2007.10 無料公開記事      ▲TOP PAGE


真の狙いは"ヤフーネットワーク"作り?!

――外部サイトに「ヤフー!ウォレット」の提供開始




ヤフーは8月20日から、同社のオンライン決済代行サービス「ヤフー!ウォレット」の外部提供を開始した。同サービスはユーザーがあらかじめ、個人情報等を登録しておくことで、決済時の各種情報入力の手間などを省き、ネットショッピングの支払いを簡素化する仕組みだ。
ヤフーはこれまで自社が展開する仮想モールや有料コンテンツ、ネット競売といった各種物販サービスの支払い時に限定。ヤフー会員の利便性向上に活用してきた。今回、これをヤフー以外の通販サイト運営者にも提供していく。
この背景には「ヤフーID」登録ユーザー数の拡大や決済サービス開始による手数料収入などの収益面への貢献があるが、一方ではこの決済手段の提供を通じて、ヤフーの外部、つまりネット全体に「緩やかなヤフーネットワーク」を構築したい狙いがあるようだ。将来的にはこのヤフーネットワークを通じ、「ヤフー!ウォレット」の導入サイトとのポイント制度連動や、アドネットワークへの展開などにもつなげていきたい考えがあるようだ。 アマゾンやグーグルは「広告」を通じて、外部に膨大なネットワークを築くに至った。これが両社の大きな強みとなっていることは言うまでもないが、ヤフーは「決済」を通じて、ネットワークを築いていきたい狙いだ。


登録者数はすでに1600万人

「ヤフー!ウォレット」とはクレジットカード情報や指定の銀行口座、請求先、送り先の住所などをあらかじめ登録していくと、ネットショッピングの支払い時に何度も決済情報を入力することなく、決済ができる無料サービスだ。
 同決済に登録していくと、支払い時の手間が軽減することのほか、カード番号などの支払情報はヤフーが管理するため、ユーザーにとってはECサイトに情報が漏れる危険がない。こうしたメリットからヤフーの有料コンテンツの少額決済や、ネット競売「ヤフー!オークション」の落札金を出品者に支払う際などに、重宝され、広くユーザーに浸透。現状、同サービスの登録者数は約1600万人まで拡大している。
 安心で便利な「ヤフー!ウォレット」があるからこそ、同じようなサービスならば他社ではなく、ヤフーのサービスを利用しよう――。ヤフーの各種サービスでの利用に限定しているからこそ、ユーザーの囲い込みの一翼を担っていたと言えそうだが、この仕組みを外部サイトも使えるようになれば、「囲い込み」という点ではヤフーの旨みは半減する恐れもある。それでもヤフーが外部への提供を開始する理由は大きく三点が挙げられそうだ。「ヤフーID登録者数の拡大」「手数料収入の確保」、そして先の「外部ネットワークの構築」だ。

ヤフーID登録者拡大も

「ヤフー!ウォレット」を外部サイトにも提供することで、少なからず、同サービスを利用したいというユーザーも増えるだろう。ユーザーは「ヤフー!ウォレット」を無料で利用できるが、ヤフーIDを取得する必要がある。ヤフーIDとはヤフーの各種サービスの利用時に必要となる認証。「ヤフー!ウォレット」を切り口にヤフーID登録者が増えれば、ヤフーのサービスを利用するユーザーも結果的に増え、トラフィック拡大はもちろん、様々なサービス利用による売上高拡大がついてくるはずだ。
 また、「ヤフー!ウォレット」は利用するユーザーは無料だが、当然、導入するEC事業者には手数料を徴収する。手数料は「1回の決済につき、3.6%程度を徴収し、我々とカード会社で分ける」(ヤフー広報)ようだ。同サービスの普及如何ではヤフーに少なくない決済手数料は舞い込むことになりそうだ。
 そして最大の目的と見られるのが「ヤフー!ウォレット」を通じた「緩やかなヤフーネットワーク」の構築だ。決済の仕組みを通じて、導入したECサイトとヤフーのポイント制度「ヤフー!ポイント」の相互連動やアドネットワークなどを開始していきたい意向のようだ。
ヤフーはWEB2.0時代を迎え、「Yahoo!JAPAN」という膨大だが、閉ざされた領域でビジネスを拡げていく現行のやり方ではなく、AIP公開なども含め、自社のサービスを「オープン」にし、それらを通じて、外部に"ヤフーネットワーク"を構築。散らばるユーザーを確実に集客し、ビジネス拡大につなげる動きを加速している。今回の「ヤフー!ウォレット」の外部提供もこの一環のようだ。

導入ECサイトのメリットは?

ヤフーがこうした思惑を持っているとしても、外部サイト、つまり、自社サイトでネット通販を行うEC事業者にとって「ヤフー!ウォレット」の導入にメリットがなければ、思惑通りにはことは運ばない。EC事業者にとっての「ヤフー!ウォレット」の導入メリットを考えてみたい。
まず、クレジットカード手数料率。大手ECサイトは別にして、中小規模事業者は個別にカード会社と契約を結べば、安くはない手数料率となるが、「ヤフー!ウォレット」を導入すれば、ヤフーが間に立つためにカード手数料率は抑えられる。
また、ユーザーにとって、「ヤフー!ウォレット」が便利な決済手段だということも大きい。決済情報を入力する必要がないため、最短で2クリックで決済が完了する。これにより、一旦、ショッピングカートに商品を入れたが、最後まで行かず止めてしまう途中破棄率を抑え、購入機会ロス低減につながる可能性はある。
現状ですでに1600万人の利用者がいるということも大きそうだ。彼らは決済手段としての「ヤフー!ウォレット」の利便性を体感している。また、複数の店舗での買物も「ヤフー!ウォレット」により一括で管理でき、購入履歴を一覧で把握することも可能。そのため、EC事業者は同サービスを導入することで、こうしたユーザーが新規顧客になる可能性もある。
こうした既存利用者を導入サイトに誘導するため、ヤフーではポータルサイト「Yahoo!JAPAN」のトップに設置している「商品検索」の結果画面に同サービスを導入したECサイトの商品には「ヤフー!ウォレット対応マーク」を付与。また「ヤフー!ウォレット」対応商品だけを検索できる新機能なども順次、実施していく考えだ。
ヤフーはまず「ヤフー!ウォレット」の利便性を知っている「ヤフー!ショッピング」出店者に「本店」である自社ECサイトでの導入を促し、さらにそのほかの外部EC[サイトにも拡大していきたい考えだ。もちろん、「ヤフー!ウォレット」が優れたサービスでも現在は様々な決済サービスが存在し、それぞれ一定の利便性を備えている。どこまでヤフーの決済サービスが普及するかは分からないが、決済手段としてだけでなく、膨大なトラフィックを持つ「ヤフー対策」という観点からも、EC事業者は一考してみる価値はあるのかも知れない。
【編集部・鹿野利幸】


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