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"メール低迷"は認識違い

アル・ディグイド●ビッグフットインタラクティブ最高経営責任者




 eコマースのプレイヤーの増加によるメールの絶対数の増加、またスパムまがいの迷惑メールにより、数年前に比べ、その効果が疑問視され始めた「eメール」。しかし、競合ひしめく米国にあって成功を収めたメールマーケティングの第一人者は、その高い効果性を改めて主張する。来日した米大手のメールマーケティング支援企業のトップ、アル・ディグイドCEOに、米国のメール事情などを聞いた。(聞き手は本誌・鹿野利幸)



クリックレートは送り方次第で跳ね上がるもの

同報配信ではなく、属性ごとのメール配信が重要

――来日の目的は何ですか。

 私どもと三井物産が業務提携を結び、三井物産が「miems(ミームス)」というサービス名で日本でメールマーケティング事業を開始してから、約2年半が経過しました。お蔭様で、順調な立ち上がりを見せております。日本での大手のお客様に直接、訪問することと、我々のサービスをご検討されているお客様へも訪問させて頂く予定で、セールス的な意味合いもあります。

――米国でも同様だと思いますが、"メール"はEC事業者にとっては欠くことの出来ない販促ツールです。ただし、市場の拡大とともに、プレイヤーの絶対数が増え、ユーザーが受け取るショップからのメールの量も比例して増えていっています。こうしたこともあり、以前よりもその効果は落ち始めています。

 日本で今、起きている状況は理解しています。その大きな原因は、未だ、いわゆる全員のお客様に対して、同じ内容のメールを配信している企業が多いのではないか、と考えられます。そうすれば、当然ながらクリックスルーレートは下がってきてしまいます。

お客様をいくつかの属性で分類して、そのお客様に最も関連のある商材に関するメールを送ることによって、反応率を上げることが可能です。

それと、当然ながらやはりコストの部分も引き続き、高いメリットがありますよね。郵便のDM、いわゆる実際の印刷物で、消費者に接触するコストとeメールで接触するコストを比べた場合に、明らかにeメールのコストの方が安いですから。

 ある米国の企業は150万のeメールアドレスに対して、5万ドルのコストをかけてeメールを配信しました。その結果、48時間で170万ドルの売り上げを獲得することができました。こうした結果を考えても、コスト的に優れていることが証明できますよね。そういう意味では、コストの高い郵便のDMではなく、こういったオンラインのeメールで、顧客とコミュニケーションすることでコストを下げていけるメリットがあると思います。

――効果のある「eメール」の出し方とは具体的にはどういったものですか。

 1つの例ですが、我々のクライアントで「ターゲット」という大手の小売量販店があります。日本のイメージで言うとダイエーとか、イトーヨーカ堂のような企業ですね。彼らは当然、店舗も持っていますし、オンラインショッピングサイトも展開しています。

彼らは900万人のeメールアドレスのデータベースを持っていましたが、十分に活用できていないようでした。というのは、これまではその顧客に配信するeメールの内容は単純に商品を羅列しているだけの同報配信だったからです。

その後、我々は彼らのメールマーケティングのお手伝いをするようになりました。具体的に行なったのはまず、顧客の購買履歴を分析して、それに関連付けたeメールを作り上げ、何を買うべきかと明確に提示したeメールを送ることによって、売り上げが従来の同報配信の時に比べ、50%〜70%の増加となりました。

 少しECとは離れますが「ワシントンポスト」も我々のクライアントの1社です。彼らもeメールを通じ、ニュースを配信しているのですが、メールを受け取るユーザーが過去にどの記事に興味を示したか、つまりクリック履歴に応じ、関連付けられた内容のメールが今後受信できような仕組みをとっています。例えば私がスポーツ記事に興味があるという履歴が残ればですね、そういったものが中心に送られてくると、読みますから、必然的にeメールの効果は上がっていきますよね

――「ワシントンポスト」の例は面白いですね。そうした仕組みをECに転用している企業はありますか。

 「コロンビアクラブ」というDVDを販売しているオンラインショップがそうです。前回送ったメルマガで例えば「アクションムービー」とか「西部劇」をクリックしたユーザーに対して、次のメルマガでは、それに関連したDVD商品の販促メールを送る仕組みです。同社は以前も150種類のeメールがあり、属性別にメールを配信していましたが、手間がかかりますよね。現在は1枚のテンプレートでそのユーザーの趣味によって自動的に中身が変わる方式をとっています。

 また、別のクライアントで旅行予約サイト大手の「エクスペディア」もHTMLのeメールの中を28のエリアに区切り、28エリアの中にどのコンテンツを充てがうかというのを、例えばその人の趣味だとか、その人の近所のエアポートなどの情報をベースに中身を入れ替えて、それぞれのeメールを配信しています。

――非常に分かりやすいお話ですが、一定の広告予算を使える大手ではなく、いわゆる中小の事業者の場合は、どうすれば良いのでしょうか。特に日本の場合、中小規模のEC事業者が多いですから。

 問題は規模の大小ではありません。基本的な考えはどこでも一緒です。要は企業のトータルの広告予算の中で、「いくらまで割くのか」という話の中で、アメリカはオンラインのマーケットが大きくなっていますから、まだまだ少ないですが、日本よりもeメールに割ける広告予算が多いということです。そういった意味ではあまり日本だけが特異という状態ではなくて、米国と同じ流れがすぐにくるのではないかと思っています。

 ですから、日本のマーケッターには今のうちから、「eメールにお金をかけるべきだ」といいたいですね。今の日本の状況と言うのは、アメリカの2年前の状況とまったく同じです。アメリカで起こってきたことが、日本でも必ず起こると思っています。

――ただ、メールだけではなく、それに代わり、新規獲得の手法としてリスティング広告やアフィリエイト広告なども有効な施策として定着しつつあります。

 前提のお話をしますが、コストをかけてWEBサイトを作りましたと。そのコストを回収するには、来てもらうのを待つのではなく、やはり必ずこちらからアプローチができる方法を探さなければなりません。つまりeメールアドレスを取るということですね。

 サーチ広告だとかアフィリエイト広告にお金を支払って投資し、サイトに送客することは新規顧客獲得の手法として効果的なやり方ですよね。更に、そこでもきちんと足跡を捕まえること、つまりeメールアドレスを残させるような仕組みを考えることで、新規顧客獲得への投資がより効果的になってきます。やはり、メールマーケティングというのは今現在でも重要なツールであることは間違いありません。

「スパム」を劇的に減らすことは可能

ISP側で「スパム」をブロック

――先程、日本はアメリカの2年前だ、と話をされていました。するとアメリカと同様、今後、日本でも「スパムメール」が深刻になるかも知れません。スパムはメールの効果を著しく低下させます。日本のEC事業者にとっても、死活問題になりかねません。スパム問題はどうなるのでしょうか。

 今年7月にeメールに関する大規模な集会が開催されます。参加者はISP大手のMSNやAOL、ヤフー。それに我々、ビッグフットです。我々が集まって、何を行なうのかというと、それはスパムを劇的に減らすための取り決めを決議しようと考えています。これが取り決められると、恐らくそうした考えは世界中に広がっていくと思います。

 人々が受けるeメールは基本的にISP経由で受けるわけですが、ISPの受けサーバーにある仕組みを設けておき、eメールがいわゆるオーソライズされたISPのサーバーからきたのか、というのを自動的に判断して、良かったら通し、駄目だったら外すと。簡単に言えばこのような取り決めを行ないます。

 今、申し上げたのがテクノロジー的にスパムをブロックする方法です。2つ目の方策として、面白い試みを行なっている企業のサービスを紹介します。「グッドメール」という会社ですが、ここは要するに「スパマー」(スパムメールを送る人)を減らすための仕組みを提供しています。

まず、メールの送り主が「切手」みたいなものを購入します。それを買って初めてeメールを送れるようにしました。スパマーは基本的に正体は明かせませんよね。「切手」は正体が明らかになった事業者にしか販売しませんから、スパマーは当然、グッドメールから、その「切手」は買えないわけです。そのため、必然的に(スパムが)送ることができなくなります。

 サービスレイヤーではこのような取り組みでスパムを減らしていっています。テクノロジーレイヤーではなくてですね。

――日本で例え、スパムが増え始めてきても現在、アメリカで行われているような施策が、日本でも広がるので日本でもスパムは問題ないということですか。

 以上のような取り組みでアメリカでのスパム問題は一応、解決されそうです。ですから、日本ではそういう問題は恐らく、深刻化しないだろうと。テクノロジーレイヤーでのブロックも日本の大手ISPは米国の動きを当然、見ているでしょうから、もし起こっても、そうした手段が用意されていますので、対処ができるはずです。

――一方で最近、eメールに代わるプッシュ型の販促手法として、RSS配信などに注目が集まっています。eメールにとって代わるのではという見方もありますが。

そうですね。意識はしています。しかし、先ほども申し上げました通り、送り方次第でメールの効果を非常に高めることは可能ですし、ある調査機関の調べでは、ISPなどの努力によって、スパムメールは確実に減少しているという結果が出ています。

また、RSS配信もクリティカルマスになっていませんし、商業ベースで使えるのかと言えば、まだまだ疑問が残ります。要は、収益構造がまだ確立されていないという点ですね。ですから、近未来にRSSがeメールに置き換わるようなマーケティングツールになるかというのは疑問です。

RSSのほか、携帯のeメールなど、多くの販促ツールがありますが、PCのeメールがまだまだアメリカにおいては、圧倒的なマーケティングツールになっています。

――メールマーケティングの専門家という立場から見て、日本のEC事業者にアドバイスをお願いします。

 米国では2年前、小売、出版、自動車業界など、各業界から一番、先見性のあるマーケッターがeメールマーケティングの重要性に気が付いていました。実際、eメールの重要性に気づいたマーケッターが他社を抜きに出ています。予算配分などを含めて、よりeメールマーケティングを強化することが、数年後には大きな違いとなって業績にも現れてくると思います。


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