2005.11 無料公開記事      ▲TOP PAGE

第2のネット革命が始まった

林 郁●デジタルガレージ代表取締役グループCEO




 インターネット革命の夜明けとともにデジタルガレージを創業した林郁CEO。あれから10年。再びネットは、大きな夜明けを迎えようとしている。その第2革命の大きな波、「ブログ」を制すため、自らをネットの歴史と語る男が動き出した。(聞き手は本誌・島田昇)

創業当時と今の環境は似ている

――御社は国内初の個人ホームページを立ち上げるなど、ネット企業としては歴史のある企業です。設立当時と比べ、今のネットの環境変化をどのように感じていますか。

 今年は会社設立10周年を迎えた年にあたります。設立間もない頃、我々はロボット検索をやろうということで動き始め、米国のサービスを国内向けにローカライズしたサービスなどを展開しましたが、そもそも国内のホームページ自体が少なかったという状況。HTMLを書ける人が限られていたわけですから、それも仕方のないことです。

 そういう環境の中で、我々のようなネットベンチャーが「ネットビジネスは面白い。収益面についてはそのうち何とかなるさ」という熱意でビジネスを展開していました。その一方、商談の際には通信系の大企業の方々でもほとんどネットのことに興味がなく、かなり初歩的なことから説明しなければならいという経験を数多くしてきました。

 それが今ではどの業種の企業でも当然のようにホームページを持っていて、ネットビジネスへの関心も高い。当時と比べ、企業の意識は大きく変わりました。しかし、創業した当時と今の環境は、割と似ていると思うんですよね。それはXML(次世代ネット記述言語)ベースで技術がものすごく進化してきたことによって、次世代インターネットの「Web2.0」という時代に入ってきたためです。

 その結果、昔のインターネットが社会に浸透し始めた頃のあのインディーズな感じ、個人が起業しやすいあの環境に戻ってきたかのように思えるのです。その目玉となるのが、僕はブログだと思っています。ブログの波がネットの第2革命、Web2.0の一番の潮流だと思います。

近未来のユーザーはマスメディアと
自分と同じ視点のブログで情報を得る

――そのブログビジネスで御社は、ブログ検索の「テクノラティ」を中核に展開し始めています。なぜですか。

 おそらくブログ関連ビジネスは3つくらいに集約されるだろうと思ったんです。

 まず、ブログ自体のツールでのビジネス。米国はユーザーから利用料を徴収するモデルですが、国内では大手ポータル(玄関)サイトのほとんどがツールを無料でばら撒いてしまっている。要はトラフィックを増やして広告で換金するというモデルです。しかしこれではビジネスモデルがない状態と同じなので、結構資金をロスってしまうだろうと。

 ただ、これで世の中にブログは広まるので、その後にどの辺がビジネスになりそうなのかというと、検索です。ブログ検索の概念を作ったのは「テクノラティ」なので、サービスの質は非常に高い。国内には120万人くらいのアクティブブロガー(更新・閲覧頻度の高いブログ利用者)がいますが、すでにその9割くらいのアクティブブロガーはカバーしています。さらに、モバイルでのブログ検索も始めました。

 次にここで広告やリサーチのビジネスをしていきます。それにプラス、ブログのデイリーニュースペーパーのようなイメージの事業も用意しています。それはいちいち検索をかけなくとも、例えば僕が「サッカー」と「株」と「ゴルフ」に興味があると登録しておくと、その関連のブログをユーザーに応じてカスタマイズして表示してあげるというサービスです。

 近未来のユーザーはマスメディアで情報を得て、さらにもう1つの視点としてブログでも情報を得るようになる。ブログは基本的には何のバッファーも受けていないユーザーの生の声が反映されています。ですから、より信頼のおける情報源として、ブログは重宝されていく傾向にあります。

今を知るためのスナップショット

――検索では今、「グーグル」が広く利用されています。

 「グーグル」の検索で引っかかるのはホームページ。更新されたばかりのブログではありません。「グーグル」は図書館の中にある情報を高速で見られる辞書のようなイメージですが、「テクノラティ」は図書館の外で起きているたった今の情報も提供できるスナップショットのイメージ。例えば、「今日は世界で何が一番盛り上がっているのか?」ということをすぐに知ることができます。

 今や、紙にしてしまうとその情報は古くなってしまうほどのスピードで情報化社会は回り始めている。「今どうなっているのか」――。それが分かるのがブログの面白さだと思うんですよね。

――「グーグル」から「テクノラティ」に検索利用が変わっていくと。

 それは目的によって異なります。僕も辞書的な検索においては「グーグル」を使います。

 しかし、例えば「あるメーカーのテレビを買おう」という時、今後は商品比較サイトの「カカクコム」の掲示板と当該メーカーのサイト、これに関連ブログという3つの視点で精査してから買いたいというユーザーは増えてくると思います。このようなブログを見たいという用途においては「テクノラティ」が必要になってくるし、その利用頻度はもっともっと上がってくるということです。

――ブログと言えば「テクノラティ」というような状況になるための条件は。

 スペックに圧倒的な優位性があるということが一番の条件ですね。基本的にはユーザーが決めることですが、ユーザーは使って一番便利なサービスを利用するわけです。「グーグル」が根付いた理由もそれでしょう。

 「iPod nano」のような新しい固有名詞でも、「コーヒー」のような一般名詞でも、他社の競合サービスと比べて「テクノラティ」の検索結果が最も多い。しかも、モバイルに対応しているのも「テクノラティ」だけです。

 米国では「モンキーセオリー」と言いますが、一度"ゴリラ"になったサービスが"オラウータン"や"サル"になったというケースはないんです。通販で言えば1位の「アマゾン」が、検索で言えば1位の「グーグル」が2〜5位に下がったことはない。

 人間というのは割りと単純で、通販と言えば「アマゾン」、検索と言えば「グーグル」と一度その印象が頭に残ってしまえば、それで"あがり"。ですから、技術力の強みを生かしてブログ検索と言えば「テクノラティ」というような状況にさえなってしまえば、それで"あがり"、つまり圧倒的1位の地位を確保し続けることができるのです。

チャネルの中心にネットを置かねば
通用しない時代になりつつある

――RSS広告などブログと連動したネット広告展開についてはどうですか。

 RSS広告は11月に開始する予定で準備しています。ブログはユーザーが能動的に情報を取りにきているので、例えば、料理関係の記事の横に「○×クッキングスクール」の広告を出すことができれば、ターゲットマーケティングあるいはセグメントマーケティングという意味ではどんぴしゃではまりますよね。むしろ、そこに集う人たちが能動的に広告を欲するというような、そんな広告のあり方が成立するかもしれない。

 それと、アフィリエイト広告でブログ利用の伸びがさらに加速する可能性もあると思っています。ブログの信用性ということで考えると、6割くらいはあまり信用できない情報かもしれませんが、残りの4割はその道の達人という人だったりします。であれば、買い物をする際にその道の達人のブログを見てから購入するという消費パターンが根付く可能性は高い。そうなれば、アフィリエイトフィーが個人に落ちるという時代が本格的に始まります。

 もう1つの収益の柱となるのがリサーチ事業。「テクノラティ」はブログで書かれている内容も読めるので、これを生かしたリサーチが可能です。例えば、ある商品に対する評価をリサーチする際に、リサーチ費用の半分を「マクロミル」などのパネル調査に充てて横軸でチェックし、もう半分は縦軸で深さを知るということでブログではどういう評価をされているのかをリサーチする。そうすれば、この2つを用いると世の中でその商品がどのように捉えられているのかがすぐに分かるようになります。

人を集める達人たちのセッション

――モバイル展開については第3世代携帯電話に特化した展開をしています。なぜですか。

 現行の第2世代携帯電話については正直出遅れたので、ここで勝負するつもりはありません。ただ、第3世代については携帯電話がブロードバンド化してくるので、ラジオがテレビになるのと同じくらいに違う。そこに向けて準備して昨年設立したのが、「DGモバイル」という会社です。

 ここ2、3年でほとんどの国で第3世代携帯電話がものすごい勢いで普及すると見ています。そうなった時に、ブロードバンド時代のリッチコンテンツで世界にも通用する国内コンテンツと言えば、コミックです。すでに小学館や白泉社のような大手出版社と組んだ展開をしており、参入障壁も高くするということでビューアー自体も独自に開発して始めました。

――フルブラウザ対応の携帯電話が普及したらモバイルとパソコンの垣根がなくなるという議論もあります。

 それよりも、今はナンバーポータビリティーになったときの課金システムが大きな問題でしょう。今はキャリアの課金代行やカード決済などが主流ですが、番号を自由に移し変えられるようになったら、ユーザー側に課金方法の選択権も移ります。この時に、我々はグループ会社でコンビニ決済などを提供するイーコンテクストに大きなビジネスチャンスがあると考えています。

 我々はEC関連で中核の価格比較サイト、ブログ、第3世代携帯電話――などに決済のベースが付いている。これを活用すればアフィリエイトフィーの支払いにも活用できるし、各中核事業間でのシナジーも見込めます。そこまでを見込んで形にしようというのが、当社の中期的な経営計画です。

――中でも中核に位置するカカクコムは今後どのような方向性を目指しますか。ポータルということで考えると少し偏ったイメージもありますが。

 カカクコムはポータルサイトというよりは消費者のエージェントサイトというコンセプト。カカクコムはブティック型のお店になっているのだから、ヤフーのような総合型のデパートにしてしまったら特性がなくなってしまう。

 1カ所にトラフィックが集中するサイトを作るということではなく、グループのそれぞれのサービスがシナジーを出し合う連携が理想です。ジャズで言えば価格比較のパートに関しては達人のカカクコムが担当し、それぞれの達人がセッションしていくことで全体としてのトラフィックを増やしていくというイメージですかね。

 カカクコムは不正アクセス事件の影響もあり準備していたサービスが遅れてしまったので、今後、それらを一気に走らせていきます。その一方で、淡々と今あるサービスを大きくしていく。広告事業はもっと強化していきますし、中期的な経営展開についても私を含めて検討している最中です。

――ブログの登場で通販はどのように変わっていくと見ていますか。

 どんなに新しい技術が出てきても、「あせるべきではない」ということは言えますね。昔、ファックスが出てきたときに「新聞はなくなる」なんて言っていた人がいましたが、そんなことにはなっていないでしょう。ですから、通販事業者としていかにブログという新しい媒体を乗りこなすのかということを考えた時に、また新しい媒体が出てきたというように捉えた方がいい。

 例えば、自社の商品について書かれているブログを見つけたら、良い評価だろうと悪い評価だろうとそれに対して「ありがとう」と感じるべき。それが悪い評価だったとしても、過剰反応してはいけません。良きにせよ悪しきにせよ、いずれもそれらは商品の改善につながるヒントが書かれているのですから。特に、利用者が限られているニッチな商品に関するマーケティングなんかはブログの活用がしやすいと思います。

 あとはクロスメディア展開の中にいかに新しいメディアを取り入れていくべきかということです。誰にどのようなチャネルでどういう商品を売るのかを考えることは商売の鉄則ですから、TPOに応じてネット、紙、対面などのいずれかを使い分けていく必要があります。ただ、その中心にネットやITをうまく使ったインタラクティブな仕掛けを置かなければ通用しない時代にはなりつつある。そこが難しい。

 それを自社だけでやっていくというより、これだけ世の中が複雑になってきているのだから、コスト的にも時間的にもその道に通じた事業者とアライアンスしてしまった方が効率はいい。成果報酬で組むとか、共同出資会社を作るなど、やり方はさまざまです。

 紙ベースの通販においては、既存の通販企業は戦後の日本でこれだけの規模のビジネスに育ててきたのだから、通販のノウハウが豊富であるのは間違いない。ですから、その部分については自信を持って事業展開し、今あるネットやその先のWeb2.0の時代にどう対応するのかというところは、他社と協力体制を取ることも必要になるでしょう。

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