2004.2 無料公開記事    ▲TOP PAGE

強いところを徹底的に強くする

井上雅博氏[ヤフー社長]


 昨夏、ショッピング事業で中小企業の取り込みに乗り出したヤフー。

これまで“セーブ”していた同事業に本腰を入れ始めた格好だ。

ネット競売の好調で既に年間5000億円レベルのEC需要がある同社は、今後どのようなEC展開を狙っているのだろうか。

(聞き手は島田昇)


――ショッピング事業の規模が全体のアクセス数に比べて小さいです。

 ショッピングの取扱高は月間で44億円(200310月単月)にとどまっており、オークションの10分の1程度と相当の差が開いてしまいました。本来、ショッピングとオークションは同じくらいの規模になってもいいと思っています。

 

 もともとはネットオークションの市場規模はゼロに等しいものでした。一方で、リアルの通販を始めとするショッピング型の市場規模は既に大きかったわけですから、本当はショッピングが先行してこれをオークションが追いかけるという絵の方がありそうですが、実際はこの逆になっています。これはショッピングに関してはまだまだ改善の余地が多いということもあるからでしょう。

 

――2004年夏にも国内最大の商品数を取り扱うことを目指しています。

 

 それは殿村事業部長の意気込みです(笑)。ただ、オークションとショッピングの取扱高がこれほど違うのは、個人が参加していることもありオークションの取扱商品数が常時500万点程度と圧倒的に多いからです。ショッピングの取扱商品数は200万件程度で、しかもそのうちの大半が書籍。それを差し引いて考えると、取扱商品数がオークションと比べて一桁違うと思っています。ここを改善しなければ多くの利用者のニーズに応えることはできないでしょう。特に食品や衣料品など一箇所ではなかなか手に入らない商品の充実が重要です。

 

――「ストア」制度を導入しましたが、取扱高の伸びに大きな変化はありません。月間の出店ペースも200店程度と楽天と同程度のため、差が縮まらないようにも映ります。

 

 まだ始めたばかりなので大きな伸びはありませんが、徐々に大量に出店していただける体制も構築し始めています。例えば、弊社は拠点が東京にしかないので他社と提携して開店までの講習会を全国規模で展開する予定です。200310月末から既に関西で始めています。

 

 また、「ストア」は一店舗ごとの店の規模もこれまでの店舗に比べて小さいです。全体に影響を与えるにはもう少し数が増えないと駄目だと考えています。どのくらいの数が必要かどうかまでは見極められませんが、楽天などを見ていると数千のレベルは必要だろうと思っています。

 

――他社の仮想モールの買収や提携については。

 

 有望なところがあれば話は別ですが、あまり効果がないと思っています。開店休業状態の店舗を増やすより少しづつでも「売り上げをきちんと増やしていきたい」と思っている店舗と一緒にやっていきたいと考えているからです。

 

出店舗との交流を深める

 

――検索結果で色違いやサイズ違いの同一商品が何商品も出てきてしまう問題点や、データ更新が自動化されることから「ヤフー!ショッピング」での展開に本腰を入れない店舗も存在するため、サイトが活性化していないという指摘もあります。

 

 基本はデータの自動化はあまり増やしたくないと思っています。もう少し出店者とコミュニケーションを取り、改善を図っていくべきでしょう。そのための体制作りをしたいと思っています。しかし、お店の数を増やすことに力が入っているため、やや手薄になっているのかもしれません。他社との提携も視野に入れ、その部分は強化します。

 

――現行システムはスタート当初の大企業向けのもので、新出店制度に向けた大幅なシステム変更が必要なのではないでしょうか。

 

 それは自覚しています。まだ当社のシステムはいいものとは言えないので、改善していかなければならないでしょう。これまでは出店数が多くなかったので、こちらの調整で何とかなりましたが、早期に店舗側でも手軽に調整できるものにしたいと考えています。

 

――ショッピングとオークションの連動をもっと強化すれば大きなシナジーが得られそうです。

 

 何度か検討していますが、それはショッピングについてはいいことであっても、オークションにとっては足を引っぱることにもなりかねないと考えています。オークションが伸びるためにやりたいことと、ショッピングが伸びるためにやりたいことは違うからです。現段階では全体的にどうこうという前に、強いところを徹底的に強くすることの方が重要度は高いと思っています。逆に言えば、それはいつでもできます。

 

 オークションはオークションでショッピングのことを考えていて、BtoCのオークションを増やしたいと思っています。公式のBtoCはまだ少なくて全体の1割もいかないくらいですが、個人の資格で参加されている企業の「隠れB」というのがあって、それを含めるとBtoCの割合は把握できない状況です。

 

――BtoCが伸びるための条件は。

 商売でやっている企業の方に、オークションが事業展開する上で価値のある市場であることを認めてもらうことが重要です。参加者が330万人ほどいますがそれだけ買い手がいる市場なので、上手に使えば企業にとっても有効な市場だと思うし、企業の活用が増加することでオークションの市場としても安定的な商品供給能力を持ちます。

 

――出店者がショッピングとオークションを一緒に操作できるシステムが必要そうです。

 

 検討はしています。特に、オークションを利用するショッピングの出店者が増えてくれば当然行うべきことでしょう。

 

――宿泊予約事業で「たびゲーター」は「旅の窓口」と大きな開きがある。

 

 「たびゲーター」が「旅の窓口」と比べてどんなところで負けているのかというと、出張旅行のところが負けていて、そもそもやっていませんでした。それでビジネス利用など新しいところを開拓していくということになりました。ヤフーは何でも一番好きなので、なるべく早く「旅の窓口」を抜きたいです。

 

――書籍分野を担うイー・ショッピング・ブックスが(ESB)好調です。ただ、アマゾンジャパンに追いつくにはCD・DVDなど商品ジャンル数の拡大が必要なのでは。

 

 アマゾンは自分で配送センターを持っているため、どんな商品であっても一つの箱に入れて送ることができる強みがあります。しかし、それはリスクも大きい。現状、ESBはトーハンの物流とセブン−イレブンの物流にうまく相乗りしており、基本は自社物流を持たずに済ませたいと考えています。ネットの一番いいところは物がない身軽さですから。

 

情報に見えないと利用者は見ない

 

――今後はネットでもテレビ通販番組が多く配信されそうです。

 

 テレビ通販は非常にうまくできた仕組みだと思っていて、私はネットが入る余地はないと思っています。むしろ、デジタル家電が出てくればそれとネットとの相性の方がいいでしょう。ネットはプル型でそもそも見にきてくれないと駄目。流れてくる情報を受けて商品を買うという流れのテレビ通販番組をそのままネットに載せても駄目だと思います。

 

――どうすれば見てもらえますか。

 

 情報に見えないと利用者は見ないと思います。お買い得情報だとか、新製品情報のようなものであれば見てくれるのではないでしょうか。

 

――検索サービスは「google」の依存度が高いです。検索サービスは米国発のものが多く、しかも不確定な要素が多いです。楽天やNTTグループは自分たちで構築した検索サービスを持っていますが。

 

 「infoseek」(楽天)にしろ「goo」(NTT)にしろ「google」を使っています。「infoseek」は検索サービスを並存させていますが、先に「google」が出てくるのですから(自社の検索サービスを)捨てたも同然です。「goo」も「google」に乗せ変えました。結局、皆ヤフーの後をついてきています。

 

 ヤフーのサービスはほとんど米国から持ってきたもので、「google」のサービスが十分に便利であるのならそれはそれでいいと考えています。米ヤフーから持ってくるか米グーグルから持ってくるかといった技術の出所については、あまりこだわっていません。

 

――googleが本格的にポータルサイト化に動き出せばヤフーの脅威になる可能性もあります。

 

 可能性は何でもあります。

 

――ポイントサービスの導入についてどう考えていますか。

 

 ポイントは難しいサービスなので、いろいろな意味で注意深くやった方がいいと思っています。囲い込みの目的でやるケースが多いのでしょうが、囲い込みと利便性が本質的に相反します。例えば、ほかのポイントと交換ができるようにすると囲い込みの効果は薄れ、自社だけのポイントだけで展開するとコストも高く、魅力も乏しくなります。また、ポイントを発行する店舗とポイントを使って買い物をしてくれる店舗が必ずしも一致しないという問題もあります。必ずしもポイントの導入に消極的ということではありませんが、やるなら不公平感のないフェアな形で展開したいです。

 

――ネット証券参入など対ヤフーを意識した楽天の総合サイト化が進んでいます。

 ヤフーももともとはほぼ広告収入だけで事業展開していて、それでは経営が不安定になるので改善を図った経緯があります。楽天も同じように最初はショッピングだけでやってきたので、収益の多様化を図ることは会社の経営としては重要なことでしょう。

 ただ、どこまでが事業としてやろうと思っていて、どこまでが投資としてやっているのかは外からでは分かりません。


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