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新潮流・通販を変える〜ネットビジネスの開拓者に聞く〜

ユーザーが進む方向が我々の進むべき道

三野正己●魔法のiらんど取締役



 PCと同様、モバイルでも盛り上がり始めたコミュニティ。コミュニティ機能は顧客の囲い込み、帰属意識向上、商品のレコメンドなどなど物販を手助けする要素が多く、PC、モバイルのEC事業者もその機能を自社サイト内に内包する動きが増えている。そんな中、日本最大のモバイルコミュニティの運営社、魔法のiらんどが逆に物販展開に乗り出し始めた。物販ありきではない「本当のコミュニティの物販活用」とはどのようなものなのだろうか。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

当社の自慢は「一度も宣伝をしたことがない」

ケータイコミュニティのNO.1

――近年、モバイル上でもSNSなどのコミュニティが活況です。PCでもそうですが、コミュニティサイトはユーザーが定着するまでが大変です。「魔法のiらんど」は登録IDが500万、月間PVが14億です。成功の要因は何ですか。

色々な理由があると思いますが、やはりモバイルで無料HP作成サービスをスタートさせたのが大きいのではないでしょうか。先行者メリットもあると思います。当時はそういうサービス自体ありませんでしたから。とは言え、PC程の画面で表現できる力がみんなにあるわけではない。携帯では過大な表現を求められず、ある意味、作りやすかったのではないでしょうか。
1999年の4月に「iモード」ができ、その年の12月に「携帯を使ったサービスができないか」と社長の思いつきで「魔法のiらんど」は始まりました(笑)。もともと当社はシステムソリューション会社なので、一般向けの商品は作っていませんでした。テスト的にサービスをやろうと思ったわけではなく、単純に「こういう機能は面白いのではないか」といことで、携帯サイト上に特別な告知もなく、無料HP開設サービスをオープンさせました。どこでユーザーが当社のサービスを知ったかは分かりませんが、見つけた人から口コミで広がってあっという間に広まり、1週間に何万人、とユーザーが集まってきました。
我々のサービスを「SNSのモバイル版」と言う方も多いですが、我々はそこまでは考えていません(笑)。みんながみんな、日記を書き、自己表現の場として使ったり、小説を書き、発表の場としたり、様々なことをしている。そういう意味で非常に幅が広い場所になっています。
当社の自慢は「一度も宣伝をしたことがない」ということです(笑)。実はこれが大きなポイントです。我々はユーザー主導で動いているので、無理に誘導しても結局、そこに魅力がなければユーザーは定着していかない。我々の強みは、ユーザーがユーザーを連れてくる点。おそらく、呼ぶ人は「自分がHPを作ったから見に来てくれ」ということですが、そこに「呼ぶ意義」があり、非常にユーザーを呼び込みやすい。つまらない情報で誘導されるより、すでに知人のHPがあり、そこで日記や小説が読めるという方が、呼び込みやすく定着しやすいのではないでしょうか。

――コミュニティというとどうしても誹謗中傷などの不正行為が生まれがちです。

そうですね。我々のユーザーの多くは高校生ですから、健全な運営が必要でした。そのため、サービス開始から24時間の監視システム「iポリス」を導入しました。これで誹謗中傷やアダルト系の不適切な内容をブロックして、その後は人的な監視を行う体制です。その際にユーザーに対して啓蒙活動を行いました。
高校生は悪意を持って違法な行為を行うより、知らずにキャラクターやアイドルの写真を無断で載せてしまうことがあります。著作権違反として普通の会社は黙って削除するケースも多いですが、高校生にとって見ればなぜ削除されたか分からない。当社ではユーサーに直接説明して、啓蒙する。すると、同じことをしなくなるだけではなく、他の人にも口コミで伝えたりしてくれます。当社のユーザーのHPはアクティブなもので270万サイトありますが、その数を20人弱の人数で監視しているが、基本的にはカバーしきれていません。
ただ、覚えたことを活用し(我々に違法行為を)通報してくれるユーザーが全国におり、気になったサイトや書き込みを教えてくれます。我々の自慢にもなっているが、そうした状況があって、健全で、安全な運営を行えています。健全な場を求めている人は多いですから、結果的に、それがユーザーをこれだけ定着させている最大の理由だと思います。

DS構想はずっと前からあった

――ユーザーが集まれば、ビジネスが生まれます。物販事業や最近ではドロップシッピング(DS)事業も開始しました。

そうですね。長らく、携帯上の無料HP作成サービスだけを続けてきましたが、3年ぐらい前から「500万人のユーザに対して、何かしら提供できるものはないか」と考えるようになりました。その1つが「魔法のメロらんど」で行う着メロの提供であり、2年前からは「魔法SHOP」で物販事業を開始しました。
物販事業は順調に売り上げを伸びていますが、コミュニティに来る人たちは商品を購入しにきているわけではなく、全員が対象になるわけではありません。中には購入意欲の高いユーザーもおり、その中で試行錯誤を重ねながら、これはこれでビジネスになっています。ただ、我々にもっと合った物販展開はないかと考えていた時、「我々が商品を勧めるより、ユーザー自らがHPの中にお店を出してみてはどうか」という発想が浮かびました。今ではこれをDSと呼ぶようですが、こうした構想は数年前から我々の中にはありました。
物販という言い方をすれば非常に営業的な言い方になりますが、ユーザーさんにとって商品を売る楽しみだとか、選ぶ楽しみ、購入してもらった喜びがついてきます。それを提供しながら、物販としての売上を上げていくという考え方が自然に出てきました。

――実際にDSを開始されて、状況はどうですか。

お店のでき方が非常に早いですね。1日数千という単位で店ができています。「軍事」系が大好きな方がユーザーがいて、その人のHPを見ると、ミリタリー関係の話が色々と書き込まれています。彼が紹介している商品はダイエット商品なのですが、「これを飲むとどうなる」ということではなくて、「軍人たるもの腹筋が割れていなければならない」といったキャッチコピーが書かれていました(笑)。面白いですよね。
ただ、展開商品はまだ少なく、500点くらいです。全然足りない状況ですね。取引企業には「登録」という形を取らせてもらって、基本的に自社仕入れですべて行なっていますので、仕方ないところですが。

――業績的には。

商品がまだ少ないのでまだまだ。我々もいきなり、10万アイテム扱おうと思えばできなくはないですし、物販を主体とする企業ならば間違いなくそういう形でやって来ると思いますが、我々の本業はやはりコミュニティです。我々はユーザーにお店を作る楽しみを提供したいという考えもあります。ユーザーさんから「こういう商品を売りたい」といった提案が出てくると思います。それを受けて、売りたいものが出てきたら売っていこうと。我々は、ユーザー主体のコミュニティなので、押し付けるような形で販売していこうとは考えていませんし、それをやったらうまくいかないと思います。

――DSでは違法な表現などが問題視されています。

先ほどの「iポリス」による仕組みが生きてきます。すべてのショップを巡回して、間違った点があれば指導し、そのことを啓蒙していかなければいきます。基本的には、人的に更新したもの順にチェックするようにしています。健康食品とかでも、書いてはいけない文言がありますが、ブロックをかけすぎてしまうと定着しなかったりします。ですから(ユーザーを)教育、啓蒙していくことが重要になってくると思います。これはこれまでの我々のスタンスと同じですので、あまり問題視していません。

「この人の紹介なら購入してもいいかな」というのが我々の通販

我々は通販企業になりたいわけではない

――モバイルビジネスの先駆者として伺いたいのですが、モバイル通販は今後、どうなると思いますか。

個人的な見解になりますが、モバイルコマースというのは携帯だけで完結するのかと言えば、そうではないと思います。携帯だけでは世の中、成り立ちませんからね。携帯通販を見ても、(モバイル通販)単体で成り立っているところはありません。通販企業さんが「モバイルでこれだけ売れました」と言っていますが、カタログを見て、注文ツールとしてという話だけであって、それが携帯通販と言えるのかと思います。どこまで画面がきれいになったとしても、やっぱり、携帯だけで商品を購入する人はいません。当然、その商品を見たときに、どこか他の場所で商品知識を得ているはずで、そのスタートが携帯なのかもしれないし、カタログなのかもしれない。ツールとして色々な使われ方をしていて、その辺が複合的にならないと、「携帯だけで売る」というのは今後も非常に難しいのではないでしょうか。

――ただ、御社は携帯完結で物販を行っています。

我々の場合には「コミュニティ」がありますから。今、よく言われているWEB2.0の考え方ではないが、物販はコピーがすべて。そのコピーを生み出すために、どうしようと通販会社は考えているわけですが、ユーザーもそういう言葉には簡単には騙されません。でもユーザーは(コピーが)欲しいんです。その時に響くのは「自分と同じユーザーの声」。一時期、ネットのグルメ情報が当てにならないと言われていた時期がありました。ただ、自分と同じ価値観で評価していたレストランであったりというのは、共感できます。モバイルの中でも、商品は見たことはないけれども、この人のコメントには共感できるだとか、この人が紹介しているのならば購入してもいいかなというものではないでしょうか。これがコミュニティならではの通販で、唯一成り立つ方法だと思っています。
基本的に我々は通販企業になりたいわけではありません。通販企業は商品を販売することが最大の使命なので、商品を強く訴求するがビジネスです。我々はユーザーあっての商売なので、ユーザーが喜ばない商品は販売する必要がない。すでに広告収入だけで成り立っているわけですから。そこから先はユーザーのサービス重視。その辺を逸脱してはいけないないと思います。

――中長期的なビジネスの方向性を教えてください。

少なくとも我々は「WEB2.0」のビジネスをしようと考えているわけではない。どこまでいっても我々のビジネスはユーザーが作っているもの。ユーザーがやりやすい、表現しやすい場を作っているに過ぎません。常にユーザー主体が我々のビジネス主体から外れることはなく、逆にユーザーが作るものはいくらでもある。最近は「魔法のiらんど」から小説家も出始めており、それは小説だけでなく、写真であったり、絵であったり。そういうものをいつでも提供できる場を設け続けていこうと考えています。ユーザーが進む方向が我々の進むべき方向となります。



取材後メモ

コミュニティ運営を本業とした企業が行う物販のコミュニティ活用は、EC事業者が行うコミュニティとは似て非なるものでした。EC企業の担当者からはよく「ユーザーのため」という言葉が聞かれますが、どこか嘘くささが残ります。ただ、それは当然のことで彼らにとっては物販が本業ですから「売れなければ」先はありません。魔法のiらんどは膨大なユーザー数を抱え、広告収入でビジネスが成り立っています。彼らがいう「ユーザーのため」は嘘がないように感じました。WEB2.0時代を迎え、EC事業者が目指さねばならない方向性のヒントが、このコミュニティ内で行われている物販の形に隠されているように感じました。
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