2007.5 無料公開記事      ▲TOP PAGE


上田会長が正式に就任、一気果敢な攻めで復活へ

セシール




「我々は、これから急角度で右肩上がりのカーブを作っていかなければならない。更に上のレベルのダイレクトマーケティング企業を目指していく」。3月29日、定時株主総会及び取締役会を経て、元アメリカンホーム保険会長兼CEOだった上田昌孝氏を正式に会長兼CEOに正式に迎えたセシール。同日、本社で会見した佐谷聡太社長は、こう宣言した。上田会長の就任に当たっては、株主総会召集通知後に親会社のライブドア(現ライブドアホールディングス)が修正動議の提出を通告するという異例の手順を踏んだが、上田氏招聘により、経営と執行を分離。事業展開と企業価値向上のスピードアップを図っていく。長引く業績の低迷にあえぎ、ライブドア傘下入り直後の社長候補者逮捕(証券取引法違反容疑)という想定外の事態にも見舞われた同社だが、前期の業績で4期振りの増収となるなど漸く復活の兆しが見えたことを受け、一気に攻めに転じる構えだ。かつて、通販市場では断トツ首位の売り上げ規模を誇り"通販の雄"だった同社。新トップの下、通販ポテンシャルを引き出し、ネット通販も含む通販を再生。再び"通販の雄"に返り咲けるか。同社の今後の動向が注視される。


役どころは上田会長が"戦略"、佐谷社長が"戦術"を担当

上田会長は、三菱銀行(現東京三菱UFJ銀行)入行後、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル日本支社に移り、財務企画ディレクターや金融関連サービス部ディレクター、事業開発部バイス・プレジデントなどを歴任。2000年9月にアメリカンホーム保険会社に副会長として移り、翌年12月には同社の会長兼CEOに就いた外資系企業で保険商品等を扱うダイレクトマーケティングの経験、経営者として欧米的な企業統治の経験を持つ。
セシールでの上田会長と佐谷社長の役どころは、外資系企業での経験を活かし、上田氏がCEOとして"戦略面"を担当。同社を4期ぶりに増収・黒字化に導いた佐谷社長は、COOとして"戦術面"を担当する。再生の基盤を築いた佐谷社長及び他の役員陣がオペレーションに注力し、上田会長が経営の舵取りをすることで、基盤の拡充と新たな施策の展開を並行して進め、成長のスピードを加速させるという構図だ。
また、経営と執行の分離という面では、当初、取締役候補だった藤澤佳直及び輿石雅志氏を敢えて専務執行役員とした。
両氏は前期、取締役としてマーケティングやサービス部門を担当し、業績回復への貢献度も高かったと言える。その両氏を敢えて専務執行役員としたのも、「必要とされるスピード感の中で両氏が持つ能力を活かしていくかということを考えた場合、業務執行の部分に100%ロックオンした形でやって貰うことが最適だと判断した」(佐谷社長)ことが背景にある。
「(セシールは)モノ作りや企画、或いはフルフィルメント機能など、過去35年の歴史の中で確立されたものは持っている。その中で足らないのは、マーケティングと金融面での支援」(同)。マーケティングの部分では、上田会長が培ってきた経験に加え、藤澤氏が専務執行役員マーケティング部門長、輿石氏は同サービス部門長として、業務の執行に専念することで強化。一方、金融面では、ライブドアホールディングスが支援。更に、業容拡大の上で欠かせないネット部門の強化においても、ライブドアグループが保有するノウハウや人的資源を投入していくことになる。
会見に同席した平松庚三ライブドアホールディングス社長は、「セシールを重要なビジネスユニットと捉えている」とし、マネジメントノウハウ、人材、金融の各方面から、セシールをサポートしていく構えだ。


顧客基盤とブランドが強み、DBマーケティングを積極活用

上田会長を迎え、社内的な体制は固まった訳だが、では、具体的にどのような施策を講じていくのか。1つは、既存の顧客基盤をいかに活かしていくかということになる。
 上田会長がセシールの強みとして、まず挙げたのが顧客基盤だ。同社が保有する一千数百万人のリストと300万人のアクティブユーザーについて、「ポテンシャル以外の何者でもない」(上田会長)として高く評価。この顧客基盤を活性化させることで、「より大きな企業価値を生み出せることは、間違いのない事実」(同)との見方だ。
手法としては、様々なダイレクトマーケティングの手法を使い顧客にアプローチすることになるが、その中でもデータベースマーケティングを積極的に活用していく意向で、顧客に対して提案する商品や順番などを科学的に分析し、より効率的な販売手法を確立していく考えを示した。
もう1つの強みとして挙げたのが全国レベルで知られている"セシール"ブランド。この部分については、ブラッシュアップを図り、"真のブランド"に育成することがポイントと見る。
既に"セシール"ブランドは、広く認知されている。だが、現状"知っている"というレベルに止まっているのではないかというのが上田会長の見方。「ブランドというものは、顧客の心の中にあるその会社のイメージ。つまり、顧客が"セシール"という言葉を聞いた時に親近感なり、ロイヤルティを感じるのが本当のブランド」(上田会長)という訳だ。
単に知られているブランドから、顧客が企業イメージをイメージできるブランドへ如何に転換させていくか。この点については、「コールセンターのコミュニケーター1人ひとりが顧客からの電話に気持ち良い対応できるか」に掛かっていると見ており、自らコールセンターに入りモニタリングを実施。「科学的にトラッキングしながら、ブランド構築を進めていく」(同)と意欲を見せる。


セシールのブランド活用し、ネット部門を拡大へ

一方、今後の具体的な施策の方向性としては、カタログ部門の収益改善と拡大、インターネット部門の拡大、データベースマーケティングの活用による顧客基盤の活性化の3点に取り組んでいく考え。
カタログ部門では前期、ジャストシーズンに合わせたカタログ配布のほか、60代以上向けファッション等の「すてきさろん」、看護師向けの「セシールブランヌ」、30代向けの「服がすき。」など、ターゲット明確化したカタログの創刊など新たな試みを展開。更に印刷費や配送費を大幅に削減する収益改善にも大ナタを振るったが、カタログ部門の基本路線は、こうした取り組みを更に深化させた形となるようだ。
一方、ネット部門の拡大については、"セシール"のブランドを活かした取り組みを進めていくとした。
3月26日、ネットの世界でのブランド確立を狙いに米国のリンデン・ラボ社が運営するネット上の仮想都市空間「セカンドライフ」に仮想店舗を出店しているが、これは現状、直接売り上げに繋がる形ではないが、"セシール"ブランドを活用したネット部門拡大策の一環と言えるだろう。  前期は、サイトの全面リニューアルや商品特集企画の拡充、アフィリエイトやリスティング広告の強化、モニターから寄せられた商品のレポートをサイト上に掲載する「せし・レポ」、顧客が考えた企画の店舗を自社内に開設し、売り上げに応じてポイントを還元する「せし・リエイト」の展開など、集客・売り上げの拡大に向けた小まめな仕掛けを相次ぎ投入。これにより、ネット部門の売上高を前期比10%増の165億円(受注ベース)、ネット会員数を216万人とした。
今期は、ネット部門売上高180億円(同)、会員数260万人にまで拡大させる計画。成長分野のネット部門は、売り上げ面だけではなく、新規顧客獲得といった面でも重要な位置を占める。これまで投入してきた仕掛けに、より科学的なダイレクトマーケティングの分析手法を取り入れることで、どれだけ拡大できるかは大きなポイントになってくる。
前期の業績回復について、「一定の手応えは感じているが、早急に次のステップに入りスピードを上げて行かなければならない局面にある」とする佐谷社長。「セシールは、これからもう一度攻める時期に入ってくる」とする上田会長。両氏が描くセシールの将来像は、従来の通販企業から脱皮した、より高度なダイレクトマーケティング企業だ。セシールの本格的な復活に向け、今期は重要な年になる。【編集部・後藤浩】


▲TOP PAGE ▲UP