2006.06 無料公開記事      ▲TOP PAGE

メディア連動で「女性の美」を追求する

岩本眞二・スタイライフ代表取締役社長



雑誌とネットを軸とするファッションアパレル通販のスタイライフが今年6月、上場する。同事業の生みの親である岩本眞二社長は、大手通販の主力商品に対向。「女性の美」を独自のメディア連動モデルで追求し続ける。(聞き手は本誌・峯木多恵子)

ファッションに特化した理由

――ニチメン(現・双日)時代、Eコマース、それもファッションアパレル分野で手がけようとしたきっかけは。

 もともとニチメンの電子情報本部という部署で、自動車などの電子部品を、アメリカの自動車会社に輸出していました。そんなことやっていた私がアパレル販売をやった理由は「Eコマースをやりたい」と思っていたから。ニチメンに入ったのも、起業したいと思っていたからです。

 電子情報本部にいた1997年ごろ、アメリカでネットがものすごく流行りました。いわゆる「ネットバブル」の時代です。そのとき、ニチメンの社長が「Eコマースの日本語訳は『電子商取引』だから君たちがやれ」と、電子情報本部の我々に言ってきた。「誰かEコマースに詳しい奴はいないか」と言われ、手を挙げたのです。

 アメリカにいたので、ネットに興味はありました。しかし、正直に言って、そこまで詳しいわけではなかったですが(笑)、「起業するには絶好のチャンス」と思いました。そのとき手がけていた事業で収益を出していたので、「お前が稼いでいる範囲内でやれ」と。そこで97年11月、「ニチメンメディア」を設立しました。

――98年3月、あえて、コストの高い通販雑誌「Look!s(ルックス)」から着手しました。

当時、日本でネットの普及率は5%程度。そこで、なぜファッションをやったかということです。

 ブランド物は価格競争を受けにくい。つまり、「一物一価」。ここが大事なのです。価格競争を受ける商品を扱うと厳しくなるわけです。

 アメリカには価格比較サイトがたくさんあるので、価格競争に巻き込まれる商品を扱うと収益は出ないと考えていました。ブランド物に関しては、並行輸入以外の正規物では、既に商慣習ができていて、価格を壊してまで販売しません。

 もう1つ、当時、ネットは接続料がかかっていた時代ですが、ファッション≠ニいうアイテムや情報は、雑誌を買うように、お金払ってでも得たいものなのです。これらに着目しました。

――「ルックス」創刊後、順調に推移したわけではなかったようですが。

 「ルックス」は4年目で黒字化。それまでの3年間は赤字で、それはもう、苦労しました(笑)。雑誌の販売部数の伸びに比例して在庫も残っている。そこに、他社も苦労しているわけです。競合誌が結局、どんどん消えていくのも、在庫の問題が大きいからです。 
残ってしまった在庫をどうするか――。アパレル企業は処分してくれと言いますが、ディスカウントできません。アウトレット店舗で捌くなどの仕組みを築くまで、3年かかりました。

 今は日本で捌けるようになりましたが、当時は国内で安く売るなということで、台湾にアウトレット品を持って行ったり。今ではきっちり需要予測を取れるようになりましたし、たとえ残ってもきちんと処分できるようになりました。

新たな船出に、大打撃

――雑誌創刊から2年、温めていたEコマース事業をいよいよ開始する時期になりました。

 そこで大問題が起きたのです。2000年になり、ネットの普及率が10%を超えて「Eコマースをやろう」というときに、ニチメンの経営難で、約束していた出資をしてもらえなくなったのです。そこからが、もう大変でした。

――打撃を受けたときの心境は。

 「ここでやめたら、何のためにこれまでやってきたのか」と。資金を絶対集めてやろう」と、ベンチャーキャピタル(VC)へ自ら頭を下げて回りました。私が発起人でしたから。
VCを回り、資金を集められることになりました。ニチメンにそれを伝えたら「君のビジネスモデルはそんなにすごいのか」と、ようやく私のビジネスモデルを理解してもらえたのです。

 当時、ニチメンメディアは赤字でしたから、このままでは「赤字=岩本のビジネスモデルが悪いんじゃないの?」と言われてしまう。

 しかし、VCが出資を約束してくれているので、ここで失敗できません。
私は、それは嫌だった。自分に「失敗」という文字を刻みたくなかったからです。必死でした。

 私の好きな松下幸之助さんは「私は失敗したことがない」と公言するのです。なぜならば、「成功するまで絶対諦めないから」と。その本を読んでいたので、「ここで失敗を残したくない」と強く思いました。

――同年5月のスタイライフ設立時、ネットの普及はまだ低かったのでは。

 ベンチャーですから、事業というのは早過ぎてもだめですが、遅すぎたら絶対にだめ≠ネのです。

 Eコマースは日本で絶対流行るという信念がありました。ですから、スタイライフの設立は、思いつきで行ったものではなく、満を持して、タイミングを計っていたのです。まずは2年で黒字化が目標。どこまで我慢できるかの勝負でした。

――ネットでファッションアパレルが売れるという確信は、どこにあったのでしょうか。

 アパレルが通販会社のカタログで売れているので、ネットでも絶対売れると思いました。ネットは、今はまだ紙のようにうまく表現できないですが、技術が高まり、紙に確実に近付いていますからね。

――「ルックス」とEコマースサイト「スタイライフ」で、商品や対象層を別々に展開した狙いは。

 同じ会社で同じ事をやっても意味がないでしょう。だから、あえて、「ルックス」は20代前半、「スタイライフ」は26〜27歳にターゲットを若干ずらして設定。この目論見はいうまくいきました。「ルックス」の商品をネットで注文するとき「スタイライフ」のサイトに入るので、「ルックス」を卒業するころは「スタイライフ」に移行するわけです。

 ここは、考えに考えて、考え抜いたモデルです。私にはニチメンでEコマースを立ち上げようと手を挙げてから1年弱、研究する時間があった。テレビ、ラジオ、テレビ、カタログ、チラシなどいろいろな通販を経験してきたので、スタイライフの事業は、そこでのノウハウが活きています。

 通販事業で売り上げを増やそうとすると、カタログ発送部数を増やさなくてはいけなくて、同時にコストもかかってしまいます。一方、ネットは、損益分岐点を超えると急激に、一気に利益が出る。サイトを1つ作るだけで集客できるからです。

 また、「ルックス」は480円の有料なので、売れれば売れるほど、コストが下がるわけです。ここがネットのモデルに非常に近くて、且つ、無料配布カタログと違うところなのです。

 ネットは目論み通りに推移した一方、うまくいかなかったのはモバイルサイト。ターゲットを上に設定し過ぎました。立ち上げを急ぎ、時間がなかったのが反省点です。

――Eコマースに対するアパレル企業の反応は。

 懐疑的でしたよ。今でこそ「ネット、ネット」と言われていますが。ある有名セレクトショップブランドは2年越しで口説きました。

 当時は「ネットで通販?月いくら売れているの?100万円?」といった感じ。今は、「スタイライフ」というサイト名を言えば、大体理解して頂けるようになりました。
(続きは月刊「ネット販売」にて)

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