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新潮流・通販を変える〜ネットビジネスの開拓者に聞く〜

ECサイトは「ウィキ」を目指せ

塚田耕司●フィードフォース代表取締役社長



 個人メディアの台頭はネットユーザーの購買行動に変化を与え始めた。"企業からの情報"よりも"友人、知人からのくちコミ"。信頼のおける「くちコミ」に導かれたユーザーは購入意欲が高く、EC事業者にとっては垂涎の存在とも言える。こうした購買傾向はより加速することは確実。EC事業者にとってはその対策が生き残りの絶対条件となる。「くちコミ」の第一人者でRSS関連事業のフィードフォースの塚田氏は企業サイトの「理想形は"ウィキ"になること」だと断言する。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

くちコミ情報から誘導された
ユーザーは優良な見込み客


「検索」から「共有」へ

――ブログなど個人メディアの台頭でWEB上のショッピング行動に変化が起こり始めていると言われます。なぜでしょうか。

そうですね。近年、eコマースにおける消費行動のプロセスとして「AISAS理論」ということが言われています。Attention (注意)→ Interest (関心)→ Search (検索) →Action (行動、購入)→ Share (共有) ですね。
これまでモノが売れてたり、トラフィックを集めるのに重要だった要因は「Search」、つまり検索だったと思うんですよ。ユーザーがテレビ等で何かに興味を持って、例えば何かの健康食品をWEBで調べるために検索し、発見したECサイトで購入すると言う流れがほとんどでした。だから多くのEC事業者はリスティング広告やSEOなどの検索対策に資金を投入してきました。
ただ、現在、「WEB2.0系メディア」のブログやSNSが登場したことで「Share」、つまり情報の共有がすごくしやすい環境が生まれてきました。その結果、どういうことになったかというと、「あの人が薦めていたからいいんだよね」という共有情報で購入を決めるユーザーが増え始めてきました。ですからEC事業者は「Share」→「Action」の流れを強化する対策を採る必要が出てくると思います。

――とは言え、検索経由のトラフィックも現状高いはずです。EC事業者はそうした対策をすぐに採らなくてはならないのでしょうか。

もちろん、「Share」からの購入の数はまだそれほど多くはありません。ただ、これから、どんどん増えてくるようになっていくはずです。また、ここにきて「Share」から顕著に商品が売れたり、また良質なトラフィックが呼べたりというのが現実的なりつつあります。

――良質なトラフィックとは。

検索広告がなぜ注目され、各社がその対策にお金を使うようになったのか。それは検索のキーワードで何に興味を持っているのかユーザー促成がすでにその時点で絞り込まれているからです。それはEC事業者からすると、優良な見込み客だということになるからですよね。
「○○さんが評価していた」というくちコミ情報を見て、誘導されたユーザーも、セグメントされているわけですから同じことが言え、このトラフィックもかなり良質なものであるということが言えるんですね。
以前ならバナー広告やメルマガ、ポイントサイトなどから、大量にトラフィックを呼び込むという形が主流でした。ただ、そこ経由のトラフィックは数の割には効果があまりないということがEC事業者の間で認識されつつあります。それで「検索」に以降したかで、またここでも刈り取りつくした。このような状況もこうしたSMO、つまり「ソーシャルメディアの最適化」に各社が興味を持ち始めた要因なのかも知れません。

――SMOとは具体的に何をすればいいのでしょうか。

大きくは2つあります。まず、「よいコンテンツ」ですね。個人メディアの運営者が「誰かに紹介したい」とか、「一言いいたい」など、何かしら絡みたいコンテンツがあって、初めて「くちコミ」が発生します。ですから、重要なのはコンテンツなんですね。それが満たされた前提で、次に重要なのが技術的な仕組みで、例えばRSSを出すこと。情報感度の高いユーザーは、RSSを使って情報を取得しているケースは多いですから。RSSの配信は「くちコミ」の最初の1次インフルエンサーになる人に目をとめてもらえるための工夫です。
あとはソーシャルブックマークのボタンをサイト上につけたりなどですね。ユーザーが気になるサイトや記事を取り上げる際に、面倒な作業を極力省く仕組みを整えることが必要となってきます。

3つのトラフィック源

――確かに近年、ブログなどを活用した販促を行う企業サイトが増えてきています。ただ、具体的にどういった効果があるのか、見えにくいところです。

例えば、企業が販促用に企業ブログを構築した場合、プロフィットは大きく3つあります。1つは当該ブログが配信しているRSSを購読している人を連れてくる「囲い込み」。2つ目はある人が自分のブログに当該ブログでの掲載商品を「こんな面白いものみつけたよ」と紹介したり、ソーシャルブックマーク(ネットワーク上に「お気に入り」を保存し、他のユーザーと共有するサービス)にブックマークするパターンです。そこから別のユーザーがリンクを辿ってくるという「新規顧客獲得」ですね。3つ目はこうしたリンクが張られることで、サーチエンジンで上位表示される「SEO効果」です。簡単に言えば、ブログを活用することでこの3つのトラフィック源をEC企業は得ることができます。さらに企業ブログの中で書く記事によっては特定の層に限定してのアプローチも可能になるかも知れません。

――どういうことですか。

自分の業界関連のコラムをブログで連載している会社が結構、増えています。当社でもRSS関連の記事をブログで連載しているのですが、ある時、「プレステ3」が発売する前に、たまたま「プレステ3もRSSリーダー機能があるのかな?」というような記事を書いたら、ゲームの新着情報を書いているブログに"拾われて"、そこから今まで、アクセスが全くなかった「ゲーマー」がなだれ込んできたんですね(笑)。

――「この層へのアプローチにはこういう内容の記事をかけばいい」という前提を理解して、記事をかいている企業が増えている?

まだ、そこまではいませんね。当社でも、それぞれどれがどの位の割合でトラフィックがあるのか。また誰のブログから、どの位のトラフィックが出ているのか。他のユーザーの誘導元になっている、いわゆるインフルエンサーは誰なのかなどが分かるブログの効果測定サービスを提供しています。同サービスは昨年秋くらいから開始しましたが、ようやく引き合いが増え始めたところですね。ですから進んでいる企業でも今はログを見て、試行錯誤しながらという段階だと思います。ただ、今後はそうした企業が出てくるかも知れません。

結びつかない商品と評価を
繋ぎ合わせる「のりしろ」


EC転用には「うんちく」が必要

――ただ、物販企業がブログを使った販促は難しくありませんか。

確かにそういう部分もあるかも知れませんね。食品とかはやりやすいのかも知れませんが、商品と感想がダイレクトに結びつかないものもあると思います。ですから、その間の「のりしろ」をコンテンツ、例えば、「商品のうんちく」を作ってあげる必要があると思います。商品そのものに評価がつきにくくても、そのうんちくに対してであれば、「俺はこう思う」とか「私はこう思わない」という評価がつきやすいわけです。
また、うんちくを介して、商品と評価がつながっている形はきれいですよね。これが商品と感想が直接になってしまうと、ものによってはちょっといやらしく感じてしまうユーザーもいると思います。「のりしろ」を作り、絡みやすいネタを投入することで、いやらしくなく物販においても、販促に活用できるはずです。

――コミュニティは「共有」するわけで、悪い情報や荒らしみたいなことも起り得ます。コミュニティのリスクヘッジの考え方とは。

一番重要なのはコントロールしようとしないことです。そもそもコントロールなんてできないんです。それをやろうとすると「炎上」してしまいます。まずい情報を隠そうとしたり、削除したり、いわゆるやらせですよね。お金を渡して、いい記事を買いてもらうことにはユーザーはすごく敏感で、嫌がります。そういうことは一切やめて「『素材』は渡しますので、自由に料理してください」として、向こうに主導権を任せるというスタンスが結果として上手く働くと思います。これが実はSMOの中で一番、難しいことです。今までのマーケティングとか、プロモーションの考え方とはまるっきり逆ですから、企業側には違和感があるんでしょうね。

理想形はウィキペディア

――現状、最もSMO対策をきちんとできているサイトはどこですか。

企業サイトではありませんが、ウィキペディア(ネット上の誰もが自由に書き込める百科辞典)ですね。ウィキペディアはいろいろな事柄について、様々な言語で解説や意味を掲載し、それを開放しています。例えば「RSS」の意味を誰かに教えてあげる際には、ウィキペディアのRSSのURLをWEB上に掲載すれば、詳しく載っていますから、それで事足りるわけです。
ですから、そうした使われ方が増えています。そうすると、おのずといろいろな人に紹介されていきます。その結果、ある調査によると、現在、ウィキペディアは世界で5番目に見られているサイトになったそうです。何の宣伝活動もプロモーションもせずに、「みんなが便利だ」と思うコンテンツを作って乗せただけで、膨大なトラフィックを集めるようになりました。
これはある意味、SMOの理想形だなと思うんです。EC企業もこれを参考に、例えば「お役立ち情報」のような、直接、セールスには結びつかないけれど、みんなが見て、便利だなと思うような情報はどんどん公開していけばいいと思います。自分の会社、自分のサイトだったら、それが何なのかを考え、どんどん発信していくことが必要です。

――EC企業でいうとどういうものになりますか。

EC企業だったら、商品にまつわる情報で考えれば、いろいろとあると思うんですよね。価格、レビュー、安全に関する情報とか、先ほどの「うんちく」とか、商品を作っている人の「想い」のようなものが様々あって、それを全部、ユーザーがリンクできるような形で公開されていれば、それだけでもトラフィックは増えると思うんですよ。いまは価格ばかりが目立っていますが、商品の購入基準はそればかりではありませんので。
こうしたことをやっている企業は「SMO」と言われるまでもなく、もうずっと昔から、そうしたことを実施しています。今後、WEBの世界では「共有」がもっと進んでいくでしょう。それはもう間違いないですね。だからこそ、企業はこの辺の対策が甘いところはきちんと、すでに実施しているところはより緻密に早急に考えなければならない時期に来ています。

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