2007.2 無料公開記事      ▲TOP PAGE

新潮流・通販を変える〜ネットビジネスの開拓者に聞く〜

ファッション≠ノネットの風を吹き込む

寺田和正●サマンサタバサジャパンリミテッド社長



 若い女性層から強い支持を得ているバッグやジュエリーブランド「サマンサタバサ」。展開するサマンサタバサジャパンリミテッドは、一昨年に携帯電話サイトを開設して独自ブランドを展開。立ち上げ直後から支持を得ているようだ。そして昨年2月、ネット子会社設立と仮想モール「WWCITY&COMMUNICATIONS」の立ち上げを発表。伊勢丹やルミネ、パルコ、アパレルブランドなどをテナントとしてそろえ、同12月に本格稼働した。さかのぼって11月にはスタイライフと資本業務提携を発表。モールのEC部分の補強を行った。異業種の同社がネット事業を通して目指すのは、ネットショッピングのレジャー化だ。(聞き手は本誌・峯木多恵子)

ネットを、「便利」からレジャーへ
変える潮流を作る


「便利、安い」から対峙してしまう

――御社がネット事業に着手した理由から教えてください。
 

時代の流れがネットであるということです。ネットとテレビ、ネットと雑誌とか、ネットとリアルは融合できないという考え方がずっとあると思います。われわれ店舗というリアルなものを展開してきた側から見ると、なかなか融合できないという思いがあるんです。今は、やはり「ネット=いかに便利に、安く」というツールの段階。本当は同じバリューなのにネットだと価格は安い――。だから対峙してしまうのです。
ですから、市場にネットビジネスが増えてきても、ずっと違和感がありました。われわれが行うファッションは付加価値ビジネスですけれど、作ってきたその付加価値が、ネットで安く売られたり、二次販売されることで毀損されてしまうからです。
商品の価値を下げないために、売れ残った商品は廃棄するほど、商品の価値を守るためには繊細な配慮をしているのです。けれども、それがネットでは二次販売、三次販売が出てきてしまう。これまではネットに活用される側≠セったのです。

――メリットよりも、デメリットが強すぎた。 

しかし、PC、そしてモバイルも入ってきました。モバイルの中で、一番進化しているのは音楽ですよね。その音楽ってレジャーですけれど、世の中の最大のレジャーはファッションだと思うんです。
街を歩いてみてもらえれば分かりますが、丸の内を歩いてもレジャーは何もない。でも、必ず表参道や渋谷には必ずショッピングというレジャーがあります。
 そこで、モバイルを中心に音楽がレジャー化している中、われわれはネットが、便利からレジャーに変わっていく潮流作りに取り組んでいるのです。つまり、音楽が皮切りにネットがレジャーになって、ショッピングもレジャーになっていくだろうと見ているわけです。
今までの「ネット=簡単、便利」の時代は、われわれがネットの世界に入る必要はありませんでした。けれども、5年後、10年後にレジャーとして価値が出来上がってきたときには、取り組まなければならない。今後そうなるという風≠感じてきているので、それならば早めに、一歩先にやろうと考えました。
確かに10年くらい前からネットの潮流は感じていたけれども、「やるもんか」「ネットはやらないぞ」と思っていました。けれど3年くらい前からやろうと思うようになりました。

――PCで展開する前に、なぜ、携帯電話から着手したのでしょうか。
 
時代の流れは、やはりモバイルでしょう。女性が使うものはPCより携帯電話。みんな携帯電話で済まそうとするから。
それに、周囲は、「サマンサが携帯電話でビジネスをやる」とは思っていないわけです。そう言われる中で、面白い取り組みをやるということでお客様に喜んでいただけるのかなと思っています。

――では、携帯電話でどんな展開を考えていましたか?

05年10月に、モバイル公式サイトと、モバイル専用ブランド「STNY(エステニー)by Samantha Thavasa」を立ち上げました。
それが多いときで月間数千万円売れました。商品は財布や小物、すべて、サイトのみで購入できるオリジナルです。
最初に懸念していたのは、お店に来られない方だけが購入するのではないかということ。しかし、結果は購入者の80%がショップのある地区のお客様でした。つまり、「モバイルのみで買える」という付加価値があれば、ネットが、便利とか安いという切り口から変わっていくということなのです。

訳分からない付加価値を持たせる

――先ほどの売上高の感触は? 

「予想よりも良いな」と思うのと同時に、ネットの時代の流れはあるけれども、まだまだこれからだなあと感じましたよ。私が言う風≠ヘ必ず吹いているし、流れているけれども、女性を中心としてネットで物を買うという行為の浸透にはまだ時間がかかりそうですね。
 しかし、大事なのは価値を作っていくこと。今の便利、早い、安い――という文化だけでなく、付加価値をプラスしたいんです。

――どのようなイメージでしょう?
 
付加価値って訳分からないものじゃないですか。何でこれが1万円なの?と。その商品が新宿の店舗で、1万円で売られている事実があるから1万円なわけで、それが他の店で8,000円だったので安い、買おうと思う。「何で1万円か」という議論は、なかなか難しいんです。
でもわれわれは、いかに付加価値を感じていただけるかをいつも議論している。適正価格とか販売員の教育、場所や宣伝とか、いつも腐心しています。
リアルからネットは、まだ成功例がありません。さらには、ネットからリアルの成功者もいない。ですから、ネットというものをツールやメディアとして捉えて、ネットでブランディングをしたり、ネットで告知して店舗に来ていただけるようにしたいと思っています。

――携帯電話サイト後に立ち上げ「WWCITY」がモール形式なのはなぜでしょうか。
 
目指しているのはメディアだからです。メディアとして、どう作り上げ、多くのお客様にご愛用いただけるか、サービスをどう広めていくかを追求しています。

――モール立ち上げまで、店舗やブランドを口説くのに苦労されたと聞きますが。
 
いや、そんなことないですよ。証券とか保険とか、多く、お声掛けいただいています。今はまだ、100%出来上がっていなくて、よちよちですけれど、ブランドの付加価値を毀損せず、売り上げも取れるというきちんとしたブランドサイトが求められていると思います。
去年は結構騒がしてしまいましたけれど、われわれがネット事業に入ったことで、少しは新しい風を入れられたかなと思います。ネットを使ってもっと価値を高めていかなければと。と私は思いますけれど、どうでしょう。

――昨年末、ユナイテッドアローズが自社通販サイトを立ち上げるなど新たな動きはありましたね。

いろんなところが入ってくることは刺激になっていると思います。ネット業界が、われわれが作り上げてきた価値を利用するのではなくて、自ら価値を作り上げていくような流れになってくれば、われわれはいらないんですよね。究極論ですけれど。
 相互に認め合い、高め合っていくのがビジネスではないでしょうか。テナントや雑誌に「このブランドが入っていますよ」というのはブランドの利用だと思いますよ。
例えば、「サマンサ」があるテナントに出店するとして、そのテナントに「サマンサ」が入ることによってテナントにメリットがあるからと考えているのであって、出店したら当社が儲かるということだけではありません。
雑誌でも同じ。連載をお願いするときは、連載によって雑誌が売れればいいし、雑誌の販売数が伸びなければ意味がないと思っています。

――では、そうするためにモールで力を入れている点は?
 
今はまだ立ち上がったばかりで、やりたいことの5%くらいしかできていません。「今日も『WW』を見てみようかな」と思っていただけるようなサイトにはできていない。需要を取り込みなら、かつ、新たに喚起していきたいと思います。

互いの高め合いが必要、
ブランドの利用だけではだめ

――メディアとして展開していくに当たって、EC以外に考えている収入源は?
 
あとは金融でしょうか。しかし、まだ始めたばかりで、全部これからです。ECはまだ潮目。受け入れるファッション業界側もまだその態勢が整っていません。
ただし、痛烈に感じるのは、違う業種でも50年もやっていれば、ある程度同じように見えてくるということです。金融業や飲食業、ファッション業、それぞれ歴史は違いますが、歴史があるところは同じ価値基準でモノが話せると思います。「こうやったらだめ」「こうやったらこうなるよね」と。けれども、ネットはまだ文化ができていなくて、歴史がないから、会話がつながらないような気がします。
例えば、われわれリアルの業界では、開店日が1日でも過ぎたらそれはデッド=B言い訳はたくさんできますが、もう終わりです。業界の中で通用しなくなります。「あそこは期限を守らない」「いい加減だ」と。でもECサイトだったら、オープンが1日遅れても成熟していない分、理由があれば許される世界だと思うんですよ。叱ってくれる人がいないからです。でも時間とともに変わっていくと思いますよ。

――変わっていく、というか自ら変えていこう、ということ?

いや、文化は絶対に変わっていくんです。文化は1社で作るのではなく、全体として作られていくものだと思います。私がやるのは、ネットのショッピングをレジャーに変えるということです。

文化の無いネット業界、成功、失敗の積み重ね必要

――文化になるには、どれくらいの期間がかかりそうでしょうか。
 
20〜30年はかかるのではないでしょうか。成功、失敗を積み重ねていかないとなりません。文化は伝承者が出てこないと伝わりませんから、いくら今、われわれが言っても、体験しないとダメですよね。それはわれわれのようなフィジカルな人間がビジネスとして入ってくると融和されていくと思います。

――ファッション企業のネット事業は今後加速しそうでしょうか。
 
ユナイテッドアローズさんがECに参入して、「おお、楽しみだなあ」と。どんどん入ってきてほしいし、増えていくと思います。

――「WWCITY」は今、アパレルや保険、航空関連などがありますが、今後は音楽なども考えている?
 
将来的には。動画とか面白いなあと思います。そのサイトにしかないものであれば、便利だからとかではなく、面白くなる。やるのは大変ですけれど、フィジカル、リアルの部分で展開されているものはすべて利用できると思います。要は、それらをここでやることの意味です。
 例えば、昔放映されていたドラマを「WWCITY」で流しても、面白くないでしょう?一方で、全く新しいものを作ろうと思ったら、時間もお金もかかる。もしかしたら面白くないかもしれない。でも、面白くないかもしれないけれども、やってみること、そういう発想が必要になってくのではないでしょうか。

【取材後メモ】

 「ブランドの寄せ集めでは、単なるツールになってしまう」。独自ブランドを作り上げてきたからこそ、強く主張できるのだと感じました。
 昨年2月のモール開設の公表時は出店企業の発表は無く、謎のままでしたが、夏の発表では知名度のある企業の顔ぶれ。一方で、業界関係者からは出店者口説き≠フ寺田社長自身の奔走ぶりが聞かれたのも事実です。ネットに対して不安感のある企業も多いということでしょう。
 本格オープンしたモールは若干の物足りなさが残りますが、これらのブランドがネットに取り組み始めた点で、ファッション業界に一石を投じたことは間違いないでしょう。実績次第では後に続く企業が出てくるかもしれません。「通販=ダサい」のイメージ払拭に、そして新たな文化作りの担い手として、今後に要注目です。
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