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サクセスが倒産、売上200億円の影で……

――PC・家電ネット通販の独立系最大手の終焉




パソコン(PC)・家電のネット通販事業者であるサクセスが倒産した。かん口令が敷かれ、当事者から真相は明らかにされないが、事業停止の直前の動向や業界・当該企業関係者からおおまかな概況が掴めてきた。まずは倒産前夜に遡ってみる。

サクセスがおかしい

「サクセスがなんだかおかしい」――。1月31日朝、某家電ネット通販企業の幹部から連絡が入った。その内容は1月29日以降、「価格.com」から"撤退、もしくは退店させられている"のではないか、というものだった。時期を同じくして、「2ちゃんねる」のサクセス"スレッド"には警察沙汰の話題で盛り上がっていた。同社ネタが「2ちゃんねる」に登場するのは、いつものこととも言えるが、"警察"とはただことでない。それに「価格.com」に出店しているのに、掲載商品が一切ない――。
何が起こったのか。同日昼、サクセスに電話をかけたが、「(担当者は)只今、席を外しております」とのこと。「価格.com」の件は、経営戦略の変更なのか。確かに、サクセスは最近、無茶な激安サイトのイメージから脱皮しようと取り組んでいた。そうこうしていると「(サクセスが)シャッターを下ろし、人だかりができている」というネットニュースが流れる。頭に浮かぶのはやっぱり"倒産"の2文字――。

現場へ直行。本社建物内で待つ

時刻は1月31日19時台。サクセス本社入り口には、1月最終日(31日)になっても入金がされていない取引先や、ネットニュースやテレビなどのマスコミ関係者、計10数人が集まっていた。
債権者の中には、運送事業者の姿もあり、月に1000万円規模の取引があった模様だ。秋葉原に本社を構えるPC開発・製造会社の社員は「うちは掛売りだった。今月の入金がまだないもので(ここにやってきた)」と語った。
サクセスからは何も発表がないまま、時間は過ぎ、20時半を回った。すると突如、栗田勝元社長を含むサクセス役員(杉浦敏雄社長の姿はなし)らが揃って社に戻ってきた。
そして次のことが正式に発表された。
@明日(2月1日)に自己破産宣告を申請するA破産管財人は大久保孝裕弁護士B債権者には明日、FAXでその旨を知らせる――。そしてその場に不在の杉浦社長は大阪へ資金援助を求めに行ったがまとまらず、そのため入金が行えなかったという内容が説明されたという。
翌2月1日、サクセス(本社・東京都千代田区)は予告通り自己破産申請をし、倒産した。

業界の有名人"サクセス"

サクセス倒産のニュースは業界内外、一般消費者も含めて大きな話題となった。その1つには、PC・家電ネット通販の独立系では同社が最大手だったからだ。弊社12月取材では2006年10月期の売上高は195億円。2月20日に上場したストリームでさえ、2007年1月期の売上見込みは193億7000万円だった。そのため、PC・家電業界だけに限らず、「ネット通販ベンチャーの勝ち組」とさえ認識されていた。
もう一方の理由は、売り上げ急増の裏にある、販売手法に疑問の声が多かったからだ。「売り上げを立てたもの勝ち」という姿勢が見え隠れする同社の体質に、「2ちゃんねる」は早くから反応し、「価格.com」など価格比較サイトに出店している同業他社にとっては、価格が引きずられるため、"目の上のたんこぶ"――といった相手だった。

倒産の前兆

実は倒産の前兆は06年の秋冬から、業界内では見受けられていた。ある卸業者が、掛け売りを止めて現金取引のみに切り替えたとか、取引先への支払い遅延が生じている――など、サクセスの財務面に心配な点が見つかって「メーカーがひいている」(サクセス競合他社)状態だった。
また、もっと長期的なスパンで振り返ってみても、先の「売り上げ至上主義」の販売手法から、十分に"危なっかしかった"といえる。

超"イケイケ"の社内体質

サクセスの成長は「価格.com」を運営するカカクコムの存在なしにはあり得ない。サクセスは通販事業を本格化させるに当たって、カカクコムと"価格比較サイトを用いた新しいネット通販ビジネスモデル"でお互いの成功を目指していた。
当時は、PCパーツの秋葉原専門店として、店販をメーンに事業展開していたが、さっぱり売れず行き詰まった。そこで、ネット通販に着目。その際、家電量販店出身の杉浦社長や栗田氏がとにかく追求したのが、「安い」というイメージだった。
家電でもドラッグストアでも、成功している量販店は「安い」イメージが必須条件になる。そうすれば消費者は特売商品と一緒に、実は他店よりも高いものでも購入してくれるものだからだ。そのため、「価格.com」ではすべてのジャンルで最安値1位を狙った。
2005年7月当時、本誌に対して栗田氏は「まず、安いというイメージを植えつけること。買いやすい売り場であるとかは全然考えてなかった。まずは安さで集客」と話している。
事実、当時のサクセスはノートPCの"1円セール"や、仕入れ値を無視した利益度外視の販売価格がまかりとおっていた。また、価格を下げてから、卸元と仕入れ値の交渉をし直す、ということも常態化していた。
その当時の利益について「赤字にはしていなかった。なんとかしていた」(同)としているが、その手法も、手荒い。具体的には、買い物かごに本人がいれた商品以外の、関連商材もが勝手にカートに入っているというもの。これによって利益率は随分上がったとするが、ネット掲示板の書き込みには「二度と使いたくない」、「むかつく」といった声があった。
そして、赤字ではなく利益が出ていたとする勘定は、実際には怪しい。というもの、06年春。上場に向けて、外部の監査法人が入り、不良在庫と思われる在庫、数億円分が発覚。一転して債務超過に陥ったのだ。
在庫発覚の件については後で詳しく触れるとして――ともかく、2006年のその時期を迎えるまで、サクセスという会社は社長自ら、"イケイケ"体質を率いていた。また、その背景には栗田氏自身が不良在庫の存在を知らなかったことが分かっている。

債務超過発覚から倒産まで

サクセスは負債30億円弱で倒産したとされている。その直接の原因は2つあるようだ。
1つは外部の監査法人によって発覚した不良在庫。これについて、民間調査会社によると、杉浦社長は「管理システムの不備によるもの」と説明しているとしている。しかし、経営者が不良在庫の存在を管理体制のせいにするのは、言い逃れとしか思えない。
もう1つは、在庫発覚により債務超過が判明した後のことだ。当然、サクセスは民事再生や自主再建の道を模索した。そして、業界関係筋によれば、スポンサーには量販店が名乗り出たほか、多数の候補者がいた。また、サクセスが最大規模の取引先であるダイワボウ情報システムなど、資金援助の話もまとまっていた。
ダイワボウ情報システムは援助額について「弊社の株主らと話し合った結果、出来るだけの支援をした」と語っている。そしてサクセス関係者によれば「その額は足りていた」とも。
また、サクセスには現金もあったようだ。しかし、事の真相はわからないが、"ある理由"で引き落とせない状況にあったらしい。そのため、再建の道が見えていながらも、あえなく倒産してしまったようなのだ。

顧客満足の向上、利益重視へも

売り上げ至上主義で、配送の遅さや梱包の粗雑さには、悪評が絶えなかった同社だが、05〜06年は顧客満足の向上や利益重視への取り組みも始まっていた。
05年秋、品川区勝島に物流倉庫を構え、商品の24時間発送を試みていた。ECサイトは安さとユーザビリティーを兼ね備えたものを目指し、トップデザイナー・佐藤可士和氏のデザインのもと、06年夏に全面刷新した。薄利なビジネスのため、経費削減にも努め、定期代見直しやIP電話活用などかなり細かいことを実施して月1500万円の削減も行った。また、サイトで販売しているメーカーから、一種の広告ビジネスも始めていた。

真相は6月4日に?!

ずさんな管理体制はどうして放置されたのか、本当にスポンサーや現金は足りていたのか。第1回目の債権者説明会は6月4日。そこで明らかになる真相は如何に。
サクセスのECサイトは月間400万人の利用があった。価格志向の顧客は、今後も「価格.com」を利用し、同業他社へと流れるのか。または、安心感を最優先し、アマゾンやヨドバシカメラなど大手流通の一極集中がより高まるのか。一方、独立系PC・家電ネット通販事業者は、取引先からの信用評価に風評被害は出ていないのか。サクセス倒産が与える意味は、その真相如何で、変わっていく――。
【編集部・小西智恵子】
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