2006.05 無料公開記事      ▲TOP PAGE

携帯キャリア研究B:ボーダフォン

ソフトバンクの勝算や如何に?

孫正義氏の戦略を読み解く




 シリーズ「携帯キャリア研究」の2社目は、この3月17日、ついにソフトバンクによる買収が発表されたボーダフォンです。「1兆7,500億円」という買収総額それ自体、日本企業によるM&Aとしては史上空前の金額。通信業界のみならず日本中で大きな話題を呼んだことはご存知の通りです。果たしてボーダフォンはソフトバンクグループ、特にヤフーとの連携によってここ数年の低迷を打開できるのでしょうか?現時点で伝えられてきている情報をもとに、孫正義氏の戦略を読み解いてみましょう。

  グローバル戦略込みなら高くはないかも?「1兆7,500億円」

 まず話題になったのは、この「1兆7,500億円」という巨額の買収金額への賛否です。経済界でもその価値評価は分かれており、たとえばムーディーズ・ジャパンは、この買収によりソフトバンクの格付けを引き上げる方向を示唆しましたが、日本格付研究所は、それとは反対に「トリブルB」だったソフトバンクの格付けを引き下げる可能性があるとコメントしています。要するに財務の専門家ですら、まだまだ評価は固まっていないということ。そして今後新しい材料が出てくれば、これらの格付けはまた動くだろうということです。

 ひとつ言えることは、この金額が高いか安いかへの評価は、今後ボーダフォン本国が、どれだけ自社のグローバル展開に成功できるかにも大きく左右されるだろうということです。ソフトバンクはこの買収によって、ボーダフォン本社にとってIR上大きなお荷物になりつつあった日本ボーダフォンを買い取ったのみならず、返す刀でボーダフォン本社と提携することに成功しました。ソフトバンクグループが持つデジタルコンテンツを、携帯電話に「抱き合わせ」して、今後はボーダフォンのプラットフォームである「ボーダフォンライブ!」を通して、世界中に配信できるチャンスを得ることになったのです。

規制が少なく各社がガチンコで勝負しているPCインターネットの世界では、ネットコンテンツやサービスを海外でも展開し成功させることは至難の業です。しかし「ボーダフォンライブ!」のように、なかば独占的なプラットフォーム上からコンテンツを配信する仕組みならば、日本企業でも十分に勝算はあるかもしれません。(パソコンソフトの世界では日本企業は国際競争力がまるでないのに、任天堂やソニーのゲーム機用ソフトなら世界中にソフトを輸出できた前例を思い出してください)

さらに、ソフトバンクは進出先の各国で現地法人の設立を意図しているとも噂されています。これらを次々と各国で上場させ、上場益を返済に充てれば、1兆7,500億円と言えども決して高くはないかもしれません。

仰天秘策は「民放テレビ番組のケータイ配信」?

 この買収が報じられた当初、私は、「ボーダフォン買収はあまりにも時期が悪かったのではないか?」という疑念を拭い去ることができませんでした。なぜなら、ソフトバンクがボーダフォンのシェア奪回を意図して、今後いかに魅力的な携帯電話端末を投入してこようにも、新しい端末の開発には最低でも1年を要するからです。1年後といえば、すでに2006年10月にはスタートする番号ポータビリティよりも後の時期になります。各種調査でも、もっとも「顧客満足度が低い」という統計が出ているボーダフォンにとっては、大幅に契約数を失いかねない「危険な時期」には間に合わないということになるからです。

 ところが、関係各所への取材や調査を進めていくうちに、どうやらこの買収は、昨年の秋口あたりから「選択肢のひとつ」として周到に準備されたものであることが分かってきました。関係筋によれば、ソフトバンクはすでに端末メーカーと協力して、まったく新しい、画期的な機能を持つ「ソフトバンクケータイ」の試作機を完成しているようです。

 目撃者によれば、どうやらその端末はボーダフォンが先日発売したばかりの、携帯電話初のVGA(640×480ドット)液晶を備え、画面を90度傾けて横長の画面とし、フルブラウザとしても使える機能を備えているようです。今まで携帯電話のフルブラウザと言えば、画面の表示やスクロールが遅く実用性に乏しいという印象でしたが、試作機では最新の高速な専用プロセッサを用いて、かなり高速でストレスのない表示を実現しているとの噂も聞こえてきます。当然、そのフルブラウザを使って「Yahoo!Japan」などPCインターネットでは圧倒的な強みを持つ自社グループサイトへのアクセスが可能であり、特にネットヘビーユーザーにとっては魅力的なモデルと映るでしょう。

 しかし、ソフトバンクが意図しているのはどうやらこれだけではなさそうです。同社はすでに昨年9月、民放5社と提携して、地上波テレビ番組のオンデマンド配信について提携している旨が報じられています。当時このトピックはあまり話題にはならず、PCインターネットで、USENが提供する無料動画サービスの「GyaO」への対抗策だろうと見られていました。しかし、どうやらこの動画配信の提携は、すでに携帯電話での動画配信を含めての提携であったらしいのです。

 消息筋によれば、これらの新しい「ソフトバンクケータイ」は、ボーダフォンが採用する第3世代方式の「W-CDMA(パケット下り384kbps)」のままでも、本体端末側で強力な画像処理プロセッサを備えることにより、「テレビ番組並み」の画質の動画を視聴できるようだと言われています。ケータイ動画配信といえば、今月にサービスを開始したばかりのUSENの「モバイルGyaO」がイメージされますが、ソフトバンクが行う動画配信はGyaOのそれとは異なり、民放テレビ局の豊富な番組を配信できるというのですから、もしもこれが実現すれば、ワンセグをしのぐ強力なキラーコンテンツになる可能性もあるでしょう。

 そのほか、料金体系などでもソフトバンクは各種の秘策を練っているとの噂も聞こえてきます。しかしこうした「超ハイスペック端末」の噂を伝え聞くだけでも、すでにソフトバンクの「本気」は十分に伝わってきます。これらの「仰天秘策」は、番号ポータビリティ実施による解約を阻止するためにも、秋ごろまで、その中身だけでも発表されるのではないでしょうか。(続きは月刊「ネット販売」にて)

【モバイルジャーナリスト:三田隆治】


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