2005.9 無料公開記事    ▲TOP PAGE

PCでもF1層に敵なし

ゼイヴェル大浜史太郎社長 × ヤフー松本真尚ショッピング事業部長



 急成長を見せるモバイル通販の雄、ゼイヴェルと、日本最大の玄関サイト、ヤフーとの提携が話題を集めている。両社は共同出資会社を通じ、10月にもPC通販サイト「ファッションウォーカー」を新設。F1層(20〜34歳の女性)に向け、ファッション関連商品や化粧品などを展開する。ゼイヴェルの大浜史太郎社長と、ヤフーの松本真尚ショッピング事業部長に提携の経緯と狙い、事業戦略、またモバイル・PCのトップ企業としての立場から、今後のネット通販市場の将来像などについて語ってもらった。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


高まるPCでの通販開始の要望

――なぜ今、PCへの進出なのでしょうか。

大浜  それにはまず、我々のこれまでの事業の推移を知ってもらう必要があります。ゼイヴェルの事業は実は、もともとPCから始まりました。2000年4月にPC上で「裏情報ドットコム」というファッションサイトを立ち上げています。しかし、サイトを立ち上げて10日後ぐらいにネットバブルが弾けてしまいました…(笑)。

それに広告事業も我々の大きな収益源ですが、パソコンサイトを立ち上げて広告を取るというのは難しい面も当時はありました。我々が事業のコアターゲットに置いているのは、一般消費者市場の70%以上のイニシアチブを握っていると見られる女性層、特にF1層です。ここはマーケットボリュームも大きく、広告事業としてのニーズもあります。ただ、サイトとしてのブランディングがないとなかなか良い広告主を集めることは難しい状況でした。ましてや、当社は後発組でしたので。

そこで我々は苦肉の策として当時、まだ白黒画面が主流のモバイルに戦略を絞るという判断をしました。この分野で自分達の力でマーケットを築けば、勝ちにいけるのではないか、いや生き残れるのではないかと思ったからです。携帯電話の画面は3×4センチの世界。画面のサイズが小さいので、PC以上にお金をかけなくても、きっちり作り込めば、他社よりも抜きに出られるだろうと考えました。そして2000年6月に立ち上げたのが女性向け総合モバイルサイト「ガールズウォーカードットコム」です。

モバイル上では日本で初めての女性サイトだったこともあり、ユーザーの反応はよく、想定より早く売れた。パソコンで始めたコマースでは本当にまったく売れなかったのに、それがモバイルのサイトをスタートしてすぐに売れ出した。新鮮で衝撃的な出来事でした。そこで事業を完全にモバイルにシフトして特化、今に至ります。

では、なぜ今、PCなのか。これは昨年あたりから、お客様の問い合わせで目立って増え始めた「パソコンサイトで商品を見られないのですか」という質問です。ブロードバンド環境の広がりというのもあるのでしょうか、お客様のPCサイトへのニーズが高まってきています。加えて、25歳で初めて「ガールズウォーカードットコム」に接したお客様は、現在30歳になっている。そういった部分ではパソコンに上がっていくフェーズに沿って、我々もPCサイトをもう一度始めたいと1年半ほど前から考え始めました。

――単独でのPC展開という選択肢ではなく、ヤフーとの共同展開という形を取ったのはなぜですか。

大浜  時間をかけた方がいいのか、または逆が良いのかという議論だと思いますが、もちろん、時間をかけて自分たちでPCサイトを立ち上げることもできました。しかし、ブロードバンド環境の拡大に伴い、ネット業界自体のスピードが速くなっている。そのスピードに乗るにはヤフーとの提携による展開の方が良いと判断しました。また、そうしたスピードの速い業界ではきっちり基盤を整える必要がありますので。

やはり大きいのはヤフーが持っているアクセス数と、我々が持っているマーケティング能力を合致させれば、最強ではないか(笑)と考え、提携の打診をしました。

――逆にヤフーがゼイヴェルと提携する狙いは何ですか?

松本  我々はポータルとしては非常に正しい状態にあります。なぜなら、インターネットの利用ユーザー数はそのままヤフーの利用数になっているからです。例えばネット利用者全体の「ユーザー数」「性別」「世代」を調べると、ヤフーのものとほとんど一緒になります。言葉は悪いが日本のインターネット人口マップとヤフーの利用者マップはほぼ一緒と言えるでしょう。この現状はポータルとして、正しい状態だと思います。どこかに特化しているのではなく、日本全国の国民に対して均等にリーチしているのはメディアとしては最大の価値であるはずだからです。

しかし、コマースという部分で言うと、難しい側面もあります。全ターゲットに対して平均的に全てを提供しようとすると、逆にカラーを出しづらいからです。私自身は「ショッピング」を担当するようになってから、まだ1年半ぐらい。何が勝ち負けを決める法則か、ちゃんと理解する必要があるように感じています。アメリカのビジネスモデルを見ても、モールという形態だけで全て成功を収めるのは難しいだろうなと感じています。

モールとして事業を追いかける必要がある。ただ、来て頂いたお客様の満足度を最大にすることを考えると、ある程度、深掘りしなければならない部分もある。しかし、ヤフーがある部分に特化していくと、メディアとして偏りが出てくる。全部やるんだけど、深くやりたい部分もある。それにはモールの中でジャンルごとに強いところとパートナーシップを取っていく必要がありました。ジャンルの中でも当然、コマースのマーケットの中でお金を動かしている層であるF1層の存在は大きく、これをちゃんと捕まえないといけないとの意識がそもそもあったというのが1点です。

もう1つは、モバイルコマースの伸びだ。PCの世界ではブロードバンドの伸び率とコマースの伸び率、成長の曲線がほぼ一緒でした。携帯の世界ではネット通信料金の定額制が始まり、来年には「ナンバーポータビリティ」が始まる。そうなるとPCでのインターネットがブロードバンドになったのと、まったく同じことが来年か再来年起こるだろうと思います。

ただ、携帯電話でブラウジングするのは定額制になっても、なかなかやりにくいだろうと思っています。例えば、PCのネットだと、「アマゾン」や「ヤフー」「楽天」といろいろと調べてみて買い物をすることができますが、携帯だと右に左へと行きづらい。初めからサイトに来る意味と意義がないと、モバイルはコマースとして成立しづらいはず。

その辺りのノウハウをゼイヴェルさんは持っている。よくオルタナティブな選択はなかったのですかと聞かれるが、モバイルのノウハウという要素をプラスすると、ヤフーとしては、この選択肢しかなかった。またゼイヴェルさんがやりたいことと、ヤフーがやっていきたいことが合致していました。会議室のホワイトボードでガンガン詰めた話ではないが、少なくとも居酒屋のテーブルの上で合致していた(笑)。そこの合致している部分が非常に重要であり、認識を共有できるのであれば、お互いのいい部分を足しあってやっていけるのではないかと思っています。

繰り返しになりますが、モールの中にセグメンテーションされたナンバーワンをたくさん持っていたいわけです。リアルなマーケットについても百貨店の一階の化粧品売り場がだんだん衰退し、「マツモトキヨシ」のような専門店が伸びてきています。専門店の強さがリアルの世界で出てくるのではあれば、ネットでも同じような傾向が出ないはずはない。

ヤフーとしては、ポータルもコマースもすべてのお客様の満足度を100%にしたい。しかし、モールでやっていると、どうしても100%の満足度にならない。70%まではいけるが、残り30%は特定ジャンルに特化しないとならない。その特化の部分でゼイヴェルさんと、もっと言うと大浜さんと認識が合って志が似ているので、我々としても、そこからスタートしました。

「ネットは売れるんだ」とメーカーに知ってもらう

――モバイル領域では、コマースを展開しているプレイヤーの数はそれほど多くはないはずです。しかし、PC領域では、競合がひしめいています。勝算はあるのでしょうか。

大浜  F1層をターゲットとするeコマースでは敵がいないと思っています。この理由については後で話しますが、FI層に訴求力の高いファッション性のあるブランドがネットに進出していないことがまず挙げられます。つまり当該層にとっての強い商品が現状、あまりない訳です。

我々の考えではインターネットの世界は現在、「第3ステージ」に入っていると考えています。「第1ステージ」は1996年から2000年くらいで「○○ドットコム」とか、どこかのURLが街中いたるところに出ていました。

それが2000年4月にネットバブルが弾け、「第2ステージ」としてポータル戦争に入りました。ヤフーや、楽天、ライブドアのような総合ポータルでないと(ネットでは)勝てないのではないか、というステージですね。去夏の「ホリエモン騒動」もあり、ここからユーザーではなく、衣料品メーカーの考え方がガラっと変わりました。「やはりインターネットを駆使しないと、企業として負けるんだ」という意識にですね。

とは言え、女性をターゲットにしたeコマースサイトを見てみると、それほど有力なサイトがないのが現状です。企業が運営している女性向けサイトは500前後、個人を含めると8万前後あると思います。ただ、その中で年間を通して売り上げをきちんと上げられているサイトはほんの一握りです。

なぜならば、いわゆるボリュームゾーン、一番消費が注目される世代、雑誌で言うと「CanCam」「JJ」「ViVi」「CLASSY」「Scawaii!」「Popteen」のようなボリュームゾーンに対して、訴求力があり、ファッション性のあるアパレルブランドがネットに参入してきてないからです。

ファッション・ビューティ業界は他業種以上に自社のブランディングにものすごく敏感です。総合的な仮想モール、例えば、キムチや梅干が並んでいる横に、自分たちの洋服を出す訳がありません。それは既存の流通でも同じで、デパ地下に、洋服や化粧品を並べませんよね。

我々は常に、ネット、リアル問わずブランディングということを意識してきました。そういった部分で昨年の5月に代官山の駅前に店舗を出したり、一般消費者参加型のファッションショーを03年春から実施したりしています。そうした施策は、「ゼイヴェルのサイトなら商品をもっと出していいかな」というメーカー側の環境作りのためです。

ファッション分野で考えると、一般的なインターネットでの販売はまず在庫処理から入ります。でもお客様は馬鹿ではありませんから、要らなくなった古いものは買わない。しかし我々はきっちりと紹介していくことで「インターネットは売れるんだ」ということを(衣料品メーカーに)知ってもらうことに努めてきました。

ファッション・ビューティ市場は15兆円前後あると言われている巨大なマーケットです。それに対して、マーケティング的にきちんと仕掛けられているネットベンチャーは少ないです。ほとんどの企業は売り上げ重視になるので売れるものなら、なんでも売っていく形になっていきます。一方、我々は未上場なので、一定の成長を維持しなければならないというプレッシャーはありません。

つまり、きっちりサイトのブランディングとビジョンを考えた上で商品提供をしていけます。その結果、現在、取引先企業は800社ほどになりました。取引先の中には、我々のサイトで月六千万円前後を売り上げている「109」の人気ブランドも含まれ、その他有力ブランド多数が参加しています。

そうしたブランドから度々、「パソコンサイトはやらないのですか」と言われるようになりました。そうした商品力があれば、PCでの展開も十分成功だろうと確信しています。

松本 (ゼイヴェルがPCでの通販で成功するのは)ぜんぜん難しいことでないと思います。コマースというのは何が一番重要かというと、間違いなく最後は商品です。ゼイヴェルさんは5年かけて作りになった(メーカーとの)信頼感があります。つまり、まず商品という絶対的な強みがあります。

もちろん、「見せ方」という部分も必要になりますが、ゼイヴェルはあの小さい携帯電話の画面の中で、信用と信頼を勝ち得てきた。モバイルでサイトを編集するのは大変な作業だと思います。これがPCになると単純に表現力が増します。編集能力もPCになるともっと伸びると思います。いい商品があって、編集力がしっかりできていれば、それだけで非常な強みとなります。

モバイルと異なり、PCではブラウジングに(ユーザーが負担する)コストはかかりません。ということは、やはりモバイルとは異なり、いろいろな情報を探すことができます。そうなると"情報サイト"であることも必要ですが、それはゼイヴェルさんの編集能力でカバーできます。それでいて欲しい商品・ブランドはしっかりと揃っている。あとこれに何が必要かというと立地条件でしょうか。

ポータルサイト「ヤフー!ジャパン」という場所は、日本でいうと「東京」だと思います。(ゼイヴェルのPCサイトは)東京の「109」にあり、商品はちゃんと揃っております。販売員もしっかりとしています。PCにおいても、奇をてらった戦略ではなく、コマースの王道を、5年間、ゼイヴェルさんがやってきたことをPCでも、きちんとやることが重要でしょう。

本当に(PCでの通販参入は)プラスの要素しかないと思いますよ。お店がどこにあって、中の店員がしっかり教育されていて、内装がしっかりしていて、置いている商品がしっかりしています。そんな店がなんで失敗するのか。そこはリアルだから、モバイルだから、パソコンだからといって戦略は変わらないはずです。恐らく、変えてはいけない部分です。
(続きは「ネット販売9月号」で)

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