2007.11 無料公開記事      ▲TOP PAGE


「いつでも」「どこでも」ではモノは売れない

中川哲也●イメージング代表取締役社長




老舗カタログ通販のイマージュホールディングスがインナーアパレルブランド「イマージュ」商品を扱わないネット通販に本腰を入れる。10月、販促支援を行うNowLoadingとネット通販の合弁会社「株式会社イメージング」を設立した。約3年前にネット事業100%子会社を設立したイマージュだが、既存のカタログ通販と、ネット主導型通販を目指す方針の相違からか、トップが交代するなど動きに試行錯誤の跡が見られた。新会社が狙うネット通販とは。「イマージュ」のネット通販はどうなるのか。(聞き手は本誌・峯木多恵子)


ジェネレーションが違えば、使うメディアも違ってくる

南保社長からの宿題


――イメージング設立までの経緯を教えてください。


1年ほど前にイマージュホールディングスの南保正義社長と接点を持ったことが始まりです。ちょうどイマージュ・ネットの社長交代でバタバタしていたときです(注:2006年6月に当時のネット社社長が取締役に降格、7月に退任)。最初は別案件でのお手伝いで、当社のビジネスモデルをご説明したら、宿題を持ち掛けられました。


――具体的には。

イマージュにはカタログがあるし、ネットもある。店舗は買収されましたが十数店舗もあります。顧客データもあるけれども有機的には活用できていない。「これらを何とかならないか」ということでした。
今年に入り、また別案件でご一緒した際に、改めてお聞きした南保社長のビジョンと私の考えが合致してご一緒することにしました。双方の思っていたことが完全に合致したわけではないですが、1つだけ共通認識がありました。「ネット通販は、もう一波乱、二波乱ありますよね」と。

――一方、中川社長の考えとは?

どこのカタログ通販企業も同じだと思いますが、紙 (カタログ)で当てた(成功した)企業のネット通販は注文手段にすぎません。お客はハガキやファクスに代わってネットを使っているだけ。ネットがあるからといって新たに来たお客がどれだけいるかといえば微妙ですし、少ないはずです。紙で成功した企業こそ、「ネットをやって、紙が売れなかったらどうするんだ」とネットへの努力をしてこなかった。紙で成長してきた歴史もありますし。
しかし、今や10代の女性は、香りを嗅げず決して安価ではない香水をモバイル(携帯電話)で買ってしまう時代です。モバイルやPCに囲まれて育ってこなかったわれわれとはジェネレーションが違います。つまり、ジェネレーションが違うと使うメディアも違うのです。この若い人たちにカタログで売っても絶対買わないでしょう。さらに言うと彼女らはPCで物を買いません。第一、PCを持っていないし、メールはモバイルで物足りてしまう。
南保社長も、消費者のジェネレーションが以前と違うのだから、企業も全く違うことをやらなければならないという意識を持ちながらも、既存のカタログとネットの部隊をリンクさせるのは難しいという思いもあったようです。それぞれ利権がありますからね。


――南保社長の宿題≠受け、どう展開しようと考えたのでしょうか。

「イマージュ」は伸び悩んでいるといっても、何十万部のカタログと店舗があるので、それらと、かぶりそうでかぶらないもの(サイトや事業)を1つ立ち上げ、実験しながら既存事業と絡めていければと考えました。
既存事業の間に新事業をポンと置いてみるのです。最初から既存事業と重なる部分が多いと、それと無理につなげなければなりません。

――南保社長からの提案は、「イマージュ」ブランドを回復させたいとの内容ではなかったのでしょうか。

むしろ新しい形で何か事業をやりたいというものでした。今のイマージュグループとしては、新規事業を立ち上げても外す≠フは辛いし、既存ブランドとのカニバリゼーション(食い合い現象)もあるでしょう。そういう意味では、われわれのような外部の企業が入ってハンドリングした方が面白いと判断されたのだと思います。

行ってみないと分からない興味喚起≠追求する

情報が商品。売る手段は選ばない

――NowLoadingの事業内容を改めて聞かせてください。

私はリクルートに新卒で入社してから1999年までの10年間、求人系情報誌の営業や、最後の3年間は電子メディア事業部でサイト「イサイズ」のプロデュースに携わりました。
ネットバブルのとき、ちょうど入社後10年だったので卒業(退社)。Web関連のビジネスをやり始めたときでしたので、Web制作会社、広告代理店、事業コンサルティングのまねごとを自前で始め、02年にこのNowLoadingを設立しました。
NLは、企業の売り上げと利益を上げるお手伝いをしましょうという日本初のセールスプロデュース会社。NLにあるのはクライアントからの情報で、これが仕入れであり、売り物になっていきます。商品はありませんが、売るための手段は選びません。
当社は相手企業とお話するとき売れない理由を3つ挙げます。
@「物が悪い」:これはどうしようもないですね。ここで初めてマーケティングを始めるわけです。A「売る人が悪い」:接客が悪いと今はまったく売れません。採用や教育でサポートします。B「売り方が悪い」:プロモーションや広報宣伝などで、大手企業はこのパターンが多いですね。
例えば、楽天のモール出店者のうち黒字なのは1〜2割と言われています。出店することが強迫観念になっていて実際は儲かっていません。
消費者にとっては、各店舗が同じような物や売り方では、そこで買う意味が見出せない。よほどの理由がないと買いません。近くのコンビニに行けばいいわけです。つまり、ネットでないと売れない物と仕掛けがポイントです。

新会社では逆転#ュ想の通販

――イメージングの事業モデルとは。

従来の通販はいつでも、どこでも、だれでも買えるから、逆に売れないのではないかと思ったのです。逆転≠フ発想でやっていきたい理由は、ここにあります。通販で、「今日買わないで明日買おう」と思う物をきちんと明日買いますか?いつでもあるので、次の機会でいいと思ってしまうでしょう。

――通販のメリットが、逆に購買意欲を殺(そ)ぐデメリットになっている。

今では希少価値や限定もの、動機付けがないとネットで買いませんので、興味喚起≠追求します。サイトにふらっと行って物を買うような通常の買い物ではなくて、行ってみないと分からないネットだからこそできる展開があると思うのです。

――「限定」がポイントとなる?


限定物、価格、品質などがキーワードになりますね。願わくば、購入プロセスのゲーム性がカルチャーになれば面白いと思います。

――「限定物」となると、物作りから必要になります。

有店舗ラインで物作りができるイマージュだからこそできること。でも、イメージングの事業では「イマージュ」ブランドを消さないと意味がないので、当然ながら、外部から商品を引いてくる努力も必要になります。それは価格か質、限定かなどが問題になります。

――イメージングでは「イマージュ」ブランド以外の物を扱うとのことですが、「イマージュ」商品では、このような展開は難しいのでしょうか。

 広く配布するカタログでは難しいです。ネットといっても、これまではカタログ掲載商品をネットに載せているだけだったので、やりづらいですね。

――カタログだから展開できないということでしょうか?

 カタログやチラシに「限定数」などと書いてあっても誌面は変わらないわけですから、消費者心理として「明日でいい」と思ってしまうでしょう。

――この新事業によって、イマージュグループとして何を目指すのかとの話は出ているのか。得たノウハウを「イマージュ」事業にフィードバックしたいとか。

 私はイマージュの広報ではないので分かりませんが(笑)、もちろん、これを展開することで「イマージュ」が良くなる(回復する)ことがベストでしょう。しかし、もしかすると、新事業が、既存事業のサポートではなく「イマージュ」に取って代わる可能性もあるわけです。

――対象層はマスではないようですね。

 ネットリテラシーの高い層を狙わなければいけません。従来のカタログ通販のネットはカタログ利用者への提案だったので、そこに、新たなビジネスで突破口を開きたいと考えています。

――初年度売上高目標は?10億円くらいですか?

そのくらいのロットは出ないと厳しいですよね。

――イマージュ・ネットとの役割分担はどうなるのでしょうか。

 商品も違うので、競合ではなく兄弟のような関係ですね。両社はビジネスモデル自体も違うわけですから競合には成り得なく、お互いのユーザーをスワップ(交換)できればいいと思っています。(対象)ゾーンも今のところは合っていますから。ただ、イメージングが「イマージュプレゼンツ」という形でやっていくかは微妙な問題です。

――「イマージュ」とはまったく切り離して展開していきたいということ?

 別態勢の方が相乗効果は出せると思いますよ。

――「真逆」の売り方では、商品の絞り込みなどで売り上げをあえて抑えているともいえます。また、利用者は一見さん≠ノならないですか?

 商品自体にどのような魅力があるのかも重要です。イメージングの事業のうち、販売の仕掛け部分はNLの役割ですが、物の選定はイマージュの目利き。その選定基準は安さか希少性か質か、それはまだ分かりません。ここで物と売り方の掛け合わせが重要で、物が良くても売り方が良くなければ売れません。
ただ、利用者に売り方が浸透すればリピートし、逆に売れると思います。そのゲーム性を楽しませ、カルチャーになれば楽しいはずです。浸透するには1年くらいが勝負かなと思います。

――1年で事業モデルを確立できるとの確信がある?

成功するサイトやコンテンツは1年で勝負がついています。もちろん、相手が大きく資本投下してきたらそれはまた別の話ですが、成功するビジネスかどうかは1年で分かります。もし、だめと分かればチューンアップしていけばいいだけの話。2〜3年かけて結果を出すことはないと思います。
今後、カタログ通販の再編も起きそうな気がしています。そのためにも、イメージングで新たな事業モデルを築いていこうと思っています。



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