2005.4 無料公開記事    ▲TOP PAGE

Yahoo!商品検索」の開発者に聞く
「日本のショッピング導線を変えたい」

ヤフー
リスティング事業部

井上 俊一 検索企画室長



 ネット通販に連動した商品情報、つまりネット通販商品に特化した検索サービス「Yahoo!商品検索」を開始したヤフー。日本最大のポータルサイトの商品検索サービス実施で日本でも今後、一般的なものとなりそう。商品を購入することが前提のユーザーはネット通販実施企業にとって、非常に高い見込み顧客と言えよう。「Yahoo!商品検索」の開発を担当するリスティング事業部の井上俊一検索企画室長に日本ではあまり馴染みのない「商品検索」について、サービス開始の目的や今後の展開について聞いた。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


ネット通販一般化で商品検索の必要性

――ネットで購入できる商品情報に特化した検索サービス「Yahoo!商品検索」を開始しました。目的は何ですか?

 まず、背景にはネットで「商品を探したい」ユーザーがだんだんと増えてきているという事実があります。

実際問題として、これまではネット上で買い物をしようと思っても不安感があったと思います。また実際にネット上で買い物している人達は一部のアーリーアダプター(流行の先駆けとなるようなユーザー)だったと思います。

これがショッピングサイトでも安全面を重視したり、ネット通販自体が一般化してくると「ネットは何か怖い」という認識や抵抗感が薄れてきました。「では、ネットで買い物をしてみよう」と一般のユーザーが行動に移す時、どこに行けばよいのかわからないわけです。

そこで目立ってきた現象が「webサーチで商品名を入力して検索する」という行為でした。だとしたら「商品検索」という専門の検索を用意するべきだろうと考えました。そこで世の中にあるECサイトを出来るだけ網羅した形で見せられたら、ユーザーにとって、利便性のあるサービスになるだろうということでサービスの開始にいたりました。

――米ヤフーはすでに「商品検索」を展開しています。米国では商品検索というのは一般的なのでしょうか?


 
非常に一般的だと思います。ECサイトの裾野が全然違いますので。米国ではショッピングサイトがどこかにまとまっているという訳ではないので、ショッピングサイトはさまざまなところに点在しているイメージです。ですから、専門の商品検索、プロダクトサーチというのが、一般的に受けているのだと思います。

――日本でもすでに商品情報に特化した検索サービスを展開しているサイトもあります。他社のサービスと「Yahoo!商品検索」はどう違うのですか?

当社もそうですが、他社も商品の網羅性という意味ではまだまだ足りないと思っています。その網羅性をいかに高められるかという部分について言うと、やはり我々はwebサーチという大元の大きなシステムを運営しているという、規模や設備、経験もなど一日の長があるのではないかなと思っています。

商品検索自体は簡単にやろうと思ったら、量販店さんなどと組んで商品情報をもらって、そこだけ検索できるようなものはすぐにできます。しかし、それではユーザーは使わないわけですよ、情報が限られてしまいますから。網羅性という部分では、経験あるいは設備、体力を持っているというのが、やはり他社にはない当社の強みだと思います。

――「商品検索」のエンジンは米ヤフーのものを基本に日本用にローカライズしたということですか?

そういう部分も若干ありますし、もちろん日本独自で開発した部分もあります。両方の良いところを組み合わせて作りました。

ECサイトが直接、商品データを提供できるメリット


――ECサイトが「Yahoo!商品検索」の検索対象になるにはどうすればいいのでしょうか?

3つの方法があります。我々が検索対象とするのは「Yahoo!ショッピング」に出店している店舗、掲載申請を行った「Yahoo!カテゴリ」登録サイト、クロール(検索ロボットが自動収集)したサイトの商品情報です。これで「Yahoo!商品検索」のインデックス(検索データベース)ができています。確実なのは掲載申請、つまりECサイトから直接、商品データを提供してもらうという方法です。

――ECサイトにとって見ると、勝手に商品情報を拾ってくれるクロールの方が便利です。

 ただ、クロールにも問題もあります。すべてのECサイトが検索ロボットにとって情報が拾いやすいようになっているわけではありませんので。どうしてもロボットが自動的に商品情報を取ってくるので、正しい商品名、正しい説明文、正しい金額、それに紐づく画像という形になっていないと、必要な情報を取得できません。もちろん、出来るだけ構造が崩れているようなページでも取れるように、技術的なところを開発しております。

それをカバーする別の方法としてあるのが先ほどのECサイトから直接、商品データを提供してもらう方法です。構造化されたデータをECサイトに作っていただいて、「直接頂けませんか?」と。やはり、これが当社にとっても、ECサイトにとっても確実方法だと言えます。

――それは無料なのでしょうか?

 
現状ではYahoo!カテゴリの登録サイトであれば無料で申請できるようにしています。これにはサイトのクオリティ審査の意味があって、カテゴリに登録されているということは、そのECサイトは一定の基準を満たしているという判断をさせて頂いてます。ですので、もしカテゴリに入っていない新しいサイトは、カテゴリの審査を一度受けてくださいという形になってしまいます。(この場合はカテゴリ登録のための審査が有料になってしまいますが。)

――その掲載申請ですが現状、どのくらいの数になっていますか?

 
詳しくは申し上げられませんが、2月17日に開始してから日々増え続けています。(開始日の)当日に申し込まれたショップも結構ありました。まだ、β版なので特にプロモーションや告知は敢えてしていないのですが、そんな中でもこれだけ増えているので、きちんと告知をし始めれば、相当なサイトさんに登録いただけるのではないかなと思っています。

――「Yahoo!商品検索」の現在までの検索可能な商品数は。

これも、β版の段階ですので、まだ公表できる段階ではありません。ただ、開始してから、商品数は毎日、増え続けています。将来的には日本のECサイトのすべてを網羅したいと考えています。

Yahoo!商品検索」版リスティング広告を検討


――商品検索はEC事業者にとってみると、最も高い見込み顧客と言えます。いずれ、既存の検索エンジンがそうだったように検索順位の争奪競争なども出てきそうです。

 
Yahoo!商品検索」のSEO自体は我々が何かコメントする立場ではありません。ただ、基本的にはやはり、どういう情報が上に出てたらユーザーにとって便利かという、そのアルゴリズム(検索結果の表示順位の基準)をきっちり作っていきたいと考えています。どこのサイトなのかという事にかかわらず、何が出てたらクオリティーがいいといわれるのだろうと。webサーチと一緒で、商品検索も正解がないんですよ。

どのサイトが上に出るか出ないかというのは、非常に不透明なテーマで同じテーマで他の会社が何か作っても、別々の結果が出来上がるわけですよ。我々としては我々がいいと思うアルゴリズムで、その順番を決めていくしかありません。

SEO自体は本来は悪いことではなくて、ただ「裏ワザ」的なSEOがあるので、困ったことになってしまいますが、結局そういう裏ワザ的な行為はすぐに淘汰されてしまうような形にしていきます。本質のSEOはコンテンツ自体をユーザーにとって、良いものを作れば、最終的には検索結果の上位に出てくるという形になると思います。

――もちろん、そちらのアルゴリズムに合致した形でしっかりサイトを造れば良いのでしょうが、順位の部分で何かアドバイスはないですか。

 
今回、用意したECサイトから直接、商品データを提供してもらう方法は1つのヒントになると思います。ECサイト側が提出した情報が直接、インデックスに入るという意味になりますので、それだけですでにSEO的には非常に効果的と言えます。

今までは直接、webサーチにサイトのURLをサブミット(検索エンジンへの掲載申請)しても受け付けられているのか否かが分からないですから。あるいは最初のインターネットのサーチエンジンが出来た時などは、サブミットを受け付けていましたが、現在はそういった受け付けはしていませんよね。つまり、ECサイト自身が自分で構造化したデータをアップできるというのは、そもそもすごいメリットだと思うわけです。

――webサーチでいうところのオーバーチュアの「スポンサードサーチ」のような検索結果連動型広告を「Yahoo!商品検索」でも実施する予定はありますか。 

商品を探したい人と商品を売りたい人ですから、これ以上の良いマッチングはないと思ってますので、検討はしています。

――需要は高そうですが、いつごろになりそうですか?

 
私もそう思いますが、やはりまだ検討段階であり、コミットはできていません。まずは「商品検索」を使ってもらわないと話になりませんので、できるだけ多くのユーザーに広めていくというのが第1プライオリティですね。広告というのは、自然と後からついてくるものだと思います。

実購買率も検索結果決定基準に組み入れる


――「Yahoo!商品検索」の正式版に向けての今後の取り組みを教えてください。

我々としては「商品検索」というニーズに対応するために、とにかくこれ(「Yahoo!商品検索」)を早く立ち上げたいと思っています。そのためにはECサイトからの商品情報を出来るだけ早い時期にたくさん頂いて、正式版の方に移行していきたいです。先ほどのアルゴリズムの部分は、まだまだ改良の余地があります。将来的には例えば、ECサイトとうまく連携して、実購買につながっているかどうかなど、そういった情報も検索のアルゴリズムに組み込めれば、ユーザーにとって、もっと良い検索機能になるのではないかと思います。

――つまり、コンバージョンレート(実購買率)をアルゴリズムに組み入れるということですか?

そういうものができれば面白いですよね。クリック率だけだと、ただ、クリックされただけで、どこかに行ってしまったかも知れません。ユーザーにとってクオリティの高いサイトというのは、ある程度、実購買されているものだと思うんですよ。コンバージョンレートまで、もし組み込むことができたら素晴らしい検索サービスになると思います。ただ、これは我々単独でできることではなく、データ提供など各ショップさんの協力が必要です。しかし、まったくできないかと言われれば、それは可能性レベルの話です。ほかにもサービスを改善するところはたくさんあります。

――具体的には?

 結局、まだ網羅性という部分では、全然足りないと思います。とにかくこのサービスは網羅性をいかに高められるかに尽きると思うんです。それにプラスして、例えば我々のIDを持ってるユーザーがたくさんいますので、コミュニティ的な機能を付加したりとかなども考えています。

――ショッピングという領域で言えば、日本最大の仮想モール「楽天市場」があります。網羅性という意味ではこちらの方が優れていませんか?

 「楽天市場」では、実際の店舗数が1万店強です。ヤフーのカテゴリに登録されている通販サイトは恐らく、1万店どころではなく、数万、下手したら10万近くはあるわけです。もちろん、ECサイトの全員が全員、楽天に入るわけではないですから。それに加え、そうした店舗は当社のカテゴリ審査を通っているので、一定のクオリティはクリアしています。明らかな違法行為をしていたら削除されているわけですから、一定のクオリティを確保できている店舗のデータがそれだけあって、そうした店舗を対象に現在、掲載申請の受け付けを行っています。それが順調に回りだしたら、網羅性という意味では非常に高いサービスになりそうです。

――日本最大のポータルであるヤフーが「商品検索」を開始される意味というのは、恐らくこれまでのショッピングの導線が変わってしまうくらい、今後のECに非常に大きな影響を与えそうです。責任というのか、中立性の部分が求められそうですが。

 
その通りだと思います。きちんとしたアルゴリズムによって、分け隔てなく、中立的に便利な検索結果を表示していきたいと思います。

そういった意味で言えば、先ほど言ったECサイトから直接、商品データをもらう掲載申請の場合ですが、楽天市場の店舗からも掲載申請が来ていて、すでに「Yahoo!商品検索」に情報が表示されていると思います。とにかくユーザーが使いやすいものは何だろう?ということですね。

私も実際に仕事から離れてプライベートな立場でネットを使う時はやはり、楽天でも検索するし、アマゾンの結果も見たいし、結局あちこちを転々として検索するわけです。

そして、それは決して便利な状態ではないのではないかと思っています。まず自分たちが日常で使ってみて便利な環境を構築するというのをまず第1に考えています。ビジネスの話はそこから先の話ですから。しかし、それによって良い風にショッピング導線を変えることができればいいなと思っています。


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