2005.3 無料公開記事    ▲TOP PAGE

メール広告からECのDB提供に転換

竹之内 崇氏
エルゴ・ブレインズ上級執行役員社長兼COO


活きたデータベース(DB)「ドリームメール」約220万人(20052月現在)の会員を組織して、オプトインメール配信を行うメール広告事業大手のエルゴ・ブレインズが一昨年から新たな事業に着手している。リスティング広告に代表される新たなネット広告の台頭で、メール広告自体のニーズが低迷する中、多額のコストを投入し作り上げてきた同社の唯一して最大の資産、「メール会員リスト」の価値もある意味で低下しつつある。苦境に立たされた同社が次の1手として模索し始めたのが、これまでのメール会員リストという「資産」を生かした新しいDB「EC(顧客)のデータベース」を用いた新規のビジネスだ。これにより「メール会員リスト」は新しい命を与えられ、これまで以上の輝きを放ちつつある。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

リスティング広告の台頭に“危機感”、
成長持続のためにECに着手

メール会員の物販顧客としての可能性

――メール広告を生業としている御社が自社による通販を開始しました。今なぜ、通販なのでしょうか

 確かに当社の収益の6〜7割はオプトインメール広告事業によるものです。しかし、このまま同事業だけでどこまで収益を拡大できるかと考えた時、これまでのように爆発的な成長は望めないだろうと考えました。

要因は様々ありますが、やはり1つには「オーバーチュア」「グーグル」に代表されるリスティング広告の台頭が挙げられます。特定の情報が欲しいと登録したユーザーに、その情報と関連の高い商品やサービスの広告をメールで送るオプトインメールと、特定の情報を検索するユーザーに対して、その検索結果画面に関連する広告を表示するリスティング広告は、機能的には非常に似ています。ただ、リスティング広告はクリック課金なので広告主にとって費用と効率が管理しやすいのでしょう。

もうひとつの要素はバナー広告の価格下落です。我々が99年にサービスを開始した当時は、バナー広告など他のインターネット広告と比較すると最も効率がよく、費用も安価な広告媒体でした。しかし、他の広告単価が下落した結果、現在は高い媒体の部類に入ってしまっています。

当社は1通10円という料金体系を変えていませんが、単価をこれ以上、落としても新しいクライアントがどっと入ってくるのかといえばそれはないでしょうし、そのまま、当社の収益が減るだけです。

しかしながら、メール広告は必要な時に必要な通数で利用できるため、広告主としては決められた期間の目標売り上げの達成など安定的な効果を期待できる媒体として確実な需要はあります。また、媒体力も数万規模の新規会員を獲得し続けています。

つまり、メール広告の商品力自体が低下したのではなく、各種広告の料金の下落と機能的には近いリスティング広告の台頭という市場環境の変化による相対的な広告価値の減少というものであり、会員価値の下落ではないと考えました。

今、我々のメール広告を利用されている広告主の多くはCPCよりも、CPOやCPAを重視し実際に高い効果を上げています。つまり、当社のメール会員は「物を買う人々」だと推察できます。ならば、実際に我々がECを実施するという選択肢があっても良いのではないか、というのがきっかけとなり一昨年から通販事業に着手しました。

――しかし、これまで物販事業は行っておらず、ノウハウもない。開始するためのハードルは高かったのでは?

やはり、物販と広告はイコールではないということを痛感した1年でした。正直、我々のメール会員リストを使って、一定の売り上げを上げている広告主も多数いらっしゃったので、ある程度はいけるだろうという認識でした。 

しかし、実際にやってみると例えば商品をアピールする言い回しや継続購入の促し方、物流の仕組みなども含めて、体制作りやノウハウ構築が稚拙でした。そのため、初年度のEC売上高は1億4000万円程度と伸び悩みました。

もちろん、こうした基本的なECの体制作りなどは今後も強化していきますが、メール会員のDBとECを絡めることによる新しい事業の可能性がこうした苦労を通じて生み出されました。

商品ごとの顧客データベース

――DBとECの新しい事業の可能性とは何ですか。

我々がECをやる際の最大の強みは新規顧客を獲得するコストが必要がないことです。既存の事業ですでに日本最大級の会員DBを構築し収益化モデルを持っていますので。EC事業はその220万人の会員を顧客として管理し展開しようとしました。しかし駄目でした。ここに収集しているリストはあくまでメール広告を行うためのデータであり、“顧客”ではなく“リスト”の域を出ていなかったためです。

我々の約220万人のDBは会員それぞれに登録時に28設問330項目のアンケートをして、その結果をDB化しています。そのため、このデータを通販に生かそうとマイニングすると、マイニングツールがパンクしてしまうほどなので、今あるDBのままでは分析は難しく、別途EC用の顧客DBを構築する必要性が出てきました。

昨年1年は既存の約220万のメールリストに対して、ブランド品などの売れ筋商品をある意味でやみくもに打ち込んでいたわけですが、今年からはメールリストは単純に「見込み客」として考え、この既存のDBとは別に、商品カテゴリーごとのDBを複数、構築していこうと思っています。

どういうことかというと、約220万人という巨大なDBから特定の商材ごとに顧客を獲得し、例えば「お酒」なら酒という商品に非常にロイヤリティの高い消費者が集まった精度の高いDBを1つ1つと作っていこうということです。

これにはもちろん、自社の通販事業を伸ばす手段として実施しますが、このようなDBを構築、運用することにより、ECにおけるデータベースマーケティングのプロフェッショナルになれると考えています。これはメール広告を行ってきた発展形であり、当社が構築したDBを、ECを実施している、もしくは実施したいと考えている他社とのアライアンスによるビジネスを展開したいと考えています。

「アバカスモデル」をネット通販で実施

――データベースの提供とはどういうことですか。

もともとこうした発想に至ったのはアバカス(通販企業の顧客リストを集めて共同DBを構築し、通販マインドの高い顧客リストを提供する企業)の事業をネット上で作るとしたらどうなるだろうというところからでした。

アバカスはクライアントのデータを収集して、様々にマイニングしたデータをまたお返しして、クライアントのDBを効率的に回すという発想ですが、インターネットの場合は目的は同じでも異なる方法になると考えていました。

ECによる顧客DBマーケティングは、管理、マイニング、プロモーション、購買が一連の流れで動くので所有や管理、コミュニケーション方法などを一元管理する必要があると思います。

そのような状況において、個人情報保護法が全面施行されるなど、情報管理がシビアになっていくなかで自社でデータを管理するのはリスクが伴いますのでDBの管理はプライバシーマークを保有し実際に220万人のDBを安定的に運用している当社に任せてほしいと。新規顧客の獲得に多大なプロモーション費用をかけて、DBを構築して管理・維持し続けるのは経営的には非効率ですので、共同DBの参加を促していきます。こうした計画を現在、数社にお話しており、今年中にはかなり明確な形でECにおける顧客DBマーケティングビジネスの全体像が見えてくるのではないかと思っています。

こうした顧客DBを生産者やメーカーなど通販チャネルを持たない企業に提供していこうと考えています。ECのコンサルティング的なことを行う企業は多く存在しますが、新規の顧客獲得方法を教えてくれても実際に顧客を提供してはくれません。一方、我々は99年から累計で30億円をかけて収集してきた会員DBがありますから、顧客自体を提供できます。

そして、収益はレベニューシェアにしましょうとリスクの低い提案をしていきます。現在はまだ、「酒」の顧客DBしか構築していませんが、今後は次々に特定商品にロイヤルティの高いDBを次々に構築していきますので、我々の約220万人のDBの付加価値は高まっていき、更にチャンスは拡大すると思います。

EC売り上げが広告事業を抜く

――ECのデータベース提供事業にはやはり、前提としてそのDBの有効性を示すためにも、まず自社通販を伸ばすことが先決ですね。

そのためにはやはりMDが重要だと考えています。現在、考えているのは約220万人のメール会員をある種、マーチャンダイザーとして活用できれば面白いと思っています。

そうすると、今まではメール配信リストにしか使っていなかったDBが商品情報を集めてくれるマーチャンダイザーとなります。こうした商品情報を収集する仕組みを作ることができれば、今後、次々と商材を広げていった際にも非常に強力な武器となり得ます。
今後はオプトインメールを配信するためのDBとしての限定的な価値をDBの使い方を多様化することによって、資産価値が上げていきたいと考えています。また、我々はこのメール会員のDBをうまく活用させて、ECにおいても成功を収めることができると自負しています。

そう遠くない近い将来にはECがらみの売り上げが、現在、売り上げの67割を占めるオプトインメール事業を追い抜くのではないかと考えています。


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