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アマゾンJ、会員制で送料無料に

――シェア拡大の恐るべき一手か




「短期的に見れば、負担増だが、長期的にはメリットは高い」――。アマゾンジャパンが6月8日から開始した会員制送料無料サービス「アマゾン プライム」に関する記者会見で来日したアマゾンの創業者兼CEOのジェフ・べゾス氏は「年会費3,900円で注文金額に関わらず、送料を無料とする今回のサービスは費用対効果的に見てどうか」という本誌の問いに対して、余裕を持って答えた。
日本でも会員制送料無料制度に自信を見せるベゾスCEOだが…

米アマゾンではすでに実施済みで今回、アマゾンジャパンでも開始した「アマゾン プライム」は通常、1回の購入額が1,500円未満の場合、300円程度の配送料を徴収しているが、年会費3,900円をあらかじめ支払った会員には購入金額に関わらず、配送料は無料。しかも、通常は別途、350円を徴収する当日または翌日配達の「お急ぎ便」も使い放題で、これについても無料となる制度だ。
日本だけでなく、ワールドワイドで利益を上げられれば良いという巨大EC企業、アマゾンならではの「力技」。ベゾス氏が言う通り、コスト負担になっても、これで優良顧客を囲い込み、競合を打ち落とし、シェアを確保できれば、いずれ利益もついてくるという算段だろう。
そして、むしろ怖いのはアマゾンジャパンが取り扱う商材はもちろん書籍だけにとどまらないということだ。現状でも玩具、スポーツ用品、ベビー・マタニティ用品、健食、化粧品。さらには今後、衣料品などへの参入のタイミングも図っていると見られる。「アマゾン プライム」はネット書店のみならず、他のEC実施企業にも脅威を与える可能性はある。ただ、送料無料対象商品は実は取扱商品の約1割。また、年会費の設定についても一部ユーザーの中では、「高いのでは」という声もあがっている。これが「恐るべき一手」なのかどうかは少し様子を伺う必要もありそうだ。

100万点が送料無料対象商品
 
「アマゾン プライム」は年会費を徴収した会員には購入金額に関わらず、書籍1冊から送料が無料となる。しかも通常配送だけでなく、本来、特別料金が必要な、注文日から当日もしくは翌日(関東圏の場合、それ以外は翌々日以降)に配達する「お急ぎ便」を選択することも可能だ。
月額4000円足らずの負担でアマゾンが販売する商品の送料が無料でしかも「お急ぎ便」も使えるならば、ユーザーには相当な歓迎を持って迎えられる制度のようだが、一部のユーザーの反応は冷ややかだ。
まず、送料無料対象商品の問題。アマゾンが取り扱う商品点数は約1000万点だが、その内、「アマゾンプライム」で送料が無料となるのは書籍、CDなどを中心におよそ1割程度の100万点。ユーザーにとって本当にありがたい商品、つまり大型家電を含めた通常、多額の配送料を支払わねばならない商品についてはほとんどが対象外のようだ。
ただ、書籍など一部の商品に限定したとしても送料無料はユーザーにとってそれなりにインパクトは大きいと思われる。しかし、実際問題としてネットで書籍を買う際、全くいないとは言わないが「一冊だけ買う」ケースは逆にあまりない。つまり、現状でも多くの顧客は1回、1,500円以上を購入しており、送料無料は当たり前のものになっている。また、「お急ぎ便」に関しても、「本当に急いでいれば、近くの書店で買うのでは」(競合の某社幹部)という意見もあり、こと書籍に関してはそれほど配送のスピードは重要ではなさそうだ。にも関わらず、年会費として3,900円を支払うというのは「高いのでは」という声も少なくない。

日本と米国では国土が違う
 
米アマゾンが「アマゾン プライム」を一昨年に開始した際、確かに会員数が飛躍的に伸びるなど一定の効果があった。ただ、米国と日本とでは国土面積も実店舗の数も大きく異なる。広大な国土を有し、日本ほど近所に店舗のない米国では確かにこうした配送サービスにはメリットは大きい。しかも、配送時間も通常だと、届くまでに日本の比にならないほど時間がかかる。「お急ぎ便」が使い放題というのもインパクトはあるだろう。
「会員は利用頻度が高く、しかも常にお急ぎ便を利用できる。そのため当初はコスト増となるが、意義のある投資。短期的に見れば負担増となるが、長期的にみればメリットがあるだろう」と会見で語ったベゾス氏の自信は米国での成功を受けただけのものなのか。もちろん、日本市場での緻密なシミュレーションに基づくものなのだろうが、単に米国での成功モデルを日本でも導入したに過ぎないとすれば、競合を打ち落とす「恐るべき一手」になるのは難しいかも知れない。
【編集部・鹿野利幸】

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