2006.07 無料公開記事      ▲TOP PAGE

第17回:携帯キャリア研究5:NTTドコモ(後半)

インタビュー:NTTドコモプロダクト&サービス本部 夏野剛執行役員

カード業者がやらないからこそ生まれた「iD」


 ドコモのクレジット事業参入については先月号でひととおり解説しましたので、今月号では「夏野節」ともいうべき同氏の肉声をお伝えしましょう。

 「アプリのプレインストール」という強みを持つドコモのカードビジネス参入に既存カード業界は危機感を強めています。ドコモ自身が提供するクレジット決済スキームである「iD(アイディー)」に対して、JCBはそれとは互換性のない「QUICPay(クイックペイ)」を、UFJニコスは「Smartplus(スマートプラス)」を担いで対抗しようとしています。

◎「iD」が使える場所はEdyの5倍には増える!

――「DCMX mini」のスタートから1ヶ月が過ぎましたが加入者数の出足はいかがですか?

おサイフケータイのサービスで短期間でこれほどブレイクした例はないでしょうね。

DCMXminiは早くも約15万人ですよ。そして「iD」対応では「三井住友カードiD」が現在4万5千人ほど。すでに合計20万人近い方がiDユーザーになっているわけです。(2006年5月末日現在)

でも最初の1カ月はまだまだ「助走」ですよ。先日発表させていいただいた新しい902iSシリーズからは、おサイフケータイ対応機種にはDCMXもプレインストールになりますからね。そうしたら申し込みはアプリを起動して4桁のパスワードを入れるだけになる。販売店とも連携して大々的に加入者数を増やしていきますよ。

――いまやカード会社各社が「メインカードにしてもらうためには、おサイフケータイ対応が必須」と考えているようです。なぜそこまで重要な条件とされるのか、いまひとつピンと来ないのですが?

だっておサイフケータイは、ドコモの端末だけでも既に1,300万台を越えているんですよ?現時点で、そのうち3割ぐらいのユーザーが何らかのサービスでおサイフケータイを使っているから、それだけで利用者が既に400万人もいるわけでしょう。

――しかし実際の利用シーンでは?まだ、どこでも使えると言うにはほど遠い状況だと思いますが。

加盟店さんの数については、もうね、1年後にはガラリと世界が変わりますよ。現時点でiDが使える場所は、まだ3万カ所はないと思います。比較対象として挙げると、電子マネーの「Edy」が3万カ所をちょっと下回るぐらい。そして「SUICA」が2万カ所ぐらいです。iDは既に年内に10万台の設置が決まっている。年度末にはさらに15万台まで増えるんです。今でもEdyが使える場所はけっこう目にすると思いますが、その5倍ぐらいの数になるんですよ。他社さんは「予定」や「目標」の数字ばかりを出しているようですが、この15万台は既に「合意済み」の数なんです。だからこれが最低限で、私の中での目標はもっと高いところにある。

――夏野さんは日本のカード使用率を欧州並みに高めたいとおっしゃっていましたが、単一民族で治安が良い日本で、本当にそこまでカード決済は増えるのでしょうか?

だからそれは銀行さんの言い訳なんですよ(笑)。カード業界というところは銀行系列が多くて、あの業界は横並び体質だから、とにかく新しいことをやろうとしなかった。それでもカード業界は過去10数年間、ずっと少しつづ伸びてきたんですからね。
小額決済はカード会社も利益が少ないから、彼らにしてみれば「伸びているから今のままでいいじゃないか」ってことなんです。私なんか、どうしてアメリカのようにコンビニでもカードが使えないだろうとずっと思ってきましたよ。『日本人は現金払いが好き』だなんてのは、古い日本人の常識ですよ。

◎当初は自社で「iD」を作るつもりはなかった

――クレジット小口決済を普及させていくには手数料率の問題も重要だと思いますが、料率について、iDではどのような取り組みをされているのでしょうか?

確かに料率の問題は重要です。だからiDでは1万円の決済でも100円の決済でもすべて同じ料率にしたんですよ。他社のカード決済だと、一定額以下では決済金額に加えて「一回あたりいくら」という固定手数料がかかる場合もあるが、それでは小額決済には使いにくい。

実はね、当初はドコモ自身がiDなんかやる気はなかったんですよ。ところが他社の非接触ICカード決済スキームだと、1回で支払える金額の上限が決まっていたりする。でも、それってヘンでしょ?支払う側からすれば、決済額が2万円を超えたらケータイでは支払いができないなんて理不尽だ。

結局、既存のカード業界さんは、そういう上限を設けることで今までのカード決済の部分は何とか触らないようにしておきたいと思っているんでしょう。カード業界はそこを変えるつもりがなかったようだから、だから自社でiDをはじめる他になかったんですよ。

◎ショッピングは最大のエンターテインメント

――しかし既存のカード業界から見れば、ドコモはiDとDCMXのアプリを端末本体にプリインストールできるのだから、競争上ドコモに有利ではないかと考えているのではないですか?

いや、カード業界の問題じゃなくて、一番重要なのは「誰が使うのか」という話でしょ?マスコミはすぐに「NTTグループがカード業界の支配を狙っている」などと書くけど、どうしてまず利用者の立場で考えようとしないのか。うちはiDで、小額カード決済を普及させていくための決意と具体的なプランを持っている。だから、何の営業もしていないのに、コンビニさんなどではあっという間に採用を決めてくれたわけでしょう?

――ならば、他のカード会社が、iDだけでなく「QUICPay」や「Smartplus」のアプリもプレインストールしてくれと言ってきたら、ドコモはOKするのですか?

ビジネスモデルが合致すればね。でもプレインストールソフトが3つもあったら、お客さんは便利ですか?たとえばJCBのカードを皆が持っているとは限らないでしょう?だからiDは、ほとんど儲けのないようなオープンプラットフォームにしているんですよ。一番簡単なのは、カード業界の各社さんにそれに乗っていただくことでしょう。なせ別の規格を立ててくるのか、まったくわけがわからないですね(笑)。

――いずれにせよ、おサイフケータイは日本のクレジット業界を活性化する契機にはなりそうですね。

いま世界中の携帯電話会社がうちに話を聞きに来ていますよ。カードビジネスは、考えてみると携帯電話ビジネスにそっくりなんです。携帯電話も端末を売るだけではカネにならなくて、重要なのはアクティブ率とARPU(利用平均額)でしょう?クレジットカードも発行枚数なんてどうでもよくって利用率と利用金額で決まる。そこで一番コストが嵩むのは顧客獲得単価になってくる。ならば(携帯電話とクレジットカードの)顧客獲得を一緒にやってしまえば一番効率がいいことに気が付いたわけですよ。

――最後に、ケータイクレジットの普及はネット通販にもポジティブな影響を与えるでしょうか?

 ショッピングというのは「最大のエンターテインメント」なんですよ。買い物をするとき、カッコよく、気持ちよく買いたいから、そういう手段を提供したいんです。とにかくカード決済比率を全体に上げていくことで「商機を逃さない」ってことをやりたいんです。

今の世の中、もうモノは余っているでしょう?ほとんどのものは本当に必要なわけではない。「これはいい!」と思ったとき、買う決断をするかどうかは、そのとき財布に入ってるお金なわけでしょう。そのときチャンスを逃がしてしまうとお客さんは2度と買わないという「一期一会型消費社会」なんですね。

そうしたとき「与信」というものがすごく威力を発揮する。お客さんから見れば、「お金がないから買えなかった」となったけど、店舗から見たらその逆でしょ。そういうギャップを埋めていくのが「与信」という行為だと思っています。

――今日はどうもありがとうございました。

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