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好調、ネットプライスが失速
――急拡大路線の歪で大幅赤字に





「社長の報酬カット」「大規模なリストラ断行」――。モバイルを主体としたネット通販を行うネットプライスドットコムが窮地に立たされている。これまで独自の販売手法の共同購入方式「ギャザリング」を軸に、順調に成長を遂げ、店頭公開、また年商100億円の大台をクリア。今期からは持株会社制に移行し、様々な新規のビジネスを立ち上げ、今後も安定的な成長が見込まれてきた有望ネットベンチャーであった同社が5月7日に発表した中間決算は惨憺たる結果に終わった。
 中間期での売上高は75億7000万円と期初予想には届かず、また伸び率は鈍化したものの、前年同期比で15.2%増と増収を確保。しかし、一方で利益面は大幅な赤字を計上。前年の中間期では約2億円程度の黒字だった営業損益は5億9100万円の損失。経常および中間純損益も6億円程度の損失を計上する結果となった。売上高も増収、また商品粗利率も34〜35%前後とネットプライスの現在の規模からみれば、適正な数字と言える。それでも大幅な赤字を計上してしまった背景には、売上高を上げれば上げるほど、コストがかさむ「構造的な赤字体質」となってしまったためだ。
 こうした結果を受けて、ネットプライスドットコムは事業再構築計画を発表。ビジネスモデルを改革するとともに、同社の佐藤社長の報酬を半年間、全額カット。役員の報酬についても2割から5割をカット。また、希望退職者の募集を行い、現状の人件費から約40%減を目指す大規模なリストラを敢行することを決めた。
 これまで順調とも言える成長路線を歩み、モバイルを含めたネット通販企業の中でも有望視されてきた同社を見舞った今回の業績低迷は何が原因だったのか。それは業績拡大を急ぐあまりに、知らず知らずのうちに触れてしまった同社の最大の強みである「"ギャザリング"の回転力」だった。

「ギャザリング」が生む"高回転"

ネットプライスを短期間で年商100億円まで押し上げた要因――。それはやはり同社の販売モデル「ギャザリング」に他ならない。「ギャザリング」とは大まかに言えば、共同購入型の販売手法であり、毎週、モバイルやネットの販売サイト上に「商品」を紹介。購入希望者を募り、その数が増えれば増えるほど、売価を下げる。申し込みは原則、1週間で締め切られ、その後、確定した商品数をベンダーやメーカーに発注。顧客に商品を届ける仕組みだ。
 この「ギャザリング」には販売者であるネットプライスに大きなメリットをもたらす。販売期間を1週間に区切る「ギャザリング」という仕組み上、ネットプライスは在庫を保有する必要がない。1週間で集まり、確定した購入希望者の数だけ、発注すればよく、在庫リスクは皆無となる。さらに「売らねばならない在庫」を持たないことで、「今流行っている商品」「売れ筋の商品」など鮮度の高い商品を他社に先駆けて、すぐに販売することが可能になる。
 加えて、「欲しいもの」が掲載され、かつ、自分と同じように「欲しい人」が集まれば集まるほど、価格が安くなる「ギャザリング」はユーザーにとって見ても、単なるショッピングではなく、ある種、エンターテイメント的なコンテンツとなる。こうした「利点の回転」がユーザーを呼び、ネットプライスの順調な成長をけん引していったわけだ。しかし、今期に入り、掲げた業績拡大策により、この回転力が鈍化していった。

持ってしまった「在庫」
 
今期(07年9月)の売上高を150億円に据えたネットプライス。業績拡大にための施策とは、やはり同社の最大の強みである「ギャザリング」の強化だった。
 そのため、まず、実施したのは「商品」の拡充だった。在庫を持たず、受注後発注が基本だったこれまでは販売機会のロスも多かったという。いかにネットプライスから発注を受けても、人気商品であれば、ベンダー側に在庫がいつもあるとは限らないからだ。商品が確保できれば本来、もっと売れたはず――。こうした販売機会ロス低減や「お客様のニーズに答える」(佐藤社長)ために、これまで原則、持たなかった商品在庫、特に雑貨や衣料品を中心に今期から保有した。そして、これが裏目に出た。
 もちろん、顧客のニーズを元に商品が仕入れたのであろう。しかし、消費者のニーズの移り変わりは速い。また、在庫を保有する観点からあまり、"とがった"商品はありえない。比較的、安定的に売れるであろう商品を取り揃えた。この結果、「中庸な商品が増加してしまった」(佐藤社長)。ここで「ギャザリング」が持っていた回転力が落ち始める。
 まず、在庫を保有したことで「売らねばならぬ商品」を持ち、その時に売りたい商品が売れなくなり、商品の鮮度が落ちた。すると、ユーザーは敏感に反応。コンバージョンレートが下がり、新規顧客数が減少した。さらに、こうした在庫を管理するためのシステム構築を行わねばならなくなり、コスト負担が増大。さらにこの在庫を売り切るために、徐々にSEMやCGM系メディアなど、コストが安価なネット広告へとシフトを進めてきた集客戦略を一旦、止めて、従来の高コストなファッション誌などへの出稿を重ねるなど、広告宣伝費を増やしたが、旬を逃した「中庸な商品」は結局、販売に至ることはなかった。
 
非効率な「売り場」
 
業績拡大策は「売り場」の選定にも焦りを生んだ。同社は自社サイトでのEC展開のほか、カード会社など一定の会員を持つ企業と提携し、当該企業のWEBサイトに「ギャザリング機能」の貸し出し、つまり、"出店"している。ここでの売り上げはネットプライスと「売り場」を提供した企業とのシェアされる仕組みだ。この他社サイトでの出店での売上高は前期実績で言えば、モバイル通販では全体の3割弱、PC通販では5割を超える。
 業績拡大には商品の拡充に加え、この提携先の拡大が必要だった。そこで、近年、この提携先企業の拡大を強化。現在までに約60の企業への出店を果たした。しかし、これも今回の利益減を生む大きな要因となった。非効率な売り場の拡大だ。
 この提携サイトのうち、約半分で8割5分の売り上げを上げる。裏を返せば、残りの半分は1割5分だ。ただ、提携サイトの管理費、つまり、そのサイトで販売する商品の選定や、細かなメンテナンスなどは同じだけ必要で、人を張り付かせなければならないため、人件費は同じだけかかる。「売れる売り場」なら、そうしたコストも回収できるだろうが、「売り場」拡大を急いだ結果、非効率な、つまり、さほど「売れない売り場」が増加。それが増えれば増えるほど、人件費が恒常的に増加する結果となった。

「持たざる強さ」再び取り戻せるか
 
「ギャザリング」の強化で業績拡大を図った同社だったが、皮肉にも、それが故に本来の「ギャザリング」の強みを失い、大幅な赤字に転落してしまったネットプライス。発表した事業再構築計画では、子会社の精算や売却のほか、原点回帰を掲げ、強かった「ギャザリング」を取り戻したい考え。
 商品はまず、在庫保有を一切、やめる。上期までの保有在庫は中間終了時点で100%評価減とした。これで在庫管理システムの開発を中止し、コスト削減を図る。今後は従来の受注後発注に戻し、商品数よりも、「厳選された商品」として現状の8割程度まで商品数を落とす。一方で、これまで一週間単位で商品販売を行ってきたが、これを「週に2回、3回」(佐藤社長)とし回転数重視の商品戦略とするようだ。広告宣伝も雑誌からネットへ出稿媒体のシフトを進め、広告宣伝費を半減させる。
 また非効率な「売り場」からの撤退、もしくは提携を現行の形から、アフィリエイトに切り替え、人的ではなく、システム的な管理に移行。これで利益減の原因となっていた人件費削減やそれに伴う事務所の賃貸コストなども減らす。人件費は現状の40%減を目指す。
事業拡大の過程で生じた「ギャザリング」の歪を修正し、再び、強いネットプライスに生まれ変われるか。下期以降の同社の動向が注視される。【編集部・鹿野利幸】

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