2005.5 無料公開記事  ▲TOP PAGE

ネットでしかできない「モノ作り」がある

佐藤 一雅●ソニースタイル・ジャパン代表取締役




ソニーの直販サイト「ソニースタイル」が3月、ソニーマーケティングから分社、独立した。これまでのBtoC領域に加え、直営店の運営やBtoBの直販にも着手。「eコマース・電話・法人向け営業活動・店舗などを通じて、ソニー商品のダイレクト販売及び関連サービスの提供」を生業するソニー本体の完全出資専門子会社として、ソニーのダイレクト販売を強化。直販チャネルの確立と拡大を進める一方、ソニーが失いつつあるかつて強み、「モノ作り王国」の復権へまず新生ソニースタイルがネットを駆使し、その一歩を歩み始めた。
(聞き手は本誌・鹿野利幸)



個人が使うパソコンにBtoBもBtoCもない


インフラ整備して再度、独立へ

――直販サイトの運営会社として「ソニースタイルドットコム・ジャパン」が新設され、その後、ソニーマーケティング内の社内カンパニー「ソニースタイルドットコム・ジャパンカンパニー」として再スタート。そして今年3月から「ソニースタイル・ジャパン」として再度独立しました。運営形態を変えてきた目的は何だったのでしょうか。

直販サイト「ソニースタイルドットコム」を立ち上げたのは2000年でした。当時はどのメーカーもネットでの通販をしておらず、暗中模索の中でビジネスを展開していきました。しかし、恐らくネットの登場によって、これからはお客様の購買スタイルも変わっていき、同時に私どもの商品も変わっていくだろうと。その中で当然、お客様とのコミュニケーションの方法も変わっていくだろうと考えました。

それに対応するにはやはり、まずマーケティングのインフラ、分かりやすく言えば、物流やモノを作る仕組みを、きちんと持たなければならないと考えました。そのため一度、ソニーマーケティングに戻り、共通のインフラを作り上げてきました。実際、国内のマーケティングのインフラはここ数年、相当変えてきました。

このタイミングでの独立はそうしたインフラが整ったと同時に、これからの将来を見たときに、従来とはまた違う手法もあるだろうし、またダイレクトビジネスを加速させていく時期でもあるという判断をしたためです。分社化することで、責任を明確化し小回りを利かせて、直販ビジネスを加速させていこうというのが大括りな分社化の理由です。

ただ、独立したからといって、我々私が追求してきたものが大きく変化するわけではないのですが、持っているインフラや、分かりやすいところで言うと、今回のBtoB領域での通販の開始のようなお客様の対象など、ひとつ器が大きくなって出てきたのが「ソニースタイル・ジャパン」だと言えます。

――今回からこれまでのBtoCに加えて、SOHOを対象としたBtoBのダイレクト販売にも着手されました。

 当社の主力商品であるパソコン(PC)で言えば、お客様をBtoC、BtoBと明確に分ける必要があるのか、というところが起点です。購入はBtoBかも知れませんが、PCを使っているのは最終的には個人です。ですから、全体をお客様と捉えてビジネスをすることが、特にネット上であれば可能ではないのか、という仮説がありました。我々「ソニースタイル」はそうしたお客様に対して、付加価値を提供していきたいと考えています。

直販ルートと量販店ルートの対立ない

――直販チャネルを集約した「新生ソニースタイル」によって直販ルートを強固に構築し、現在のソニーの主力チャネルである量販店ルートに売り上げを左右されないようにしたい狙いがあると見る向きもあります。

直販ルートと量販店ルートは対立するものではないと思っています。ソニーのマーケティングとして一番やらなくてはいけないことは、お客様に対して、どれだけ我々の商品を分かって頂くかということです。そういった意味ではネット上のほうが優位な点が多いと思っています。店頭では実際に実物が見られるという部分はあるのですが、では実際に商品を詳しく調べられるかという点ではネットの方がやはり優れていると言えます。

これまでは店頭に商品カタログがありましたが、今ではWEB上での記載の方が詳しいわけです。その時、ネットで調べて、そのままネット上で購入する場合もあるでしょうし、それからお店に行って買うパターンも当然、あると思います。我々として一番、大事なのはお客様がきちんとソニーの商品を理解して購入頂くことであり、「ソニースタイル」がある時とない時でどちらが、お客様からご理解頂けているかとすれば、やはりある方が、ひとつ理解が進むのではないのかなと考えています。

一方で商品の視点から見ると、CTO(注文仕様生産)と呼ばれるようなネットならではの商品が出てきていますが、ネットの登場でモノの作り方や考え方に変化が出てきています。また、PCを入れる鞄なども当社では販売していますが、これらもユーザーの声を元にして制作してきました。お客様から意見を吸い上げて、そこから商品を組み立てていくと。そういうものを私どもは手がけようとしているわけです。

お客様にソニー製品をよく理解してもらうことと、そうしたお客様の意見を吸い上げてモノを作っていくというポジティブなスパイラルを構成できれば、何も店頭で売らないとか、ネットだけとか、そういったつもりは全くありません。

――ネットでしかできないことを積極的にやっていきたいということですか。

その通りです。他社さんの技術やデザイン力が向上してきた影響もあり、我々が今、一番悩ましいのはソニーの商品の良さというのが分かって頂きにくくなってきたことです。これをネットでならば、伝えられるのではないかと考えています。

端的だったのは2月に「typeB」というバイオを発売した時のことです。これはビジネス用途に向けたPCで、バイオの特徴であるアプリケーションをすべて抜いてしまって、モノ作りの良さだけである種、お客様に訴求しました。ただ、当初注目を頂いたのは10万円を切る価格設定という部分で、それによりものすごい反響になりました。

その時、私は「2ちゃんねる」のある掲示板を覗いていたのですが興味深い現象が起こっていました。「10万円を切るモデルは他社にもあるよ」という書き込みに対して「じゃあ、『typeB』をちゃんと見たのか」としてスペックの良さなどをきちんと語って下さるユーザーさんがいたというところです。

我々が商品の良さを打ち出していったけれども結局、価格設定に話題が集中してしまったものを、きちんと補完して頂けるようなことがネット上で行われていたんですね。これをでは店頭でやれるのかというと、なかなか難しいわけです。なぜかというと、他社の商品はなかなか比較する場所にはないからです。

実際にある商品を使用したユーザーの意見を元に購買を決めるようなモノの売れ方というのは、お客様の間ではすでに相当、一般化してきています。メーカーは自分のところの商品は良い商品だと各メーカーとも言うわけです。量販店は複数のメーカーの商品から、「お勧め」としてコンシューマーにリコメンドします。そして、その中のもうひとつの選択肢として「お客様同士の声」というものが出てきていて、これこそが実は我々がネット上でやっているビジネスとすごく親和性があるわけです。

我々が目指す方向性として、お客様とのつながりがまた新しい評価や価値を生んでいくというような形態になっていくと思います。それをある種、会社を分けた分だけ、思い切ってお客様に近づくことができるというのが、今回、分社化したもうひとつの目的とメリットです。

――コミュニティの要素が重要だとのことでしたが、現在、ネット上を席巻する「ブログ」や「SNS」についてはどう考えていますか。

 確かに無視はできないと思っていますし、何らかの手は打たなくてはいけないと考えていますが、それをどういった形でやるのかというのは、現状、申し上げられません。ただ、はっきりと言えることは、コミュニティはこれからの社会の大きな原動力であり、その中の一員として「ソニースタイル」が入っていくということは間違いないです。

「フェリカ」のほか、走らせる7つの新たな試み

初年度売上高300億円目指す

――今後の戦略を教えてください。

 我々は現在、6〜7つの新しい試みを走らせており、年内にはいくつかが形になってくると思いますが、現状では詳しいことは言えません。ただ、その1つとして、ICカード「フェリカ」技術を活用したビジネスを積極的に行っていきたいと考えています。

この一環としてフェリカを読み取れるリーダーライター付のバイオを発売しました。「フェリカ」は今後、相当普及が進むだろうと思っています。「スイカ」カードや「エディ」カード、またフェリカ実装の携帯電話も含めると、現在でも相当な数の方が、かざせば何かできるというものをお持ちになっていると思います。

これにより、先ほどの「エディ」や「スイカ」などの電子マネーの普及も進んでいます。現状はまだ、リアルでの支払いが多いですが、例えば「フェリカ」付きの携帯電話は持っているが、まだ利用したことのない方に便利な使い方を、しかもネットでの便利な使い方ですね。これをこれから1年かけて提案し、ネットにいざなう仕組みを作っていくことで、何か新しいものが作れると思っています。

――ソニースタイル・ジャパンとしての初年度の売上高目標を300億円としています。達成のための施策は。

 売り上げを増やすには単純に3つの要素しかないと思っています。1つは品数を増やすか、お客様の数が増えるか、何度も買って頂くかということですよね。その中の組み合わせになってくると思いますが、中でもやはり新規顧客は拡大していかなくてはいけないと思っています。商品についてもPC関連での鞄など、バイオの価値を高めるような商品群など視野を少し広げる形で増やして行きたいと思っています。購入頻度の向上はポイントの仕組みを充実させることで、達成できればと考えています。

――新規顧客獲得の為には何をする必要かあると考えますか。

 ネット業界全体が追い風というのもあり、正直、黙っていてもお客様が増えていくだろうという部分もあるのですが、当然そこに甘んじていてはいけないと思っています。ソニースタイルを知らないお客様はまだ相当多いですし、何らかの方法で告知をしていかなければならないと思っています。

――具体策は何かあるんでしょうか?

野球チームを買うみないなことは考えていません(笑)。我々はもっと消費に近いところで展開していこうと思っています。つまり、ネットで何らかのアクセスがあった時に、(新規顧客を)広げていくと。先ほどの「フェリカ」もそうですが、これからミュージックダウンロードやほかにも様々な小額課金のコンテンツダウンロードが広がってくると思いますので、これを活用できればといいなと。これまでに実施してきたアフィリエイトのような細かい施策のほか、今後、実施する予定でいますが、何かいくつかドンドンと乗ってくるような大きな施策も必要になるとは思います。


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