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“変化対応業”がネット時代の小売業

佐藤 輝英氏〔ネットプライス社長〕




 今年7月8日、東証マザーズに上場を果たしたネットプライス。モバイル通販を事業の中心に置く企業の株式公開は事実上、初めてとなる。識者やアナリストのほか、同業のネット企業からも高い評価を受ける独自も販売手法「ギャザリング」。この販売手法は同社が標榜するこれからの小売業のあり方“変化対応業”への変貌を確実に具現化させつつある。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

ギャザリングに経営資源を集中

――7月に東証マザーズに上場しました。目的は新規事業などへの資金調達でしょうか。

 IPO(株式公開)は対消費者、対仕入先への信用力というのが一番のメリットです。キャッシュはビジネスも非常に順調に推移していますし、キャッシュフローも回転しています。ただ、一方でインターネットのビジネスは変化しています。変化のあるときにチャンスがありますので、そういう意味では使用していく用途というのはたくさんあります。

――今回、調達した資金の使途は具体的に決まっていますか。

 1つはシステム投資に充てます。まだまだ当社の事業の中心であり、強みでもある「ギャザリング」の仕組みを100%システムだけで回転させているかといえば、そうではありませんので。今後、300億円、400億円販売していく上での仕組み作りとして、高度なシステムの作り込みに一番、資金を投入します。もう1つは後で話しますがメディアとの連動を図っていく上での投資として使用します。

――モバイルコマース企業の上場は初めてとなります。また設立5年という短期間で株式公開できたポイントとは何だったのでしょうか。

 やはり2000年3月に立ち上げ、現在当社の中核事業である「ギャザリング」と言うモデルです。これはポイントというよりもスタートですね。現在はパソコン(PC)およびモバイル上で展開していますが、当時はまだ「iモード」のユーザー数は200〜300万人くらいの規模感だったので、まずはPC上で始めました。

その年の8月頃、「iモード」対応端末の出荷数は1000万台を突破しました。そこで、そろそろいわゆるモバイルインターネットというものが、メディアとして、そしてeコマースの土台として機能し得るだろうと判断して同年9月に携帯電話でのギャザリング、「チビギャザ」をスタートしました。

 もう1つのポイントとして2001年12月に行った「ネットプライスモール」の売却があります。当時はギャザリングによる物販と「ネットプライスモール」という仮想モールの運営、いわゆるインフラ事業、小売りとインフラの2つで事業を展開していました。

ただ、当社はベンチャーですので、社員数も当時は30〜40人規模。私自身の頭も1つしかありませんからので、経営資源を伸びる分野に集中させなくてはなりません。当時はまだまだ売り上げは低かったですが、ギャザリングによる物販が非常に順調に伸びておりましたので、モール事業は共同で事業を行っていた有線ブロードネットワークスに売却して我々は「ギャザリング」に経営資源を特化させました。これが2つ目のポイントだったと思います。

――現在、仮想モールは楽天とヤフーがほぼ覇権を握っています。その判断がなければ成長速度も変わってきたのかなとの印象もあります。

 そうですね。ただ、正直な話でいずれにしても、どちらかの事業を選択しなければならなかった時期だったのかも知れません。先ほども申し上げましたが、マンパワーも限られていました。半年くらいは悩みましたよ。一方でモール事業は当時、全売上高の9割という大きな売り上げを上げており、黒字化していましたから。ただ、この向こう3年4年のシュートタームの中で、当社が市場の中でポジションを取れて、かつ強みを出すことができる事業はどちらだろうと考えた時に、やっぱりギャザリングに特化するべきだろうという判断でした。

消費者の志向の変化に素早く対応

――改めて伺いますが「ギャザリング」の強みとは何ですか。

 「ギャザリング」はもともと、インターネットと共に発展できる小売りのモデルを作ろうというコンセプトから始めた販売手法です。インターネットの普及が小売市場にもたらす大きな変化、それは“消費者へのパワーシフト”です。従来、小売業は売り手側にパワーがありましたが、これからは完全に消費者にパワーがシフトすると。このパワーシフトにスムーズに対応できるのが「ギャザリング」です。

 現在は20、30、40代前半の消費者だけがeコマースを利用していますが、10代や50代など上下に確実に広がってきています。これは時間軸とともに確実に広がっていっていきます。そうなるとネットは生活に欠かすことのできないメディアとなります。そこに新しい小売のあり方というのが出てくると思うわけです。

ネット時代の小売りというのは、お客さんの志向性は激しく変化しますし、情報も豊かです。そういう中でお客さんの志向も大きく変化します。これを踏まえて、これからの小売業というのは変化対応業だと思います。これまでの小売業というものはメーカーが作る商品を在庫し、消費者に販売するという、ある意味でメーカーの販売代理店でした。これからのネット時代の小売業のあり方は、お客様の意向に基づいての購買代理エージェントでなくてはならないと思っています。
「ギャザリング」という販売手法は、店舗、人員、什器、また注文を受けてから発注するため、最終的には在庫も持ちません。在庫を持ってしまうとお客様が求めている求めていないに関わらずその在庫を売らなくてはいけませんが、「ギャザリング」ではお客様が本当に求めているものだけを提供できます。

例えば、お客様から「こんな商品をギャザリングしてくれ」という声が日々、寄せられます。それにどんどんと答えていけると。それも1ヵ月後ではなく、今日来たら明日には検討して来週にすぐ答えることができます。

このスピード感は消費者へ適切な商品提案を可能とし、瞬発的販売力を生み出します。そのため、商品の仕入れ、つまりベンダーとも良好な関係を築くことが可能となります。そうなると、良い商品を安く仕入れることが可能となり、また消費者へそれが還元できます。これを具現化できるものが「ギャザリング」の大きな強みだと思っています。

メディアとの連動強化で戦略子会社

――先ほど、IPOでの調達資金の使い道としてメディアとの連携強化を挙げていましたが具体的にはどういうことでしょうか。

 先日、当社としては初めて他のメディアとの連携、特にテレビとの連動業務に特化した連結子会社「メディアン」を立ち上げました。我々は現在、PCコマースよりもモバイルコマースの売り上げの方が大きく、またモバイルに注力してビジネスを展開しています。

モバイルがPCインターネットよりも優れている点というのは日常、常に持ち歩いているパーソナルなメディアであるということ。それは外でも、家の中でもですよね。机の上や寝室に移動する時は、そこに常に持っていくという非常に身近なメディアです。

そうしたメディアの特徴がどういう時に生きて来るのかというと、既存のメディアと連動する時です。例えば、私どもは角川書店など複数の出版社と提携して、消費者が雑誌上で商品を見て買いたい時にベッドの上からでも何時でも、しかもギャザリングで安く買えると。こうした他メディアとの連動はやはり親和性が高いわけです。これはPCではこのような高い親和性は得られません。実際、PCと雑誌メディアとの連動を少しやったことがあったのですが、モバイルほどの効果は得られませんでした。雑誌、ラジオはすでに実施しその効果は実証済みです。そうなるとやはり、もっとも有効なメディア、つまり次はテレビというメディアとの連動を強化していきたいと思っています。テレビ番組とうまく連動させながら、携帯のコマースを発展させていこうと。

携帯で商品を購入する消費者、この小さい画面で欲しい商品を判断して、ポンと商品を購入される方と言うのは多く見積もっても7000万人以上のモバイルインターネットユーザーのうち、まだ恐らく10%くらいだと思います。

残り90%以上の消費者は「携帯なんかでものは買わないよ」という層だと思います。そういう方たちをモバイルコマースに引き込む、つまり携帯で簡単に商品を買えた、しかも良いものが安く手に入ったという満足感や便利さを理解して頂くには、やはり1回買ってもらうと。買って頂ければそうした満足感や便利さは必ず伝わるはずですし、そういった意味で勝ちなわけですから。

そういう入り口を作っていく上で他の媒体との連動を図っていく、そのために「メディアン」という戦略子会社を設置して、これまで社内で行っていた部分を特に切り出して、特に強化させました。

あらゆる商品をギャザリングで売りたい

――今後の戦略を教えてください。

 大きくカテゴリーを広げる施策を打っていきます。現在、ブランド商品からベビー用品まで7カテゴリーを扱ってきましたが、これを最終的には20カテゴリーまで広げていきます。そうすると面積が広がってきますから、やはり客層も広がります。例えば、去年は食品や焼酎、ワインなどお酒を販売し始めたところ、やっぱり客層も上がり、40代の層も購入頂けるようになりました。そういう意味ではカテゴリーを広げることで客層も広がるということは見えています。横はカテゴリー、縦は客層。これを両軸で広げていくというのが今後の戦略です。

――共同購入方式を取り入れる企業も増えています。

 共同購入自体はもともとありますし、それ以前に小売市場というのは非常に巨大な市場です。このうち、そんなに遠くない将来に10%くらいはネットに移行すると考えています。市場がどんどんと大きくなる中では競合的な商売というのも出てくると思います。一方でわれわれ自身も現在複数のビジネスモデル特許を出願しており、そういう意味でのビジネスの防御というのは当然やっていきますが、一方で共同購入という概念というところでは、すでに複数の企業が実施しています。ウェルカムじゃないですけれども、我々は我々の道を進むだけですね。やはり、モバイルコマースの良さ。いつでもどこでも、しかも安く手に入る、これを純粋に広めていきたい。この便利さを伝えて生きたい。そこに尽きますね。やはりビジネスは喜んで頂けるというところがあって、初めて売り上げも伸び、会社の規模も大きくなりますから。あらゆる商品を「ギャザリング」で販売し、これまで通りその部分を徹底的に追求していきたいです。

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