2006.09 無料公開記事      ▲TOP PAGE

新潮流・通販を変える◇ネットビジネスの開拓者に聞く

畑野仁一・Any代表取締役社長

"ユーザーの囲い込み"は幻想だ


 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)と呼ばれるコミュニティがネット上を席巻している。最大手の「mixi」の会員数はすでに500万人を突破。日本のSNSの大勢はほぼ決した感がある中、大手総合商社など9社が出資した総合SNS「Any(エニー)」が誕生した。米国の成功モデルを踏襲したスキームとEC事業者など法人向けへのコミュニティの機能提供で、先行他社を追い落とし、日本一のSNSへの道を突き進む。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

「mixiはネット的ではない」
学生の疑問がきっかけで誕生

産学連動のSNS

――「mixi」や「GREE」などの総合SNSがすでに膨大な会員数を持っています。なぜ、このタイミングで新たなSNSなのでしょうか。

「Any」は慶応義塾大学大学院経営管理研究科(慶応ビジネススクール=KBS)の学生たちと起業しました。きっかけは私が講師として招かれた授業でした。「Any」の取締役でもある岡田先生(KBS助教授)の授業の中で05年9月に私がひとつのワークショップを受け持ちました。その中である学生が口にした「疑問」にヒントを感じ、3カ月の授業が終わった直後に、学生たちと徹底的に討論し、年末に「やろう」と決めました。その後、2カ月間という急ピッチでシステム構築を終え、3月に会社を設立しました。

――学生が口にした「疑問」とは。

「mixiやGREEはなぜ成功しているのでしょう?。両サイトとも典型的な『WEB1.0』モデルじゃないですか。しかもインターネットの本質を無視しているにも関わらず、何でうまくいくのでしょう」というものでした。彼らはmixiやGREEを「楽天」みたいなWEB1.0のビジネスモデルだと言うんです。

要するにインターネットの本質とは基本的に「誰もが全世界に向けて低コストで情報発信することができる」というものじゃないですか。ところがmixiやGREEは中に何百万人のユーザーがおり、その中で一生懸命日記を書いても、ネット世界に情報発信はできていませんよね。

――紹介を受けなければ書き込みや閲覧などに参加できないというのが一種の"売り"ですからね。

そういうことです。要するにログインしないと情報を見ることができない。ログインには招待されなければならない。わざと閉鎖性にし、選ばれた人間しか参加でできないというものはインターネットの本質と全く逆じゃないかという「そもそも論」が彼らの発想でした。

彼らは学生なので、Googleの成功物語の本などをたくさん読んでいるわけですよ。その中でグーグルの創業者などは企業ポリシーとして「世界の知を再編成する」と言っていて要はインターネット上でGoogleの検索に引っかからないサイトは「存在しないものと一緒」と、Googleは言い放っています。ということはmixiやGREEは存在していないのかと。インターネット的に見ればmixiの何百万人のユーザーは存在しないのと一緒なのかと。

私はネットマイル(日本最大のネットポイントプログラム運営社)の立ち上げから足掛け6年間、いわゆるネッ業界とどっぷりはまっているわけじゃないですか(笑)。すると見えないところも出てくる。彼らは学生ですから、当然ながらネット業界対して真っ白です。真っ白な人間が言ったことが私には非常に面白く感じました。一種それが仮説ですよね。ビジネススクールでは仮説を検証していく1つのパターンですから、「君たちが立てた仮説を検証しよう」ということで授業で検証し始めたんですね。

検証するにあたって、日本よりもネットが進んでいる米国のSNSの状況を徹底的に調べることになりました。調べた結果、やはり仮説が証明されたというのは御幣がありますが、当初の考えの正しさがある程度、分かってきました。

――その根拠とは何ですか。

現状、米国にはmixiやGREEのような形式で流行っているSNSは1つもないんですよ。言い方は悪いですがすでに廃れてしまっています。つまり、参加者を限定している、要は招待制のSNSですよね。米国のSNSの歴史を調べると、2年半前に唯一あったSNSは「Friendster(フレンドスター)」でした。Friendsterはmixiと同じように招待制で当時、米国で爆発したんですね。約1年でユーザーは1000万人集めました。当時の報道を見ると記事内容の多くは、「SNSはFriendsterで決まりだね」と。Friendsterがガリバー的に存在するので、他のSNSが出来てもうまくいかないのではないかという論調でした。

その当時、立ち上がったのが「myspace(マイスペース)」でした。myspaceは開設後わずか半年で1000万人を集め、もう誰も追いつけないだろうと言われていたFriendsterを抜いてしまいました。その後、myspaceを模倣して様々なSNSが誕生し、写真系の「flickr(フリッカー)」や動画の「YouTube(ユーチューブ)」など何かの機能に特化したSNSがどんどんできてきました。それらすべては招待制ではなくて、登録制なんですね。mixiのビジネスモデルを否定しているわけではありません。ただ、「Any」はFriendsterではなく、myspaceを参考に、というより徹底的にmyspaceを真似しました。ある種日本は特殊ですから、どうなるか分かりませんがインターネット上に公開するSNSの方がmixiよりも、成功するのではないかと単純にそう思いました。

(続きは月刊「ネット販売」にて)

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