2005.2 無料公開記事    ▲TOP PAGE

独自性の表現こそが業績に直結する

千趣会 デジタルメディア部
菅原正敏部長


――会社全体としての2004年下期の業績はあまり良くありませんでしたが、ネット販売は好調だったようです。ネット販売の業績への貢献度はかなり高かったのではないですか?

 2004年12月期のネット販売の売上高は、350億円の目標が最終的には360億円になりました。ネット完結の売り上げを示す「真水」(純ネット売り上げ)は100億円の目標が115億円。特に、真水の伸び率は計画よりも高かった。

 ただ、どこまでがカタログ連動の売り上げで、どこまでが真水なのかというところは見極めづらい。カタログを持っていない人がたまたま知り合いからカタログをもらって注文することもあるだろうし、逆に持っている人がネットだけを見て注文することもあるわけです。

 ですから、真水の売り上げだけを見て、ネット販売が全社的な業績にどれだけ貢献しているかを推し量ることはできませんけどね。

――真水の好調要因はセールを積極的に展開したことですか。

 確かに、セール関連のメルマガは反応がいいです。ただ、案に価格を下げるのはプロダクトの魅力がないから下げているのであって、そういう売り方自体は不本意だと思っています。今後は、“その手前の努力”となる商品開発にもっと注力しなければならないでしょう。

――今後の3カ年計画によると、真水の売り上げがネット売り上げの半数に達します。どんな要因を想定していますか。

 いくつか計画していることはありますが、1つは当社オリジナルの世界観をきちんと括って表現していくことです。

 これをやるかどうかは別ですが、OL向けのパンプスを追求した千趣会のオリジナルシューズで「ベネビス」というブランドがあります。「ベネビス」は十数社のメーカーにこちらから木型を送って作ってもらう商品なので、お客様のサイズとワイズが一度分かってしまえば、その後はお客様がサイズに迷うということはありません。実際、「ベネビス」のお客様はかなり固定化しています。こうした「靴にこだわる千趣会」というようなオリジナル商品に対する姿を見せていければと思っています。

つまり、商品開発に対する企業姿勢をネット上で訴求していくわけです。

 こうした企業姿勢を認知してもらうのに、リアルではかなりコストがかかります。しかし、ネットだったら低コストでその認知を図ることが可能ですよね。また、ファッション感度が高いお客様向けの「ルボンディール」というカタログがありますが、このオリジナル色もネットではまだあまり強く打ち出していません。自社ブランドが持つ世界観をネットで表現していくことは重要でしょう。

 このように、単にウェブのみ商品を増やして真水の拡大を図るという戦略だけではなく、ネット上で千趣会としてのオリジナリティーをどんどん訴求していく。アフィリエイトなどネット広告を活用して数だけ集客することができても、商品購入に結び付かなければ意味がないですから。

 買ってもらう前に何を買ってもらうのかネット上で明確にする――。まずはそのことをここ3〜4年は真剣にやっていくつもりです。

――ウェブに顧客を集客する具体的な手法も重要ですが、これについてはどのようにお考えですか。

 アフィリエイトなども当然やりますが、それだけではありません。最も有効だと考えているのは、他社さんと組むことです。その相手先企業がネット事業をやっているか否か、物売りの企業であるか否かはあまり気にしていません。いかに我々の企業ブランドを広く認知してもらえるかということが重要です。

 認知と言っても、誰にでも知ってもらえればいいものではなく、当社のお客様に知ってもらいたい。それは20〜40代女性の2000〜2500万人くらいの層です。そういう層を持っているところともっとたくさんお付き合いできればいいなと思っています。

 例えば、「ベビータウン」という育児系のコミュニティーサイトがあります。育児系なので認知してもらう絶対数としては小さいですが、こことのお付き合いが確実に当社のイメージアップに役立っていることが分かっています。もっと利用者が多いサービスとの連動も視野に、他社との提携を積極的にやっていかなければならないと思っています。

 今ある集客はそれはそれでしますが、ウェブで集客を目指した新たな手法を生み出すには、当社だけの展開では限界があります。今あるカタログ通販の「紙」という制約を受けた世界に比べて、ネットでの集客を強化するには、もっと“はみ出した展開”も必要なんです。

――いつ頃から本格的に始めますか。

 今年から少しずつ始めようと思っています。おそらく、今上期から準備して下期に一部スタート。それから今下期準備、来上期スタートというようなパターンを複合的に重ねていかざるをえないだろうと考えています。

――アフィリエイトやSEO(検索エンジン最適化)に関してはそれほど重要とは考えていない?

 やらなければならないと思いますが、それだけがすべてではないでしょう。

 あまり偉そうなことは言えませんが、集客できるサイトにSEOはいらないのではないかと思うんです。例えば、新たなサービスを立ち上げた企業にSEOは必須でしょうけど、ソニーのようなすでに認知されている有名ブランドであればそれほど重要ではないですよね。お客様の方から検索してサイトに来てくれますから。

 千趣会はそれほど認知されているというわけではないので、知っている人は知っているという非常に中途半端な存在。ですから、知らない人に認知してもらう部分をやりつつ、知っている人へのイメージアップも並行して行っていくことで、20〜40代の女性が自然と集まってくるブランドにまで高めなければならない。認知の部分にこだわっているだけでは駄目なんです。

――企業提携以外で今期に注力していくことは。

 デジタルカタログを今年は伸ばしたいですね。売り上げで言えば前期の倍くらいには増やしたいと思っています(2004年12月期の売り上げは推定で年間5〜6億円と見られる)。これは一生懸命やって定着させていきたい。一回でも使ってもらえると、非常にリピート率が高いですから。これは積み重なりますよ。

 うちのカタログは15種類と非常に多いんですが、お客様にそれらすべてを届けられているわけではありません。1人3冊までしかお届けできないのですが、デジタルカタログを使っていただければ残りの12冊も見ていただけるようになります。ですから、早期にどれだけデジタルカタログの利用者を増やせるかが重要になります。

 そのための告知は積極的にやっていきます。カタログ配布をするときには、デジタルカタログのPRを強力にやっていこうと思っています。昨秋から少しずつ始めていますが、もっと積極的にやっていきたいです。

――カタログ関連コストを大幅に削減できるカタログの効率配布も本格に行っていくということですか。

 まだデジタルカタログがあるから部数を減部してもいいという状況にまでは達していません。それが将来できるようにするためには、今のデジタルカタログの売り上げ規模では全然駄目。まずは、デジタルカタログの利用者を増やしていくための施策を地道に続けていかなければなりません。カタログをお送りしなくても何か欲しい物があった時、ネットにいってデジタルカタログ経由で買ってくれるというお客様を一人でも多く増やし、その売り上げ規模が100億円規模程度になったらそういうこともできるようになると思っています。

――それは3カ年計画の最終年度となる2007年と見ていいですか。

 それくらいまでには結果を出さなければならないと思っています。逆に2007年でデジタルカタログが業績面に大きく貢献できるようになれば、その後はもっとデジタルカタログの利用価値が高まると確実に言えますね。

――大容量コンテンツのデジタルカタログが普及すれば、次は動画の活用という展開も考えられます。

 動画を通じて商品を売るという直接的な形は考えづらいなと思っています。単なる動画配信であれば、テレビ通販の制作費に比べてかなり低コストで実現できる方法もありますが、それ以前にお客様が「本当に通販の動画を見るの?」という疑問があります。商品そのものの説明であったり、世界観であったりということを動画で表現することはあるかもしれませんが、現時点では動画ショッピングに活用することはないと思っています。
(聞き手は島田昇)

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