2004.6 無料公開記事    ▲TOP PAGE

出店者の顧客情報は楽天のもの?

仮想モールの出店規約を大幅改定


3月31日、楽天(本社・東京都港区、URL:http://www.rakuten.co.jp)の三木谷浩史会長兼社長から仮想モール「楽天市場」の出店者に対して、「出店規約改定のご案内と個人情報保護対策徹底のお願い」と題したメールが一斉配信された。

出店規約の改定には、出店者が「楽天市場」を退店する際に個人情報を抽出してはならないことや、個人情報を流出した店舗はその際に生じた損害費用を賠償する責任があるとする内容を含む。

つまり、出店者は今後、「楽天市場」を退店するとここで得た顧客情報は水泡に帰す一方で、万一、顧客情報が流出した場合はその賠償金をすべて請求されることとなる。

「不満があるのは当然だ。しかし、我々は楽天との関係において非常に弱い立場にあるのが実情。現時点では楽天がなければ商売が成り立たないのだから、黙って受け入れるしかない」と、ある出店者は今回の出店規約の改定についてこう漏らす。

9000店舗もありますから」

対話なく重要事項が決定される現状


9000店舗もありますからね――。5月13日の決算発表が終了した直後、本誌の「出店規約の改定は店舗間との対話を経て行うべきではないか」という質問に対して、三木谷会長兼社長はこうコメントした。事実上、膨れ上がった店舗との対話は困難なことから、店舗にとって重要な案件であったとしても、楽天主導ですべてを決定していくことを示唆した。

 

このコメントの数十分前。楽天が発表した同社の200412月期第1四半期連結決算は、売上高が前年同期比2.7倍の979000万円、営業利益が同4.9倍の338200万円とともに過去最高で増収増益だった。今回の増収増益は7月に「楽天証券」へ社名変更するネット証券のDLJディレクトSFG証券の買収効果が大きい。

 

しかし、このネット証券買収による増収増益効果は、国内最大の仮想モール「楽天市場」をテコに業績を拡大、大型買収案件で企業規模を大きくできたからこそ成り立ったもの。これまで「楽天市場」を支え続けてきた出店舗の中には、発言権もなく、楽天の一声で今後の経営を大きく左右されかねないという危機感を募らせる一方で、営業利益で約5倍の増益に沸き立つ楽天を苦い思いで見ている人もいることだろう。

相乗効果目指す楽天

アドレスさえ分からない店舗

「楽天市場」の個人情報は、店舗ごとが取得するものに加え、楽天本体が取得するものもある。本体取得分は「楽天市場」だけで約500万人、ポータルサイト「インフォシーク」や宿泊予約サイト「旅の窓口」などを含む楽天グループ全体では約2000万人に達する。楽天は今後、グループ間のID統合を順次進め、ポイントプログラムなどを活用したサイト間の相互送客でグループ全体での相乗効果を目指す方向にある。

 

サイト間で相乗効果を狙うのは当然の発想で、楽天がこれを行うのは自然の流れと言える。しかし、「楽天市場」の店舗はこれができない。既に外部サイトとのリンクが禁止されている上に、今回の出店規約改定で、「楽天市場」退店後にここで得た顧客情報を活用する道も絶たれた。

 

楽天による出店者への規制強化はこれからも進んでいく方向にあり、6月以降からアドレスを登録している見込み客に対するアプローチもECシステム「RMS」を介して行わなければいけなくなり、さらには「転送メールなどの仕組みを利用してメールアドレスは店舗様には開示しない仕組みを構築していきたい」(小林正忠楽天取締役のサイト上のコメント)としている。

 見込み客に対するアプローチで運営作業の効率化を狙って「RMS」以外の各種ソフトを併用していた店舗もあったが、今後はこれもできなくなり、メールアドレスの閲覧さえ不可能になる。

通販企業の最大の財産

 

確かに、個人情報の保護を徹底することは重要だ。昨今、企業の顧客情報流出が多発しており、楽天においても、「残念ながら、店舗様からのメールで、他の(店舗の)お客様のメールアドレスが宛先欄、CC(宛先以外に同報送信する機能)欄などに表示されていた事例もございます」(小林氏のコメント)としており、楽天内での個人情報流出はわずかながらあった模様だ。

 

しかし、2005年4月に完全施行される「個人情報保護法」は、企業による健全な個人情報活用の活性化を前提に施行されるもの。今回の楽天の出店規約改定は、出店舗の個人情報活用を著しく阻害する内容を含んでいることは否めない。

 

また、通販を行う企業にとって、顧客情報は最大の財産。見込み客に対するアプローチが実購買につながる最も効果的な手法であることはもちろん、見込み客の収集にはそれなりのコストがかかる。マス媒体では数百万円〜数千万円かかるコストが、ネットでは大幅に削減できることが多い。しかし、仮想モールの出店舗でもそれなりのコストはかかるだろう。

 

その財産が、退店したらすべて楽天のものになってしまうのだ。通販実施企業となる出店者にとって、いくら個人情報保護の必要があるとは言え、本音の部分では受け入れがたい事態であると言える。

 

ただ、仮想モールはほぼ楽天一社の独占状況にあるのが現状。出店者は今回の出店規約改定に不満を持ったとしても、楽天以外に同様の商売を継続できるサイトは少ない。冒頭の「黙って受け入れるしかない」と漏らす出店者の胸のうちには、このような苦悩があるのだ。

 

相次ぐ買収で多角的な経営に乗り出し、好調な業績をあげ続ける楽天――。

楽天の栄光の背景には、これを支え続けてきた出店者たちの苦悩の現実がある。

(島田昇)
▲TOP PAGE ▲UP