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新潮流・通販を変える〜ネットビジネスの開拓者に聞く〜

目指すはグーグルの上をいく情報提供

伊地知晋一●ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役



ライブドアのプロバイダービジネスからメディアビジネスへといち早く切り替えた。ユーザーの力を活用することが「ヤフーに追いつき、追い抜こせる」数少ないカギだという思いがあったからだ。当時はCGMという言葉さえなかったが、「ユーザーの力を借りることがネット本来の姿」――。前職での"あの事件"で遂げられなかった「ネットの本質」に近づく試みを"時代の寵児"を支え続けてきた男が場所を変え、まさにゼロスタートから今新たなビジネスを仕掛ける。(聞き手は本誌・川上健吾)

不安を解消する本当に必要な、しかも信憑性が高いこだわりを持った情報を提供

何でも自由に評価できる

――昨年12月、評価サイト「rate it(レイトイット)」を立ち上げました。狙いは何でしょうか。

我々はサイト内で価値のある情報検索という面において、グーグルに代わる仕組みを提供したいと考えています。
我々が開設した「レイトイット」はユーザーが店やサービス、様々な商品などを自由に登録し、評価し、レビューを書いたりすることでそのアイテムの価値をみんなで作り上げていく新しいタイプの「ソーシャル・レーティング・サイト」です。
要は身近なものをなんでも登録してもらい、みんなでどんどん評価する事で、知りたい評価が何でも見つかるサイトに育っていくものですね。

――これまでの評価サイトと違うポイントとは何ですか。

「家から近くの○○医院は評判が良い」とか、「今度引っ越す地域の学校が荒れていたら嫌だ」とか、そういう不安を解消する本当に必要な、しかも信憑性が高い、そういうサービスを展開したいと思っています。
これまでの評価サイトというのは、どちらかといえば、運営者が決めたカテゴリーや製品の範囲内でやっていますが、我々はユーザーに対して好き勝手に評価してくれ、というスタンスを取っています。家電製品やネットサービス、飲食物、レストラン、病院などあらゆるジャンルで、商品名やサービス名、店舗名などを自由に登録し、5段階評価とコメントを付けらます。
歯医者のほか、ワイン、塾、たばこなど、他人の評価を参考にしたいものは世の中にたくさんあるはずですが、既存の評価サイトはカバーし切れていないと思うわけです。
勝手に登評価対象を登録してもらい、ユーザー同士で評価していく仕組みとすることで今まで評価・レビューが出来なかった、またはしたかったアイテムやサービスなどこだわりを持った情報が集まってきます。
それにより今までの評価サイトにはない「近所のレストラン」、「お気に入りのヘアサロン」の特長やレビューを見ることができます。
また、ユーザーが投稿したコメントに対しても他のユーザーが二次評価でき、そうすることでコメント自体の信頼性を向上させます。
投稿された評価やコメントについて参考になった、ならないというランクがつき、そうした色々な人の1次2次評価を集めることで、その評価が信頼できるものかどうかを見極めることができるものです。
こうした評価が十分に集まった時点で、サイト内検索にキーワード広告を付けて販売する計画です。

グーグル検索の限界

グーグルの検索モデルはCGMの登場によって破綻しかかっています。ある一定のロジックに基づいて機械的に、というのがグーグルの検索モデルになっていますが、機械的にスコアを取るとCGM系の検索の方が高い評価を得ているという数字が最近出始めてきています。
これはグーグルの検索結果の信頼性が相対的に落ちてきたといえるのではないでしょうか。
要は、グーグルの検索行動は購買行動の一歩手前にある「衝動」と位置付けています。例えば、検索欄にアイテム名を入れた場合、そのアイテムに興味がないわけがないというスタンスです。
ですから、非常にそのモノに関心が強い人が、検索していますから「リスティング広告」を出すと広告効果は高いというのがグーグルのベースのビジネスモデルになっています。

一歩内側に入る

我々の考え方は、「さらにその一歩内側に入る」という点です。購買とグーグルという軸があるとすれば、その内側に入れないかということを狙っています。
アイテムの情報を取ろうとする人は、購買に対して意欲は高いと思います。しかし、「アイテムの評価を気にする人はもっと購買に近い」というのが我々の考えです。
目指すところはグーグルのさらに内側に行くビジネスを展開していくということになります。最終的には、アマゾンのリコメンド機能のような仕組みを目指します。評価の傾向からユーザーの好みの傾向を把握し、似た好みを持つユーザーをグループ化し、自社ECサイトや他のECサイトの商品に仕組みを提供していこうと思っています。

アイテム間の協調フィルタリングも可能に

――具体的には。

リコメンドエンジンの商品化を考えています。アマゾンがやっている協調フィルタリング(過去の行動を記録し、そのユーザーと似た行動を取るユーザーの嗜好情報をもとに、ユーザーの嗜好を推測するシステム)を進化させたものですね。 
「人」以外に対象をもっと加えて、「アイテム間の関連性」についても加えるというのが我々のリコメンドエンジンになります。人と人だけではなくアイテムとアイテム間でも有効にし、相関関係の強い商品を勧めるところまで踏み込んでいます。

――これでどういうことが起きるのでしょうか。

まずは、自分の趣味思考とフィットするものの、今まで気づかない、気づかなかった商品の需要を創出することができると思います。その人にぴったりとマッチした提案ができれば、たとえ1人しかこないサイトだとしても、購買頻度は違ってくるはずです。
例えば、楽天のような仮想モール運営企業が導入したとします。そうするとクロスショップのクロスセリングが成立する。この机を購入したら、このCD棚がフィットするはずだというリコメンドがあって、両方売れれば売り上げがさらに上がるわけです。
楽天は現在、ショップごとにビジネスを展開していて、ショップを横断するCGMやデータ、クロスセリングがありません。結局、単一ショップの総和が楽天のビジネスの総和になるわけですから、そこに、お互いが売り上げを高め合う仕組みがあれば相乗効果も見込めますし、もっともっと伸びると思います。
机を購入したときに欲しい椅子がなかった。同じショップの中で椅子を探したけれどもフィットする椅子がなかった。では別のショップで椅子を探すかといえば、それはものすごく不便になります。
そうなると、机を購入するのも結局止めてしまいます。こうした機会ロスを防ぎ、「この机には、この椅子とこの椅子」というアイテム間のリコメンドをすれば机も椅子も両方売れます。机だけ売れるはずだった店は椅子も売れる。
机とは全く関係のないビジネスをやっていたショップで椅子が売れるというように、売り上げが立ってくるようになります。

CGMが増えるということは1つのサイトに訪れる訪問者が減るということ

細分、拡散するユーザー

――CGMの専門家として伺いたい。CGMの行き着く先とは。

爆発的に玉石混交のページ数が増え、細分化されて分散化したページが増えていくでしょう。
それに伴い、CGMの検索サービスが高度化するのと、CGMの細分化されたページでECでも適切なプレゼンテーションを行う技術が進化するでしょう。
CGMは全体的なサイトパワーは上昇していくと思いますが、1ページあたりのメディア力自体は落ちていくと思います。その時に、より高いプレゼンテーション能力をもった企業しか生存できないような時代になると思います。

――CGMが広がることによるECへの影響とは。

ネットユーザーはポータルサイトから、ブログやSNSといったCGMに分散しています。CGMが増えるということは、一方で、1つのサイトに訪れる訪問者が減るということになります。
ですから、EC事業者は自分のサイトに来なければ、ユーザーが購買できないという状態をやめることが重要だと思います。例えば、ドロップシッピング(DS)の形をうまく利用したり、API公開などで個人のブログ経由でもユーザーが商品を買えるような、とにかく販売場所を増やすことが重要となってくると思います。ユーザーはCGMに分散しているわけですから、これを踏まえ、これまでのように、自社サイトに商品を棚に陳列しているだけのECは通用しなくなるのだと思います。
ECは昔はデパートのような存在が主流でした。しかし現在ではサイト内の様々な場所で商品を購入することができます。要は、リアル店舗と一緒なんです。
昔はデパートでしか購入できなかったから人は集まってきましたが、今はカタログやらネット通販、さらには訪販もある。東京でしたらありとあらゆる場所で色々なものが手に入りますから、デパートで購入する必要性や機会が減ってきました。
だから、居住地に近いところで購入するようになります。ネットに距離は関係ありませんが、ユーザーは今後より自分の趣味思考に合致したサイトにしか行かないようになります。そういう時に、極端ですが人が1人しか来ないけれども、そこで適切な商品を提示して、その人のニーズに合った商品を購入してもらうということが必要になるということです。我々はここに眼を付けて、新しいサービスを開始しています。グーグルやアマゾンを上回るモデルを作り出し、CGM隆盛自体に必要となる情報提供を実施していきたいと思っています。

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