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いよいよ"アマゾン版仮想モール"が始動

――大手サイトの参加が成功の条件に?




噂の仮想モールの実力とは

 昨年来、噂され続けてきた"アマゾン版仮想モール"がついに動き出した。アマゾンジャパンは4月24日に都内で記者会見を開き、同日から米アマゾンなどで展開中の企業向けアマゾン内出店サービス「マーチャント@」の開始を発表した。 仮想モールとは言っても、「楽天市場」や「ヤフー!ショッピング」のような出店料を支払えば、誰もが出店できるオープンなものではなく、アマゾンの指名招待制で出店するには、アマゾンのお眼鏡に叶う規模なり商品力、知名度を備えている必要がある。スタート時点ではカタログギフト会社や丸井のネット専業子会社など約50社がアマゾン版仮想モール"に出店した。 これはアマゾンの揺ぎない基本戦略である「ショッピングポータル化」への一環。あらゆる商品を網羅することで、他社サイトに行かせずに、アマゾン内で完結するワンストップショッピングを具現化。この「アマゾンに来れば、何でもある状態」を作り出すことで、購買の意思決定の重要な決定力を持つ商品レビューの集まり、レコメンドによるクロスセルの効果性が必然的に高まっていく。
スタート時点では約50のEC実施企業が出店したアマゾンの仮想モール「マーチャント@」

こうした基本戦略からアマゾンはこれまでは自力で商品数を拡充してきた。これに加え、仮想モールの運営を行うことで、優良なEC事業者を囲い、自力ではなかなか品そろえが難しかった商品群を確保。「あるべき形」に向け、第2ステージを登り始めた。
アマゾンの成功のカギは思惑通り、自力では調達できなかった優れた商品や、固定のファンが付いているような知名度の高い有名ショップなど、「強い出店者」をどれだけ抑えられるかにある。
しかし、アマゾンが今回、参入した"仮想モール"は楽天など3事業者の手に牛耳られている。しかし、この寡占状態を生んだのは、言わば、それだけ、既存の仮想モールがEC事業者にとって、優れているということの裏返しでもある。
アマゾンのモール事業参入の発表を受けて、楽天やヤフー、DeNAといった既存仮想モール運営事業者の株価が一時期、軒並み下落したようだ。それだけ、周囲からの期待値も高いということだろうが、このモール寡占の状態をひっくり返し、有力EC企業の目をいかにアマゾンの仮想モールに向かわせるかは至難の技だ。単独ECサイトとしては国内最大の売上規模のアマゾンの仮想モールは下馬評通りの強さを発揮できるのだろうか。

「強い商品」しかいらない
 
アマゾンジャパンが開始した新事業は「マーチャント@amazon.co.jp」と呼ばれる仮想モールサービス。EC実施企業はアマゾン内に独自の販売ページを設置、出店してアマゾンユーザー向けにEC展開するもの。同サービスは米本社、英、独に次いでの導入となる。
 "アマゾン版仮想モール"は「楽天市場」など国内の既存の仮想モールと異なり、出店企業はアマゾン側による招待制。出店基準について詳細は不明だが、「サービスやクオリティ、商品セレクション、納期などを見て我々から声をかける」(前田宏アマゾンサービス事業部長)としている。それもそのはずで、自分たちで調達できる普及商品ならば、これまで通り、自社仕入れで販売するはず。一定規模のEC実施企業に絞り、そこでしか販売していない強い商品を調達する役割をモールに求めていく考えのようだ。
出店に伴う費用についても「数字は何も言わないアマゾン」らしく、詳細は不明。ただ、初期出店料は徴収しない。販売商品代金に対し、商品ジャンルに応じた一定の手数料(手数料率は非公表)を徴収するようだ。

大手ECサイトは見当たらず

スタート時点ではスポーツ用品や家庭・生活用品、玩具、健康食品など7ジャンルの商品群が"アマゾン版仮想モール"の対象。カタログギフトのリンベルや、丸井のネット通販子会社、マルヴォイ、日比谷花壇、など約50社が出店。出店企業の目標などは明らかにしていないが、仮想モール事業を展開中の米アマゾンではすでに数千の出店があり、「マーチャント@」を含めた第三者出品による年間商品販売数の割合がアマゾン全体で28%となっている。日本単体でも「今後、有望なビジネスに成長するだろう」(チャン社長)としている。
確かに、アマゾンへの出店は出店企業にとってメリットはありそうだ。出店企業は出店契約後、アマゾン内に独自の販売ページを作成し、アマゾンの決済サービスやリコメンデーション機能などを利用した商品販売が可能となる。また、価格や納期、ユーザー評価などが他社やアマゾンで販売する商品よりも「有利」であれば、各商品カテゴリの上部に当該出店企業の商品が掲出される。アマゾンが作り上げてきた優れた販売手法を使い、膨大なアマゾンユーザーに直接、リーチできる点でEC事業者にとっては新たな有望な「売り場」候補の1つであることは間違いないだろう。
ただ、気になるのは、スタート時点での出店企業の顔ぶれだ。もちろん、一定規模の知名度や規模を誇る企業も出店しているものの、いわゆる大手EC企業や有名ブランドなどの出店があまりない。アマゾンからの「指名」を受けた某有名ブランドメーカーの幹部は「確かにアマゾンへの出店には魅力はある。でも、結局は競合でしょう。これまでもこれからも、我々が扱ってきた商品ジャンルはアマゾンが独自でも販売していくわけで、競合に管理されて商売を行うことに違和感がある」として要請を一旦、断ったという。いかにアマゾンが優れた販売スキームや自社の顧客を解放しても、この仮想モールはこれまでのように、そう簡単にはいかないということだろう。
自社ECサイトに加え、「楽天市場」など仮想モールに支店を出し、EC展開している企業は多い。ただ、アマゾンはやはりEC事業を行う競合であり、直接、物販を行わず、モール運営に特化している楽天やヤフーとは本質的に立ち位置が異なるわけで、企業が、特にそこが大手であればあるほど、アマゾンのモール参加に二の足を踏むのは必死だ。
そうした各社の懸念を上回る実力を備えなければ、アマゾンのモールには結局、「そこそこの出店者」しか集まらず、そうなると、クローズド型モールにしてまでこだわったアマゾンの思惑とは大きなズレが生じ始める。

仮想モールは成功するのか

アマゾンでは自社仕入れによる販売商品のジャンルや数を拡充することに加え、02年から展開中の「Amazonマーケットプレイス」(個人、企業を対象にした出品機能)や、昨年から開始した書籍、CDなどに限定した中小事業者向け委託販売サービス「e託販売サービス」などで第三者から出品で販売商品を拡充している。今回の仮想モール事業で優良なECサイトの出店を促し、さらにアマゾンで販売可能な商品の幅を拡げ、「ネット通販入り口」、ショッピングポータル化を進める考え。
 しかし、この青写真を具現化するには競合であるEC企業を納得させる圧倒的な出店者へのメリットを明確化できなければならない。それには逆説的になるが自社販売の強化による集客力向上に加え、出店者サポートも必要になってくる。「マーチャント@」自体は米アマゾンを始め、実績があるが、世界には日本の「楽天市場」のようないわゆる仮想モールはあまりなく、日本でも成功を収めるには、日本の事情に即した新しい試みを行う必要がありそうで、いかにアマゾンといえど、時間はかかりそうだ。
 EC事業者もアマゾンから「指名」を受けた際、アマゾンの優れた販売スキームや膨大な顧客数につられ、安易に出店を決める前に、そのことで、すでに1600億円とも2000億円を超えたとも噂される巨大な競合の力をますます強めることにもつながらないかと一度、考えるべきだろう。アマゾンの仮想モールの成功はEC市場にどのような影響をもたらすのか。いずれ、アマゾンなしにはネット上の物販が成立しない時代が来ないとも限らない。【編集部・鹿野利幸】


記者会見での記者とチャン社長の一問一答

我々と同じレベルで商品提供ができる
出店企業だけに出店してもらう

Q:「厳選されたブランド企業」にアマゾン側から声をかけて、出店者を誘致していくとのことだが、その基準は。
A:私どもの求めているサービスクオリティや、商品のセレクション、そういったいろいろな基準をクリアして上で、その中から参加して頂けるだろう企業に声をかけさせて頂く。

Q:あくまで出店企業を決めるのはアマゾン側だということか。
A:そうだ。

Q:パートナーの企業は、今後どのくらいの数を考えているのか。
A:将来の予想については申し上げることができない。ただ、グローバルに見ると出品者のアクティブアカウントというのは110万ほどある。こちらの数字が参考になればと思う。日本においてもこれから積極的にサードパーティーの方の参加を働きかけていくことになると思う。

Q:将来的に門戸を広げるという考えは。
A:アメリカではこのサービスが2002年に開始してもう5年が経過しているにも関わらず、現在においてもインビテーションモデルを採っている。将来的なことは何ともいえないが、これが答えになると思う。

Q:レコメンド機能は出店企業が扱う商品の中だけではなく、アマゾン全体でレコメンドされるのか。
A:レコメンデーションはマーチャントとアマゾンに区別なく、すべての商品について働くようになっている。一度、マーチャントのストアの中に入ると、ストアの中だけでのレコメンデーションも機能するようになっている。

Q:品揃えを追求するのであれば、厳選しなくてももっとオープンにすればいいのではと思うのだが、改めて、厳選する理由について教えていただきたい。
A:一番大きな理由は、私たちはアマゾンのお客様に対して一番よいお買い物体験を提供していきたいと考えているからだ。そのために、新しい品揃えを持ち込むことができると同時に、サービスをアマゾンで提供する商品と同じレベルで提供できる企業に限っている。そのため、オープン型ではなくインビテーション型をとっている。

Q:出店料について課金体系や、初期出店料の有無、また、手数料はどういう形になっているか。
A:初期の出店料はない。販売が成立した時に、販売代金から手数料を一部頂戴する。


Q:個別企業によって手数料率は違うのか。
A:商品カテゴリーによっての違いというのは検討しているが、現時点では違いというのは考えていない。

Q:大体何%ぐらいか。
A:数字に関しては言えない。

Q:「楽天市場」や「ヤフー!ショッピング」が競合になってくると思うが、強みや勝算については。
A:アマゾンの持っているEコマースのテクノロジーを提供できるという点が挙げられる。これはサービスの仕方ということだけではなく、バックエンドサービスなどにもメリットがあると考えている。アマゾンのそうしたサービスを使い、Eコマースのサイトを作れる、ということが出店企業の大きなメリットになってくるはずだ。

Q:PCではなくモバイルからのアクセスはどうか。
A:サードパーティーから出品される商品は、モバイルからも購入可能だ。ただ、ストアフロント(出店企業専用画面)などには対応していない。

Q:出店者数や流通総額の初年度目標は。
A:具体的な数字については言えない。ただ2006年のアマゾン全体の販売数量の28%はサードパーティーによって占められている。日本においても(「マーチャント@」は)非常に有望なビジネスになると思う。



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