2004.4 無料公開記事    ▲TOP PAGE

「No1+国産」のポータルを創る


中嶋 孝夫氏[NTT−X社長]


屋台骨の固定電話収入が減少し続ける巨艦、NTT。

今後の主戦場となるネットの世界には、ヤフーを始めとするネット企業の勝ち組がひしめきあう。

NTTグループでネット事業の一番の“旨み”とされるポータル(玄関)サイト運営を担うNTT−Xは、日本人の利用を重視した検索サービスをテコに反撃を開始した。

(聞き手は本誌・島田昇)

すべては日本人のために

 

――消費者のネット利用はどのように変化していますか。

 

 大きなキーワードはブロードバンドです。国内のインターネット利用は95年前後からの検索サービスの登場で、消費者にとっても身近な存在になりました。それがこの1〜2年でもう一度、ブロードバンドによる高速・常時接続の環境が普及し、ネット利用がさらに身近なものになってきました。

 

 ブロードバンド以前と以後でユーザー動向を比較分析すると、ネットの使われ方は変わっていません。結局、ユーザーに最も使われるサービスのナンバー1は検索です。むしろユーザーの検索頻度は大きく拡大しています。

 

――検索利用の増加は検索利用の変化も迫りそうです。

 

 検索を入り口としてサイトに訪問するユーザーはかなりの比率を占めていると思います。となると、これをスムーズに、ユーザーのニーズに沿った形で誘導することが、我々には重要となります。

 

 専門的な情報を得るために検索を利用するというのは至ってシンプルなネット利用の形です。生活のあらゆる場面に沿って検索を利用するというのが、これからの検索利用の主流になると思います。

 

 ユーザーが検索の先にどのようなニーズを持っているのかはやや分かりにくいのが実情です。ただ、我々は量的に増大している検索ニーズに、データベースの最大化という原始的な対応を行うだけでは限界があるでしょう。

 

 ユーザーが求めているものを突き詰めて言えば、ウェブサイトそのものではなく、そこにある情報です。

 

 今後は検索の「検」の字を「賢」に変えていくような求められている情報をダイレクトに検索結果として出せるようにしなければならないと考えています。その次に利用者の意向を先読みして情報や比較データ、買い物情報などを提示できるような「献」の字の検索を目指していきたいです。

 

――昨年12月に検索エンジンの刷新を行いました。

 

 非常に重要だと考えているのは、キーワード検索の12%程度は、日本語固有の問題によって、ユーザーが求めている検索結果を得られていないということです。

 

 基本的に検索サービスは米国発の技術なので、英語のように文章を構成しているそれぞれの単語を入れて検索をするというスタイルになっています。しかし、日本語には単語だけを並べた文章はなく、通常は単語がつながっています。そのほかにも送り仮名の問題や曖昧な表現など、日本語特有の問題は多数あります。

 

 そのため、日本人が現状の検索サービス利用にもどかしさを感じているのではないかということを日々感じていました。これに対応する「日本人の日本人による日本人のための検索サービス」ということで今回の刷新に至ったわけです。

 

 まだまだ研究段階なのですが、我々NTTグループでは幸いにも日本語によるコミュニケーションに関する数多くのテーマの研究に多数の研究者が取り組んでいます。こうした研究者たちと連携し、文章での検索や検索結果を動的な形で見せるなど、多種多様な検索サービスに次々と挑戦します。

 

いつでもどこでも「goo」

 

――目指している検索サービスの理想形はどのようなものですか。

 

 3年後をメドに使いやすい検索エンジンの一定の形を完成させたいと考えています。コンセプトは日本人にとって最も使いやすい検索エンジンで、「献」の役割を果たすレベルにまで持っていくということです。

 

 ブロードバンドの普及は携帯電話も含めて進んでいます。そのため、多様な検索の入力に応えられるサービスを作っていきたいです。

 

 また、テレビ、携帯電話、DVDレコーダー内のハードディスクといった個人が持っている生活環境の中にある蓄積された情報やインターネット上の情報も含めあらゆる情報をトータルで、しかもワンストップで検索できるようなサービスに発展させていきたいです。

 

――「ウェブサービス」のようなイメージになるのですが、携帯電話のようなパソコン以外の端末やパソコン上のソフトとの連携も重要そうです。

 

 検索はある行動を起こすときの入り口ですが、ユーザーが求めているのはその先にある具体的な目的です。その目的に簡単にたどり着けるようにするには、ユーザーの目標に応じた適切な検索結果の表示はもちろん、我々の「goo」というサービスがどこにでもあるという状況にしなければならないと思っています。

 

 例えば、家電量販店にある情報家電製品を見渡したら、どこにでも「goo」がいるというイメージです。そのためには、キャリアのNTTドコモやハードを作る各家電メーカー、ソフト開発事業者や配送・決済の事業者などとの連携が必要でしょう。

 

 特に、今や電話は「家の電話」という言葉から「私の電話」に変化してきています。これまでの固定電話の回線は情報インフラとしての役割になり、電話は携帯電話が主流になるでしょう。さらに、携帯電話はコミュニケーションツールとなり、生活リモコンのようになるわけで、どこでも「goo」という状況を目指すには、これら各自業者との連携は積極的に取り組まなければならないと考えています。

 

ネットでのブランド構築が重要に

 

――外部企業との連携は各社のメリットを考えると、ナンバー1のポータルサイト、検索エンジンになる必要がありそうです。つまり、3年後にヤフーを超えるということです。

 

 ヤフーとはNTTグループのすべてのレイヤーで競合しており、それは「goo」だけの問題ではありません。ただ、ネットの世界はまだまだ5年、10年とマーケットが広がっていくので、検索だけに限らず、ネットの世界でお互いに切磋琢磨して使いやすいサービスを創っていかなければならないでしょう。

 

 とはいえ、存在感のない形では仕方がないので、ナンバー1になることは目指していきます。

 

――一方、ネット利用者はあまり強い思い入れを持たずに「みんなが使っているから」ということで検索やポータルサイトを利用している気もします。

 

 確かに、そういった一面もあるでしょう。しかし、ノーアクションでは何も変わりません。

 

 我々は検索エンジンの質についてはいいものを持っていると思いますし、これからも向上させていきます。ただ、いいものであるからといってじっとしているのではなく、これをユーザーに使ってもらうためのメッセージを出していくことも重要です。「技術」と「認知」の両輪で利用促進を進めなければなりません。

 

 例えば昨年末、白いトレーナーを来た男女1000人による行進を東京・渋谷で行いました。白いトレーナーの上には「壁紙」などの検索でよく使われるキーワードを印刷し、ブランディングの一環として「検索=goo」というイメージ作りを図りました。こうした施策は今後もさらに強化していきます。

 

――ヤフーはネット競売や掲示板という強力なコンテンツを持っており、これの利用が多いことで今の地位を維持している面もあります。

 

 ヤフーが持っているようなキラーコンテンツはまだ見えていませんが、3年後に向けていろいろな挑戦をしていきます。

 

 1つ言えることは、検索は何よりのキラーコンテンツです。これを先ほど言ったように、「賢」と「献」を兼ねた形で提供することができれば、大きな利用増につながると思っています。

 

 また、ネット利用者はテレビや新聞なども含めた多メディアの中で生活しています。

 

 例えば、ある自動車会社の広告をテレビとネットのメディアミックスで展開しました。すると、ネット広告のクリック率はテレビ連動していない時と比べて4倍に増えました。メディアミックスの中で、ネットを詳細情報が得られる媒体として位置付けることは有効な手法の1つでしょう。

 

 ネットは媒体の1つなので、ネットがそれだけの媒体として存在し続けることはないでしょう。ネットがテレビや新聞、あるいは携帯電話と強力に連動し合うダイナミックなメディアミックスの時代がやってきて、インターネットの世界に今一度大変化が訪れると思っています。我々はパソコン上のネットの世界だけにこだわるつもりはありません。

 

――今後、「goo」はNTTグループの中核の存在にもなりそうです。一方、NTTグループのネット事業のブランドは「goo」以外にも多数あり、分かりいくにというイメージもあります。

 

 コミュニケーション企業であるNTTにとって、ネットの普及の延長線上で重要なことは、電話のようにネットでもお客様の前に居続けられる存在になることです。「goo」をはじめとしたNTT−Xの事業は4月からNTTグループのブロードバンド事業のエンジンとなる「NTTレゾナント」において新たなスタートを切ります。「goo」はこれまで以上にNTTグループの事業との親和性が高まるでしょう。

 

 これは私見ですが、NTTのブランドはネットの時代になってから分かりにくくなっています。

 「goo」が日本発の検索エンジンを備えたナンバー1ポータルサイトになることは、NTTがネットでのブランディングをどれだけ確率できるかということと密接に関わっていると思います。


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