2004.6 無料公開記事    ▲TOP PAGE

EC市場はすんなり10兆円市場に拡大する
西川 潔 氏【ネットエイジ社長】


EC市場が急成長している。既に2〜3兆円と既存の通販市場と変わらない規模にあると見られる。ネット企業のインキュベート(孵化)事業などを行うネットエイジの西川潔社長は、10兆円規模までは現在の急成長が続くとの見方を示す。西川氏は急成長を支える今後の動向として、米アマゾン・ドット・コムのようなECサイトのモンスター企業の出現と、中古品市場の拡大に注目する。

多様化する消費者のEC需要


――EC市場の現況をどう見ていますか。


オーバーヴューとしては、本当の成長が始まったという感じです。インターネット、特にブロードバンドの普及がここ2〜3年で急激に進んでいるので、ネットショッピングに限らず、検索や予約、見積もりなどさまざまな利用シーンが根付いてきています。

 

新聞などではここ最近の景気回復の一つとして「デジタル家電景気」を挙げていますが、私の友人に言わせれば、それは「ブロードバンド景気」なのだそうです。確かに、ブロードバンド景気と言えばある特定の商品の需要よりも広い意味になりますから、そういった認識を持ってもいいのではないかと思います。

 

きちんとした調査をしたわけではないのですが、ネットという新たな消費手段の拡大が財布の紐を緩ませる一つの要因となり、現状の景気回復に寄与している面もあるのではないかと感じています。ネットを使った双方向のコンテンツは娯楽性が高く、即時性により消費行動を取るのも簡単だからです。

 

利用者の拡大の一方で、ネット受注によるコスト削減効果などを期待し、企業も積極的にネット活用を推進しています。そのため、EC市場は既存の流通市場に比べ、あらゆる面で追い風が吹いているのではないでしょうか。


――利用者のショッピング利用の形態も変化しているようです。


ユーザーの中には楽天だけですべてのネット上での買い物を済ませている人もいるかもしれません。いきなり「グーグル」に行って欲しい商品のキーワードを入れて検索してから買うという人もいるでしょう。商品分野ごとに行きつけのサイトを決めていて、本ならアマゾン、家電製品なら「ヨドバシドットコム」――というような消費行動もあるはずです。

また、パソコンなどデジタル関連商品を買うときは「カカクコム」に行って販売店の価格を比較してから買う人も増えています。一方で、カニなどの食品は価格で商品比較することができないため、店のブランド力などが購入の決定に大きく影響しているはずです。

 

このように、消費者は複数のECサイトや関連サイトを使い分け、自分の利用目的にあったネット上の消費行動を行っているのではないでしょうか。

 

ECサイトの“モンスター”が不在

 

――既にEC市場は大規模サイトや仮想モールなどプレイヤーが固まってきているという見方もあります。

 

EC市場は既に2〜3兆円程度あるという調査がありますが、ここ数年で10兆円くらいまではすんなり拡大していくと思っています。根拠としては、日本のGDP500兆円のうち民間最終消費が約300兆円あると言われているので、そのうちの3〜4%くらいのシェアを占めるのは、昨今、急激な利用拡大が進んでいるEC市場においてそれほど難しいことではないと考えられるからです。

 

その中で、米国の「アマゾン」のようなモンスター企業が今後出てくる可能性もあると思います。売り場を提供する仮想モールのモンスター企業では楽天がありますが、自らが仕入れて売るというスタイルのモンスター企業は国内に存在しないんです。

 

もちろん、商品カテゴリーで見れば「ヨドバシドットコム」のようなモンスター企業は存在しますが、しかし、それは米アマゾンのような既存のリソースがないゼロの状態から起業したモンスター企業ではありません。リスクはありますが、100年の計を見据えた純粋なECでのモンスターになり得るベンチャー企業が、私は出てくると思っています。

 

現時点では、ネットプライスやグローバルメディアオンラインなどがそれに近い企業だと思います。米アマゾンは成長期に優秀な仕入れ担当者を米ウォルマートなどの大企業から引き抜いてきた経緯などもあるため、そうした通販展開における優秀な人材の獲得などが成功のカギを握っているのではないでしょうか。要はどれだけ本気になれるかということです。

 

ECサイトのモンスター企業になれれば、ECの売り上げがそのまま売上高に反映されるので、うまくいけば楽天のような仮想モール運営企業よりも高い成長率が期待できます。それがEC市場の拡大に与える影響も大きいでしょう。

 

――今後注目されるECの利用形態にはどんなものがありそうですか。

 

米アマゾンで中古商品の売買を行っています(国内の「アマゾン」も展開)が、これは考えてみると消費者にとって非常に革命的なことだと思っています。

 

例えば、1000円で買った本を500円で売れれば、本を500円でレンタルしたようなものです。それが本以外にも適用できる商品分野は一杯あるわけで、ネットオークションで売られている商品であっても、買い手がつきそうな商品をこれに適用できる可能性はあると言えます。

 

経済産業省は中古品市場の統計は押さえられていませんが、新品市場と同じかそれ以上の伸び率で中古品市場は伸びているのではないでしょうか。それは新品市場の売れ行きを鈍らせるという可能性も考えられますが、消費者ニーズはありますし、資源の有効活用という面においてもいいことのはずです。

 

また、中古品市場はネットらしいとも言えます。というのは、米アマゾンのような売買サービスがあれば、消費者は商品を買ったサイトで、いつでもそれを売ることができるわけです。今は米アマゾンくらいでしかできませんが、だんだんとこれが消費行動の流行になっていく気がするのです。

 

中古品市場拡大が消費を底上げ

 

――そう思う根拠は何ですか。

 

自動車販売市場においては、中古車販売市場が整備されていないと新車は売れません。ですから、各自動車メーカーが中古車販売のサービスを持っているのです。これと同じように、家電メーカーが新商品を売るために中古品販売の市場を作るということもあり得ると思うんです。

 確かに、中古品市場があれば新商品が売れなくなるという懸念はありますが、それは自動車販売市場においても同じことです。ではなぜ自動車販売市場において新車と中古車の販売市場が成り立っているかというと、逆にいつでも売ることができるから高額な新車を買おうという需要が生まれるからです。

 それを自動車以外の商品に当てはめて考えてみると、例えば冷蔵庫を10年も使うことを前提に購入するのではなく、魅力的な商品が出たらいつでも今持っているものを売って新しい商品を買えるという考えが成り立つことから、購買決定の敷居が下がり、ものを買う頻度が高まるのではないでしょうか。

 つまり、そうなれば所得の二階層化が広まろうとしている中で、リッチな人は新品を、そうでない人は中古品を次々と買い換えることで生活水準を高めていくことがありえるのではないでしょうか。それが、ネット通販をテコに広まっていく気がしています。

 

――確かに、「ヤフー!オークション」だけで年間取扱高が5000億円近くあり、ネット上の中古品市場は巨大市場を形成しています。

 

役人などは気付いていないかもしれませんが、急速に中古品市場は巨大になりつつあり、実体経済を動かしえるパワーを秘めていると言えるでしょう。

 

また、中古品販売は売り上げとしては小さいですが粗利は大きいんです。自動車では新車はマージンぎりぎりでやっていますが、中古車は販売価格の半分くらいの利益率でやっています。ネットのテクノロジーを活用することで、あらゆる商品でこれと同じことを行って消費全体を底上げし、かつ、中古品販売により利益率を向上させることも難しいことではありません。

 

ヤフーはこれに近いビジネスを成り立たせることがすぐにでもできそうですが、現時点の「ヤフー!オークション」に出品されている商品は玉石混交で、写真や商品情報がきちんとした中古商品として満足できるレベルに必ずしも達しているとは言えません。そこに関しては、商品とその関連情報を一定レベルにまで高められる仕組み作りをする必要がありそうです。

(島田昇)

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