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新潮流・通販を変える〜ネットビジネスの開拓者に聞く〜

目指すのは、カタログとは別の本当の<lットビジネス

堀田 守●ムトウ代表取締役社長



破壊と創造∞過去との決別≠ニ掲げた3カ年の中期経営計画で始動した新体制のムトウ(本社・浜松市)。新社長に就いた堀田氏は、既存事業のリストラ(再構築)を断行するとともに、2年目に計画する収益化を進める1つの策として純ネット通販の強化を掲げる。連結売上高750億円だった10年以上前とは一転、500億円規模に縮小した現在、堀田社長はどのような打ち手で再建に挑むのか。(聞き手は本誌・峯木多恵子)

――就任後の4月末に発表した中期経営計画ではネット通販が大きなカギになっています。計画のポイントを改めて聞かせてください。

まずはこれまでの経営を見直し、成長事業を見極めて積極的な投資を行っていきます。そのために1年目は『破壊』、2年目『将来へ向けての布石、地固め』、3年目は『成長・回復軌道』をテーマとします。
この方向性をあいまいにして、現状の会社が構築できていないときに新規事業を立ち上げ、並行して夢を見るということではなくて、1年目は足固め、2年目は仕組みの構築、3年目は成長――と段階を踏んで進めていきます。
1年目の足固めは、まずは不採算事業の見直しです。既に今年3月末に新規開発事業から撤退しましたが、もう1つ、赤字が続く通販事業の建て直しとして、正社員80人体制と40人縮小し経費を節減します。これは昨年12月に通販事業部長に兼任で就任したときから既に着手しています。
そして全体的な経費の削減にも取り組みます。中でも物流業務に関しては人材の転籍を含めて外部委託することで、物流費を3年後に3億円の節減が目標です。
その一環で、特別転進支援による人件費の削減や、組織のスリム化を目的とした取締役の人数削減を行い、部課長を中心とした役職者は24人を降格としました。一般社員に関しては成果主義を基本的な考え方とした新人事制度に変更する予定です。これらを1年でやるという覚悟でいなくては、2年目以降も前へ進めません。

変動費型のネット通販で利益を稼ぐ

――足固めの後、2年目はどのような成長戦略を描いていますか。
 現在、収益力があるソリューション事業は、ムトウ本体が行う他社の出荷代行と子会社のミックが行うシステム開発をドッキングさせて、第3の柱として育成していくのが大きな目標です。生協事業もさらなる収益化を進めていきます。
一方、苦戦している通販事業については損の部分を絞っていき、計画2年目に新たな事業を立ち上げていく計画です。通販はネットにより集中して、新たな投資をしていきます。
カタログ通販は、大きな収益は生み出しにくい、非常に収益性の悪いビジネスです。大手企業は顧客数が多いので規模の利益が取れるけれど、今のムトウには限界がある。アクティブ顧客をベースとすると規模の利益を取れませんので、これからは安定した利益を確保するためにネットからネット≠フモデル、つまり純ネット通販型のビジネスモデルを追求していきます。
カタログ通販は固定費型のビジネスで、先行投資型ビジネスといえます。つまり、リスト分のカタログを制作して発送し、あとは受注を待つだけですよね。ただ、このバランスがうまくいかないから利益が出ないのです。
これでは時代の流れに乗れていません。ムトウが狙うF1層はネット世代≠ナすから、彼女たちを取り込むためには通販事業をネット中心のビジネスにシフトさせなければなりません。カタログビジネスに対して、ネットのビジネスはどちらかというと固定費のかからない変動費型ビジネス。ここにシフトしていかないと通販で大きな利益は稼げません。
――ネットを軸とする取り組みにシフトするとなると、ネット担当者など現場の意識改革が必要となるのでは。
私は「今のムトウにはネットビジネスは存在しない」と言っています。新聞ではよく、「ネット比率が40%、50%」などと書かれているけれども、お客さまの注文手段がはがきや電話からネットへ移行しているだけの話。だからといって、ネットが増えた分、カタログ部数を減らせばいいというわけではないですよね。
私の中では、この「ネット比率」のお客さまは完全にカタログのお客さまなのです。結局、売り上げや顧客数が増えなければ意味が無いんです。ですから私は、ネットからネット≠フビジネスを進めていきたいのです。
――それに伴って、商品開発方法の見直しなども起きるでしょうか。
カタログ通販は現状、制作から販売まで8カ月サイクルですが、ネット通販ではこれを3カ月サイクルにしていきます。仕入れしたりしたものを3カ月で店頭(サイト)に出せば、機動力やスピード感が全然違うはずです。
それと今年から、販売促進部の中にあったネットの部署を、営業部の中にある商品部に異動させました。これまではネットで販促してきたわけですが、そういうマインドでは私の考えるネット通販はできません。
――利益を出しにくいという紙(カタログ)を縮小して、できるだけネットを軸にした展開にシフトするという構想ではないのでしょうか。
カタログはカタログで、つまりカタログ商品のネット販売はカタログの部署でやっていきます。
一方、ネットからネット≠フ展開は全く別もの。1からのビジネスです。既存カタログに関係なく、ネットビジネスのための仕入れをして、やろうと言っています。商品は、当社独自で作るものもあれば、仕入れのものも併せて展開するということになります。
この2つのやり方をファジーにしておくから、本当の手が打てないのではないでしょうか。ネット比率が増えたからといって売り上げが増えるわけでもないし、カタログの制作や送付にかかるコストが減るわけでもない。
だから、「何がネットのビジネスなの?」と私はいつも疑問を投げかけていましたよ。「そんなのネットのビジネスではない、カタログの補完でしかない。ムトウがやらなければならないのはネットからネット≠フビジネスなんだ。ネットでもの作りからやるんですよ」と。それを来年から始めようとしているところです。

従来のネット通販モデルを完全否定

――それは、以前から皆に主張していたことですか。
昨年12月に通販事業部長に就任してから指摘しました。
――最初に言ったときの現場の反応はどうでしたか。
 みんな、戸惑っていましたね。ネットからネット≠フビジネスを増やすってどうすればいいですか?という感じ。これまでは私から見れば、カタログに掲載している商品をネットに載せていただけ。しかし、現場ではそれがネットビジネスの1つの形だと思っていたわけです。
私は、「それは、ネットのビジネスではない。8カ月かけて作った、カタログに載っている商品をネットで売っているのは、カタログビジネスの販売推進だ。ネットビジネスではない」と完全否定しました。
カタログに載っている商品をそのままネットに載せても、何の経済的効果もないわけです。ネットで受注があるだけで、ムトウの売り上げは増えていないし、かつ、カタログ代も減っていない。はがきや電話の受注がネットになったという変化はあるけれども。
ネット受注比率が高まっても、本当のネットビジネスが増えてきたということではないのです。この軸をブラさないで、本当のネットビジネスにつなげていかないと改革できません。
――社長がそう宣言してから、現場スタッフの意識が変わってきたという感触はありますか。
 現場にはネットからネット≠フ通販を来年からスタートさせるスケジュールを課しているので、検討しながら準備段階に入っています。ただ、ネットの部隊を営業(商品部)の中に異動させた時は、かなりの戸惑いがありましたね。
――今まで、ネットを軸に進めていこうとする人はいなかったのでしょうか。
 分かりません。私は、ソリューション事業の強化やネットからネット≠フビジネスを強化することが正しいと思って言っているけれども、実際は非常に難易度が高いとも思っています。
しかし、ここで言えるのは、チャレンジ精神がないと何も生まれないということ。新たな挑戦なくしては、ただこのまま、衰退していくだけです。チャレンジした中で、ムトウ流のビジネスモデルを築いていかなくてはなりません。
――F1層向けの競合アパレルEC企業が売り上げを伸ばしてきています。ムトウに危機感はなかったのでしょうか。
 結果として、会社として危機感がなかったということですね。つまり、通販事業だけでなくて経営のトップまで変えたのは会社の危機感の表れであって、私が社長になったのは、その危機感を一番感じていたからということでしょうね。それと、通販に関しても、何年も赤字を出しながら改善できていなかったのは危機感の欠如以外の何物でもない。だから、それを止めるディシジョン(決断)もしないし、抜本的改革も足りなかったわけです。それではいけないですよね。
今年は、これらをいろいろ変えていき、来年は新たなビジネスに挑戦していきます。ただ、先にも述べたように、これは難易度が高く、うまくいくかはまだ分かりません。しかし、これが今後のムトウが成長できるか否かの重要なポイントになるのは間違いありません。
――ネットからネット≠フ純ネット通販で目指している売上高規模は。
ネットからネット≠ヘ、売り上げが大きくなくても利益が出せるビジネスモデルだと考えています。いい商材で事業を立ち上げられれば、それなりの利益を出していけるはずです。
カタログ通販の場合、何十億円も売り上げを上げなければ利益は出せませんが、ネット通販の場合は売り上げが10億円でも20億円と小規模でも利益は出せるはずです。
――まずは利益優先の段階ということでしょうか。
そういうこと。来期から始めて3年後、つまり今から4年後には、ネットからネット≠ナ年間売上高50億円規模のビジネスにしたいと考えています。
――ムトウを将来的にどのような企業にしたいですか。
規模の大きさはあまり望んでいません。小粒でもピリリと辛い、浜松の収益力のある優良企業にしたいですね。
ただ、ムトウの社員は地元出身者が多く、浜松らしい¢フ質になっているのも事実です。つまり、ぬるま湯≠フように、非常にほのぼのとしているということ。確かに、まじめで団結力があるけれども、言い換えれば競争力や切磋琢磨という点が弱い。東京や大阪の会社とは、人との関係性やメンタリティーが違います。
また、東京や大阪のように、人が辞めても次から次へ入ってくる状況とは違って、地元から来てくれる人を大事に育てて、企業全体でパワーアップしていかなくてはなりません。
人事制度を成果主義にして、「付いて来れない人は辞めてもいい」とすれば、ムトウにとって次の人はいなくなってしなうので、来てくれた人は貴重なのです。そこに加えて、私のように外部から来た人が刺激を与えながら育てていこうとの姿勢が必要なのです。
新しい人事制度にしても、まずは、このぬるま湯体質を改善して、成果主義という厳しい制度を、従業員がやりがいを持てる制度に進化させていこうと考えています。



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