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「楽天市場」、海外へと触手?

――問われる日本最大の仮想モールの底力



 楽天(本社・東京都港区、三木谷浩史会長兼社長)が仮想モール事業「楽天市場」で海外展開を開始するようだ。具体的な日程は決まっていないとしているものの、年内にも中国に現地事務所を開設し、中国語サイトを新設。中国版楽天市場を開始させたい意向。また、中国だけでなく、米国、欧州でも同様に現地向け仮想モールを新設し、事業展開に踏み切りたい考え。
日本国内での競合他社との厳しい競争および将来にわたっての成長持続のため、海外展開に踏み出し始めると見られる日本最大の仮想ショッピングモール。ただ、日本で圧倒的な力を持ち得た所以は、もちろん楽天サイドの優れた仕組みや営業努力もあるだろうが、やはり"先行者メリット"という要素も大きい。日本以上に競合犇めく海外でも楽天は競争に勝ち抜くことができるのか。

まずは中国で
 
楽天は年内中の中国国内での仮想モール事業開始をにらみ、中国に現地事務所を新設。物流インフラの調査や調整、また現地向けの技術を開発し、中国語サイトを設けるようだ。その上で配送インフラ等が比較的整備されている上海や北京といった大都市に絞り、「中国版楽天市場」を展開したい意向だ。
また、「今年は準備、(本格的に動き出すのは)来期以降になると思う」(広報)と具体的な時期は明言していないものの、欧州や米国でも同様に、現地言語での「楽天市場」を新設する考え。
 現地で基盤を持つパートナー企業と共同展開する可能性なども視野に入れていると見られ、海外で行う仮想モールの形態や出店料金などについては「検討中」(広報)としている。日本でのモール事業と同様にEC実施企業にモール出店を募り、全体を形成するかどうかも今後、詰めるとしている。

成功の要素に先行者メリット

 楽天会員の数は2300万人を突破。また、安価な新出店プランなども奏功し、店舗数は1万8000店舗に迫るまさに日本の仮想モールの最大手と言える。また、仮想モール事業だけでなく、ポータルや旅行、証券、金融事業などにも手を広げるIT企業の雄だ。ただ、日本での成功を引っ提げ、蓄積したノウハウを駆使し、海外でも成功を収められるのかというとそれは別の話かも知れない。
 楽天が日本で成功できた大きなポイントはまだ黎明期にあったEC市場で他社よりも先駆けて、仮想モール事業を開始した先行者メリットが大きいからだ。これにより、先進的なネットユーザー(エンドユーザー、事業者を含む)を抑えた。先進ユーザーはECにも意欲が旺盛だ。こうした先進ユーザーをしっかりと抱え込み、「楽天市場」の拡大に成功。先進ユーザーはECだけでなく、ネットのあらゆるサービスに意欲が旺盛であり、楽天の今日の多角ビジネスを支えてきた面もある。

ゼロスタートで勝算は?

では、海外ではどうなのか。まず、日本での強みとなっていた「先進ユーザー」はそこにはいない。逆に現地の競合がこうしたユーザーをがっちりと抑えている。また、ショッピングモールである以上、魅力的な商品の品ぞろえ、もっと言えば、それらを持つ有望なECサイトを出店者として抑える必要がある。これについても、厳しい見方をしなければならない。
もちろん、日本でも初めは中小事業者を口説き、徐々に出店者を拡大、力をつけてきた事実もある。ただ、これは場所が日本であり、ネット通販を志す事業者にとって他に選択肢が少なく、「出店料5万円」でECができるというEC黎明期だったからこそ、通用した技だ。日本よりもECが成熟した市場においてはこの成功の方程式は通用しまい。
そうなると現地の有力EC企業への出店が必要となる訳だが、普通に考えて、相当なメリット(圧倒的な集客力や優良顧客を抱え込んでいるなど)がない限り、中国は別に考えても、欧米企業が馴染みのない日本企業のプラットフォームに乗ってくるだろうか。むしろ、日本では「モール運営者」「EC事業者」として直接的な競合関係とはなっていなかったはずの巨大ECサイト、例えばアマゾンなどとのガチンコ勝負も待ち構えているはずだ。楽天に大型買収など、よほどの隠し玉がない限り、楽天の海外展開は困難な道のりにも見える。某テレビ局の買収騒ぎで金銭的な余裕があるようにも見えないのだが、とにかく様々な意味で期待したい。

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