2007.8 無料公開記事      ▲TOP PAGE

新潮流・通販を変える〜ネットビジネスの開拓者に聞く〜

ECサイトは「和マゾン」を目指せ

山内学 コトハコ代表取締役CEO



いかに優れた商品を数多く取りそえても"発見"できなければ、その商品は存在していないに等しい。サイト内商品検索軽視の弊害は使いにくい自社サイト「本店」からわざわざ、仮想モールの「支店」に行き、商品を購入するユーザーを生んだ。「これでは『本店』を構える意義がない。検索機能は最低限、アマゾンレベルを持つべきだ」とコトハコの山内社長はすべてのECサイトが「和マゾン化」し、サイト内商品検索を強化する必要性を説く。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

アマゾンと同等の使いやすさがなければ「本店」には来てもらえない

自分たち都合の検索機能

――ECサイト専用のサイト内商品検索機能のASPを提供されています。ビジネス開始のきっかけは。


私はもともと「検索エンジン」を自前で作って、事業化しようと会社を立ち上げました。国産検索エンジンの最後の砦だったgooが2003年に検索開発から撤退したことが非常にショックでした。グーグルがあるから、それでいいというのは、余りにも…という気持ちがありました。ただ、この段階で我々がグーグルなど大手検索エンジンに立ち向かうのは、「マイクタイソンに赤子が向かうようなもの」と分かりました(笑)。
ただし、「検索」がすべてグーグルで賄えるかと言うと、そうではないだろうと思ったわけです。その1つが「サイト内検索」、特にECサイトのものでした。商品には様々な属性があります。この属性を使って、商品検索を行うわけです。例えば「価格」で並び替えするなどですね。
「価格」による商品検索は楽天等の仮想モールでも行っており、一般的です。ただ、それを「自社ECサイトでできますか」となると「できない」というECサイトはまだまだ多いはずです。
そこまでの機能はいらないにしても商品数が1,000点を超えるようなECサイトにはキーワードによる商品検索機能は必要になってくるはずです。では、今までどうしてきたかと言うと、従来、「Namazu(ナマズ)」に代表されるような、フリーの文書検索エンジンや、サイト構築ツールに付随するような機能で何とか凌いできたと。一方、商品データはデータベースに格納されていて、ジャンルで検索するような場合はデータベースを使ってやってきたと思います。
つまり、多くのECサイトはこれまでキーワード検索のインターフェイスと、カテゴリを辿っていくジャンル検索のインターフェイスが2つ存在すると。これは自分たちのシステムの都合であって、「検索して商品を探したい」ユーザーにして見れば、非常に使いにくく、かわいそうではないでしょうか。

――グーグルも企業向けサイト内検索「グーグルアプライアンス」などを提供しています。

そうですね。ただ、ECサイトの悩みに対して、それで解決できるのか。文章検索としては使い勝手はいいと思うが、ECサイトの悩みの解決には至りません。ですから、そこにビジネスチャンスがあると考え、ECサイト向けの商品検索機能のASP提供を開始したわけです。先日、大規模ECサイトとしては初めて、ナチュラムさんに当社の仕組みを導入頂きました。他にも多くのECサイトからお声がけ頂いており、改めて、商品検索におけるEC事業者の悩みが深いものだということが分かりました。やはり、自社サイトである「本店」ではなく、「楽天市場」や「ヤフー!ショッピング」といった仮想モールの「支店」に行かれて、商品を購入するユーザーが存在するというのはEC事業者としては、つらいところでしょうから。

――どういうことでしょうか。


ユーザーから見て、EC事業者の自社サイトが仮想モールに比べて、使いにくいということでしょう。実際によく聞く話なのですが、あまりにも「本店」で商品が探しにくく、その事業者が出店する「支店」にわざわざ行き、楽天で買ったとか、ヤフーで買ったとか。商品が探しにくいがためにそういうことが起こってしまっている。そうなると何のために「本店」をやっているのかということになってしまいます。
我々がやりたいことは1つ。日本のECサイトを和製アマゾン「和マゾン」にしたいということです。あるいはヤフー、楽天でもいいのですが、要するに最低限、彼らが持っている検索機能と同等以上のものを持たねば、「本店」で購入頂くのは厳しいでしょう。

――「支店」でいくら売れても、顧客データを入手できないケースもあり、顧客囲い込みにはつながりにくい側面もあります。

そうなんですよ。顧客の囲い込みはもちろん、複数の店舗が乱立する性質上、最大公約数のサービスしか導入できない仮想モールに対して、「本店」である自社サイトでは、自社の商品なり、顧客属性に合わせたサービスを行える。これが「本店」のメリットであるはずです。「本店」に来てもらうには商品の見つけやすさで言えば、ヤフー、楽天、アマゾンに引けをとらない機能を「本店」が提供できることが大事です。さらに言えば、彼ら以上の使い勝手は必要になるのだと思います。

特性に応じた商品検索ができることが「本店」の価値

――アマゾン以上の使い勝手というのは、どういうものでしょうか。

大まかに言うと、アマゾン、楽天、ヤフーが商品検索として現在、提供しているのは@「カウント表示式ドリルダウン」(カテゴリ選択やキーワード検索をした際に、それぞれのカテゴリの先に何件検索結果があるかを表示する機能)Aレコメンデーション(関連商品表示)B人気商品抽出――の3点が挙げられます。レコメンデーションに関しては、アマゾンのみが行っている状況です。
人気商品表示は多くのECサイトでも見受けられますが、そのほかの「商品検索」は現状、あまり見受けません。それもそのはずで、繰り返しになりますが、それらを自社で単純なRDB(データ管理方式の1つ)で行うとかなり大変な作業が強いられました。これを「本店」でクリアしつつ、さらに彼らがやっていない「類似商品検索」や「色検索」など「本店」独自の商品提案をしてもらいたいと思っています。

――「色検索」とは何ですか。

当社が提供しているECサイト向けのサイト内検索エンジンにも実装していますが、文字通りなのですが、「色検索」は商品の色を指定して、商品検索できる機能です。
 特殊な事例になりますが、例えば「建材」のECサイトの場合、商品検索における絞り込み要素として「色」が必要になります。建物を建てるのに、色が合わなければ話にならないですから。先ほども申し上げましたが、個別の企業の事情はヤフー、楽天のモールでは吸収できないわけです。つまり、自社の商材を探しやすくするための条件を付与できない。「追加したい」と言ったところで「できない」と。できるのは、彼らの決めたカテゴリを上からたどる検索と、価格での絞り込み、あとはキーワード検索。個別のECサイトの商品特性に応じた商品検索ができる。それが「本店」の価値なのです。

やりたいのは商品検索の先にある「売り場」と「商品」のマッチング


グーグルの独占は許さない


――今後の展開を教えてください。

我々の商品検索ASPを導入頂き、出して頂いた商品データ。我々は、当社の技術を使って、商品検索機能だけでなく、クライアントであるEC事業者の販促支援にもつなげたいと考えています。具体的には「商品」を様々なメディアに露出させていこうと思っています。
今、さんざん「CGM」の時代と言われています。当然、上手く使えば集客なり、ECにとっても有効に働くと思います。しかし、現状、CGMの多くは「グーグルアドセンス」を掲載しています。「アドセンス」はCGMの文章を解析して、広告主が購入したキーワードに合致したメディアに広告を掲載する。逆に言うと、キーワードがあるかないかだけの判断で極めて簡単なシステムで動いています。
広告主からすると、キーワード1個1個購入していくというのは大変でしょうし、単純なマッチングの仕組みで動いているために、本当にそのメディアに関係性のある広告が出ているとは限りません。我々はブログなり、SNSなり当該メディアのコンテンツにマッチする商品を自動的に掲載させ、そこにアフィリエイトの仕組みを組み込んだサービスを始めようと思っています。

――コンテンツマッチ広告のような感じでしょうか。

そうですね。コンテンツマッチ広告と見せ方的には一緒です。ただし、技術的には大分、異なっています。商品には様々な属性があります。これをCGM上の書き言葉と多角的にマッチングさせます。

――そうしたマッチングに伴う技術は御社にすでにある。


実はもともと、そういったことをやりたかったんですね。それで大学(筑波大)に戻ったんです。話はそれますが、例えば、「自分が書いた文章」と「過去の文豪たちの文章」をマッチングして、「誰と文章が似ているのか」とか(笑)。要は「あいまい検索」みたいなものをやりたかったんですね。冒頭に話が戻ってしまいますが、そういうものができる検索エンジンを作りたかったんです。単純に「トヨタ」と打ち込んで、トヨタのHPが出てくるのは当たり前の話じゃないですか。
多少、表記が違っていても吸収できる。あるいは、文章のような長いものを入れても検索できると。これは商品検索でも同様で、ECサイトの商品を見ながら「もっとこんな感じのものないの」と思う時がありますよね。あとは、購入する商品を決めたものの、実際に購入する前に誰もが思うのは「これと同じような商品でもっとぴったりくるものがあるのでは」というものです。「買った後、後悔したくない」という気持ちがあると思うんですね。そういう時に、念のため、「これっぽい」商品を探したい。ただ、「これっぽさ」というのは検索できないですよね。

――アマゾンなどではレコメンド的に出てくるものはありますけどね。

それでも一部ですよね。それがすべてではないでしょうから。4個目まで出ていても、5個目に気に入る商品が出てくるかも知れない。ならば、「似ている順」にずらっと見せてしまうと。先ほども申し上げた通り、商品というのは様々な属性があり、我々はその属性を複合化して計算できるエンジンを作ったつもりです。
この技術を元に効果的な商品の露出がCGM上で展開できます。

――例えば。

例えば、松坂投手の記事なら商品的には「西武時代のユニフォーム」を出せばストーリー性が出てくる。ブログやSNSをやっている人は、自分自身がメディアという意識を余り持っていません。確かにアフィリエイトで稼ごうという意識はありますが、本当に稼げているのは10%程度。残りの90%は稼げないというよりも、コミュニケーションがしたいから、やっているわけです。そうしたメディアにも「10キロ痩せる」とか、マルチすれすれの内容でも平気で掲載される広告がまかり通っているのが現状です。そういう方の記事の中で「こんなことに困っている」というものがあった場合、それに最適な商品を掲載することで「役立つ商品を紹介してくれた」とか、「元気になった」とか「楽しくなった」とか、そういう出会いを演出できればと思っています。

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