2004.3 無料公開記事    ▲TOP PAGE

「くつろぎソファをつくりましょ。」

ユーザー参加型商品で集客とブランディング

――千趣会


 千趣会のモノづくりをイメージしてもらう――。

千趣会(本社・大阪市北区、行待裕弘社長、URL:http://www.senshukai.co.jp/)の商品開発サイト「ベルネ工房」にはこんな狙いが秘められている。

ユーザー参加型で商品開発された「ベルネ工房」“発”の商品は、毎回好調な売れ行きのようだ。

しかし、「ベルネ工房」は目先の売り上げよりも、カタログを含めた顧客を頻繁にサイトへ呼び寄せるキラーコンテンツとしての役割の方が重要となっている。

販売開始から3分で完売

 

 「ベルネ工房」の基本コンセプトは「みんなの欲しいをカタチにする。」。つまり、ユーザー参加型で商品を開発し、出来上がった商品を売り出すという企画だ。

 

 特徴的なのは、現在進行中の開発過程および過去に開発した商品の過程を公開していること。

 

 「ベルネ工房」の開発過程でほぼ共通しているのは、まずアンケートを実施し、これを元に商品プランを作成。製作現場の様子と出来上がった商品の利用状況を紹介し、販売するという流れだ。

 

 第1弾として2002年7月から企画がスタートしたのが「みんなで作ろ!みんなのトート」。約7カ月の開発期間を経てネットで先行発売した結果、わずか3分で50個が完売。翌年春号のカタログにも掲載した。

 

 「ベルネ工房」の商品は開発中のものも含め現時点で5企画。好調な販売状況もさることながら、同社のブランディングとネット販売サイトへの集客に大きく貢献しているという。

 

 以下では第2弾として企画された「くつろぎソファをつくりましょ。」の開発過程を振り返り、「ベルネ工房」の開発過程の詳細を見てみる。

 

通販で売りにくい商品

 

 クッションを作りたいんですけど――。こんな要望が千趣会でソファを担当している商品バイヤーからネット販売担当部署に寄せられたのは約1年前のこと。実は、第1弾の「ネット工房」で企画した「みんなで作ろ!みんなのトート」の成り行きを、ソファ担当の部隊は興味を持って見守っていた。

 

 というのは、クッションは触ってみないと分からない商品だからだ。写真やコピーをいくら効果的に活用しても、座り心地が重視されるクッションの商品訴求をするには限界がある。

 

 「ネット工房」を活用すれば、アンケートを行って顧客の欲しいクッションを開発して販売することができる。通販で売りにくい商品を開発できるというメリットもあり、ネット販売の部署もこれに合意。開発に漕ぎ着けた。

 

 開発にあたり、クッションの素材には「MOGU」を展開するエビス化成(本社・大阪市淀川区、石田喜信社長、URL:http://www.ebisukasei.co.jp/)の「パウダービーズ」を採用することに決定。「東急ハンズ」や「Loft」などの大手バラエティー雑貨店などでよく見かける、例の「むにむにっ」とした感触の素材だ。ここ最近で人気を博している「パウダービーズ」を使った商品であれば、感触をイメージできる消費者も多い。

 

 メーカーのエビス化成としても、消費者の声をダイレクトに聞けるこの企画に魅力を感じたようだ。

 

アンケートで聞くべきは“心の中”

 

 早速アンケートを行ってみると、前回の「みんなで作ろ!みんなのトート」と比べて3倍程度の約3000件の意見を収集することができた。「男性から意見が寄せられるなど、トートバックと比べてクッションはターゲットが広い」(デジタルメディア部ウェブマーケティングチームマーケティングプランナー・加藤みゆき氏)ためだ。

 

 「くつろぎソファをつくりましょ。」の企画では寄せられた多数の意見から最終的に4つの商品、頭まで支えられる大型ソファの「一人用なごみソファ」、ごろ寝や読書に適した「多機能三角クッション」、足を乗せてリラックスできる「オットマン」、あらゆる顧客層に幅広い用途がある「そらまめ君」――が製品化された。

 

 製品化の際、多数ある意見から重視したのは回答者の「心の中の声を聞く」(加藤氏)こと。具体的に言うと、アンケートの前半部で大半を占める選択型の質問の中で「どういう時に使いたいのか」「どういう暮らしをしているのか」といった内容の質問を行う。ここで狙っているのは、回答者にはっきりと自分がクッションを使っている時のイメージを持ってもらうことだ。

 

 その上で、最後に設けてある自由記述の質問に臨んでもらい、自由記述の回答率を高めるとともに選択型の質問では収集しづらい回答者の意見を拾う。この意見こそが、魅力ある製品化にとって重要だと考えているのだ。

 

 実際、「一人用なごみソファ」では自由記述で多かった「頭まで支えられるソファが欲しい」という意見を、「オットマン」では「最近足がむくんでいる」という意見を重視し、商品開発を行った。

 

費用対効果の面では疑問も

 

 完成した「くつろぎソファをつくりましょ。」の4商品は200311月にネットで先行販売。ここだけで500万円を売り上げたという。その後、翌年1月のカタログでも売り出しているが、「雑貨のカテゴリーでは売れている」(加藤氏)。

 

 ただ、200312月期で総合通販企業最大のネット販売売上高246億円の千趣会にとって、この売り上げは微々たるものとも受け取れる。しかも、利益面では赤字事業ではないものの、一企画で半年程度の期間がかかることを考えると割に合う事業であるかどうかに疑問も残る。

 

 これに対してデジタルメディア部部長の菅原正敏氏は、「通販企業ならではの物販を通じた顧客とのコミュニケーションを取ることができ、千趣会のモノづくりのイメージを知ってもらえる」と語る。つまり、ブランディング効果が期待できるというわけだ。

 

 実際、アンケートの回答者は3000人程度だが、企画の進行状況は「何万人という人が見ている」(菅原氏)。企画に興味を持ったユニークユーザーに対し、現在進行形の企画は「進展したかどうか」をチェックしてもらうための集客効果が期待できるという。

 

 また、「オリジナル商品は全商品の3割以上を占める」(同氏)という千趣会の商品開発力に対する自負を、顧客にリアルタイムで伝えられるとも考えられる。「ベルネ工房」に魅力を感じ、千趣会のファンが増えれば、サイト上のカタログ紹介ページを通じてカタログ通販の利用客が増える可能性もある。千趣会が全社的に掲げる多チャンネル販売を実現する「マルチチャンネル戦略」にもつながるというわけだ。

 

 それでも通販業界の中には、「やはり費用対効果の面では疑問」と見る意見もある。確かに、正確な効果を測定するのは難しいが、「ベルネ工房」により顧客のロイヤルティーを大きく向上させ、数多くのファンを作ることができれば、今後の各種ネット販売展開における有利な土台になり得るとも言えよう。

 

 一方、「ベルネ工房」の効率的な展開を目指し、加藤氏は「開発過程を短縮するなどして3〜4カ月で商品化できる体制を早期に作りたい」としている。

(島田昇)

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