2004.5 無料公開記事    ▲TOP PAGE

カスタマイズ提案が通販利用を押し上げる


松本 真尚氏[ヤフー・ショッピング事業部長]



今年に入って社長室の松本真尚氏がショッピング事業部長に就任した。

「何でもNo.1好き」のヤフーは、楽天に水をあけられている仮想モール事業において、昨夏の店舗・商品数強化に続くテコ入れに着手した格好だ。

ヤフー全体のサービスを熟知する松本氏は、ヤフーの総力を挙げてヤフー対楽天の“仮想モール戦争”に臨む。(聞き手は本誌・島田昇)


――ショッピング事業部長に就任した経緯は。

 ネットメディアのヤフーのネクストステップにおいて、コマースは重要です。特に、ショッピング(年間取扱高は約536億円)はオークション(同4885億円)と同じくらいのマーケットキャップはあると考えられるので、これの強化は重点的に進めていく必要があると思っています。

 

 事業部としての展開は一体感を得られるメリットはあります。しかし、ヤフー全体としてメディアとコマースを融合させ、縦軸だけでなく、横軸でも事業を強化できる体制は必要です。私は長く社長室にいましたので、当然、別事業部のオークションはもちろん、メディア、リスティングなどすべてのプロパティーが何をやっていて、どれが事業の目的なのかということが理解できています。ヤフー全体としてショッピングに力を入れていくためにも、横軸が分かっている人間がいた方がいいということで、私がやることになりました。

 

――どのように横軸を強化しますか。

 

 例えば、音楽関連コンテンツの利用者は「調べる」「楽しむ」「買う」というそれぞれが密接した行動を取ると考えられます。しかし、「調べる」は調べるだけ、「楽しむ」は楽しむだけ、「買う」は買うだけ――とコンテンツが独立しているのは不親切です。

 

 モノを買うというのは特別なことではありません。ヤフーは生活に密着したサービス、たとえば1日の始まりに天気が知りたいという人のために天気予報を提供するなどしており、ブロードバンドによるネットの高速・常時接続環境の普及で、ネットはより生活に密着してきました。

 

 その中で、今はモノを買うというニーズにフォーカスしたのがショッピングとオークションです。これはこれで必須ですし、突き詰めなければなりませんが、調べたり楽しんだりしていいものがあればその場で購入しても構わないというニーズに対し、その先に普通に買えるという仕組みがあれば、利便性は高まります。

 

 買うだけならリアルでもできますが、ネットならこれらを融合させてサービス提案することができますし、その方が“ネットらしい”と思います。そういった融合が可能な総合力をヤフーはもともと持っています。

 

コマースはフェーズ2に突入

 

――ネット販売市場をどう見ていますか。全体的に上昇傾向にあるという見方や、既に優勝劣敗が決していて、楽天のような勝ち組のみが上昇傾向にあるという見方もあります。

 

 ネット接続環境にあるユーザーは数千万人いると言われていますが、コマース経験者は数百万人レベルだと思っています。ネットユーザーの中でコマースの利用ユーザーは10%〜20%くらいしかいないでしょう。残りの8090%に対してどうアプローチするのかということを考えると、まだ始まったばかりと言えます。

 

 日本も含め世界でコマースのビジネス形態を大きくしていくのは、モールなのかどうなのかの結論は出ていないと思っています。フェーズ1がたまたまモールだったということで、日本の場合はこれからフェーズ2に突入しようとしている移行期にあると思います。

 

 なぜフェーズ2かというと、日本は米国と比べてパラメーターが何点か違います。1つは国土の大きさ、1つはクレジットカード保有率、もう1つはテクノロジー的に見てモバイルというツールがあることで、大きく分けてこの3つの要素を考慮した“メイド・イン・ジャパンのEコマース”が出てくるだろうと思っています。それを今は試行錯誤中です。

 

 フェーズ1という部分で考えれば登場人物は決まってしまった感がありますが、今からフェーズ2になることを考えれば、マーケットは大きくて登場人物は少ないので、いろいろなことができるチャンスはあると思っています。

 

――国内の通販は10人に3人くらいしか利用しないという意見もあります。しかも小売市場に占める通販市場は数%。ネット利用者の大半が通販を利用するとは限りません。

 

 現在の通販利用者を押し上げる重要なファクターとしてロジスティックの問題があると思います。注文してから明日届くというのならいいですが、数日、数週間とかかるというリアル店舗での買い物とのギャップと、先ほどお話したクレジットカード利用に慣れていないという問題があるから通販の利用が進まないのであって、インターネットがどうこうではなく、この問題が解決できれば通販というマーケットの規模が変わってくると思っています。

 

 また、ネット通販がカタログ通販などと違う最も大きい点は、パーソナリゼーションだと思っています。

 

 通販には数百ページの分厚いカタログもありますが、基本的にはページ数の制限があり、テレビ通販であれば番組時間の制限があります。そのため、お客さんが欲しい商品をある程度セグメントしてマーチャンダイジングしなければなりません。しかし、ネットでは趣味趣向に合わせた商品がパーソナリゼーションで提案され、しかも掲載商品数の制限が基本的にないのでその大半が買えるということができるので、30%の通販利用率が40%、50%と増えていく可能性は考えられます。

 

 消費の主導はメーカーから消費者に変わってきているので、「あなたのために」という商売の仕方は必要でしょう。それをきちんとやろうと思うと、紙やテレビでは限界があります。当然、ネットでの限界もあると思いますが、その中で一番限界が遠いのはネットだと思います。

 

取扱高拡大はPV増加より難しい

 

――対処すべき優先順位の高いものは何ですか。

 

 まずはモノを売るのに慣れている人ばかりではないので、マーチャントに負荷のないシステムを提供しなければならないのが1点。ヤフーのいいところでもあり悪いところでもあるのですが、ヤフーは米国のサービスをローカライズしているので、日本の商慣習と米国の商慣習の違いが出てくる可能性があると思っています。ですから日本向けに本当にいいものであるかどうかを肝に銘じ、マーチャントの声を収集し、よりいいものを提供できるようにしなければなりません。

 

 もう1つは“人通りの多い環境”を作って、人を送り込んであげることが重要です。先ほどの横軸強化のほかにも、ヤフーは数千のマーチャントがあり、その中には百貨店などもあるので、ネットをベースに地域でイベントをやるなどいろいろなところとコラボレーションしていくことは重要です。内部完結にとどまらず、リアルも含めた外部との連携はやっていきたいです。

 

――物理的に楽天と比べてマーチャントのコンサルタントが少ないことに問題はありませんか。

 

 恐らく楽天はヤフーの数倍はいるでしょうが、ヤフーがどこまでアドバイスしていくかということが重要です。モノを売ることに関してマーチャントの皆さんはプロ。そのため、ヤフーが行うべきコンサルティングは数千あるマーチャントの成功体験をロジック化することです。

 

 マッキンゼーにしろアクセンチュアにしろ、コンサルティングにはメソッドがあり、それを持っていることがコンサルティングファームの強みです。そのメソッドをベースに、「あなたのお店はこうすべきです」と言えるのがコンサルティングだと思っています。これは企業経営におけるコンサルティングも店舗運営における店舗も同じだと思っています。夏くらいまでにはそのα版を形にしたいと思っています。

 

――夏くらいまでに楽天を超えるという構想もあります。

 

 コマースの取扱高を上げることは、ページビュー(PV)を増やすことよりも難しいと思っています。

 

 例えば、ヤフーでは100%満足しなくても金融情報やスポーツ情報を見に来るユーザーはいると思いますが、本気で情報を知りたければお金を払って証券会社のサイトを見ているというマーケットがあります。コマースはそれに近いと思っています。

 

 PVが増えても最後の最後の「買う」というところまで持っていくと、お客さんのニーズにきちんと応えられているものを提供できていなければ、爆発的な伸びは期待できないと思っています。お客さんがファンになり、何度も来てくれる仕組みが構築できていなければ、本当の繁盛店にはなり得ません。キャンペーンなどである期間だけ繁盛店にするのは簡単ですが、きちんとした仕組みを構築するには時間をかけたプランニングが必要です。

 

 そこで重要なのはポジティブスパイラルに乗せるための出だしです。ヤフーは非常に大きい“車”だと思っているので、走り出しがよければ一気に加速していくでしょう。

 

――出店基準の低い出店枠の「ストア」の導入で店舗数や商品数は増えていると思いますが、取扱高の伸びにはそれほど反映されていないように映ります。また、従来の出店枠「セレクトストア」と「ストア」は、商品の露出度などに差があるとの指摘もあります。

 

 一般論としては、商品数が増えても取扱高はすぐには上がらないので、取扱高の大きな伸びにはもう少し時間がかかると言えるでしょう。

 

 「セレクトストア」と「ストア」の関係については就任間もないので詳細は掴めていませんが、基本的には“資本主義”であるべきだと考えています。努力しているマーチャントが検索に引っかかって売り上げを伸ばしている一方で、その努力の仕方が分からず、努力してもそれが報われないという状況であれば、それはアンフェアです。

 

 しかし、「セレクトストア」と「ストア」という分け方の理由付けがはっきりしているのであれば、努力している店舗にはヤフー全体としてできる限りの応援はしますし、努力している店舗とそうでない店舗との棲み分けは問題ないと思っています。

 

 実際、「セレクトストア」に出店している中小企業は存在しますし、今は「ストア」から「セレクトストア」に上がっていくという制度はありませんが、それもあり得るというコンセプトは持っています。



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