2007.12 無料公開記事      ▲TOP PAGE


サイバード、株式非公開の意味は?

――「攻めの姿勢」なのか「株価低迷の苦肉の策」か?




「今こそアクセルを踏み込むべき時期だ」――。モバイル関連事業のサイバードホールディングスは10月31日、MBO(経営陣による企業買収)を実施し、非公開化すると発表した。投資ファンドのロングリーチグループ(LR)と組み、LR子会社がTOB(株式公開買付)を実施。サイバードの発行済み普通株式と新株予約権の全てを取得する。その後、サイバード経営陣が同社に出資、MBOを成立させる計画。
サイバードHDを率いる堀社長は「短期的な足元の業績に左右されない一定程度の先行投資が必要な時期に来ている」とし、あくまで今回のMBO実施は攻めの姿勢であることを強調。ただ、一方では現状、計画倒れで中期経営計画が一向に進展しないが故に伸び悩む業績と、それに呼応する株価低迷により、行き詰った末の苦肉の策にも映る。果たしてサイバードが決断したMBOの本当の目的と意味と何なのだろうか。



予算が限られ積極投資できなかった

MBOはロングリーチの特別目的会社、CJホールディングスが11月1日から12月13日まで公開買い付け(TOB)を実施、サイバードHDの全株式取得後、非公開化する。その後、同社株式全株を所有したCJホールディングスに堀主知ロバート社長などの現経営陣の一部が出資する形で実施する。公開買い付け時の一株の買い付け価格は、過去3カ月間の平均終値の約4割増である6万円。ジャスダック証券取引所は同日、同社を監理ポストに割り当てた。
MBO後の新生サイバードの経営陣には旧経営陣から堀社長のほか、グループの通販企業JIMOSの細田洋平社長など計3人、さらにロングリーチ側から5人の取締役が派遣される。
 記者会見の席上、堀社長はMBO実施の理由について「モバイル関連事業の拡大が見込める今こそ、広告を収益源とする事業の強化に向けてアクションを起こすべき時期」と言及。さらに「以前からもっと投資をして事業を伸ばしたいと望んでいたが、限られた予算で叶わなかった。また、積極投資で短期的にはPLを既存しかねない。すべての株主の期待に応えられない以上、一度、MBOでリセットしたかった。これからは攻めの一手で展開できる」と攻めの姿勢であることを強調した。
 MBOが成立した後は、ロングリーチの庇護下で人材と豊富資金を得て、5年間で65億円の投資を計画していることを明言。同社が中長期戦略に中心に据えている「プラットホーム」への投資と拡大を軸に事業を展開していく考えだ。


モバイル市場は好調なのになぜ・・・

拡大基調にあるモバイル市場にあって、ここで収益を最大化させるためには中期経営計画に則った投資が必要。ただ、投資をすれば短期的に業績が悪化し、いちいち株主から文句が出たのではやってられない。だから、非公開化する――。
サイバードがMBOに踏み切った理由を端的に言えば、上記の通りだ。一見、的を射た言い分に聞こえるが、一方では「モバイル市場が好調ならば、このまま事業を続けていけばいい。要は業績不振によるもので経営陣の失策による結果ではないのか」という疑問の声も挙がっている。つまり、MBO実施の理由は確かに中長期投資に備えたものである一方で、自社単独では抜けられない踊り場から、ファンドの資金をテコに抜け出すための、苦肉の策ではなかったのかというものだ。
事実、これまでサイバードは拡大基調である同市場で一定の業績を確保してきた。さらに04年には07年度までに総売上高を600億円とする中期経営計画を発表。自社単独での成長策を進めていた。この戦略が順調に進捗していれば、わざわざサイバードがファンドの庇護に入るとは思えない。
ただ、実際のサイバードの前期(07年3月)の売上高は235億円。中計で掲げた業績には遠く及ばない結果となっている。要因は中計の骨子である先に挙げた「プラットホーム」構築の事実上の失敗だ。

初めから無理あった?中期経営計画

サイバードのいう「プラットホーム」とは、具体的には様々な媒体や会員を持つ他社との提携を通じて、消費者との接点を獲得。当該消費者への情報配信のパーミッション(許諾)を取り、そこに向けて「コンテンツ」販売のほか、「物販」「広告」をなど2次的、3次的なビジネスを展開できる顧客プラットホームだ。
このプラットホームは徐々にパートナー企業などを集め、進捗してはいるものの、計画通りの規模感には遠く達していない。資金を含む経営資源を中計に投じた結果がサイバードの今の苦境、つまり、業績の伸び悩みと株価低迷を生み出し、抜けられない踊り場に迷い込んでしまったのではないか。
 業績および株価の低迷についての責任論について「過去にやってきた戦略は今でも正しかったと信じている」とした堀社長。MBO後、豊富な資金を得て、単独ではなし得なかった中期経営計画を推し進めていくとしている。こだわり続ける未来予想図が描ききれなかったのは、単に資金繰りの問題だったのか、それとも経営陣の失策なのか。いずれにせよ、新生サイバードの今後の業績がその答えを明らかにしそうだ。【編集部・鹿野利幸】


▲TOP PAGE ▲UP