると思います。そうした買い物の入口をいかに活用するか。いまから、その効果をきちんと検証し、効果が出るのであれば積極的に活用し、出ないのであれば対策を考えておく必要があるのではないでしょうか。

何かモノを買う時には必ず比較サイトをチェックする時代に

購買支援情報の拡張へ


――今後の展開について教えてください。


先ほど申し上げた通り、比較ジャンル拡大。それに加えて、「購買支援情報の拡張」をやっていかねばと思っています。最初は価格情報からスタートしましたが、先ほどの通り、ユーザーが欲しい情報は、価格比較だけでなく、商品選択に役に立つ情報です。
そういった意味で、我々は近年、ユーザーによる「動画レビュー」を開始しました。デジタル系商品が多いですが、今では500件の投稿が集まっています。また、ニュースサイトなどと提携し、記者が書いた「専門家が見たレビュー」などもすでに行なっています。あとはレコメンデーションエンジンの試験導入や、モバイルサービスの充実もやっていきます。購買支援情報の拡張はきりがないのですが、ここは地道に強化していくしかないと思っています。

――比較ビジネスは今後、どうなっていきますか。


願望でもありますが、どんな時でもどんなジャンルでも、何かモノを買う時には必ず比較サイトをチェックする。そんな世の中になっていくのかなと思っています。

――当時、「ディールタイム」がいっていたことですね。


それがようやく今、始まろうとしています。米国では今、大手の比較サイトが7つくらいはありますが、トップ3が月間UUベースでそれぞれ2000万ユーザー規模なんですね。しかし、それでも年率でまだ3割伸びているというサイトもある。欧州でも1000〜2000万規模の比較サイトがゴロゴロしています。それらと比較すると、日本の比較サイトのユーザー規模は、すべてのサイトをあわせても、まだまだ少ないんですよ。そういう意味ではまだまだこれから比較サイトが活躍できる分野も増えていくだろうと思います。

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