2006.05 無料公開記事      ▲TOP PAGE

目指すべきは偉大な芸術作品

佐藤光紀●セプテーニ専務取締役兼COO



若干24歳の当時、ネット事業を立ち上げた佐藤光紀セプテーニ専務。
創業者の「ひねらんかい」という教えの下、会社の姿かたちを変えた。
その佐藤専務は今期、ECの着手年度と宣言する。
(聞き手は本誌・島田昇)

 新規事業立ち上げ「7つの心得」

 ――若干24歳でネット広告事業を立ち上げられたわけですが、立ち上げ当時はどういった状況だったのですか。

 当時、入社2年目を経た私はDM発送代行など既存事業の営業をしていたのですが、頭の片隅には「新規事業を立ち上げたい」との思いがありました。それが当時の会社の思惑と合致し、99年4月、社是の「ひねらんかい(知恵を出そう、工夫しよう)」にちなんだ新規事業の立ち上げ部署「ひねらん課」の立ち上げにつながりました。ただ、立ち上げ当初は必ずしもネット広告をやりたいというわけではありませんでした。

――佐藤さんと言えば「ネット」というイメージですが。

 実は、この仕事をしようとするまで、全くネットを使ったことはありませんでした。何十もの事業計画を考案していく中で、最終的に最も有望だと判断したのが、ネット広告だっただけなので。

 ただ、新規事業を立ち上げるのであれば今の会社を大きく変革できる事業でなければ面白くないと思い、最初にそのための「7つの心得」を設けました。それに合致したのがネット広告だったわけです。

 具体的な7つの心得とは、@自分がやりたいことAやるべき大義名分があることB1番を目指せることC誇れる仕事であることD儲かることE成長市場であることF優秀な人材が集まる事業であること――となります。

 まず、120%情熱を傾けて取り組める事業であるかどうかを決める@は、それを手がける人にとって最大の原動力になるものです。とは言え、事業は独りよがりではなく、世の中や会社など周りから必要とされなければ存在意義がないので、Aの視点は欠かせません。

 激しい事業競争に勝ち抜くためには、BのNo.1を目指せるか否かも、人のモチベーションを大きく左右します。Cも事業の継続性を支える大きな柱で、社員が仕事に誇りを持って取り組めなければ、長続きはしません。数十年後、人に「自分はこんな事業を立ち上げた」と言えるかどうか。一大産業の創出を担っているという意識は、人を惹き付けます。

 当然ながら、株主の資本をベースに事業を行うので、Dの視点を持ってきちんとリターンもしなければならない。事業は夢やロマンだけでは駄目ですから。また、小さな企業が始める新規事業は経験の少ない新入社員や20代前半の人たちで立ち上げることが多いので、「この道何十年」のようなベテランのいる市場で勝負しても勝ち目はない。しかし、Eの今後作られていく業界であれば、正々堂々ど真ん中で勝負できますし、一商人として歴史を作ることもできます。

 最後のFは、人気業界は優秀な人材が集めやすいという狙いから設けました。事業は成熟していくと、どこかで衰退するものです。ですから、衰退する前に今ある形を変え、再び成長事業を創出していかなければなりません。その時、必要なのは人ですよね。世代交代をする時に優秀な人材が入りやすい状況でなければ、企業としての存続が望めません。事業は千差万別ですが、人気があるかどうかははっきりしていますから。

 これらを考えるのに時間はかかりましたが、以上のことに当てはまれば、何をやってもうまくいくだろうなと。

――今風の起業家が企業の存続性を何より重視するのは珍しく映ります。

 私の究極の目標は、日本を代表する偉大な会社を作ることです。国内には数百万という数の会社がありますが、本当にいい会社というのは数えるほどしかない。数百万分の1という確率です。それを一朝一夕に作るのは困難なことで、本来は一人ひとりが一生をかけて築き、また次の世代の人に引き継いでいくという繰り返しを経て、ようやく実現するものなのではないでしょうか。

 例えば、芸術作品で言うと「サグラダ・ファミリア贖罪聖堂」(スペイン・バルセロナを象徴する大聖堂)。これは建築家のアントニ・ガウディ・イ・コルネットが生涯をかけて取り組んだ作品です。ガウディは当初の構想にあった18塔のうち1塔だけを完成させ、残りの制作については世界中の芸術家たちに引き継がれ、そして今なお、制作が続いています。

 会社もこのような芸術作品と変わらないものだと思っています。そういう偉大な会社を作れたら、「生きていて良かった」と心底思いながら最期を迎えられるのではないかと(笑)

――最期を語るには早いと思いますけど(笑)。それにしても、ネット広告を選んだ決め手は何だったのですか。

 当時、価格比較サイトのようなメディア事業をやっていたのですが、その時に一番困ったのは集客でした。そしていつの間にか日々、集客のことばかりを考えている自分を発見しました。

 メールマガジンを発行した時のレスポンス率、サイト構造の見直しで変わるページビュー数――。これらを現場の最前線で行っているうちに、「これはノウハウとして確立されていないな」と分かったのです。いわゆる、今で言うところの「ネットマーケティング」ですよね。

 ネット広告はネットマーケティングの一手法です。当社はネット広告代理店として世間に知られていますが、根底にあるのはお客様のマーケティング課題をいかに解決できるのかということ。また、ネット広告から着手したのは、先ほどのAの「やるべき大義名分があること」というところで、当社のもともとのリソースを分解すると出てくる強み、法人向けの営業力があったためです。

メディアの価値は信頼性で決まる

――ネット広告事業は薄利な一方で、ポータル(玄関)サイトや仮想モールの運営企業と比べて競争力や将来性などに劣るとの指摘もありますが。

 それは「どこから攻めるのか」という見方によって大きく変わります。

 ネットの世界は、プロバイダーなどインフラ提供事業者が基盤にあって、その上にメディアがあり、その上にコンテンツとテクノロジー、さらにその上にコンサルティングの領域があります。我々の領域はコンサルティング領域のネットマーケティングですが、その領域から徐々に下りて行き、コンテンツとテクノロジーの領域にも広がっています。

 逆に、NTTやソフトバンクなどインフラ提供事業者は下から上へと上がり、メディアの領域に入ってきていますよね。メディア企業はコンテンツとテクノロジーを必要としているのに対して、当社はメディアがあってこそ生きる独自アフィリエイトの技術開発などを行っています。つまり、2つの勢力はある時点でつながるパートナー関係にあるのです。

――メディアの領域には下りていかないのですか。

 そこは微妙なところです。私はまず、メディアはユーザーが集まり、その上である部分に広告が入るという「ユーザーありきの姿勢」が原則だと思っています。広告を載せることを前提に考えたメディアは、ユーザーが支持しませんから。つまり、常にユーザーを見ていないとメディアは成立しないものなので、コンサルティングの領域にいながらというのでは無理。ただ、例えば広告の集合体のような価格比較サイトのようなものであればコンテンツ・テクノロジーの領域だと思っているので、これはやります。

――ブログ(日記風簡易型ホームページ)などCGM(消費者主体型メディア)はその流れの典型ですよね。

 現在、メディアはより個人のものになりつつある過程にあります。イメージで言うと、今まで大きな塊のようなものだったメディアが、バラバラと崩れて小さな塊の集合体になりつつある。例えば、その小さな塊をグーグルはテクノロジーを用いて繋ぎ、メディア化しています。こうした状況が、メディアの進化です。

 当社が小さな塊自体をやることはありませんが、メディアの進化を担う個々の塊を繋ぐものは積極的にやっていきます。アフィリエイト(成果報酬型)広告などはそうですよね。

――ブログ検索のようなものもやるということですか。

 非常に興味はありますね。特に、ブログ検索やバーティカル検索(ショッピング検索「フルーグル」など特定領域に限定した検索エンジン)などは注目しています。具体的なことはまだ言えませんが。

――一方で、注目されるSNS(紹介制のコミュニティーサイト)はクローラーのような繋ぐものを受け付けない特性も持っていますが、これについてはどうお考えですか。

 SNSはブログよりもずっと伸びると思っています。ブログはメディア価値で言うと、比較的低い。従来の掲示板などと近くて、それのもっと進んだ感じ。メディアの価値はやはり信頼性で決まるので、SNSは自分の知り合いがいるから信頼性が高いわけです。SNSのページビューベースあたり売り上げや利益をブログと比べると、何倍も違う。つまり、ページビュー価値はSNSの方が圧倒的に高いわけです。ブログ事業がコンシューマー向けビジネスとして収益化するのは、もう一歩何らかの技術革新が起きてからでしょう。

――投資案件を考えた時、ブログよりもSNSに興味があると。

 どちらかと言うとそうですね(笑)

――投資案件で今最も重視している領域はどの辺ですか。

 Eコマース関係ですね。広告やマーケティングのノウハウは蓄積できているので、次は売場作りにシフトしていかなければなりません。論より証拠ということで、売れる仕組み作りや、実際にかなりの売り上げ規模を持つ通販サイトの運営というのもやりたいです。

 そのどちらに注力していくのかということを考えると、まずは当社のお客様ありきなので、競合することがないように中立性を明確にし、都度、我々はどの領域をやるのかを決めてやっていくということになると思います。そういう意味でこれはかなり慎重にやります。

アパレル分野に商機

――どの商品分野に注目していますか。

 あまり細かく言えませんが、アパレル全般に興味を持っています。現状のアパレル業界は非常にアナログな世界なので、ネットマーケティングのノウハウやネットリテラシーは非常に低い。ですから、ここで当社がやる意味が大いにあります。実際、我々が手がけているアパレル通販の案件を見ても、それなりの売れ行きを示しており、マーケットの可能性としては十分にあると認識しています。具体的な手法について今はお話できませんが、今年はこの分野にかなり力を入れていくことだけは確かです。

――システム構築のソフトクリエイトと提携するなど、対仮想モールを意識しているように映ります。楽天など大手と比べて御社の強みは何ですか。

 仮想モール出店者はモールへの依存度が高いので、ある程度の時期になると自社サイトを立ち上げたくなります。集客ノウハウと売場作りの両方ができれば、それは可能です。その際、当社は集客ノウハウを、ソフトクリエイトは売場作りの仕組みを提供できるのですが、これは基本的に楽天などの仮想モールとは競合になりません。

 とりあえず通販を始めたいという人は楽天に出店していただき、自社サイトを立ち上げたいという人は当社に、という具合です。集客面において、仮想モールはアフィリエイトやSEM(検索エンジンマーケティング)などの販売ノウハウで自分たちの領域に縛られます。ところが我々は、仮想モールも含めて全く別のところからも集客してきます。

 一方、楽天やヤフーは広告の領域で非常に重要なパートナーなので、その辺はうまく棲み分けてやっていきます。

 顧客にとって重要なことは、不便なことを解消するということ。それが今、通販においてはモールしかないので、そうでないものというのは、やるべきものであるし、私たちがやりたいことでもあります。かつ、それは世の中から必要とされていることでもありますから。

――2011年に300億円のEC売り上げを目指していますが、どういうイメージを想定していますか。

 それはアフィリエイト広告と販売当事者としての通販、システム提供事業の売り上げを併せたものです。我々は中期経営計画の2年目に入り、今期はECの着手年度でもあります。今期一杯がECの最初の塊を作るタイミングなので、具体像については段々とその形を明らかにしていくでしょう。



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