2004.1 無料公開記事 | ▲TOP PAGE |
国内でも地上デジタル放送が12月1日から始まった。 世界各国におけるデジタル放送事情や国内での普及の可能性、国内視聴者の認知状況などについて(社)地上デジタル放送推進協会(D−pa)専務理事事務局長の芳賀譲氏に聞いた。(聞き手は島田昇)
欧州ではイギリス、スウェーデン、スペイン、フィンランド、ドイツ、オランダ。北アメリカではカナダ、アメリカ合衆国(US)。アジア・オセアニアではオーストラリア、シンガポール、韓国、ベトナムです。
行政と放送事業者、受信機メーカーが一体となって放送のデジタル化を進めようという流れに対し、経済団体や消費者団体、販売団体や地方自治体を含めてこれを進めようという「オールジャパン体制」が組まれていることが他国と違う特質だと思います。また、こうした事業は先導役が存在しないと進みません。
例えば、関東圏でNHKおよび民放キー局の地上デジタル放送を12月1日時点で視聴できるのは12万世帯と限られています。さらには受信機の普及が同じく12月1日時点で30万台と、市場が現段階では極めて小さいのが実情です。そのため、コンテンツを提供する放送局は一企業のため費用対効果を重視したサービス展開しかできません。
しかし、日本には新しいメディアを確立するための先導役となるNHKの存在があるため、NHKが積極的に魅力的なコンテンツの制作に乗り出すことが考えられます。従って、「市場が小さいからコンテンツを充実させられない」「コンテンツが充実していないから市場が拡大しない」という鶏と卵の関係は、日本においては起こりづらいのではないと考えています。
コンテンツと同様に地上デジタル放送のポイントとなるのは、高画質・高音質のハイビジョンで放送するというところにあります。というのは、ハイビジョンの技術的な特許も含めた先行者利得は国内メーカーが握っています。従って、国内メーカーの市場は国内だけではないということです。国内メーカーはさまざまな先行投資を積極的に行える環境にあると言えます。
以上のことから、海外諸国に比べて地上デジタル放送のインフラは構築しやすく、コンテンツも充実しやすいと考えています。
経済波及効果は200兆円?
――コンテンツは早期に充実しますか。
デジタル化を生かした新しい番組内容の創出については、早期に充実させるのは難しいと私は考えています。なぜなら、人の頭は簡単にアナログからデジタルに変わるものではないと考えているからです。番組の制作者と視聴者の双方において、アナログからデジタルに移行するには多少の時間を要するでしょう。
――双方向のサービスはいつ頃から出てきますか。
既にBSデジタル放送でも行われていますし、年末に放送されるNHKの「紅白歌合戦」ではご家庭に審査員を募集して審査に参加してもらうことができます。このような双方向利用は今後さまざまな形で提供されていくと思っています。
――地上デジタル放送開始に伴う経済効果は。
総務省放送行政の「地上デジタル放送懇談会」が1998年に試算した報告によると、約200兆円とされていますが、この試算の根拠についてはよく分かりません。ただ、簡単に計算しても数十万円のテレビの買い換え需要が2011年までに1億台ある見込みで、放送局の投資が1兆2000億円かかります。さらには雇用が発生し、コンテンツのマルチユースもできるようになるため、相当な経済波及効果はあると言えます。
「詳しく知っている」は1%の現状
――地上デジタル放送に対する視聴者の認知と理解は。
今年3月にNHKが行った調査では地上デジタル放送を「知っている」と答えた人は55%でした。ここには「何となく知っている」という人も含まれています。電通が7〜8月に調査した結果では「知っている」と答えた人は59%に多少上昇しましたが、この時点で「詳しく知っている」と答えた人は1%です。ですから、認知度はまだまだ低い。ただ、逆に言えばこれからが普及・認知の勝負所だと言えます。
――問い合わせは。
D−paには12月1日時点で約250件の問い合わせがありました。「自分の世帯で視聴できるか否か」という内容が大半です。他にも「東名阪でしか始めないのは地方軽視だ」とか、年金生活者から「何十万円もするテレビは買えない」というクレーム交じりの問い合わせもあります。逆に「ハイビジョンは素晴らしい」と絶賛する声も出ています。
ただ、問い合わせをする人は積極的な方です。大半はサイレントマジョリティーでしょう。我々の普及活動の対象はむしろ、このサイレントマジョリティーに対してだと考えています。 |
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