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新潮流・通販を変える〜ネットビジネスの開拓者に聞く〜

"垂直統合"から"水平的分業"へ

後藤玄利●ケンコーコム代表取締役社長



7万点を超える取扱商品、年間6000万人のサイト来訪者。健康関連商品のECサイトとして地位を確立したケンコーコム。商品や物流機能、サイトの集客力など、これまで強化・拡充してきた基盤を基に、BtoBの「ドロップシップ事業」と「メディア事業」を立ち上げた。後藤玄利氏は、今後EC業界について、一企業で全ての機能を保有する"垂直統合"の形から、各企業が特定の機能に特化した"水平的な分業"が進むと予想。BtoBの新規事業も、この流れを見据えたものだ。(聞き手は、本誌・後藤浩)

コンポーネント単位の利便性が高まり、コンピューター業界は大きく飛躍した

健康分野にフォーカスし、BtoBの新規事業を展開

――健康関連商品のEC事業者として業容を拡大してきた訳ですが、今後、EC業界はどのような形になっていくとお考えですか。
ベンダーから仕入れた商品を自社のショッピングサイトで消費者に販売する。これが従来からケンコーコムが手掛けているビジネスモデルですが、一連の流れを見ると、ベンダーから仕入れた商品を自社のセンターに在庫し、自社のサイトで注文を受け付け、自社センターから発送するという、一方向的な"垂直統合"の形になっている訳です。
この形は、他のECサイト、あるいはリアル店舗を持つ小売業でも同じなのですが、ECに関して言えば、「webサービス」の新しい技術が出てくることで、"垂直統合"の形が崩れ、倉庫や業務オペレーション、或いはサイトといったコンポーネントごとの"水平的な分業"が進むのではないかと考えています。

――具体的には、どのようなイメージになるのでしょう。

私が参考にしているのは、コンピューター業界です。1980年代のコンピューター業界は"垂直統合"の形で、IBMや富士通、NECなど各メーカーが自社でCPUやOSを作り、自社のアプリケーションを載せるというスタイルでした。しかし、各社の仕様が分かるようになり、オープンな規格が出始めたのを機にCPUやOSに特化した企業ごとの"水平的な分業"が進みました。そこで、コンポーネント単位の汎用性が高まり、業界全体が大きく伸びた訳です。
これと同じように、ECの世界でも「Webサービス」の技術をドライバーに、物流や業務オペレーション、あるいはサイトといった機能ごとの分業が進むのではないかということです。その意味では、EC各社がもっと機能に特化し、お互いの機能と機能を結びつけるような形にならないと、業界全体が大きく飛躍することは、難しいのではないかと思いますね。

――"水平的な分業"が進むなかで、御社自体、何らかの機能に特化していくとことになりますね。

"水平的な分業"が進んでいくなかで、当社がどのような役割を果たせるかについては、現在考えているところです。ただ、7万点を超えるロングテールの健康関連商品データベースがあり、商品を全国の顧客にほぼ注文翌日に届けられる仕組みも持っていますから、この部分にフォーカスしていこうと考えています。その一環として、当社の商品や物流機能を使い、パートナー企業がEC展開を行う「ドロップシップ事業」を前期から開始しました。
ECサイトの成否を考えた場合、当然、売り方も非常に大切な要素なのですが、実は、それと同等以上に重要なのがロングテールの商品データベース。ECサイトを持っている方もロングテールの重要性に気付き始め、できるだけ多くの商品を扱いたいと考えているようですが、実際に一からロングテールの商品データベースを構築しようとすると、仕入先の選定や在庫、更にそのための資金の手当てといった様々な問題が出てくる訳です。
そこで、ロングテールの商品を簡単にインターネット経由で取り扱う術、つまり「ドロップシップ」があれば、ECサイト側は、大きな負担をかけずに取扱商品数が拡大できる訳です。同時に、当社としてもロングテールの商品全体の回転が良くなるというメリットがありますから、そこでお互いに良い関係が構築できることにもなります。
「ドロップシップ」自体、「webサービス」を活用して、出荷業務とECサイトを繋ぐ技術の1つと言えるのですが、こうした広義の「webサービス」がドライバーとなって、EC業界全体が大きく変わっていくのではないかと思いますね。

「ドロップシップ事業」、仕様確立がカギ

――「ドロップシップ事業」のスタートから約1年が経過しましたが、何社にサービスを提供しているのでしょうか。
問い合わせは複数頂いています。ただし、まだ技術的なハードルが高く、全ての法人がサービスを利用できる環境ができていません。現在は、そのハードルを互いにクリアできた数社にサービスを提供しています。

――具体的に、技術的なハードルとは。

インターネットで接続するための標準的な仕様は既にありますが、「Webサービス」でお互いを接続し、商品データベースをオープンにする場合の仕様がないため、サービスを利用するパートナー企業に技術的なスキルが求められるということです。
現状、1社1社相対でつなぎ方を決めていく形なのですが、相手先のECサイトが商品データベースをどのように使いたいと考えているのか、それに対し、当社がどのように商品データベースをオープンにするかといったことを議論しなければなりません。当然、専門的な話になりますから、お互いにそれなりの技術や知識を持っていないと、システム的なつなぎ込みができない訳です。
現在、つなぎ込みを行っている数社と、必要十分な健康業界の商品データベースの見せ方を探っている段階なのですが、この取り組みを通じ、インターフェイスを確立することが「ドロップシップ事業」を飛躍的に拡大させるポイントになりますね。

個人ドロップシッパーの環境整備急務

――現状、法人向けの展開ですが、個人を対象にした「ドロップシップ」サービスの展開については、どのようにお考えなのでしょうか。
現状、個人のドロップシッパーについては、環境が整備されていないと考えています。実際に、商取引上、個人ドロップシッパーをどのように位置付けるのか、あるいは与信の問題などがありますし、個人がドロップシッピングを行う場合の業界の"約束事"のようなものを決めていかなければならないでしょう。
当社が法人を対象に「ドロップシップ事業」を始めたのも、契約関係がきちんとしやすいということがあり、その中で「Webサービス」に関する技術に明るい法人と実績を作ることに取り組んでいる訳です。ただ、個人に対して今後も一切門戸を閉ざすという訳ではありません。「Webサービス」を使った繋ぎ込みの仕様を確定し、それからより幅広い法人、更に個人に広げていくというロードマップを考えています。

消費者に伝えるべき情報を正しく伝えることは、メーカー・販売業者の使命

正確な情報を伝えることが重要に

――前期は「ドロップシップ事業」と並行して、自社サイト上の商品PRページをメーカーに提供する「メディア事業」も立ち上げましたが、狙いは。
メーカーさんのマーケティング支援です。ケンコーコムのサイトでは、1日におよそ4000人が商品を購入していますが、1日のサイト来訪者が17万人であることを考えると、16万人以上の人が何も買わずに退出していていることになります。ただ、そうした方たちは、健康に対する関心が高く、商品の購入を強く考えている。当社にとって非常に重要な見込み客であると同時に、メーカーさんにとっても自社の商品をアピールすべき顧客になる訳です。
ケンコーコムのサイトでも、顧客に対して、より多くの情報を提供していこうと考えていますが、最大公約数的な商品の説明文や画像の部分だけで、メーカーさんが伝えたいと思っている全ての情報を表現できている訳でありません。商品ごとにメーカーさんの思いを伝える場を作ろうというのが「メディア事業」の発想です。
 メーカーさんからすると適切な潜在顧客にアピールでき、ユーザーも知りたい情報にリーチできる。当社としても、今まで言い尽くせなかった商品の情報を伝えられることになりますから、サイトから発信する情報の説得力が増すことになります。つまり、お互いにウィン・ウィンの関係になれる訳です。

――売り上げにつなげる施策は。

 「メディア事業」だけで売り上げを上げようとは考えていません。メーカーさんが伝えたい情報を知りたいという人に伝えていくことが「メディア事業」の本筋ですから。中には、メーカーさんが発信する情報だけを取りにくる人もいると思いますが、それはそれでウェルカムです。
 当社としては、ケンコーコムのサイトに行けば、健康に関する情報が必ずあるという形を目指しています。そのなかで重要なのは、正確な情報を不足なく伝えることです。
インターネットでは、基本的にテレビ番組のような時間の制約はありませんし、当社の「メディア事業」では、ページ文字数など制限を設けす、メーカーさんが伝えたいと思う情報を余すことなく書けるようにしている。きちんと伝えなければならない情報を正確に伝えるということは、メーカーさんの使命でもあり、我々販売業者の役割です。これは、非常に重要なことだと思いますね。

――健康関連の市場が拡大傾向にありますが、その中で御社は、どのような役割を果たしていくのでしょう。

健康関連の市場全体がこれからも大きくなっていくことは間違いないでしょう。ただ、コンプライアンスを巡る環境が変わり、情報の伝達の仕方など、従来以上にしっかりとした形にしなければならない時代になっていると思います。その意味では、企業間の競争だけではなく、コンプライアンスの面からも淘汰の流れというものが、従来以上に激しくなっていくのではないでしょうか。
健康食品であれば、メーカー各社が様々な角度から研究を行い、良い素材や商品を持っているケースも沢山あります。当社のスタンスとしては、そうした商品を紹介し、消費者にしっかりとした情報を提供していくことが使命だと考えています。



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