2006.10 無料公開記事      ▲TOP PAGE

顧客は「タウン」と「タワー」での一通販企業が相次ぎSNSを開始

顧客の本音探り≠急ぐ



  ――ムトウ「ハッピークエスト」、スタートトゥデイ「ゾゾレジデンス」

 通販で獲得した顧客またはその層へ向けた「SNS」(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を開始する通販企業が相次いでいる。最近では、一方通行になりがちだったカタログのデメリットを補完する狙いから、双方向性のあるネットを活用した顧客参加型の企画に取り組む企業が増加している。しかし、より本音を引き出すには企業との壁を低める必要があると判断し、より双方向性の高いSNSの活用に踏み切ったようだ。9月に入りムトウ(本社・浜松市、西田溥社長)とスタートトゥデイ(本社・千葉市美浜区、前澤友作社長)が相次いでSNSサイトを開設。仮想の会社や住居の一員として仲間意識を醸成。交流につなげていくモデルだ。今後も通販各社のSNS活用は続きそうだが、本業である通販と連携を持たせ、いかに売り上げへつなげられるかがポイントとなりそうだ。

ムトウ「ハッピークエスト」

 ムトウは9月1日、20代女性向けにSNSを活用した無料会員制のコミュニティサイト「happyQuest」(ハッピークエスト)を立ち上げた。カタログ「ラプティ」など通販事業の中心顧客層である20代女性間の流行や、嗜好性など潜在的なニーズの把握などを目的とする新規プロジェクト「ハッピークエスト」の一環。「女の子は楽しいが仕事です。」を切り口とする。起用したタレントの眞鍋かをりをプロジェクトリーダーとする「しゃちょー」を中心に、「楽しい」と思う情報を女性たちから集めて意見交換し、参加者同士の交流を深めていく。
ムトウは同事業開始の狙いを、ネット事業の強化とする。直近のネット受注比率は45%で、依然高まっている。しかし、「カタログの補完=ネット受注」の意味合いが強いのが実情だ。
通販事業においては、既存客の継続購入はもちろんのこと、全体のネット受注比率が伸びても売り上げ金額が伸びなければ意味がない。つまり顧客基盤の拡大が必要になるため、ネットを軸とした新規客の獲得と事業展開を急ピッチで進めている。小中章義通販事業部長が今年5月、「今夏をメドにかなり大型の新規ネット事業を立ち上げる」とコメントしていた事業の1つが今回始まったと見て良さそうだ。
ただし、事業モデルが従来通りの企業からの情報発信では販売色が強くなってしまう。このため「コミュニティ形成のためにSNSを活用する」(経営企画部)とし、同サイトで「ムトウ」の企業名を前面に露出していないのも特徴と言える。サイト運営者については明確には語らず、「基本的には当社」(同)と言葉を濁す。プロジェクトには、社内からカタログやMDなど横断的に集めた20代の女性5人前後が兼任で携わっているという。
一方で、かなり大掛かりな販促に着手しているのも注目に値する。テレビCMとネット広告を9月から10月にかけて行っている。若年層が視聴する深夜帯でも展開。15秒と短いながら場面がテンポ良く切り替わる、インパクトのある作りになっている。
 通販の既存顧客へは、配布するカタログに折り込みチラシを同送し、サイト誘引を狙う。

「会員=しゃいん」で帰属性持たせる

 サイト特徴は、「しゃちょー」を中心に、バーチャル組織の中で同プロジェクトが動いていく点だ。サイトを1つの会社に見立て、「ぐるめ部」「りょこー部」などと名付けた各テーマの部門に、「社員」(会員)は所属。まず「出社」(ログイン)して部内で情報交換し、社員同士が交流を深めていくことになる。1つのテーマや趣味を軸として集う他のSNSと異なり、より「属す」という行為をイメージしやすい。
 「社員」(会員)から寄せられた意見に基づいて企画を進行させる「しゃちょー」の様子を、ネット上でテレビ番組風に動画配信するのも目新しい試みと言える。1回につき5分番組を3本、計15分のものを、月に4回、半年間に渡って公開していく。継続的に切り替え、「プロジェクト」への参加意識を、より高める仕掛けと言えそうだ。

本業、通販への効果は?

「現時点では、通販サイトへの誘引が(今回のサービスの)狙いではない」(経営企画部)と同社は強調する。まずは同事業の狙いを「ニーズの把握」「マーケティング」とし、「今後の展開はまだ何も決まっていない」と説明するに留まる。
 同サイトの会員数は、今期(07年3月期)末までに35万人を目標に掲げている(ムトウ本体のネット会員数は約100万人)。サイト運営に関しては「利益追求や売り上げ拡大は重視していない」とうたっているが、タレントの起用や広告展開を見る限り、自然の流れとして収入源の確保は必要となる。当然、後々は基盤を持っている通販事業や、広告集稿の展開に移っていくと考えられる。
 
スタートトゥデイ「ゾゾレジデンス」

 一方、スタートトゥデイは9月9日、大型な告知はなく、自社サイト内でSNSサイト「ZOZORESIDENCE(ゾゾレジデンス)」を立ち上げた。「既存のショッピング街「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を訪れるつまり「住人」、つまり会員に「インターネット上の仮想居住空間」を提供するというコンセプトだ。こちらもムトウの「ハッピークエスト」と同様、無料会員制で展開している。

(つづきは月刊「ネット販売」10月号にて)

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