2006.02 無料公開記事      ▲TOP PAGE

解説(千趣会、DeNAとモバイル通販の共同出資会社設立)

八方塞がりの有望市場へ先手



 千趣会がディー・エヌ・エーと共同出資会社を設立する背景には、若年層開拓には欠かせないと有望視されるモバイル通販展開をテコ入れする狙いがある。一方、モバイル通販は通販各社にとって対応に苦慮する案件で、その最大の問題となっているのは、事業展開する上で携帯電話キャリアの意向に大きく左右されることだ。

 言うまでもなく、ネット上で最大の集客力を誇るのはポータル(玄関)サイト。携帯電話サイトでそのポータルにあたるのが携帯電話キャリア各社の提供する公式サイトなわけで、通販事業者はこの公式サイトからの新規顧客獲得を念頭に置いた事業戦略を立てなければならない。

 しかし、パソコンと携帯電話ではポータルの環境が全く異なる。パソコンではネット上にあるすべてのサイトに検索エンジンを活用して辿り着けるが、携帯電話はそれが難しい。検索エンジンが発展途上であることに加え、利用者は通信料を気にした閲覧を余儀なくされるためだ。結果、利用者はネット上で自由な行動を取りづらいため、公式サイトへ登録されたサイト閲覧に限定されがちとなっている。

 携帯電話利用者の6割弱を握るNTTドコモは特に、公式サイト上での事業展開にキャリアとしての意向を強く要求するとされ、事業者は自由な発想で事業を組み立てづらいとも言われている。さらには、パソコン上ではすでに主流の集客手法となったアフィリエイト広告や検索エンジンマーケティングといった展開も今は期待できない。

 いわば多くの通販事業者が「公式サイトに入らなければ集客できないが、そこで思うような行動を取れない」という状況下にあると推測される。

 一方、通販企業は自社媒体の受注ツールとして携帯電話を活用しているのが現状。つまり、現時点でモバイル通販の売り上げを伸ばすには、既存顧客へ携帯電話を受注ツールとして活用するよう促すことと、カタログ通販事業自体の伸びを目指さなければならない。だが、各社は既存顧客のネット誘引が踊り場を迎えた模様で、すでに洗練されたカタログ通販事業を伸ばすことは困難と見られる。となると、携帯電話のサイト上のみで売り上げを伸ばす戦略を立てなければならないわけだが、それも前述の理由で難しい。

ある意味で通販企業のモバイル通販は、八方塞がりの状況にあると言えるのだ。

 ただ、インフラとしての携帯電話は大きく変わろうとしている。利用者が携帯電話キャリアを簡単に変更できるナンバーポータビリティーの実施やパソコンと同様のサイトを閲覧できるようになるフルブラウザの浸透。固定電話と携帯を融合させるFMC(Fixed Mobile Convergence)やホットスポット(無線LANなどでネット接続するための空間)の拡大が、携帯電話の在り方さえも変えてしまう可能性を秘める。

 近く予想されるこれら移動体通信端末の激変を考えれば、これまでのキャリア主導の環境がこのまま続くかどうかは不透明。当然、そこに乗っかるモバイル通販市場の定義さえも曖昧なものになる可能性が高い。こうした状況を勘案すれば、モバイル通販のノウハウで先行し、2番手のキャリアとなるKDDIとも密な連携を取るディー・エヌ・エーと組むことは、大躍進が予想されるモバイル通販展開において、千趣会が大きく先手を取る契機になるかもしれない。(本文は月刊「ネット販売」をお読み下さい)
【島田昇】

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