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モバイル競売でヤフーを抜く

南場 智子●DeNA(ディー・エヌ・エー)代表取締役社長



有力仮想モール「ビッダーズ」を運営するDeNA(ディー・エヌ・エー)が今年2月16日、東証マザーズに株式公開を果たした。上場を機に事業規模の拡大を急ぐ。しかし、同領域には「楽天市場」「ヤフー!ショッピング」という強力なライバル社が待ち構えている。競合他社を向こうに回し、“3番手”が今、攻勢に打って出る。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


ポテンシャル高いモバイル事業で差別化


3事業体製確立で事業拡大

――今年2月に東証マザーズへ株式公開を果たしました。上場の目的は何ですか?

ベンチャーキャピタルに出資を頂いている関係や株式公開による知名度向上などもありますが、最大の目的は資金調達です。ネットの世界では大胆で積極的な事業展開が行われおり、M&Aも活発です。概して“勝ち組”と呼ばれる企業はそうして生き残り、成長していきました。あとで話しますが、「ソリューション事業」などを通じて、我々も更なる成長のためにM&Aを含めた新規事業立ち上げなどを模索しています。

そして何か事業を起こすには資金が必要です。我々の事業の中で稼ぎ出していく資金を上回るような大きな資金需要が生じた場合でも、上場したことにより、市場からの資金調達が可能になります。そういうステージに上がりたかったというのが上場の最大の目的です。

――改めて、上場に至るまでの事業の推移を教えてください。

設立初年度(2000年)は、生んだばかりの「ビッダーズ」をきちんと立ち上げるということだけに集中していました。これが結構、難産だったので(笑)。2001年から2002年の上期は、当初の「ビッダーズ」の規模を拡大するために、できる事は何から何まですべてやりました。

2002年下期から2003年上期までの1年間は黒字化することに集中しました。そのため、それまでネットオークションサイトだった「ビッダーズ」に“ショッピング”を拡充し、モール事業をスタート。そして営業も拡充し、コストダウンもしてと。本当は丸1年をかけて利益を出していこうと考えていたのですが、9カ月くらいで、思ったよりも早い段階で黒字化することができました。

このまま既存事業で利益を伸ばしていくという選択肢もあったのですが、これまで以上の成長性を求めるには、「ビッダーズ」以外の新たな領域が必要だろうと考えました。そこで、2003年の下期は、利益を伸ばすのではなくて、ゼロにならなければいいという考え方で新たな成長に向けてのトライアルに注力して、「ビッダーズ」以外の新たな事業領域を見つけることができました。

2004年度からはっきりと「ビッダーズ」というwebコマース事業だけでなく、新しい事業領域として「モバイル事業」と「ソリューション事業」という3事業体制を確立して、現在はそれぞれの事業の拡大に邁進しているところです。

モバイルサイトbPの「モバオク」

――主力事業の「ビッダーズ」に関しての今後の戦略は。

 出店社の拡大と利便性の追求を促進していきます。その一環として04年から「コマースエンジン」というサービスを開始しました。これは当社が出店ショップの自社ドメインで通販サイトの構築(編集や決済、販促、受注管理機能なども提供)やホスティングを行うもので、本サイトの商品は「ビッダーズ」や、我々のオークションプラットフォームを提供しているポータル、ISPなどの提携サイト、また「ビッダーズ」に連動するモバイルサイト「ポケットビッダーズ」にも自動的に掲載、販売されます。しかも管理画面は1つですべてを管理できます。

現在、ネット通販では特定の強いショップが儲かりやすく、新参ショップは開始しても、すぐに売り上げを上げるのは難しい状況です。業績を上げるには緻密なマーケティングとそれに伴う商品開発が必要になってきます。

ただ、複数のモールで商売をしているところはそれぞれ個別に商品のアップや受注管理などの業務が大変でそこまで手が回らないですよね。そういった当たり前のことは我々が極力簡単にして、ショップオーナーさんには良い商材を作ることに集中して頂き、「勝ち組」になって頂きたい。我々は「コマースエンジン」をもっともっと磨きこんで、ショップさんの手助けをしたいと思っています。

――仮想モールの領域では先行する楽天、ヤフーの2社が圧倒的な力を持っています。これらとの差別化という観点では新規事業の中でも好調なモバイル事業がポイントになると思われます。

 その通りです。モバイル市場の可能性は非常に高いと考えています。モバイルコマースの市場規模は現状、WEBの1割位しかありません。当社ではCtoCのモバイルオークション「モバオク」を展開していますが、買い手、売り手とも、ものすごい勢いで伸びており、大きなポテンシャルを感じています。

 恐らく近い将来、WEBを超えていくのではないかと思うほどの急成長市場です。我々はモバイル領域では同業他社に比べて、圧倒的な強みがあると考えており、経営資源も潤沢に注ぎ込んで育てていきたい領域です。

――同業他社にないモバイルでの強みとは何ですか。

当社はPCサイトでは3社(ヤフー、楽天、DeNA)の中ではやはり3番手。PCモールとの連動という延長線上のモバイルだと、3番手からの出発になってしまいます。そこでその延長線を断ち切って、(PCに連動しない)モバイル完結の領域に踏み込みました。これが先の「モバオク」です。モバイル単独のオークションサイトは言わば未開拓の分野で、我々はそこに早めに手を打ちました。他社は非常に力のあるPCサイトを有しているわけですから、その資産を活用するためモバイルはPC連動型となり、単独での展開はある意味でやりづらいと言えます。そもそも(モバイル単独にする)必然性がないわけです。

我々はこれを断ち切ったことによって、PCの社会に引っ張られない事業の構築を図りました。また、モバイル完結型というのはある意味で「ビッダーズ」の悪い部分を引きずらない(笑)というか、やはりPCの方で5年間、徹底的にオークション機能を作りこんできたので、これをそのままモバイルに持っていくと、いろいろなしがらみが出てきます。しかし、「モバオク」はゼロからの構築のため、モバイルのユーザーに向けた最適なサービスの設計が出来たわけです。

――「モバオク」の現在の規模は。

先ほどの要因や、カメラ付携帯電話の普及、パケット定額制の開始などタイミングの良さも手伝った結果、2004年4月から開始して1年足らずで公式サイト、非公式サイト、出会い系とか、着メロサイトなどすべて合わせたモバイルサイトの中で、1日5000万ページビュー(PV)とbPを誇っています。しかも2位サイトの5倍と差をつけています。

意気込みとしてはPCの「ヤフーオークション(ヤフオク)」に並びたいと考えています。99年のヤフオクの立ち上がりもロケットスタートでしたが、彼らの開始時の成長のスピードと「モバオク」の成長のスピードを重ねてモニターをしてみると、PVは「モバオク」の方が2倍近くになっています。もちろん携帯とPCのPVの単純比較はできないのですが、1日の新規出品数で見ても2005年2月度には7万5000点と「モバオク」がヤフオクを超えています。

これだけのユーザーにお使い頂いているからには、今後は場の安全や秩序の維持など諸々の責任が生じてきます。「モバオク」は現在、出品などは無料で行っていますが、いずれ有料化しようと考えています。

ショッピングの周辺から事業領域を拡大

近い将来に売上高100億円に

――中長期の業績予想は。

1つのステップとして数年の間に売上高ベースで100億円を突破したいと思っています。

――2005年3月期の売上高見通しが約26億円です。100億円というのは大きな数字になります。具体策はあるのでしょうか?

我々は極めて安定的に成長しており、普通に業務を進めても年率で2〜3割は確実に成長しています。ただその成長率では100億円には届きません。これの1つのカギになるのがやはりモバイルだと考えています。

我々はモバイル事業を今年からより拡大して近いうちに、現在の5〜10倍にしていく計画です。後は先ほど申し上げた3本の柱の1つである「ソリューション事業」を拡大していきます。これは大手企業に対して我々が培ってきたPC、モバイルを含めたネットのノウハウを活用して、サービス戦略、サイト構築、集客、マーケティングなどを含めて、ネット業務全般の支援。

また、他社との共同プロジェクトも含まれます。例えば音楽配信関連、モバイルバンキングなど、ECにこだわらず、最先端の旬な領域のトップ企業と共同プロジェクトをやらせてもらっています。これは事業単体の収益だけが目的ではなく、この中から新事業のネタを探します。クライアントでありながらも潜在的には事業パートナーと考えていて、モバイルの次の急成長領域を探すというミッションを担っている事業です。

――楽天のようにショッピング以外の領域に業務を拡大するということですか?

今よりも事業領域を拡大しようとは考えていますが、楽天のようなプレイヤーになろうとは思っていません。もう少し違った形で成長していけたらなとは思っています。

――違った形とはどういうイメージですか?

我々の基本はオークションなりショッピングなり、「売買のマッチング」です。現在の月ベースの流通総額は54億円ぐらいですが、そこから付随してその周辺の領域に事業のドメインを拡大していくことが一つの方向性として考えられます。

――周辺とは具体的にどういうことになりますか?

具体的には申し上げられませんが、ショッピングの周辺で言えば、例えば決済、物流、先ほど申し上げた「コマースエンジン」など店舗業務支援に関連するものですよね。また売買をもっとストレスなくするために必要なサービスなど結構あります。そこにスポット的に入っていこうとすると、なかなか大変ですが、実際にトランザクションが行われている立場からは入りやすい部分があるのではないかと考えています。

――今後の目標を教えてください。

あまり焦らずに独自に事業を進めていきたいと思っています。考え方としてあるのは、これまでのような自社のモールに(ショップを)囲い込んでビジネスをするというのではなくて、もう少しオープンな形が必要になってくると思います。楽天なら楽天市場に、当社なら「ビッダーズ」のモールの中だけで、囲い込まれたいと思っているショップさんは誰もいないと思いますし「絶対に自社ホームページにリンクしないで下さい」というのは自然な事ではないですから。

先ほどの「コマースエンジン」のような考え方ではないですが、我々はネットショップさんから信頼されるいわゆるパートナーみたいな位置付けになりたいと思っています。

他社同士の競争は今後もかなり激化していくと思いますが、我々はなるべくそれに巻き込まれないようにして、独自性を打ち出していきたい。ヤフー、楽天と「ビッターズ」はちょっと違う、もしかしたら同じカテゴリーにも入らないようなプレイヤーになっていければと思っています。


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