2007.12 無料公開記事      ▲TOP PAGE


"ユーザーの声"でさらなる高みへ

中島成浩 ナチュラム代表取締役会長兼社長CEO




資本力やブランド力を生かせる大手企業に資本や家電製品など高単価商品を扱う企業を除く、いわゆる「純粋なEC事業者」として初めて、今年10月19日に大証ヘラクレスに店頭公開を果たしたナチュラム。EC市場における先駆者として、ECという言葉すらなかった黎明期に試行錯誤を繰り返しながら、EC事業を拡大。上場するまでに成長を遂げた同社を率いる中島社長は今後のECの成長のカギはユーザーの声にあると断言する。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


我々がネット販売を開始した当時はまだ、ECという言葉すらなかった

新しい集客ツールとしての実験


――今年10月に店頭公開をされました。上場の目的を教えてください。


我々は一般消費者を対象にビジネスを展開していますので、社会的な信用力を上げていきたいためです。少し前に第三者割当増資をして、大方の設備投資も終わっている状態です。今回の上場に伴う3億程度の調達資金は売上規模の拡大に応じて、運転資金やサーバー面のシステム的強化に充当する予定ではありますが、資金調達が目的というほどの意味合いはありません。


――バックボーンに大手企業がいるなどではなく、ゼロからネット販売を開始したEC事業者としては初の株式公開です。

父親の"鰍ネかじま"が釣具の製造卸をやっている会社で、そこの小売部門として私が"ナチュラム"を立ち上げたのが90年。我々がネットビジネスをスタートしたのは96年でした。当初はその実店舗の紹介が目的でサイトを立ち上げました。私は当時、釣具の店舗を運営しており、その店舗への集客手段の1つとしてネットを活用できないか、という取り組みでした。

――ネット販売はその後に?

その頃はまだECは入ってきたばかりで「Eコマース」という言葉すらありませんでしたね。その時点でビジネスを展開したというよりも除々にという感じでスタートしていきました。それから1年半くらいしてから、やっとECがいけるのではないかと思い始めましたね。

「ヤフー!ショッピング」のオープニング店舗に

――ネット販売が軌道に乗り始めたのはいつ頃からですか。

軌道に乗ったというより、少し売れ始めたのは97年の後半くらいからだと思います。売れ始めたのはインターネット人口が増え始めたこととリンクしています。それから98年に「ヤフー!ショッピング」がオープンする時、スタート時点で17店舗が出店しましたが、我々も声をかけてもらい、その の1店舗として出店しました。それからしばらくは「ヤフー!ショッピング」と自社サイトでEC事業を展開していました。

――当時の売り上げの比率は。

圧倒的に自社サイトの方が大きかったです。98〜99年頃は「マグマグ」などメールマガジンが普及したり、アフィリエイト広告も99年からアメリカの事例を見て、自社で導入していましたので。当時派新しいものがどんどんと出てくるし、何か良いのかまだよく分からない状態でしたから、とりあえず何でも色々とやっていました。97年頃から有名なショッピングモールの「一品ドットコム」に参加していましたらか、その出店店舗の皆さんと色々と試し、うまくいけば真似をして情報共有などもしていました。

――当時、これはいけるなと思って、結局、駄目になった施策は何ですか。

ほとんど駄目です(笑)。残っているのはメルマガとアフィリエイトくらい。

――売り上げが伸びたのはどのくらいの時期ですか。

2000年から結構、直線的に伸びていきました。97〜99年は前年比3〜4倍で伸びましたね。アフィリエイトやメルマガ、ロングテールに対応すべく商品アイテム数の増加などをやっていました。

取り組み早かったCGM活用

――近年、ブログの通販活用が盛んですが、取り組みは。

我々が着手したのは2000年です。当時は「ブログ」という言葉がありませんでしたが、機能やコンセプトは今のブログに近い無料ホームページサービスを使って、コミュニティを育ててきました。

――当時からユーザーの声が物販に役立つと判断していましたか。

そうですね。もっと言えば、先の99年に自社でアフィリエイトの提供し始めた頃に遡りますが、当時からアウトドア愛好者は自前でホームページを立ち上げて、道具自慢をしたりしていました。「その自慢しているもの」は当社で売っていたものでしたから、リンクボタンを付けさせてもらい、「当社で買ってもらったら御礼をお支払いします」というところから、独自アフィリエイトが始まっています。 それを99年から1年くらいやりましたね。ただ、そこで問題になってきたのは、独自にホームページを立ち上げるのはハードルが高いこと。もっと簡単にホームページを開設できればもっと活用されるだろうということで、無料ホームページ「アットナチュラム」の提供を始めました。

――それによって今、CGM活用で言われているような成果が現実に起こった。


そうです。やっていることはブログの原型ですから。彼ら経由で新しいお客様が次々に入ってきました。

――CGMの可能性をどう見ますか。

ECに関して言えば、CGMが販売の主流に間違いなくなると思います。現実的に当社の売上げの4割がコミュニティ経由です。これだけネットが普及し、ユーザー自身の発信力が強化されてきている中で、はっきり言えば店の人よりも知っています。お客様はその商品を買おうと思ったら、ピンポイントで徹底的に調べますから、情報が集まります。そうなると結局、店の人が何を言っても信用しません。だったら、分かっている人、使っている人に聞いた方がずっと信憑性が出てきますよね。
商品説明はコミュニティ内の「くちコミに任せておく」と言ったら語弊がありますが、まずそれありきで、そこである商品が評判がいいとくちコミになっていれば、即座にそこにアプローチをかけるのが正しいやり方ではないでしょうか。

――コントロールが効かないというマイナスの部分があっても、CGMは欠かせませんか。

 悪いことはもちろん言われたくありませんし、表に出したくありませんから腰が引けるのも分かりますが、今時、それは隠せません。結局は「すべて出る」ことを前提に考えなければ仕方がありません。悪いことが出たら、それが事実ですから謝ればいいわけです。

――コミュニティにEC事業者が入ることについては。

 距離感は難しいですね。当社でもコミュニティとの距離感はかなり議論がありましたし、今は経験則でやっています。ショッピングサイト内にコミュニティを持たず、完全に分けた形で運営し、そこの中ではアフィリエイト以外は一切物販をしていません。アフィリエイトは消費者が紹介するものですから、もちろん宣伝はさせてもらっていますが、コミュニティのユーザーの意識としては自分達の領域としての意識が高く、そこには運営している我々でさえ、ずかずかと入っていきません。

結局、"本物"でなければネット上のお祭り騒ぎで終わる

成功した企業は腹を括っている

――ナチュラムは株式公開というところまで来て、成功したわけですが、そのポイントとは何だったのでしょうか。

 後付けで何とでも言えますが、1つは1番最初からECに参入してやっていますから、Eコマースの流れは他社よりも良く分かっているという部分は大きいと思います。しかも、ECを開始するにあたって大きかったのは(小売りを)ゼロから始めたわけではなく、すでに実店舗があり、それなりに事業が確立しているリアルビジネスがあったことがスムーズにEC事業に入れた要因だと思います。要は仕入力、販売力など小売業のコアになる部分です。そこに新しいテクノロジーをうまくかぶせることで増幅させるというバランスが多分良かったのだと思います。
小売業の基本部分と最先端ITの部分をある程度高い次元で融合させないとEC事業というのは難しいのだと思います。結局、小売業なので商品を買う人は安いのか、品質がいいか、ということに落ち着いてしまいます。そうすると"本物"でなければ、最初はネット上のお祭り騒ぎで何とかなっても長続きしなかったのではないでしょうか。

――ECの先駆者として現在のEC市場をどう捉えていますか。

 順調に成長している感じはします。EC市場は数兆円になりました。事業者もアマチュア団体的だったのが、ここへ来てそれなりの規模に育ち、普通のビジネスに近い感覚になってきていると思います。今、伸び悩んでいる事業者は結局のところ、腹を括れていないと思うわけです。
ECは参入障壁も低いですから、お金をかけずに実施することが可能です。ただ、成功した企業はどこかで投資なり、借金をしてでも広告を打つなどして飛躍したわけです。しかし、いつまでもリスクを取らずにやっている方が非常に多いと思います。他の業界から見れば、それは甘ったれたビジネスのように見えます。

――今後の目標は。

今期の予想は売上高41億円です。ここ数年20〜30%ずつ伸ばしてみているので、その水準でここ数年は伸ばし、3〜5年後に100億円という数字が見える段階までくると思っています。

――商材を広げる可能性は。

 我々は自然、健康、環境の3つの分野で進めていくつもりで、当面横に広げるのは得策ではないと思っています。例えば我々はアウトドア、釣りに関しても恐らくネット上では40%以上のシェアを持っていると思いますが、全部のジャンルが高いのかと言えばそんなことはありません。我々は2000ジャンルくらいの商材を扱っていますが、1つ1つのジャンルが1つ1つのマーケットですから、しっかりとそこのシェアを上げていくことで売り上げは数倍どころの話ではありません。そこでもポイントになるのはアフィリエイトとコミュニティだと思っています。


▲TOP PAGE ▲UP