2005.8 無料公開記事    ▲TOP PAGE

物売り勝るは"集客集団"

栗田勝●サクセス社長




 全くのゼロからスタートし、通販サイトとして急成長したサクセス。わずか設立5年で、数多の小売企業が目指し、果たせなかったネット売上高100億円の大台を極めた。型破りの経営でネットユーザーを引き込み続ける栗田勝社長は、自らを物売りに勝る"集客集団"と称する。(聞き手は本誌・島田昇)

片っ端から営業攻勢
企画力と"粘り"で何とかなる


――通販開始の経緯について教えて下さい。

 当社はPCパーツの店頭販売からスタートしました。設立当初、正直言って儲からなかったです。むしろ、全然売れなくて一気に崖っぷちに立たされましたからね(笑)

 そんな状況の中で、実験的に始めた通販が思いのほかうまく行ってしまったというのが実情です。

――通販の経験は?

 全くのゼロです。しかも僕、実はPCにあまり興味がないんですよ。商品となるPCパーツに至っては、ほとんど理解していなかった。PCを分解できると知って驚いたくらいのレベルでしたから(笑)

 でも、好きじゃないことがPC販売において有利な面もあります。PCに興味がない僕が見て買いやすければ、意外と誰もが買いやすいものになるんですよ。また、PC業界やネット業界の人には分け隔てなく徹底して何でも聞いて回りましたから、お客さんと同じ目線で基本的なところから細かく商品の説明ができたと思います。

 秋葉原って、商品知識のレベルの高いお客さんばかり来るじゃないですか。ですから、初心者の目線でちゃんと接客できる店員はもちろん、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」程度のこともちゃんと言えない店員が多いんです。秋葉原に来ないような人も訪れるネットの中で、そうした基本的な部分を押さえられたところにも、当社のサイトが受け入れられた面はあると思います。

――いつから成長軌道に乗り始めたんですか?

 開始当初からいきなりです。価格比較サイト「価格.com」からの集客がうまく行って、とても1人でやれるような状況ではないくらいに注文が殺到しましたので。

 まずは、お客さんが使いやすいサイトだとか、そういうことは何も考えなかったですね。人が来てくれなければどうしょうもないわけですから。どこにお客さんがいて、どういうルートで呼び込めばいいのかということばかりを考えていました。

 お客さんとしてはサーバーがよく落ちているし、サイトは重いしと、当初はかなり不便なサイトだったと思いますよ(笑)。でも、最初のうちはサイトの使い勝手を向上するために人を割くんであれば、集客に力を入れた方がいいと割り切りました。

 ですから、メール対応だとか、デザイナーだとか、そういう類の要員はおらず、全員が集客担当者という状況。1人でも多くの人を呼んでくるために、いろんな企画を考え、力技で何とかなることであれば何でもしました。

――具体的にはどういうことですか?

 最初は「価格.com」でどんな商品でも最安値店として掲載されることにこだわりましたね。変動していく価格を担当者がほとんど24時間張り付いて更新していくわけです。利益うんぬんなんてことは考えずに、「今が勝負だ!」ということで。

 集客する上で大前提となるのは、「激安」というイメージ。強い家電量販店はどこもそういうイメージがあるでしょう?実際にはほかに安い店舗があっても、「ここに行けば安く買える」と思わせるイメージ戦略が重要なんです。

 あちこちの掲示板でサクセスの話題が取り上げられるように仕かけることも積極的にやりました。実際、サイト上では高額商品の1円セールなどもやっていましたし、こうした「激安」のイメージを植え付ける企画を次から次へと実施することで、一気に「激安店」として注目されるようになりました。

 それと、パートナーサイトを積極的に開拓したことも大きいですね。取引きのある企業はもちろん、全く接点のない企業にも「何か一緒にできませんか?」とどんどん話を持ちかけました。

 例えば、ある集客力のありそうな分野が気になったら、そのキーワードを検索エンジンに打ち込み、表示結果に掲載されている上位のサイトに片っ端からアプローチをかけるわけです。

 ネットだからって、集客するのに待っていてもしょうがない。とりあえず「何かやらせてもらえませんか?」と電話することです。電話やメールするのはタダみたいなものですし、話を聞いてもらうのもタダみたいなものなんですから、やらなければ損です。どんな大企業にでもどんどん積極的にアプローチしましたね。「社長に会わせてもらいたい」などと言っても、最初は大抵断られるんですけれど、それが何度も粘り強くやっていると何とかなるものなんですよ(笑)

 そのおかげで、PC業界だけに限らず、渋谷系のネット企業や雑誌・テレビなどにも随分と人脈が広まりました。これが集客と同じくらい重要な取引先の拡大にも大きく影響しましたし、ネットのことに関してもかなり詳しくなりました。

 ログ解析などもかなり早い段階できちんとやっていましたし、創業1年くらいでSEO(検索エンジン最適化)・SEM(検索エンジンマーケティング)などもやっていましたからね。特に、当時はSEO・SEMをやっている企業はほんの一握りでしから、ほとんど1人勝ちの状況でした。

 SEO・SEMに関してはかなりこだわった。SEOの専門会社にも負けていなくらいのレベルだったと思いますよ。例えば、SEOに使うキーワードが100万キーワードあるとして、その全部のキーワードで1位になるために頑張りましたからね。

 普通は1キーワードとか3キーワードだけで1位にするという戦略を取ることが多いじゃないですか。それをうちは「プリンターでエプソンを抜くにはどうしたらいいか」とか、そういうレベルで考えていましたからね。

やるなら目指すは1番
2番ではビリと同じ

――そのモチベーションを支える原動力は何ですか?

 「何でも1番でなければ駄目」というのが当社の社訓のようなものなんです。「2番ではビリと同じ」だと思っていますから。

 やはり、やるなら1番を目指さないと駄目。そうでなければ、社員も命を削ってやってくれないですよ。「仕事が1番楽しい」と思ってもらえて、1番になることを徹底して追い求め、こだわる志を持った人を育てなければ、競争に勝てません。

 とは言え、あまり他社のことを意識しているわけではありません。自分自身、会社を経営する上で、1番じゃなければ楽しくないだろうし、楽しくなければ駄目だろうという意味での、昔からのこだわりです。

――知名度の高い家電量販店はネットでも強いです。ヨドバシカメラが200億円超の売り上げとなり、業界最大手のヤマダ電機が本腰を入れるなど、今後、この分野では激戦も予想されます。

 確かに、大手家電量販店はネットでも強いと思います。ただ、ネット販売は家電量販店というビジネスモデルと、ちょっと違う。

 ネット販売で重要なのは、いかにネット上の集客がうまいかどうかということだと思うんです。我々はネット集客のスペシャリスト集団という感じなので、どこもうちにはついて来れないんじゃないかな。PCという商材でなくても勝つ自信は十分にありますし。

 家電量販店は物を売るという概念でくるでしょう?でも当社は、どんな手段を使い、いかにお客さんを集めてくるかという概念が先行するんです。当然、接客もきちんとすることは重要ですし、それはそれで十分に配慮してやっているんですが、物売りの考え方だけではネット販売という土俵で勝つことはできないと思いますよ。

 あとは、大手家電量販店が企業としてどれくらいの規模でネット販売に力を入れられるかどうかですよね。うちは社員のモチベーションも高いですし、こだわらなければならない部分では徹底してこだわっていきますから。正直、負ける気はしないです。

――今期の業績推移は。

 すでに半期で売上高が100億円を超え、約5000万円の経常利益を計上しました。目標としている通期で売上高200億円、経常利益1億円も十分にクリアできると思っています。

 当社の商品別売り上げ構成比は、パソコン本体が2%くらい、周辺機器が29%、PCパーツが29%、DVDが12%。家電が23%、ソフト関連は5%というイメージです。まだまだPCショップとしての依存度が高いので、ここから脱皮していかなければならない。来年には、書籍をやったり、お酒や楽器、CDや宝石などといった新たな商品ジャンルを一斉に立ち上げようと思っています。

 6月に立ち上げたモバイルも好調です。PCの方のサイトには月間430万人くらいが訪れるのですが、今、モバイルのサイトにはPCの約1割にあたる月間40万人くらいがきています。全然違う客層が買っているし、特に女性が多い。今はまだNTTドコモだけで展開していますが、PCとモバイルの融合は今後の重要な課題なので、もっと強化していかないといけないでしょう。

 これまで、仕入れルートは国内だけだったのですが、海外の仕入れルートも徐々に開拓しています。これに関しては、当社がメーカーになるための足がかりにもしていきたいと思っています。当社のブランドとは別ブランドを作って、まずはキーボードやデジタルオーディオプレーヤーなどを開発します。商品はすでにあがってきているので、夏くらいをメドに売り出す計画です。

 また、次世代のECサイトを構築するための準備をしていて、来年にもこれが立ち上がる予定です。そうなるとかなり売り上げを伸ばせると思います。10倍くらいの売り上げは一気にいけるでしょう。そこからさらに、5年で売り上げ1兆円の目標に向けた新たなステージを目指して一気に走り出したいですね。

2006年冬に株式公開へ

――当面の大きな目標は何ですか。

 上場することが当面の最も大きな目標ですね。すでに主幹事証券も決まっていて、2006年冬の上場を目指して動き始めています。一方、そのためのさらなる成長に向けて、経営基盤をきちんと構築することも大きな目標です。今年の10月までには、固めたいですね。

 かつて勢いのあった企業が停滞している理由には、会社として謙虚さがなくなったりだとか、社内の勢いがなくなったりだとか、さまざまな要素があると思います。しかし、総じて、会社が大きくなるにつれてどこかで一生懸命やることをさぼってしまったところがあると思うんですよ。そういうことがないように、経営体制をシステム化していかないとならない時期に来ていると思っています。今まではあまりにも人力に頼っていたところが大きかったので(笑)

 ただ、組織が大きくなってくると、考えていることが伝わりづらくなる。いかにも「組織」という感じでは堅苦しいので、今までにないような新しい組織を考えています。1人ひとりが自分の役割を正確に把握し、かつ、目標を立てられて、すぐにその成果が査定に入って向上していけるようなシステムが理想ですね。仕事を一生懸命やっている人が楽しく仕事ができて、楽しくない人にはいてもらっては困るのですから、そこのところを公正に評価し、やればやるだけ評価されるものにしないと。

 それがきちんとできれば、市場が落ち込んでしまっても、日々向上していけますし、小さいところからコツコツやっていけるようにもなりますし。

 ただ、僕1人ではできないので、社内全体で話し合って作っています。やはり基本的に何よりも重要なのは人です。1人でいろいろ考えても、そういうものは皆が望むものにはなりにくいのが常ですから。先ほどお話した飛び込みで開拓した人脈もありますし、そういった人たちにもいろいろと相談しています。


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