2004.4 無料公開記事    ▲TOP PAGE

ヤフーへの挑戦状、

三木谷社長自らがポータル事業のトップに


――楽天



 ここ最近、楽天(本社・東京都港区、URL:http://www.rakuten.co.jp)の三木谷浩史会長兼社長を不機嫌にさせてしまう質問がある。

 

 ヤフーがEC事業を強化していますが――。

 

 2月19日の記者会見の席でもこの質問が飛び出し、三木谷氏は声を低めて「全く気にしていない」と嫌悪感を剥き出しにした。

 

 しかしこの日、嫌悪感を込めたコメントとは全く逆の意図があると見られる人事を発表した。それは、三木谷氏をポータル(玄関)事業のトップに置くというものだ。

 

 言うまでもなく、ヤフーは国内最大手のポータルサイト。「インフォシーク」の買収でポータルを手に入れ、これに引き続き「ライコス」を買収、「インフォシーク」への吸収合併を経ても、ヤフーの背中ははるか遠くにある。

 

 「インターネット総合サービス企業」を標ぼうする楽天にとって、「インフォシーク」のアクセス数がヤフーのほぼ1/10となる月間約19億ページビューにとどまることは、危機的状況と判断したと見て差し支えないだろう。

 

 会見の中で三木谷氏は「ポータル事業はこれまで何となくやっていた。目標を定めて立て直しを図る」と、事実上、“打倒ヤフー”の挑戦状を叩きつけた。ヤフーは昨夏の仮想モール強化で、楽天は今回のポータル事業の見直しを三木谷氏自らがトップに就くことで、両社の挑戦状が交わされた格好だ。

 

“エース級”を投入

 

 3月1日付で発足した「ポータル・メディア事業カンパニー」は、これまでの「ポータル事業カンパニー」と「ブロードバンド事業カンパニー」を合併させたもの。今後はブロードバンド(高速・常時接続)関連事業を含めたポータルとメディア戦略を、三木谷氏が指揮することになる。

 

 トップ就任により、まずは人材を増員する。楽天の屋台骨となる仮想モールを担当する「楽天事業カンパニー(3月1日付でEC事業カンパニーに吸収)」から「エース級」(三木谷氏)の人材を10人程度投入。楽天の“頭脳”を集結して対策を練るということだろう。

 

 ただ、ヤフーを超えるのは難しいと言わざるを得ない点もいくつかある。

 

 ヤフーのアクセス数を細かく見ていくと、最も大きいのはネットオークション(競売)の存在だ。ヤフーはサイト全体で月間約187億ページビューあるが、これを事業別に見ていくと、オークション事業が約58億ページビューでおおよそ全体の1/3のアクセス数を稼いでいる計算になる。

 

 それも当然で、「ヤフー!オークション」の月間取扱金額は他を圧倒している。昨年買収した「旅の窓口」を含める楽天の仮想モールの月間取扱金額と比べても、その2倍以上になる約448億円(2004年2月)。つまり、強力なキラーコンテンツが「最大手ポータル」の地位を支えている一面があり、これと同じ規模のキラーコンテンツを有することは、現時点の楽天にとっては難しいだろう。

 

困難な「使える入り口」の認知

 

 ブロードバンド環境のネット接続サービス「ヤフーBB」の存在も大きい。個人情報流出問題や過剰とも言えるセールスを問題視する意見はあるものの、2月末時点で最大手のNTTグループにわずか約3万回線の差となる約393万回線になっている。「ネット接続」というポータル以前のネットの入り口を押さえることの意味は大きいと言える。

 

 楽天はネット接続サービスを行っていない。「M&Aのプロ」と自らを称する三木谷氏が今後、ネット接続サービス企業を買収しないとも限らないが、現時点ではこの分野において楽天はヤフーとの競争ラインにすら立っていない。

 

 さらには、ポータルサイトに訪れるユーザーが最も利用する検索サービスにおいても、楽天は他社を凌駕する展開はできていないと言える。

 

 確かに、国内ポータルとしては珍しく自社開発の検索エンジンを有しているが、ユーザーが主に検索時に利用するのは同時提供している「グーグル」と見られる。保有する検索エンジン、あるいは他の検索サービスとの連動により、「ヤフーよりも使える検索」という認識をネットユーザーに広めることができなければ、この分野においてもヤフーを超えることは難しいだろう。

 

 問題が山積みのポータル事業の立て直し――。実質上の仮想モールの出店料金値上げや大型買収案件の実現など、これまでに数多くの歩みの中で敏腕ぶりを見せた三木谷氏だが、今回の課題は難しく、今後の楽天の成長をも左右しかねない。

(島田昇)

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