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仮想モール運営業者に独禁法違反の可能性―

― 公正取引委員会が調査報告



 公正取引委員会は昨年12月27日、「電子商店街等の消費者向けeコマースにおける取引実態に関する調査報告書」を公表した。仮想モールにおける運営事業者と出店事業者の取引関係の実態を明らかにすることを目的としたもので、楽天、ヤフー、DeNAを中心に調査。「優越的地位の濫用」や「拘束条件付取引」など、独占禁止法に抵触する恐れがある取引の存在を指摘している。ネット通販の新規参入業者などを取り込む形で、急成長を続ける仮想モール運営業者。その中でも、出店事業者数や売上高規模などで楽天が突出した形となっている。今回の調査で挙がっている具体事例は、楽天の取引内容と合致するものが多く、これは関係者の間で以前から指摘されていたものでもある。このため関係者からは、公取委の調査について、楽天をけん制したものではないかとの憶測も浮上。改めて問題を投げ掛ける形となっている。

上位3社で市場の9割を占有

同調査によると、2005年度の消費者向けEC市場は前年比39%増の1兆3210億円で、このうち仮想モール市場が同57.1%増の5500億円(取引高ベース)。消費者向けECにおける占有率は41.6%で、前の年と比較して4.8ポイント上昇している。
05年度における3社の仮想モール出店事業者数は、「楽天市場」が前年比3845店贈の1万5157店、「Yahoo!ショッピング」が同6147店増の9445店、DeNAの「クラブビッターズ」が同385店増の2311店と、何れもハイペースの増加。これは、消費者向けネット通販に新規参入する事業者が足掛かりとして、集客力の高い仮想モールに出店する傾向の表れとも言えるものだが、特徴的なのは、楽天、ヤフー、DeNAの上位3社で市場の9割以上を占めるという点だ。
特に、楽天の取引高が3648億円と突出しており、ヤフーの1260億円のおよそ3倍、DeNAの250億円と比較すると約15倍の開きがある。出店料収入等の売上高でも、楽天が同70.6%増の408億8100万円、ヤフーが同50.7%増の159億6200万円、DeNAが同54.8%増の10億3100万円と、楽天の"独り勝ち"という状況だ。

仮想モールの依存度高い出店業者

早期に事業を軌道に乗せたいネット通販参入事業者としては、集客力や知名度のある仮想モールへの出店を望む傾向が強い。これが上位運営事業者に出店事業者が集中する要因にもなっている。
一方、出店事業者は、中小規模のところが多く、資本力やシステム面、ECに関するノウハウなどの問題から、自ずと仮想モールへの依存度が高くなる。
出店事業者に対するアンケート調査(62社)では、およそ半数に当たる29社がネット専業で、46社(74.2%)が仮想モール及び自社サイトでネット通販を行っているとし、仮想モールのみでの展開も16社(25.8%)あった。
また、仮想モールでの売上高構成比が40%以上と回答した出店事業者が51社で全体の82.3%を占め、うち6社は100%仮想モールでの取引と回答。こうした状況からも、出店事業者にとって、仮想モールの存在は大きいことが窺える。

"運営事業者が強い立場"の見方強く
 
運営事業者変更の可能性についても調査を行っているが、自社サイトを持たない出店業者や取引の依存度が高い出店業者を中心に、運営事業者の変更は困難とする回答が多かった。
 これと同時に、運営事業者との取引上の立場について尋ねたところ、出店事業者の70%超が運営事業者の方が「圧倒的に強い立場にある」(43.3%)、「どちらかというと強い立場にある」(28.9%)と回答。理由として、「運営事業者が出店条件を一方的に変更できるから」「顧客情報が運営事業者に帰属するから」「運営事業者のシステムに依存しなければならないから」などを挙げている。
また、出店規約の内容に関しても、およそ半数が「非常に不満だった」「多少不満はあった」と回答。仮想モールの集客力に魅力を感じながらも、何らかの不満を抱えている出店事業者や退店するできない出店事業者が少なくないことを浮き彫りにした格好だ。
優越的地位濫用の可能性など指摘
 公取委によると、「一般論として、仮想モールのなかで独禁法上問題となるような取引を懸念する声は、以前から上がっていた」(取引調査室)という。これは、今回の調査を行うに至った背景でもあるが、実際に独禁法上問題となる事例が幾つか浮上した。
 報告書では、「優越的地位の濫用」に当たる可能性がある取引として、まず、運営事業者側が一方的に手数料を変更できる出店規約で、出店事業者に不利益な設定をする場合を指摘。出店事業者がポイント原資を負担するケースで、実際に使用されていないポイント分まで負担させている場合や、運営事業者が自社のカード決済システムの利用を義務付け、カード会社と直接加盟店契約を結ぶよりも高率の手数料を設定するなど、出店事業者に不当な不利益を課す場合も「優越的地位の濫用」に当たる可能性があるとしている。
また、公取委が調査の中で大きく取り上げているのは、運営事業者の出店事業者に対する顧客情報の利用制限の問題。同調査では、個人情報保護に必要な制限でないにも関わらず、出店事業者が退店後に顧客情報を全く利用できない形にしているケースを挙げ、「拘束条件付取引」に当たる可能性があるとしている。
販促メールやDMの展開によるリピーターの獲得など、出店事業者にとって顧客情報は、営業活動に不可欠なもの。顧客情報を使えなくなれば、ゼロから顧客情報を収集しなければならない。
つまり、出店事業者側からすると、退店後に顧客情報が全く使えなくなるという条件が"縛り"となり、仮想モールを"出たくても、出られない"状況になることが予想される訳だ。この点について、公取委は、出店事業者の自由な他の仮想モールへの転出の妨げとなり、結果として、運営事業者間の競争を阻害する恐れがあると見ている。
調査では、退店後の顧客情報の利用制限について、「個人情報保護法」の観点からも考察。予め本人(顧客)の同意を得た上で、個人情報取扱事業者(運営事業者)と第三者(出店事業者)が契約中(出店中)に取得した個人情報(顧客情報)について、個人情報取扱事業者の定める利用目的と第三者の利用目的が全く同じであれば、契約終了後(退店後)も契約中と同様に個人情報(顧客情報)を利用しても問題はないとの見方だ。

報告書指摘の問題点、楽天をけん制?
 
公取委の調査は、仮想モール上位3社を中心にまとめたものだが、関係者の間では、"楽天をけん制する狙いがあるのではないか"という見方も浮上している。退店後の顧客情報の取り扱いなど、かねてから疑問視されていた内容が挙げられているためだ。
実際、ヤフー及びDeNAでは、報告書で指摘されている問題について、「当社に該当する部分はなく、調査に基見づいた直しを行うこともない」(ヤフー広報)、「当社に該当する点はない」(DeNA広報)としており、「特定の一社ということでは難しいため、(上位三社を例に挙げ)業界全体の調査という形にしたのではないか」(ヤフー広報)といった声も上がっている。
一方、楽天では「一般的な実態調査で、公取委からは、業務を運営する上で独禁法に抵触するとは聞いておらず、すぐに見直しを行うという予定はない。今後も法律を順守した事業を行っていく」(広報)とコメント。他の2社と比較してニュアンスは微妙に異なる。
 公取委では、今回の調査について「あくまでも実態調査で、措置を前提したものではない」(同)とし、特定の運営事業者を意識したものでもないとする。
 楽天"独り勝ち"の様相を呈する仮想モール市場。この背景には、楽天が打ち出してきた戦略の妙があり、ネット通販に参入したい中小事業者などのニーズに応えてきたという実績の表れでもある。ただ、仮に出店条件等で出店事業者を過度に"がんじがらめ"にするような状況を招いているとすれば、逆に出店事業者のモチベーションを低下させることにもなりかねない。出店事業者がベースにあることを考えれば、これは看過できない課題だろう。
 公取委では今後、仮想モールの動向に注視していく構えを見せている。依然、業容の拡大を続ける楽天だが、出店事業者の声に耳を傾け、対応を検討する時期に差し掛かったのかも知れない。
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