2007.10 無料公開記事      ▲TOP PAGE


"楽天越え"は時間の問題だ

岩田進●ロックオン代表取締役社長




「オープンソースのECサイト構築パッケージ」という、他社が容易に真似できない武器で市場に殴りこみをかけたロックオン(本社・大阪市)の岩田社長。わかさ生活など多くの通販企業が積極的に活用するそのサービスは、独自の網を張ることで、従来のASP型や独自開発型ではなし得なかった"新しいEコマースのインフラ"を実現する可能性を含む。これまでのECサイトや仮想モールに取って代わる可能性を秘めた新たなECインフラを胸に「楽天超え」に自信を覗かせているようだ。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)


ASP型よりも独自性が高く、自社開発よりも安く速い

ASPより手軽、独自開発より柔軟


――オープンソースでECサイト構築パッケージを提供されていますが、ビジネスのきっかけは何だったのでしょうか。


我々は現在、主力商品として「ADエビス」というウェブ広告の効果測定システムを販売していますが、それで一定の収益が上がっているので、「EC−CUBE」を始めました。以前はパッケージで普通に売っていましたが、もう少しインパクトのある壮大なことができるのではないかと考えた結果、オープンソース化になった訳です。


――オープンソースというのが凄いですよね。儲かるのでしょうか?

今はまったく儲かっていません(笑)。全然収益は出ていませんが、世の中に対してインパクトはあるかな、と。
狙いとしては、「EC−CUBE」がどんどん使われることで、現在のASP型と独自開発型以外のECサイト構築手法を提唱できればいいと思っています。楽天離れに象徴されるように、ASP型も独自開発型も古く、限界が来ています。これからはもっと新しい手法が求められているのだと思います。やはりECサイトというのは、リアル店舗と同じようにもっと独自性を持たせるべきではないでしょうか。
そこで我々が提案するのが、ASP型より簡単かつ低価格で、独自開発型より柔軟な構築手法です。実現方法としては、「ASPより簡単で低価格」という点については、レンタルサーバーにプリインストールしてもらい開拓していくイメージです。普通に使う分には、ASPで提供しているような機能は一通り揃っていますし、お客様の様々な意見をどんどん吸収しブラッシュアップしているので、しょぼいASPよりはよほどいいと思います。
例えば、小さな商品販売サイトを運営していらっしゃるクライアントさんがいるのですが、当然ASPではなく、オリジナルのECサイトですよね。そこでは、会員登録など一通りの機能がそろっていますが、「EC−CUBE」を使うことによって一週間足らずで開発できました。
「開発型より柔軟」という点に関しては、制作会社は身近であるほうが良いので、コンサルティングのできる制作会社とのネットワークを強化し、提供できるようにしていきます。これら2つの手段によって、簡単なスタートが切れ、かつ必要に応じて身近な人に相談できる訳です。

――収入形態についてお訊きしたいのですが。

まずはインフラとして提供していきます。レンタルサーバーに入れてもらい喜んでいただこうと。ホスティングパートナーにも、無料で付加価値があがるので喜んでいただける訳です。ビジネスとしては、そこからでいいと思っています。
 ECというのは、他のオープンソースとは異なり、ECサイトを構築しただけではビジネスとしては完結しません。ここが重要なポイントになってくるのですが、ECはそこから広告、決済、メール配信、CRM、物流、効果測定……などなど、様々なニーズが発生してきます。つまり、この「EC−CUBE」を普及させ、同時にそうした様々なバックヤードの企業と提携することで、ユーザーであるお客様に色々な選択肢を提供できるのです。我々は決済だけでも多くの提携先を持っていますし、それはメールやポイントの企業の場合も同様です。そのように、あらゆる選択肢を提供することで、必然的に我々が代理店となり、バックヤード企業からバックマージンが入ってくる訳です。例えば決済の部分だけでも1%弱は入ってくると思います。

――そのために、まずはパイを拡大する、という訳ですね。

その通りです。世の中には色々なEC関連サービスがありますので、そこをすべて販売していくつもりです。例えばコールセンターなども、我々が今からコールセンターを開発することはできません。
ですから、コールセンター企業に参加してもらい、「『EC−CUBE』のコールセンターはこちらです」という形で提供していきます。同様に、アップデートサービスというのも有償で提供していきます。「EC−CUBE」はウィンドウズやウィルスソフトのように、頻繁に自動的なアップデートがあるので、そこを一部有償で販売する訳です。そのために、Eコマースの新しいインフラとして無料でツールを提供していくということです。

――そこういった試みを、他社でやっているところはありますか?

おそらくないと思います。やはり、パッケージで普通に販売するというのはお金になりますが、オープンソースだと資産がゼロになってしまいますから。我々は「ADエビス」の収益があるから出来ている訳で。まあ、例えば楽天がオープンソースになるぐらいしないと競合にはならないでしょう(笑)。
今普通にパッケージやASPで提供しているところは、既存のお客様との絡みがあるのでなかなか同じことができないのです。たぶん、普通にパッケージを販売している会社などはこれを出された時点で価値が無くなってしまったのではないでしょうか(笑)。こうしたサービスは例えば米国でも主流ではないのですが、存在します。日本のように独自開発する、というのはあまり聞かないですね。

利用店舗は月間1000店の増加 1年で楽天を超えられる

普及にはレンタルサーバーへの標準搭載が絶対条件

――現在、どのぐらいの数の利用があるのでしょうか。

今は、確認できるレベルで月間3000ほどのダウンロードがあります。構築サイトの数でいうと、サービスを開始した1年前は10件以下でしたが、実際のビジネスで使われる例が出始め、それを見たソニーミュージックさんやわかさ生活さんなどの大手企業さんが導入し始めました。大手企業さんなら自社開発できなくもないですが、やはりそれだと遅いですし、使い勝手もあまり良くない訳です。

――楽天やヤフーなどで色々な問題が表面化してきています。そうした影響から、自社サイトへの欲求の高まりが顕著になっているのでしょうか?


そうですね。独自の店舗でちょっとずつやりたい、という想いはみなさん共通です。ですが、やはりリスクは避けたい。そこで、リスクを極力抑えながら自社サイトを育てていきたいと考える訳です。そのような流れというのは確実にあるでしょう。
では、ASPで成功していた方はどうするかと言うと、当然、またASPには移りません。そうした場合、次にくるのが「独自店舗で」という考えですが、独自開発型で1000万円コストをかけられるかと言うと、おそらくかけられないでしょう。そこで、「EC−CUBE」を利用してもらう、ということになる訳です。
そうした背景もあり、独自開発型の市場の塗り替えは容易だと思っています。ただ、ASP型の市場はそう簡単には塗り替えられないでしょう。なぜなら、ASP型にはブラウザだけで簡単にスタートできるというメリットがあるからです。そうしたメリットを提供できない限り、塗り替えは困難であると思います。
では、それを可能にするためにどうするかと言うと、先ほども言ったように、ホスティングパートナーということでレンタルサーバーに標準的に搭載してもらうことです。あらゆるレンタルサーバーに標準搭載されれば、もうそれはASPと同等であるということですから。大体普通は、まずレンタルサーバーを契約してからECのASPを契約する、という形になりますので、始めからレンタルサーバーに入っていればASPよりさらに手軽になる訳です。

1年で2万店の増加が目標

――今後1年間での売り上げはどの程度を見込んでいますか?

売り上げに関してはまだはっきりとは予測が立たないのですが、「EC−CUBE」利用店舗の増加ペース、というところでいくと、現在単月で1000店舗ぐらいずつ増えています。その数字はおそらく今後、どんどん増えていくでしょう。楽天さんで現在稼働している店舗はおおよそ2万店だと言われていますが、そのあたりの数字は今後1年ぐらいで越えていけるのでは、と思っています。そうなると、必然的に一定レベルの影響力を持つことができると思います。

――課題は。

オープンソースというのは、基本的に無保証なんですね。例えば、システムに何か不具合が生じたときも、問い合わせ先というのはありません。自分で解決しなければならない訳です。おそらくそのあたりが今後、ASPの市場を塗り替える上での障壁になってくると思います。なので、まずこうした点を改善するため、例えばコールセンターなどのしっかりしたサポートサービスを有償でも提供していく必要があるでしょう。「オープンソースだから無保証です」ということではなくて。実際、そうした話はもう具体的に進んでいます。
 ただ、そうなるとやはり制作会社に頼める方以上がメーンターゲットになってくるでしょうね。制作会社に依頼しても50万から100万ぐらいはかかる訳ですから。そうしたコストがかけられない小さな個人レベルでは利用は難しいと思います。
また、制作会社に頼むつもりのない、「自分たちでやってみよう」という方も当然ターゲットとして入ってきますから、うまく流れに乗れば一気に拡大していくのでは、と考えています。ECサイトが今どれぐらいの数あるのか明確には把握しきれないのですが、大体50万店から100万店ぐらいでしょう。そのあたりをしっかりと押さえていくことが重要です。短期的に見て、ここ1年ぐらいで2万店の増加として、そのあとは一気に急成長できるのではと思っています。
もちろん、モノはオープンソースと言っても、広めていくためにはしっかりとしたプロモーションが必要ですし、サポート部分も含め、色々なことをしていかないとビジネスとしては成立しません。ある程度体力が必要とされる訳ですが、そのあたりをしっかりやっていくことが普及につながると思います。


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