2006.10 無料公開記事      ▲TOP PAGE

新潮流・通販を変える◇ネットビジネスの開拓者に聞く

内藤裕紀●ドリコム代表取締役社長

今や集客コストは下がり続ける時代


 「ライブドアショック」直後の年初、新たなネット企業を意味する「Web2.0銘柄」として株式市場から迎え入れられたドリコム。内藤裕紀は通販業界に対しても、ブログの存在を、広告と全く逆の「成長と連動してコストを下げ続ける」集客手法として提案する。(聞き手は本誌・島田昇)

ECとブログを繋ぐアフィリエイトは、
金銭的メリットに依るものではない。
半自動的に双方を繋ぐ"ノリ"だからだ。

モデルは「デニム」と「楽天」

――「ドリコムの内藤さん=日本のブログビジネスのトップランナー」というイメージが定着しましたね。

 よく言われますが、私が起業した2001年11月当時は、ブログの会社にする気はありませんでした。どちらかと言えば、モノ作りの会社を作るという意識が強くて、今でも社内ではブログ以外の商品を作っている人が多いです。
 ところが、収益基盤をいかに作るのかという点について考えると、なかなか自分たちのやりたいこととは連動しません。ですから、受託開発業務で収益を確保せざるを得なかったのですが、それだけではつまらない。それが2003年の初頭、ブログの存在を知り、ビジネスとして伸ばそうと考えたのが、当社のブログビジネスの始まりです。
 当時、ブログが流行ると思った人は3桁いなくても、2桁はいたでしょうね。その人たちの多くは、「ブログで会員を集めよう」というビジネスをしていました。ところが、我々の会社は規模が小さいですから、その競争に勝ち抜くことは体力的に厳しいし、さらにはブログが今後、どういうビジネスになるか分からないという状況でした。つまり、ブログで会員を集めるビジネスに参入するには、二重のリスクがあったんです。
 そこで我々は、こうしたブログビジネスの盛り上がりを「ゴールドラッシュ」と捕らえて、金を掘りに行く人たちに向けてデニムを提供するようなビジネスをしようと考えました。19世紀の米国で大成功を収めたリーバイストラウスの考え方です。
 さらに、彼の成功を突き詰めて考えると、作業着としてのデニムと、ファッションとしてのデニムの2つに大別できます。ビジネスとして2段階の広がりがあるわけです。ECという分野で考えればまず、金を掘るのがEC企業になりますよね。
 なぜEC企業が金を堀に行こうとするかと言えば、広告費を使う以外に集客手法を持っていなかったからです。最近ではブログがWeb2.0やCGMなどさまざまな言葉に置き換えられていますが、EC企業からすれば、要は集客を増殖させていく仕組みです。ですから、我々はその需要に対応できるシステムを提供していく。その視点が2003年の中頃に出きてきました。
 ブログがすごいのは、その情報発信力です。今後は、EC企業も中小企業も情報発信しなければならない。仮想モールに店を置くという考え方もありますが、それだと集客の部分が仮想モール任せにならざるを得ません。
 最初に当社が手がけたEC連動はゴルフダイジェストオンラインでした。2004年末くらいに事業化の話があり、05年の春くらいからサービスを開始しました。どうやったらブログの集客をECにつなげられるかという企画から、私が一緒にやりました。それから、さまざまな企業と話をしていくようになったんです。

――ブログとECを繋ぐ手法はどうやって考え出したのですか。

 モデルにしたのは楽天です。仮想モールを一店舗として考えたとき、自社のコミュニティー「楽天広場」から仮想モール「楽天市場」への送客に成功していたためです。これがなぜ成功しているのかを研究して分かったのが、楽天内にはもう1つの重要な存在として、アフィリエイトプログラム「楽天スーパーアフィリエイト」があることに気付きました。
 さらに、いかに利用者にアフィリエイトの存在を意識させないで使ってもらえるかも重要だと分かりました。ゴルフダイジェストオンラインでは、ゴルフ関連の用語が出たら、自動的にリンクを張って、それをECページに飛ばして、その売り上げの数%を利用者に還元するということを試行錯誤しながらやりました。
 我々はこうしたブログをビジネスにつなげるアフィリエイトのような存在を"ノリ"と呼んでいるんですが、「何が"ノリ"になるのか」というところを徹底的に研究し続けています。例えば、8月から「MONO+List」(モノリス)という"ノリ"の役割を果たすサービスのテスト展開を始めました。これは利用者がお気に入りの商品をワンクリックでクリッピングすると勝手にアフィリエイトになるというサービスです。"ノリ"とアフィリエイターは切り離して考えられない関係だろうと考えています。

――ノリというのは金銭的メリットの提供が重要なのですか。

 金銭的メリットというよりも、ブログとECを繋ぐ仕組みとしてアフィリエイトが使いやすいということです。金銭的メリットを強く押し出す手法もECのブログ活用として別コンセプトであればあり得ますが、コミュニティーをECの集客に生かすというコンセプトであれば、"ノリ"は半自動的に繋がるというメリットの方がメリットとしては大きいでしょう。
 必ずしも利用者が金銭的メリットで動くか否かというと、そうではないと思います。実際、本来アフィリエイトは利用者が月に何十万円も儲けられるというものではありませんから。アフィリエイトの良さは、コミュニティーの参加者にとって、単純に相互リンクの仕組みとして使いやすいものであるという風に考えた方がいいでしょう。
 要は、"ノリ"は買い手を売り手に変えることのできるツールという考え方です。それをするには、買い手にメディアを持ってもらわなければなりません。そのメディアがブログです。対面であれば普通に話せるので原始的なくちコミの形で買い手は簡単に売り手になれますが、ネット上ではそうはいかない。そもそも、ブログは始めやすくて更新もしやすいからこれだけ利用者が急増しているものなのですから、これをビジネスにつなげることができる"ノリ"も、それ相応に簡単なものでなくてはならないということです。

――御社は競合他社と比べてシステム的な優位性があると思いますか。
 
正直、ブログのシステム自体で競合他社と差別化するのは難しいと思っています。その中で我々がある程度のシェアを取るには、別の部分が重要になるでしょう。大抵、企業にとってブログは新規事業なので、不安も多い。そこで"ノリ"の機能や各種ノウハウ、不安に対する的確な答えやサービスを提供できるか否かが勝敗を分けると認識しています。
 ECということで言えば、基本的にブログビジネスのバリエーションは決して多くはない。レビューを集めたい、トラフィックを集めたい、買い手を売り手に変えたい――。ざっとこの辺に集約してくるでしょう。
 しかし、これらのバリエーションがただの集客装置としてしか機能していなければ、売り上げにはつながりません。いかにビジネスにつながるのかという意識を持った提案ができるかどうかが、重要になってきます。

(続きは月刊「ネット販売」にて)

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