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緊急インタビュー

Yahoo! Search Technology始動後の影響を聞く

「検索順位の変動は軽微だが

“キーワード購入数”の見直しを」

アウンコンサルティング 代表取締役社長 信太 明 氏


日本最大のポータルサイト「ヤフー!ジャパン」がページ検索をグーグルから米社が開発した検索システム「Yahoo! Search TechnologyYST)」に切り替えた。

こうした検索システム関連の動きは検索キーワード連動型広告やSEO(検索エンジンの最適化)を展開するEC事業者にとっても影響を与えそうだ。SEM(検索エンジンマーケティング)やSEOのコンサルティングを展開し、国内外の検索サービス事情に詳しいアウンコンサルティングの信太明社長にYSTが及ぼす影響について聞いた。

影響受けるキーワードは8%程度

――「ヤフー!ジャパン」がページ検索をYSTに切り替え、SEOなどに影響でるとの懸念があります。昨年、米国でもヤフーがYSTに切り替えるという同じ動きがありました。米国のEC事業者の反応はどうだったんでしょうか。


 細かくは把握していませんが、日本に関して言えば、ポータルとしてヤフーは絶対の立場だと言えるのですが、米国の場合、ヤフーのポータルとしての立場は3位か4位レベルです。米国ですとMSNやAOL、グーグルもポータルとして強いですので。ですから、米ヤフーがページ検索を切り換えても、日本ほどの影響や反響ははなかったと思います。

 

――YSTに切り替えたことで、「ヤフー!ジャパン」の検索順位に変動はあるのでしょうか。

 

 ニッチなキーワードですと変動する可能性はあります。ただ、当社がクライアントから預かっている数百のキーワードの中で、順位が下がるなどの影響を受けているキーワードは全体の8%くらいです。

 

というのも、単独のキーワード、例えば「ラジカセ」と検索すると、通常、ヤフーではディレクトリ(カテゴリ)で検索結果が出ます。単独キーワードではページ検索にはなりませんので、このページ検索がグーグルからYSTに変わっても、そういった意味ではあまり影響はないです。

 

それが例えば、「ラジカセ」「ソニー」「ブラック」など複数のキーワードの入力による検索だと、恐らくページ検索による検索結果となり、これまで出ていた順位とは若干の変動は見られると思います。

 

それでも先ほど申し上げた通り、影響が出るのは全体の8%程度ですので。今回のYSTの件で、クライアントからの問い合わせは結構な件数を頂きました。「これからどうなるのか」、「どうしたらいいのか」などですね。

 

YSTに合わせてサイトの構造をいじるなどの具体的な動きは現段階では時期尚早と言えます。あとで話しますが、ある程度、YSTの検索アルゴリズム(検索結果の順位を決定する指標)が安定してからの方が懸命です。

 

今は落ち着いて状況を見るべき

 

――では、現状できるYST対策はなんでしょうか。YSTSEOは可能ですか。

 

 米ヤフーのYSTの検索アルゴリズムと「ヤフー!ジャパン」の検索アルゴリズムは若干というか、かなりの差異があります。米国のYSTは先行してだいぶテストを重ねてきているので、ある程度は安定してきています。ただ、日本のYSTはまだ始動したばかりです。

 

日本語と英語は言語的にだいぶ違います。例えば英語であれば分かりやすい例で言うと「this is a pan」と必ず、単語の間にスペースが入り、1ブロックが1つの単語という切り分け方ができます。これに対し、日本語の場合は特殊です。例えば「ガン保険」というキーワードの場合、「ガ」と「ン」という助詞と「保険」という名詞に分かれます。意味で分かれる訳ではないのです。つまり、日本語の切り方というのはかなり特殊なので、英語ベースのものがすべて流用できるわけではありません。日本のYSTのアルゴリズムが安定するまで、これからまだちょっと時間がかかるのではないでしょうか。

 

異常を踏まえ現状できることは、私が見たところによると、「ヤフー!ジャパン」のYSTは「インクトゥミ」と「ファースト」ベースの検索エンジンになっていると考えられますので、そこから判断するとまず、メタタグ(ホームページ上には表示されなくても、検索エンジン・ブラウザが読むことができる情報を設定するタグを取ります。

 

あとは、ディスクリプション(検索結果に出るサイトの紹介文)もきちんと表示するので、その部分はきちんとケアしてあげた方がいいでしょう。それらの部分に関しては今後も変わらないと思いますので、まずはそこをやるべきでしょうね。

 

――とりあえず、検索結果に関してはそれほど大きな影響はなさそうですね。

 

 ネット業界では結構、動揺していますが、むしろ落ち着いた方が良い時機なのかも知れません。グーグルもそれほど漫然としているわけではないので、いろいろと準備をしているはずです。これからいろいろと動きが出てくると思います。

 

オーバーチュアを活用せよ

 

――また、ヤフーはYSTの導入と同時に検索結果に表示するリスティング広告をオーバーチュアに一本化、グーグルのアドワーズ広告の掲載を止めました。

 

 そうですね。今後、アドワーズ広告の主な掲載場所はグーグル本体の検索結果か、提携先のポータルのみとなります。BtoC分野のEC事業者はやはり日本最大のポータルさいと「ヤフー!ジャパン」の対策はしなければなりません。リスティング広告という面ではそうなると、アドワーズ広告だけでなく、オーバーチュアも使っていかなければならないということになります。

 

――オーバーチュアの力が強まりそうです。

 

検索キーワード連動型広告についてはそうでしょうね。ヤフーの検索結果画面に表示されるのはオーバーチュアのみとなっていますから。

 

――ただ、これまでBtoCEC事業者の多くはリスティング広告と言えば、入札単価の安いアドワーズ広告が主流でした。

 

 これは業界、企業規模によっても異なってくるのですが、通販企業や旅行会社、ネット書店など、取り扱う1商品あたりの粗利高が小さい企業や楽天出店者などに多い、いわゆる“パパママストア”など小規模事業者は確かにアドワーズ広告が多かったと思います。やはりアドワーズ広告は最低入札単価が7円と手軽なためでしょう。

 

ただし、中堅以上の企業は逆にこれまでもオーバーチュアの方が多いと思います。最低入札価格は35円とアドワーズ広告に比べて割高ですが、ヤフーに露出が多いですから、ブランディングにも利用できるメリットがあります。またオーバーチュアの場合、他社のキーワードの入札価格が見れますから、マーケティングの基礎資料にもなるわけです。

 

また、オーバーチュアの最低入札価格は現在でも基本は35円ですが、あまり入札されていないニッチなキーワードに関しては、今年の1月26日から通販企業などを対象に9円まで下げてきているという朗報もあります。

 

――では、これまでよりも割安でオーバーチュアのリスティング広告を活用できるということですか。

 

ただし、やはり最低入札価格の問題があります。9円で入札できるキーワードを見つけることができれば、いいですが、通常の35円となると費用対効果的に合わない広告主も出てくると思います。それを避けて、効果的にオーバーチュアを活用するためにしなければならないことは、購入するキーワードの数を増やすとことです。

 

日本では1社あたりが購入するキーワードの数が少なすぎると思っています。キーワードの平均購入数は把握していませんが、少ない企業では2030くらいで、多いところでもせいぜい、200300くらいではないでしょうか。これを最低、500くらいにしなければなりません。商品数の多いところだと、2000や、3000くらいの数は欲しいところです。

 

ニッチワードを数多く入札

 

――なぜ、キーワードを増やすことが必要なのでしょうか。

 

ビッグキーワードとか、メジャーキーワードと呼ばれる誰にでも思いつくキーワードは当然、多くの企業が入札していますので、入札価格は高騰してしまいます。それに対して誰も思いつかないようなニッチなキーワード、極端に言えば、製品の型番などは多分、誰も入札していません。そのため、オーバーチュアも9円で入札できるはずです。

 

米国ですと、製品マスターをキーワードとして入札するのはすでにトレンドになって来ていますし、その結果、1社で50万キーワードを入札している企業も多々存在します。実際、私は今年5月上旬にオーバーチュアの本社に行ってきました。そこでヒアリングした結果でもやはり、数十万のキーワードに入札している企業も多いようでした。

 

もちろん、企業規模によって差異はあります。ただ、“パパママストア”みたいな小規模ECサイトでも、1カ月に日本円で120万円くらいの予算をキーワード入札にかけているところもあります。

 

――日本のEC事業者もキーワードの数を増やすことが今後のポイントだと言うことでしょうか。

 

 これは必須条件になりますね。オーバーチュアとアドワーズ広告は異なると思いますが、恐らくは日本では入札可能な全検索キーワード数のうち、現状5%くらいしか入札されていないと思っています。

 

ですから、裏を返せば残りの95%は未知のキーワード、入札されていないキーワードです。ここの部分はオーバーチュアも9円で入札できます。ですから、そこの部分を狙わないと駄目でしょうね。

 

例えば、アパレルで言えば、商品には型番やサイズ、カラーがありますよね。ですから、完全にSKUベースでの入札などもニッチなキーワードと言えるでしょう。

 

ニッチなキーワードで検索回数を稼げるようになってくれば、むしろメジャーなキーワード、つまり入札単価の高いキーワードは掲載を止めてしまえばいいわけです。そうすれば、平均のCPC(1クリックにかかるコスト)はかなり抑えることが可能になります。

 

toBBtoCSEOは2極化へ

 

――ヤフーという強力なトラフィック源を失ったグーグルの検索キーワード連動型広告「アドワーズ広告」は今後、どうなるのでしょうか。やはり、利用率は低減するのでしょうか。

 

 激減まではいかないと思います。その根拠は2つあります。先ほども申し上げましたように、キーワードで考えると8%くらいしか影響はありませんから、グーグルサイドの打撃もその程度なのなのかなというのが一点です。

 

それと、グーグルは非公表ですが、一説によると総売上高の95%は広告収入といわれています。残りの5%分が多分、ヤフーを中心にした検索サービスのOEM供給の検索収入ですので、グーグルからとってみても収入的な損失はその5%の部分です。

 

また、今後もBtoB分野の企業はグーグルでヒットさせたいという要望は高いと思われるため、グーグル向けのSEOとアドワーズ広告のニーズがあるだろうと見ています。

 

一方で、BtoC分野の事業者はやはり、基本的にはヤフー対策が中心になりますから、オーバーチュアとYSTのSEO対策が必要で多分、今後は2極化していくと思われます。

(鹿野利幸)

 





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