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新潮流・通販を変える〜ネットビジネスの開拓者に聞く〜

ブログで世の中の変化の"兆し"をつかめ

潮栄治●きざしカンパニー代表取締役社長CEO



お昼ごはんの感想、本やゲームの評価、新製品を使ってみた私見などなど、膨大な量の情報が日々、ネット上に吐き出され続けている。誰もが手軽に情報発信が可能な「ブログ」の登場によるものだ。ある人にとっては何でもない情報でも、特定の人、例えばある商品の購入を迷っている人にとっては、黄金の輝きを放つ。こうしたブログの膨大な情報を抽出し、内容や量の推移を分析。玉石混交の山の中から、有用な宝石を見つけ出す「ブログ検索」を行うきざしカンパニーの潮社長は、ブログ情報の活用は「モノを売る武器」になると提案する。(聞き手は本誌・兼子沙弥子)

ブログの分析は世の中の移り変わりや変化の兆しを知る"ヒント"になる

いまこの瞬間に世間で関心のあることって何だ?

――そもそも御社が展開する「ブログ検索・内容の分析サービス」とは何ですか。
ブログはもちろん、SNS、クチコミ掲示板など、CGMと呼ばれる消費者が発信するコンテンツが増えてきていますよね。企業もそこで語られる消費者の「生の言葉」に非常に注目し始めています。
 しかし、そうしたCGMは日々、増え続けています。そうした膨大な情報から有用な情報を探し出すことは通常、困難です。簡単に言えば、その1つ1つの言葉を収集、解析し、有用な情報を見つけ出す作業を手助けすることが我々のビジネスと言うことになります。 
我々はまずブログから、その作業を開始し始め、さらに先に進めて、ブログの膨大な情報の中から「いまこの瞬間に世間で関心のあることって何だ?」「それはどんな感じで語られているのだろう?」ということを可視化するビジネスを展開しています。

――それはどんなビジネスになるのでしょう。
ブログに書き込まれている内容や量を分析することで、書き込まれている内容が企業のマーケティングに活用できるのではないかと考えたのがサービスを開始したのがきっかけです。ただ、マーケティングとしてだけでなく、書き込みの内容を「コンテンツ」や「データ」として活用することも有用だと考えています。
先ほども申し上げましたが、ブログを分析することで、世の中での話題の推移や、語られているトーンの移り変わりが分かります。その瞬間、何がどんな風に盛り上がったのかが分かれば、企業にとっては商品開発なり、新しいサービスにつながる何らかのヒントに、ユーザーにとってみれば、商品購入の判断基準として活用できるかもしれません。
消費者や生活者の膨大な声である書き込み情報の内包するブログを解析し、それを分かりやすい形で一覧表示することで、そうした発見も安易になると考えました。

――そうすることで利用する企業はどういった効果を得ることができるのでしょうか。
例えば、当社では価格比較サイト「価格.com」へ分析ツールを提供しています。携帯電話カテゴリーのくちコミ掲示板への書き込みを、携帯電話の機種ごとに分析しています。ある機種名と一緒に書かれているキーワードを、書かれる回数が多い「出現度」と、他の言葉よりもその機種名とセットで書かれている割合の高さの「注目度」という2軸のグラフでくちコミを一覧しています。グラフ上のキーワードはくちコミ掲示板とリンクしており、グラフ上の関連語をクリックすると実際の書き込みを閲覧できる仕組みです。「ブログもチェック」から、ブログでのくちコミのランキングを見ることも可能です。
本来、くちコミは掲示板などから発生してきました。掲示板は書かれている内容をユーザーに見せることで、どんな人が何を考えているのか参考にするコンテンツでした。ただ、膨大な量の中から、自分の役立つ書き込み情報を的確に収集するのは困難です。
特に「価格.com」のように、大規模な書き込み量がある場合、掲示板で商品がどんな風に語られているのかをランキングやグラフを用いて分かりやすく表示することで、それを見たユーザーは膨大な数の書き込みから必要な情報だけを見つけ、ショッピングに役立てることができます。

くちコミ情報獲得手段の1つ


――「価格.com」のように、自分のサイトにくちコミ情報が集まっている企業ならば、そういった活用もできるでしょう。しかし、顧客数や商品数が少なく商品レビューを活性化できない企業もあります。
EC企業がブログや掲示板などCGMを取り込む目的のひとつには、サイトの情報価値を高めるということもあるのだと思います。情報価値が高いサイトには自ずとユーザーは集まり、その結果として販売力が高まります。しかし、もちろん、くちコミの量が思うように集まらないサイトもあるでしょう。ただ、書き込み量が少ない場合であっても、自社サイト外にある膨大な数のブログのくちコミ情報を販売サイトに取り込むことも可能です。そうすれば、ユーザーにとっては商品選別参考の有効なコンテンツになり得るというわけです。

ブログを自社の販売サイトに取り込むことでサイト上の情報価値が向上

――ブログのくちコミ情報を販売サイトに取り込むとはどういうことですか。
あるECサイトが販売する商材が本であればブログで話題になった書籍を、書き込み件数順にランキング表示することで、ユーザーはトレンドを把握できます。また、ある書籍について書かれている関連キーワードを一覧することで、該当する全ブログを読まなくても「推理」や「原作」というようにジャンルなどを判別する1つの参考にもなり得るでしょう。
また、実際のブログともリンクさせることで、ユーザーは必要な情報が掲載してあるブログだけを簡単に閲覧することが可能になります。ブログを自社の販売サイトに取り込むことでサイト上の情報価値が向上し、これらを参考にするユーザーの獲得が見込めるでしょう。
書籍以外でもサプリメントなど健康食品関連のECサイトであれば、ブログで話題になっている有効成分別に、また雑貨の通販であれば「出産祝い」といったキーワード設定し、出産祝いに関連する書き込みを見ることもできます。このようにキーワード別にブログを分析することで、書き込みを簡単に把握し閲覧しやすくなります。
ギフトなどシーン別に喜ばれる商品はくちコミを参考にされやすく、コンテンツとしても面白いものになると思います。CGMを読み手側に見せるコンテンツが商品選別の1つの指標になるかもしれません。

ブログの書き込みを活用するには、網羅性よりも話題の推移や内容に踏み込んだ分析が必要。

――今後、企業のCGM活用は、またブログ検索はどのように進化していくのでしょうか。
ブログやコミュニティサイトのほか、SNSなども台頭したことで、書き込みへの信頼度が上がり、企業が書き込み内容を気にするようになりました。また、先ほど述べた通り、サイト上の情報価値が高まるとの考えから、CGMをサイトに取り込む動きが積極化し始めました。
そして、これは実感としてあることなのですが、昨年の春あたりから、広告代理店がブロガー向けに広告やキャンペーンを行い、ネット上でのくちコミを活性化する提案が積極化してきました。その後、キャンペーンに対してブロガーが発信した情報を収集し、販促効果を検証するというデータ活用へと進んできました。この流れの中で、企業はユーザーの書き込みをマーケティング活用できるという可能性が見えてきたわけです。
その結果として膨大な数のブログから必要な書き込みを簡単に抽出できる「ブログ検索」に注目が集まるようになったわけです。しかし、企業ニーズを本当に満たすにはそれでは立ち行かなくなると思っています。

――どういうことですか。
ブログのマーケティング活用の本格化、またブログ件数の増大によって、これまで求められてきたブログ検索の役目は「網羅性」でした。短時間でいかに多くのブログから該当する書き込みを抽出できるか重要視されてきたからです。ただ、ブログの書き込みはあくまでも「書き込み」で、書き手も内容も様々であり、「網羅性」だけでは求めるものを得ることはできないと思うわけです。トピックスは同じであっても時間とともに、内容や書き込みの量、喜びや悲しみなど書き込みのトーンも変化していくわけですから、そこを汲み取る必要があると思うわけです。つまり、網羅するよりも、トピックスの推移や内容に踏み込んだ書き込み内容の分析が必要だと思います。
ブログから読み取りたい企業ニーズは「情報収集」と「取り込み」にあるでしょう。我々の場合、「情報収集」については書き込まれているトピックと一緒にその中に書かれているキーワードを「関連語」として一覧させます。トピックは継続的に書き込まれていることが多いですから、過去にさかのぼってこれまで語られてきた量の推移をグラフで表示しています。グラフ上のカーソルを動かすと、指定した時に書き込まれた件数や、どんな風に語られていたのかという関連語も変化するため、量と内容のふたつの視点からトピックがどう変化したのかがわかります。
「取り込み」の部分で言うと、カテゴリー別に一覧表示する「kizasiチャンネル」を展開しています。これは「野菜」や「コスメ」など特定のジャンルに対して「kizasi.jp」同様、ランキング表示や量の推移などについて分析できます。
今後、ブログに書き込まれた情報がCGMとして広がっているのに伴って、ますますブログを書くためのインフラが整備されていくと思います。それに伴い、我々のサービスのような「読み手側にどう見せるか」というインフラ整備も進むと思います。
当社としてもさらに分析の精度を高めていく必要があると考えています。今回の刷新では「おもしろい」や「悲しかった」に紐付けたカテゴリー表示も開始しました。今後は特定ジャンルの書き込みをしたブロガーを抽出して、設定した事柄や商品、ブランドなどについての書き込みをまとめたモニタリングサービスや、販促企画の効果検証としてレポートサービスを展開していく計画です。


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